48話 村の商売! (ユウタ、セリア、モニカ、アル、シグルス、ドス、セルフィス、ペダ村長、ロクド、ロドリコ、ゴメス)
某日某時刻 アーバインのロドリコ商会一室
二人の商人が相談している。商談するその一室は豪華な客間で、ソファーも見るからに一級品とわかる布製でできていた。商談自体は真剣なものであったが、それはどこか空気がゆったりとしていた。
雑談に世間話から始まった話は、相談事に移り話も半ばに差し掛かっていた。
「いい味だなゴメス」
「そうでしょう? ロドリコ兄さん」
「それでこのパン味付けはいったいなんだ?」
「いえうちの村で取れる大麦を小麦に変えて作っただけですよ」
「なるほどな。昔は出回っていたらしいが皆めんどくさくなって作らなくなったやつか。モンスターの肉を食っていれば腹も膨れるしだんだんと忘れ去られて今じゃ貴族か商人の一部しか食わないんだったな。ここじゃ売れるだろうが王都じゃ舌が肥えててどうだろうな」
「そうですね、料理が廃れていくのも繰り返す波のようですが素で食べて美味しい食材が多いのが原因ですな」
小麦で作られるパンそれ自体は昔からあるのだ。その製法だけが年月とともに劣化してきたのである。調味料なしでもモンスター達から得られるマンガ肉。これが料理を廃れさせる原因でもあった。胡椒に七味に醤油などかつてはあったはずのものもいまや王侯貴族と一部商人達の食事でしかない。
やがて食べ終わるとロドリコは更なる商売の話をしだした。
「ゴメス、これのほかにはないのか。売り物は」
「こんなものはいかがですか」
「こいつは・・・モンスターの核か?」
「略さないでくださいよ兄さん。モンスターコアは3個しかありませんが高値で買ってくれますよね?」
「お前・・・どこでこんなものを」
「とある人物からいただきました」
(いただいた材料の中にあったんですよね。ユウタくんには悪いですが全然気がついていないようでしたし。いただいたとはいえ後でお返ししなければいけません)
「ゴメスは何が欲しいんだ? ゴルか? それとも奴隷か? 何でも言ってみろ」
「とりあえず魔道具のライトを10個ほど戴きたい。他にもありますがリストはこちらにあります。よろしくお願いしますね」
「どれどれ・・・ちょっと待て多すぎるだろこれは。うーむ、いつの間にそんな強欲になったんだ兄さん悲しいぞ」
ユウタは知るはずもなかったがモンスターの核で動くのはかつて珍重された秘宝に魔導機器と古代兵器の数々。核自体がモンスターから得られる為に、いまや製造が難しくなってしまった動力源。魔導技術のコアともいうべき代物だけに取引される額は破格だった。モンスターを大量に倒さねば得られないことも原因の一つだ。ライトもまた古代の魔導技術の副産物だったが核を得ることに比べればずっと楽に作られる。
ゴメスはすかさず畳かけた。此処でためらってはいけないと。得るものは得なければ商人ではない。
「でも、利益出ますよね」
「むむ・・ううむ。確かにな、だが転売できないと・・・なあ」
「大丈夫ですよ。兄さんは凄腕ですから頑張ってください」
「ゴメスも上手だな。ああ、しょうがねえなあ・・・。わかった」
(どうせ美味い話なんで俺のところに持ってきてくれたんだろうしな)
「よろしくお願いします。それではロドリコ兄さん失礼します」
(高価な物を扱うとなると金銭感覚が狂うようになってしまうのがいけません)
ゴメス本人は10ゴルの物を12ゴルくらいで売って利益を出していくのが信条だ。
国内の大体の商人ギルドが兄弟か身内かで利益の出そうな商品を回していくので商人達の絆は深い。
ロドリコ、ゴメスの兄弟仲も悪くないので、これまで随分と世話になった分返すのがゴメスには精一杯のところだ。
ロドリコは辺鄙な村の商人であるゴメス放置せずにを相手している。ゴメスにとってはそれだけで十分だった。
ゴメスは朝から色々売ったり買ったりしたがまだまだ日は高い。今日もまた王都に足を伸ばして情報集めだ。
ゴメスが同じ商人に安く買い叩かれないように粘るのは毎回のことだが利益出しすぎず大損だけは出さないでいた。
今、追い風が吹いているとばかりにゴメスは必死に商売していた。
◆
森の前は惨状甚だしい氷の壁。
氷でできた剣山ができて、辺り一面トカゲ達の血で海が出来ていた。
回収がめんどくさいのはいつものことだ。
が、手馴れた手つきでイベントリに入れていく。
MMOじゃ同じ種類のものが1000個とか99999個とか材料にもよるが重なって入れられたがこのイベントリはどうなっているのかわからない。よく考えずに何でもかんでも突っ込んでいるからなあ。
あんまり増えすぎる素材という名の肉とか死体に困った俺は、ちょっと前に一部在庫整理した。ついでにゴメスさん相手に捨て値で売ったが、あんなの売れるのか。疑問符がつくというようなものもあった。
イベントリについてはLVやクエストでイベントリが拡張されていくタイプなんだろうか、それとも全く拡張されないのか。
回収を済ますと、トカゲ撲殺祭りになった森の入口から村にゲートで戻ってくる。
冒険者達で人だらけになってたよ。村。
多すぎると色んなことが起こるもんだ。人が三人集まるだけで争いは絶えない。
村の中はいたって平穏だ、多少ごった返しているし騒がしいが。
森から戻ったばかりだが。冒険者達は家を間借りして休憩しているようだ。
多目に家が必要かもしれないな。ロクドさんと相談すべきか?
疲れたな・・・。取り合えず村長の屋敷で休ませてもらおう。
「おお、ユウタくん戻ったか」
「ええドスさん。なんとかアイツらと撃退に成功しました」
あ、殲滅したっていう方が正しいか? でも一匹逃げられた。
しっかしもうクタクタなので風呂に入りたい。話は速攻で切り上げよう。
「それでは、あセルフィスさ・・・皆さん無事だったんですか?」
「ああ。まあなんとかな。はぐれた奴に関しては残念だがあまり期待できない。冒険者だけでは探索も厳しいな。なんせ、森では大したお宝等を期待できないからな。なんとかしたいがな」
・・・なんとかするっつってもあのモンスターどうすりゃいいのって量が出てきてる。
初心者冒険者達では森の中もアイツらで一杯だとしたら手に負えないだろう。
む・・・。
なんか忘れていると思ったがここであったが百年目。
いや違うけどチャンスだ。
なんとか騎士団出張要請に持ち込むというか・・・。
あれ、アル様に直で言っても良かったんじゃ。
重荷が増えるのは勘弁してほしい。なので、ここはドスさんに話をしてみる。
「そこでなのですがドスさんとヒロさん。お二人は、お知り合いですよね?」
「・・・ああ。そうだが?」
「ヒロさんにトカゲ退治の要請を騎士団に出せませんか?」
「それは・・・ヒロがそう簡単に受けるかどうかわからないな。彼の黒騎士団に要請となると事は簡単に進まない。それはわかってほしい。君には散々世話になっているし出来ることなら力になってやりたいのだがね」
やはりしがらみとかあるんだろうそう簡単に行きそうもないか。一応依頼は・・・あれ達成・・・しないとダメなのか?
そしてあのトカゲ共があれで終わりとは思えないし。
この村まで来たらどうすんだ。
あああ、頭痛くなってきた。どうする、上手い方法が思い浮かばない。
トカゲ共なんとか倒しきるしかないか。
話に割り込んでくる我が儘金ピカが相談を斬って捨てる。
「そんなことなら私に頼れ。さっさと風呂に行くぞユウタ。くふふ・・・また一つ貸しだな?」
「・・・はあ。ありがとうございます」
解決かな。スールも居るし此処をしばらく拠点にするのもいいな。
俺もドスさんも複雑な顔をしていることだろう。鶴の一声である。
お上にゃ逆らえねえ、そんなセリフが聞こえた気がする。黒いのが黒も白になるっていうのとはまた違うか。
冒険者達がこの村を利用してくれるなら、結構いい商売もできそうだ。
見渡す限りの麦畑。端っこに山と川みたいな村だしな。モン狩みたく鉱石が掘れれば完璧なんだが。
養魚場も作るか。新鮮な魚肉も捨てたもんじゃない。あっ。肉屋どうするんだくっそイベントリがゴミで腐るぞ。
水は貯水地と貯水用の大型塔に溜め込まれて生活に産業に使われている。風呂に大量の水が使われるのだけど井戸じゃ全然追いつかない。地中にタンクを埋めたいくらいだ。
まだまだ村で日本的生活を取り戻す戦いは終わりそうにもない。日本がどれだけ素晴らしいかってことを今更実感する。まあ水が魔術でさくさく作れてしまうのはファンタジーの勝ちなんだろうが。
一人考えにふけっていたので声をかけてくる銀髪の少女。釣り目もそれほど怖く・・・。いや、怖いけど慣れた。マジで隙がないし美形なんだけどな、さっきの戦闘でも腕を引っ張られて抱かれたときにはどっちが男なのかわからんくらいにイケメンだった。
「それでは、アル様を案内して先に風呂に入るが、いいか? ご主人様」
「了解セリア。俺はまだドスさんと話があるから村長の屋敷に先いってくれ」
「わかった。急いでこいよご主人様」
「あいよ」
干し肉でも作るか。にしても肉屋を進めないといけないのにドスさんから聞き出しておくことがある。
「それで話がまだあるのかな」
「あのトカゲ共とはどこであったのですか」
「ああ、俺達のフォースがゴブリンやらオークを倒しながら進んでコボルトがうようよ出てきたんだがまあ先の奴らよりずっと弱くてな。一気に仕留められるかと思ったらコボルトの連中が何かを出してきた。場所はそうだなゴブリンの村近くだな。ちょうど俺達は先頭で逃げ出したんだが他の連中は反対のアーバイン側に多く逃げた。逃げた連中がどうなったかはわからない。撤退最中トカゲ共は普通にオークやゴブリンより厄介でな。狡猾な攻撃で味方が殺られてしまった」
「素早いし厄介な相手ですよね」
「ああ。PTメンバーを失ったPTはとてもじゃないが戦えない。ここで休ませるしかないが・・・どうだろう」
「ええ、家使ってください。ただ、食事代とか戴きます。働いて返してもらうのもありですよ。代金についてはロクドさんと交渉お願いしますね」
「そうか、重ね重ね済まないな。ユウタくん、そういえば風呂はいいのか?」
「ああ! そういえばそうでした。ではドスさん失礼します」
交渉は苦手だ。そして値引きしすぎて持ち出しの方が増えてしまいそうなのでロクドさんに投げた。
正直村から逃げ出さないで戦ってくれるなら、宿代くらい安いもんじゃないかって思いもある。
ただそうすると、村人達の頑張りがってことになって。
あちらをたてればこちらが立たずな状況になる。
困ったことに悩み事が増えるばかりだ。胃痛持ちではないしどちらかというと深く考えない俺だけどロクドさんやゴメスとこれからを相談しないといけない。
・・・アーティとロイに顔合わせないようにさっと村長屋敷に行こう。
中央道とも言える村の道は真っ直ぐ村長屋敷に伸びている。位置が突き当たりになるので当然会ってしまうかもしれない。
再建にあたって道は広くしてあるけれど、あんまり広くしても不便かな。うーんここいらのさじ加減が難しい。
意外なことに道沿いに店を出している。ロクド商店系列だろうか、村で出す店はすべて傘下という予定になっているはずだ。仕入れ値で利益と損益を一括で管理したほうが最初の立ち上がりはいいんじゃないだろうかという考えだが独占にもつながってその場合長期的には改正が必要だ。
冒険者達がちらほらと買い物している。売れるといいな。村の人が挨拶してくれるのが嬉しいけどうっとおしいような。ちょっとヤサグレているだろうか。
自警団を早めに組織化して、あとヤク○化も進めておかないといけないかもしれない。
人の世になくならないものがあるとすれば。
善と悪、聖と邪、陰陽のように光と影はセットだ。
冷たく暗く卑怯で恥知らずな人間というやつは確実にいて、日本でも悪人がのさばっていたりしたものだ。
それでも大体悪事千里を走る。で、どっからか漏れて裁かれていた。
この村はどういうわけか明るいし。
陽気な人が多いしそれでいて働き者が多い。どうなってんだ。
社会構造とか人口とか全く考えてなかった。
世界がどうなっているのかもまた気になってなかった。
ちょっと出世? したからといってあれこれ出来るわけでもない。
風呂にでも入りながら考えよう。
着物も作りたいな浴衣もいい。1家1職にしてどんどん規模を拡大するのはどうだろうか。
農家のついでに兼業で色々やってもらうということでありだと思う。
気がつくと屋敷まで辿りついていた。召使いさんが何人か忙しそうに歩き回っている。
召使いさんの一人に挨拶すると中に案内されて入る。村に来るのは毎度のことなんだけど屋敷の中はまだ慣れない。召使さんは若い子からお婆さんまで色々だが、可愛い子は居ないようだ。
はっ・・・。ムラっときて悪代官になるところだった。
ロクドさんと村長が居る部屋に案内される。いや風呂入らせてほしかったんだが。・・・まあしょうがない。
「ようこそいらっしゃいましたですじゃ、ユウタ様。お連れの方々は既に入浴されていますが如何しますかな?」
「モンスター対策で村の入口に見張りをお願いしたいのですが。門も閉めてください」
村には門が出来ているのに見張りもいないし門番もいない。いくら入られないように外壁が出来ているといってもだ。
トカゲが大量に来たら大変だよ。でも蛇足だったかもしれないな。話は聞いてそうだし。
「ああその話か、既に聞いているよ。ユウタくん。既に手配している。おっともう代官様だったなすいません」
「いえ、今まで通りでお願いします。小僧が代官だなんていっても似合わないですし」
おっさんじゃあるまいし。
少年がおうとかガハハといってもカッコ悪そうだ。俺自身顔も頭もそれ自体悪くはないがよくもないと思っているが大したことのないので雰囲気が悪くなったら最悪だ。話題を振るのも苦手なら会話に弾みもないのでもっぱら聞き役になってしまうしな。それでいて自分で趣味の話になるとやたら饒舌になるタイプだと思っている。
「ならこれまで通りということでいいのかい」
「そうですね。それでお願いします。あと風呂に俺も入らせて戴きたいのですがよろしいでしょうか」
「どうぞ、ゆったりと入って行ってくださいですじゃ」
「ありがとうございます、それで村のほうでは冒険者達に対して食料や酒など振舞ってほしいのですが。えっと食料は手持ちがありますし、酒についても今後作っていきたいので肉屋もですがどうですかやりませんか?」
「ふむ、なるほどね。ユウタくんは冒険者達相手に商売をしようというわけだね。そうなると道具屋の品物を充実させるのと酒場に肉屋を作るのは急務だな。ふむ、なら今すぐ取り掛かるとしようか。早めに動いたほうがよさそうだな。ゴメスさんは夕方の戻りだからな相談出来ないのはしょうがない」
話が早くていいな。しかし風呂に早く入りたい。いやアル様の裸をみてどうこうしようというわけではない。ええ、決して。
「そろそろユウタ様もお疲れでありましょうし入浴されたほうがよろしいのではないですかの。積もる話は後でもやりましょうぞ」
「ありがとうございます。それでは失礼します」
ふと入浴しているだろう野郎を思い浮かべて、微妙な気分になった。
みんな風呂に入っているのだろう。たしか浴場は大型の木製の風呂場だが残念なことに混浴ではない。
どうして混浴にしなかったんだ! と今更ながら突っ込んでもいいはずだ。
ウキウキするような浮かれた気分で風呂に向かった。ええ、決してそのアル様の裸を拝みに行くわけではないから!
キューブステータス サナダ・ユウタ 16才 冒険者
装備 ミスリルの剣 ハーフプレート チェイングリーブ プレートヘルム 硬い皮のブーツ 対魔術の盾 銅の篭手 オークの弓 オークのワンド
邸宅有り セリア 人狼 モニカ 鍛冶士
スキル テレポート PT編成
特殊能力 なし
固有能力( 人形使役、人形化 、幽体離脱、生命操作、力吸収)
▽
[冒険者LV58]市民63村人62戦士 62剣士 62弓士 62勇者 63狩人 63魔術士 61商人 58薬剤士 58騎兵 58弓騎兵55格闘士 55英雄 55治癒士 55料理人 57魔獣使い 55付与術士 55錬金術士 55木こり48下忍 48神官45人形使い45死霊王7生命王7闘技士10騎士7槍士7 村主7
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