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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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333話 誰が鬼 (吸血鬼?

 血の匂いが奥から漂ってくる。でなくとも、間合いを狭めてくる相手は目がらんらんと猫のように輝いていた。 


 吸血鬼。それを外して見れば、顔色の悪いおっさんだ。

 そう思えればいいのだが。強力な催眠能力や変化を持ち、人間を上回る身体能力を持っている。

 なぜ、そんな能力を持っているのかといえば。


「むっ」


 壁に手を突っ込んで、それを投げつける。【剛力】を使えば、石壁は豆腐のように柔らかい。

 

「瓦礫を撒いたところでっ」


 パウロは、そのまま突っ込もうとする。【聖化】【水】で【聖水】の出来上がりだ。

 それを合わせて撒いてやると。


「ぐおおおっ」


 霧になった。と思ったら、後ろへと下がって悶ている。

 自信満々できたから、時間でも止めるのかと思いきや顔を押さえて地面へと突っ伏した。

 ひょいとまた投げると。


「おのれ」


 全身が焼き焦げた状態か。煙が上がって下がるのだ。

 好機。

 インベントリから新鮮な丸太を取り出すと。


 ブッ。身体に刺さって、壁に突き刺さる。服は、吸血鬼の能力で作っている物ではなかったようだ。

 昆虫の標本のような格好で腹に、丸太が刺さって動けないのか。

 手足をばたばたと動かしている。


「こんなものですか」


 まず、動きを封じ。相手の能力を封じる。そして、止めの一撃。

 それでも死ななかったりするらしいので。接近するのにも、要注意だ。


「そんな、馬鹿な。き、さまは一体、何者」


 他に、吸血鬼がいるとしたらこの場面を見ているとも限らない。

 手札は、まだ伏せておくべきだろう。

 胸に手を当てて、前かがみ。


「ただの運送業者ですよ。いうなれば、行きがかりの者でございます」


「子供と侮ったのが、敗因か」


 いや、それ以前の話だろう。吸血鬼といえば、とんでも能力を持っているのが当たり前。

 霧になったり、蝙蝠になるくらいでは出落ち役者だ。

 足元から、灰になっている。


「このままでは、あーーー!」


 何かしようとしたので、腕を引きちぎった。柔らかい身体だ。

 【剛力】に気を組み合わされば、俊敏でさえある。

 そのまま灰になっていき、それをインベントリから壺を取り出して入れる。

 何かに使えないこともないだろう。


 パウロが出てきた場所。通路の奥は、人が壁に据え付けられていた。誰であろう。

 アルストロメリアかと思ったが、見知らぬ男であった。その横には、何とも知れぬ女が。

 台の上、今、まさに解体されようとしていたのか。


 腹に短剣が突き立っている。2人ともに、裸であった。拷問部屋なのかもしれない。

 回復の術をかけながら、噛傷がないのか調べる。

 女の子は、年上だろう。


 目からは、何本も涙が出ている。さて、名前を聞きたいところだ。

 男の方は、切り傷が酷い。傷を治したのだが、反応しないという。

 意識が返ってくるまでに、時間が必要かも。


 鑑定するに、ピエールという名前らしい。状態は、精神崩壊とある。

 女の子の名前は、レティーシャ。

 片方は、平民で片方は貴族と。


 そして、壁際にある足や手などを見て背筋が寒くなった。一体、何が行われていたのか。

 虚ろな目をした少女は、拘束具を外すと。


「服をください」


 インベントリを袋の中に展開して、服を取り出す。


「ありがとうございます」


「いえ」


 視線を動かすと、本棚がある。これは、調査が必要だろう。

 1冊の本を手にとってぱらぱらとめくると。


 ルースに盗られた。ぶっ殺す。

 ドナルドは、本当に私の子なのか?

 とか、不穏な事が書いてある。とにかく、痴情のもつれのような。 


 本を閉じてインベントリへと入れると、元来た道を戻っていく。

 女の子は、無事だが男の方はそうでもない。

 隠し部屋への通路が石壁で覆われている。


 スイッチが、わからない。凄まじい音がしただろうから、兵士がパウロの部屋へと入ってきてもおかしくない。

 壁が、勝手に戻ったのか。それとも、誰かが壁を張ったのか不明だが。


「あの、貴方は一体?」


 ここは、一旦ラトスクへでも移動させておくべきだろう。

 放置して、殺られましたとか犯られましたでは話にならない。

 

「貴方を助けにきたものです。ご安心ください」


 転移門を開き、そこへ入るように促す。1人の男を連れているが、廃人同然だ。

 どうやったら、そうなるのか不明だが。

 眷属には、なっていないようだ。


「あの」


 話をしている時間がもったいない。こうなれば、一件落着のはずなのだが。

 アルルかアルーシュを連れてくるべきだった。

 証拠? 灰になったパウロの壺。証拠としては、弱いような気がする。


「この中に入れば、安全です。大丈夫、すぐに追いかけますから」


 なんていって、追い払うと。壁を破壊して、壁を歩きはじめた。


(さて、パウロは紛れも無く吸血鬼でした! と、兵士たちに説明して納得してもらえるかな)


 逆に、知っていてとっくに操られている。にしては、自然な動き方であった。

 ならば、上層部だけを吸血鬼の眷属にして操っている。というのが、納得がいく。

 では、上層部というのは?


 通路まで出ると。兵士たちの困惑した姿がある。内部に出ても、見つけられていないようだ。

 横になって歩くのは、大変なので地面へ降りる。

 集まってくる兵士が、邪魔ですぐに上へと戻る羽目になったが。


 手がかりを見つけるために、一旦、戻るべきかもしれない。

 

『ご主人様』


 ご主人様ではないのだが。ミーシャの声が脳裏に響く。


『何かな』


 PT用の念話だ。カードを通して語りかけるか念話で語りかける。

 通路を抜けて、階段を移動していく。


『1つ、下の階にお越しください』


 下へ。移動していくと、ミーシャたちの気配が近い。そこは、何気ない装飾をした扉だ。

 中へ入ると。ドナルドと先ほど別れたはずのレティーシャが立っていた。

 一体、どういう事だろう。


 そして、ぐったりとしたアルストロメリアが倒れている。それをミーシャが支えていた。

 チィチは、それを庇うようにして立っている。トゥルエノが、果敢に矢で攻撃をしていた。


「新手か。ドナルド、そやつを仕留めよ。われは、少々遊んでいるゆえな」


 レティーシャだが、レティーシャではないのだろう。走り寄ってくるドナルドは、剣を抜いてそのまま上段から振りかぶってくる。遅い。


 剣の腹を横に押しのけて、脇腹を一撃。よろめいた男に、麻痺を加えると。

 レティーシャそっくりの何かは、召喚陣を作っていた。


「来たれ、我が下僕」   


 火線を放つ。赤い光が、それごとレティーシャもどきに迫る。骨の頭を貫通して、黒いなめらかな翼へと。光の速さだ。避けられるものではない。だが、翼で受け流す。


 と、


「ハッ、舐めるでないわっ」


 爪を伸ばして束ねれば、それで突き刺す間合い。

 心臓を貫く軌道だ。半身で躱しながら、腹に一撃。

 手応えがあった。壁を突き崩して、外へと飛んで行く。


 追いかけながら、【飛行】へと。


(どこに)


 下だ。真下から、長くなった爪を尽きたてるように上昇してきた。

 くるり。爪の先端をずらし、刹那に蹴りを顔面へと見舞う。

 聖化で、淡い光を帯びる足先が女の顔へとめり込む。


 首が折れる。手応え有りだが、消し飛んでいない。手加減しすぎた。


「ったい・・・なにもんだ!!! 神父じゃねえ。魔術師か? 騎士じゃねえもんなあ!」


 爪の先端に、炎の玉を作りながら後ろへと飛行していく。外は、太陽が日差しをさんさんと降らしているのに。平気なのだろうか。


「ええ。お尋ねしたいのですが」


「はっ。こういう時にはよぅ。勝った方が、喋るってのが仁義ってもんだろぅが」


 やくざと見紛うような言いようだ。変形した顔面が元に戻ってくれば、もう別の顔だった。


「そうですね。それで、その顔が本当の顔なんですか?」


 火の玉を小出しにしながら、空中遊泳。もとい、一方的に追いかけている。

 どこまでも行かせるわけにはいかない。国境を越えるとかいう事になれば、アルーシュたちの叱責を受けるだろう。いや、今でさえ叱責を受ける可能性を考えて萎えそうになる。


「ハッハー、避ける、よなあ! 顔なんてどーでもいいじゃねえか。われと遊べよ、小僧!」


 心底に楽しそうだ。花火をばらまいているような。そんな感じで、攻撃を仕掛けてくるのである。

 飛行能力は、音速を越えているのではないか。

 翼で飛んでいるにしては、それらしくない。魔術で、飛んで、魔術で攻撃している。


 四方八方から飛来する玉を交わしている内に、当たるとも限らない。追い込むべきだ。

 結界と、それを利用して彼女の近くへと。


「なぜ、パウロを吸血鬼に?」


「はっ、ちぃっ。なんでだと? そりゃ、面白いからに決まってんじゃねえか。そろそろ、決めるぜぇ? 顕現、骨獄炎渦。消し炭になっちまいなあっ」


 女は、黒く長い手袋の先に魔方陣をきらめかせる。

 真下にも、それが。ついで、反対の手にも。背筋が、寒くなってくる。

 まともに受ければ、死んでしまう。


 かといって、結界を解けば逃げられてしまうだろう。


(やるしかないか)


 絶対の防御だとは思う。だが、弱点もある防御方法。刹那に思い浮かんだのは、インベントリだ。

 中に入ってしまえばいい。

 そして、その前に相打ち覚悟の太陽柱を最小の威力で。


 迫る炎に、出現する赤球の巻渦。赤と赤で世界がいっぱいになる前に、入り込む。

 入り口をほんの僅か開いて、待つ。暑いはずなのに、中は何も感じない。

 ともあれ、炎が収まった時に出ればいい。恐るべき強敵だが、相手は死ぬはず。


 そして、周りを見ると。真っ黒な空間に別のモノが現れた。アイテムは、淡い輝きで守られている。

 ユウタもだ。

 焼き焦げた服と人形のように固まったままの姿で。あられもない格好をしている。


(ひょっとして、転移魔術か何かを使ったのか?)


 それで、この中へと飛び込んできたと。ちょっと間抜けな最期で、笑いそうになった。


『マスター』


『外は、通常空間です。お戻りになられますか』


 いや、っていう事はないだろうに。何か、あるのか。意味深な発言だ。


『戻ります』


 舌打ちしたような。気のせいだろうか。永遠に、時が止まったような空間にいるのは御免だ。


『了解いたしました』


 動けないのだ。首も動かない。真っ暗になって、真っ白になると。世界が色彩を取り戻していく。

 恐るべき敵の姿は、何処にもない。

 捕獲したというべきか。


 ずっと、保管しておくのがいいだろう。

 景色が、下へと落ちていく。

 結局、彼女が何者であったのかわからないままだ。


 飛行をかけ直して、城へと近寄れば。手を振っている3人の姿があった。

 アルストロメリアが、泡吹いているような?


(あとは、アルルかシグルス様に処理してもらわないとだな)


 兵士の姿は、見えない。一件落着である。 

 

 


挿絵(By みてみん)

ちゆり様作画

アルストロメリア空飛ぶ

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