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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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321話 冒険者になろう+黒い花(綾瀬静紅 山雲零 鈴木有栖)

 (ハジメ)は、暇があれば本を読んでいる。

 実のところ、契約した人間は9割でほっとしていた。契約しなかった場合、どうなるのか。

 想像するだけで、身震いがする。


 クラスメイトは、さっそく外へ出ていく者とのんびりと観光気分を楽しむ者とわかれていた。

 国からの援助があれば、そんな厳しいことにもならないだろうとたかをくくっているようである。

 四角い石壁を積み上げて作られた壁を見ると。

 

「どう思う?」


「どうって、このままここに居ていいのかなって」


「寒いからな。外は、まだ雪が積もっているじゃないか」


「そうなんだけど」


 始が入居したのは、国が用意した集合住宅。作ったのは、日本人だとか。

 転移者の先輩がいるらしい。となると、対策も取られるわけで。

 一塊にして、管理しようというのだろう。入念な事だ。


 親しい人間で、寮を決めてしまうのがいいらしい。

 男女ともに、異性を連れ込むのは禁止になっているが。

 我慢できないものもいる。


「金澤くん、出てっちゃったね」


 もともとも、一匹狼的なところもあった男だ。さっさと手下を連れて出て行ってしまった。

 片脇には、女を連れているところが憎らしかった。

 【筋肉】系統のスキルを持っているので、戦士として期待したのだが。


「先生に、統制力がないからな。残念だけど、クラスが分解してしまうのは仕方がない」


 イケメンに分類されるクラスカースト上位が女の子を連れて出て行くのは当然の成り行きで。

 冒険者として、活躍できるかどうかわからないけれど、自信があるのだろう。

 彼の持つ【戦士】に対して【鍛冶師】は、非常に厳しいジョブだ。


 悲しいかな、とってみれば道具が必要になるという。素材も、とってこなくてはならない。

 頭が痛い。


「矢部くんと武田くんは、しばらくここにいるって言ってたよ」


「まー、そーだろーね。意外に、快適だしな。ここを出るなら、伝手が必要だ。金澤なら、どこでもやっていけるようだしな」


 そもそも、学校で勉強をするタイプには見えない。武田と矢部は、女ができれば出て行くだろう。

 寮では、セックスが禁止だ。発覚すれば、退寮という事らしい。

 今すぐに、出て行けと言われれば困る。


 整った顔で、じーっと見てくる佐藤は。


「つーかさー、この国ってさみーじゃん。どっか暖かいところへ行こうぜ」


「そう言ってもな。送還される事になったら、すぐに戻ってこれないとな」


「え? 戻んの?」

 

「違ったか」


「いや、だってさ。この世界って、かなり自由っぽいじゃん。力があれば、わかりやすく上にのし上がっていけるんだぜ? 宮仕えするのもわるかーねーけど、やっぱ旅するっしょ」


 佐藤は、旅にこだわっているようだ。しかし、そう簡単ではない。城下町は、広く、歩いていると1時間くらいは簡単に経ってしまう。城壁も分厚く、魔物がいかほどのものかを見るに討伐が容易いとは思えない。情報を収集してからでも遅くはないだろう。


「それなんだが、ミッドガルドには普通の人間じゃ入れないようだ。北は、海で普通に航行する事すら難しいらしい。化け物がうようよしているみたいだからな」


「じゃー、東か南か?」


「南は、山脈が横たわっているだろ。あれを越えるのは、そうとうだぞ。東は、ハイランドで対して気候は変わらないらしい」


「んだそりゃ、密入国するしかないってか」


「捕まって、縛り首だな」


「そこは、召喚師レベル99さまよ? なんとかならあって」


 馬鹿だ。


「この世界でレベル99は、珍しい事じゃないみたいだぞ」


「は? 嘘だろ」


「嘘じゃない。自分で調べろ。ついでに、子供にナイフで後ろから刺されても死ぬからな」


 意気消沈する佐藤。可哀想だが、レベルでオレツエーしようとしたみたいである。

 だが、そんなゲーム世界ではなかった。悲惨なのは、概念系のスキルを取得した者だ。


「静紅は、どうするんだ」


「んー、始ちゃんと一緒ならどこでもいいよ~」


 頭が痛い。これだから、幼馴染は困り者だ。思考を放棄している。


「これだから、バカップルには困るわー。かー、つれーわー」


 佐藤は、横になりながら鼻をほじる。本を投げつけても許されるのではないだろうか。

 寮での暴力行為も、退寮の条件に当てはまるのを思い出した。

  

「静紅が一緒なのは、ありがたいな」


「でしょ」


「それで、方針は決まったのか」


 何かときつい感じがする少女が、口を挟んできた。【剣術】をとった女剣士だ。

 怜悧な眼差しで、目をすぼめるだけで迫力がある。剣道をやっていたので、剣術をとったらしい。

 零は、普通に使える。


「まずは、冒険者ギルドで登録かな。さしあたっては、雪かきの仕事があるみたいだよ」


「なんてー地味さ! 俺は、雪かきしに異世界にきたのかよ」


「え~、でもでも~、異世界で日雇いのアルバイトをするアニメを見たよ~」


 静紅は、見た目を裏切る発言をする。小動物のようにこじんまりとした雰囲気なのに。


「冒険者をやるには、まだ早いと?」


「流石に、魔物を倒すには武器や防具が必要だろ。半日を雪かきの仕事ですごして、もう半日で迷宮へ向かうのでもいい」


「なるほど、時間を測るというわけか」


 そこで、佐藤が立ち上がる。部屋から出て行くようだ。


「んじゃ、また来るわ」


「ああ」


 入れ替わりに、つり上がった目をした女が入ってくる。

 

「ちょっと、いつまでぼさっとしてんのよ。さっさと行くわよ」


「まて、まだ情報を集めているんだが」


「時は、金なりって言うでしょ。静紅も零も立つ」


 のんびりしたかったのだが。そんな思惑を他所に、金髪をした女が腕を掴む。

 

「冒険者ギルドへ行くわよ!」


 予定が、狂っていく。




◆ーーー



 

 上がって来る金属の棒。戦闘系の【見切り】【筋力増強】を発動して、足を振り下ろす。

 足の骨が砕けるであろう一撃も、各種のスキルが補ってくれる。

 不思議な現象だが、それで黒い棒はあらぬ方向へ曲がっていく。


 残ったのは、呆然とした顔ですくむアキラたちで。ルドラなどは、余裕の表情だ。

 むしろ、できて当然というような。


「ふー。なんだ、今のは」


 顔には、仮面が付いている。汗が、滴った。きっと、弟の事で緊張しているのだろう。

 無様なところは、見せられない。


「さすが、大将だ。やるねえ」


 柱を壊して、中身が溢れる。目をそむけるようなモノが入っていた。

 よくもやれるものだ。


「燃やすのか?」


「ええ」


 感覚が、訴えている。【直感】が。視界の隅で、動くそれをとらえた。

 先手必勝。稲妻が、黒い物体を捉える。

 動かなくなった。


「油断しないでください」


 弟たちが死んでしまう可能性を考慮して、一撃も許されないだろう。既に、【防壁】を展開しているとはいえ。

 黒い塊には、口が付いていた。一つではない。いくつも。手も無数に付いている。

 おぞましい奇形だ。

 どこかで、見た感じもする。

 もぞもぞと動く毛玉が、頭の上に乗っかると。


「うおっ」


 地面から生えてきた手が、アキラの足を捕まえる。即座に、黒い剣が淡い緑色の燐光をまとって切断した。


「大丈夫ですかっ」


「おう」


 手が地面から生えてくるのは、脅威だ。地形変化でも使うべきかもしれない。

 【浮遊】を全員にかけていく。


「こいつは、親玉を探さねえといけないクエストっぽいな」


「わかりました。ザビーネ、ルドラ。いいかな」


「はいっ」


 ルドラは、無言で腕を組んでいる。敵を探っているのか。そっけない態度だ。

 黒い地表を引剥しながら、移動すると。

 黒い蛙のような体型に口がびっしりとくっついたモノが現れる。

 

 剣で斬りつけるのは、危険だ。口からは、蛙のごとく舌が伸ばされる。するりと避けて、上空へ。

 上から、【(ファイア)】を投げつける。燃え落ちるだろうか。

 鑑定を使うと、ダークファッカーなんて名前が出てきた。


 火の塊は、黒い蛙もどきを覆っていった。舌でどうにかしようとしたようだが、どうにもならなかったようだ。一匹だけではない。地面を跳ねて、アキラたちがいる場所へと向かっている。危険だ。

 ダークファッカーを焼きながら、戻る。


「一旦、退却しましょう」


「えっ? 凄え経験値が入ってくるんだけど」


「死ぬかもしれないリスクを背負いますか?」


「そいつは、困るな。じゃあ、誰が残るんだよ」


 ザビーネとルドラを指すと、残念そうだ。


「まあしゃーねーな。終わったら、また来てくれよな」


 アレインPTに拓也PT、それにアキラPTを撤収させると。


「どうするのだ? あの根っこをどうにかせねばなるまい」


 襲いかかってくる魔物に、蜻蛉もどきが加わった。こちらは、尻が大変な事になっていて吐き気を催す。


「まずは、火線ですかね」


 一直線に向かって、黒い何かへめがけて魔術を放つ。迷宮では、使いづらいが威力は申し分ない。

 焼け落ちる人面蜻蛉に、鑑定をかければダーティーフライヤーなんて出てきた。

 人のデスマスクで作ったような羽と足が怖気を誘う。


 直撃だ。1kmの落石とはいかないまでも、派手な爆風が巻き上がっている。

 倒せていないようだ。

 ザビーネに、【飛行】を。四方を囲まんとする蛙もどきから、逃れるように上へ飛んで移動する。

 蛙もどきで、海原ができていた。


「こんな場所があるとはな。まるで、魔界のようではないか」


 ルドラは、手を降って風の刃を振りまく。四散する蛙もどきと増える蜻蛉もどき。


「魔王の影響、魔王の手下のしわざですかね」


「そうに違いありませんよ」


 断言するザビーネは、剣気を高めている。リヒテルの手下なのかもしれないし、別の魔王が出てきたのかもしれない。ともかく、闇の波動が強い場所へと向かっていく。

 ルドラの攻撃は、風で切り裂く術は非常に強力だ。 


 近寄るにつれて、空が一層黒さを増していく。敵の親玉に近いのだろう。

 一体、どうしてこうなってしまったのか。敵のおぞましさが、気になる。

 

「きりがありません。師匠は、このまま突撃するつもりですか?」


「それ以外に手段があるのならいいんだけどね」 


 柱というよりは、黒い花なのか。それは、脈打って蛙もどきを生み出し蜻蛉が孵化している。

 危険だ。東には、川があり、そこから蛙が都に到達してしまう恐れもある。


「どうする?」


「情報がないからね。焼き払おう」


 擬似太陽を出現させる危険な術だ。太陽をそのまま呼び出したらば、地表がとんでもない事になる。

 よって、適度な温度を保った柱を作る事で環境を抑制するはずの。

 人形使いから奪った魔道書を取り出すと、


「闇夜にあって、なお赤く。輝く炎は、天をも貫く再生のしるし。滅尽し、滅殺し、滅相する始原のほむらを今ここに! ああ、世界はここからはじまる! 現出。太陽御柱(サン・ピラー)

 

 方陣が、黒い花を捉えて眩い輝きで覆われる。普通なら、目が潰れる。

 放射能が出ていないか気になるのだが、毎回出ていないので大丈夫であろう。

 そもそも、この術は惑星の気温を整える為の術らしい。


 魔術抵抗を持つ相手だと、聞きづらいということもなく。

 動かない相手には、恐るべき威力を発揮する。

 天空を覆っていた闇色の雲も何処かへと消えて、花のあった場所には何かがあった。


「近寄っても大丈夫でしょうか」


「いくぞ」


 と、寄って行ってしまう。罠という感じはしない。

 蛙もどきも、蜻蛉もどきも嘘のように姿を消していた。

 まるで、夢のように掻き消えている。


 そこには、獣人とみられる死体があった。

 腹には、何かが埋め込まれている。石だ。顔は、色々と縫合されていた。

 角が、巻角で羊かなにかだったようだ。


「こ、れ、は」


 ザビーネの声がかすれている。奴隷だったのだろうか。太腿から先に足は、ない。

 手には、枷が。胸に小さな緑色をした蛙が、横たわっていた。

 そして、干からびた人間があちこちに倒れている。  


「おぞましいものだな。人間とは」


「恥ずかしいかぎりです」


「お前がやった事では、ないから、謝る必要もない。が、知れば知る程人間とは下衆な生き物だという聖上の言葉もわからなくもないな」


 消えてなくなりたい気分だ。

 腹に詰められていた石をのかして、回復術で切り傷を再生する。

 目の縫合を取ってやると、蜻蛉の死体が詰められていた。


『おのれ、人族め。必ず地獄へおくって、お、く、って、や、る』

 怨嗟に満ちた声音。空耳だろうか。


 何がやりたかったのか、わかってしまう。石の上に寝かされていた少女の身体を降ろしてやる。


『もう、いいの。トロン。ありがとう。ありがとう、きみ』

 涙腺が弱い。なんとなく想像してしまって、涙が出てきた。


「なぜ、泣いている?」

「いえ」

 ルドラに、聞こえていないようだ。

 爆心地のように、周囲はえぐられて地面は輝いているのに。

 花があった場所だけは、影響がない。不思議な空間。


「人って」


 拳を震わすザビーネに土下座して、頭を地面にこすりつける。


「すいませんでした!」


 目から、涙が止まらない。この世の悪を駆逐すると願っているのに。


「悲しいですね」


 自分がやった事ではないが、人間自体が憎まれるであろう事は明白だ。

 首根っこを掴まれて、引き起こされる。


「謝るでないわ。やった人間が悪い。お主は、どうするか考えればよい」


「ああ」


 やはり、奴隷商売は禁止にするしかない。こんな事が出てきては、四の五の言ってられない。

 少女の胸の上で手を擦り合わせていた蛙が、ひっくり返って動かなくなっていた。 

題 だめだこいつ、早くなんとかしないと……

挿絵(By みてみん)

ひがしもとさま作画


挿絵(By みてみん)

瑠璃子さま作画

シャルロッテ


挿絵(By みてみん)

からじかさま作画

シャルロッテ

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