317話 日本なお話
家へ招きいれると、食事になった。
家長のグスタフを筆頭に、エルザ、クラウザー、アレス、シャルロッテ、ルナ、オフィーリアにオヴェリアと。反対側には、アルーシュ、ユウタ、セリア、ティアンナ、ルドラ、モニカ、ミミー、ザビーネ。
多くないだろうか。後ろでは、給仕をする桜火の姿がある。
「今日も忙しかったのか?」
「ええ。それなりに」
なんてグスタフとの会話も硬い。ルナは、ふつーにくっちゃべって別の空間を作っているが。
女の派閥でもできていそうだ。
切り上げて、先に風呂へと入る事にした。
「ちゃんと、見張りを頼んだよ」
DDは、素直に応じるかどうか。
「あいさー。でも、ブラッシングをちゃんとしてよね」
扉の前に、小さな鶏サイズの蜥蜴たちが集まっている。
黄色いひよこの毛は、柔らかい。通さないだろうか。だが、賭けてみるしかない。
中に、居る人間はいないようだ。気配を殺していないとも限らない。
風呂の中に忍び込んでいる可能性もある。きっちりと、中を捜索してから服を脱いだ。
「わっ。こら」
扉を解錠して入ろうとしたのか。鍵が動くのをひよこが押さえる。
ナイスな判断だ。黄色いひよこは、伊達じゃない。
「あー、ちょっと、入れて欲しいであります」
眼帯をした幼女の声がする。
「ダメダメ。オデットも嗜みを身につけないと」
「それとこれとは、話がつながらないであります」
放っておいて、身体を洗う事にしよう。ブラッシングで釣れるとは、安いものだ。
安心して風呂に入るのも、久しぶりだ。
身体を洗って、風呂に浸かる。そうして、数を数えて脱衣所に移ると。
「どうしたの?」
「皆が、入ろうとするんだ。困ったものだよね」
狐まで、扉を押さえていた。
「ブラッシングというのを体験するのじゃ」
「?」
「いやー。味方がいないと、ほら」
余計な出費だ。が、手間ではない。白いティーシャツを着る。ズボンは、紺色の。
裁縫のレベルは、日本のそれと遜色がない。むしろ、魔物の繊維などが使われるので色が鮮やかだったりする。少々、ごわつくのが難点だが。
「いいけど、出ようか」
「いいけど、扉の前からは避けた方がいいかもね」
レンとちび竜たちが、退くと。怒涛の奔流だった。脱衣所が、破壊されて扉を押し倒す。
「いって~~~。くっそ、失敗だぞセリア」
「まさか、これほどのパワーがあるとは」
「にゃはは、失敗であります」
アルーシュ、セリアとオデット、ルーシア、ティアンナ。悪気もなさそうに、立ち上がりながら喋っている。怪我は、ないようだ。
「直してお…」
「直しておいてくださいね」
「なんだとっ!? 直し方なんて、知らんぞ。大工を呼べ」
何処までも、他人にやらせようという気らしい。人んちを破壊しても、平然としている。
付き合いきれねえ。
「アルちゃんも一緒にお風呂したかったのであります。いたずらしようなんて思ってないのであります。早速、大工さんにお願いするでありますよ」
「うんうん。とりあえず、風呂に入ってからな。残念だが、ユーウ抜きか。つまらん」
「まったくだ」
「これだよ。どうかしていると思う」
ロリコンじゃあるまいし。真っ平らな胸やら股間を見ても、興奮するかというと。
尻尾は、いい。狐の尻尾もひよこの尻尾も。人にはない器官だし。
犬は、触られると怒るらしいが。
「ちっ。部屋にあとから行くからな」
アルーシュは、吐き捨てるようにして言う。さっさと退散しよう。
2階に上がると。部屋の扉は、開いていた。
部屋が、女の子たちに占領されている。
広い部屋のベッドには、ひよこやら狐娘やらがのっかり。ふかふかの羽毛で作られた敷き物の上で、ルナがゲームに興じている。
現実世界によく似た日本から持ち帰ったパソコンを利用して、モニターが添えつけられている。
電気は、魔術師と錬金術師が協力しあって作られた蓄電池を利用していた。
「進んでいかないー。これ、こわれてる?」
「そうじゃないよ。ルナ」
シャルロッテが、白い毛玉を膝の上に乗せて画面を囲むようにしている。
隣では、馬の尻尾という風に髪を結んだルナ、オヴェリア、オフィーリアと並ぶ。
年上という事もあってか、オフィーリアとオヴェリアは落ち着いた感じだ。
短い金髪を後ろで結んでいるのがオフィーリアで。オヴェリアは、肩までですっと切っている。
机に、目を向ければ宿題という文字とノートがどんどん溜まっていた。
面倒な事に、夏休みだとかそういう期間があればそれなりの量がでる。
領地の方に目を向けるのも忘れてはならない。
「今は、何処へ行ってらっしゃるのでしょうか」
「あー。うん。ハイデルベルクかな。ウォルフガルドをなんとかしろっていう指令もあるんだけどね」
「大変ですね。あまり、無理をなさらないように」
そういって、心配してくれる人なんて希少だった。オフィーリアはしっとりとした感じだが、これで槍を使うという。武芸を仕込まれている。
座り方は、女の子っぽい。
部屋の3分の1を占領する感じで、誰かしらが座っているところへルドラまでくつろぎにやってくるという。ちびっこい竜を見て、汗を浮かべている。危険を感じたのかもしれない。
DDは、わかるがぬいぐるみにちかい竜たちの外見だ。恐ろしさは、ないのだが?
書類をめくっていると、使い込みをやっている官僚がいるようだ。
罷免するか、それとも物理的に首を飛ばすか。判断を仰ぐと書いてある。
部屋には、日本製のテレビだってある。
それをつけると、丁度公金と政治資金の話がやっていた。なぜ、これが日本と繋がるのか。
原因は、
「あーさっぱりしたけど、物足りないな。あ、禿枡じゃないか。まだいやがる。なんで、こいつは処刑されないんだ? 頭にくるんだが」
という会話の矛先を向けてくる幼女。これで、推定6歳。首にタオルを掛けて、牛乳を飲んでいる。
「そういう法律になっているんですよ」
白いシャツに膨らみのない胸。むしろ、肋で凹んでいる。
「日本人というのは、馬鹿しかいないのか? どう見たって、横領ではないか。政治資金寄生法とはなんだ。国民にぶら下がるとは、恥を知れっ」
寄生? 規正?
と、人を睨んでくる。こうやって、日本に対するヘイトを高めるのだからやるせない。
色々と釈明をしたりするのだが、山田などは返答に困るだろう。
光輝だって、同じだ。
ひとからあげ十把といってはなんだが、1人を見て全体をそう言われるのは悲しい。
「彼、個人の問題です。日本人が、全員そういう風ではないんですよ」
「信じられんな。大体、言いたい事があれば、はっきりと言えよ。山田なんて、口をもごもご動かして言っている声が聞き取りずらいんだよ」
後ろから入ってきたセリアは、横で指一本の腕立てを始めた。筋トレマニアだ。子供の頃から、それでは足が伸びなくなるだろうに。獣化すると、筋肉質の巨体になる。
「奥ゆかしいと言ってください」
「どうだかな。ひょっとして、日本人は公金と自分の金が区別つかないんじゃないだろうな。敵も味方もわからないようだし。経済を浮揚させるのに、増税をやっては駄目だろう。財政再建とか、できんの? 無理でしょ。馬鹿が、上では下で頑張っている優秀な人材を無為に死なせるばかりだぞ。まったく、どうかしているな」
「……」
と言って、椅子に座るとテレビゲームに画面を切り替える。ソファー型で、ふかふかなやつだ。
普通は、眠気を催すのだが。言い返せない。
「真珠湾攻撃したら、そのままアメリカまで行けっつーの。馬鹿なんだよな。ほんと、司令官は阿呆ばっか。兵隊の質で勝って、作戦がいいとか勘違いしてんじゃん。補給を受けながら、東へ進んでアメリア侵攻で万歳じゃん」
アルーシュは、なろう大戦略をやり始めた。どうやったら、日本がアメリカに勝つかという。心の琴線に、触れるようなものを。
「なんか、凄いそれてると思うんですけど」
「同じ、だろ。消費税を10%にして、人口を減らし続ける結果が経済敗戦だ。人をすり潰す政策ばかり実行するものだから、規制緩和と言いながら労働者が減っていく。すでに、世代別人口で顕著にあらわれているではないか。その結果を見て、政治家、官僚が無能の謗りを受けないだと? 冗談だろ」
日本とミッドガルドは、関係がないと思う。ついでに、日中戦争を起こしたのは悪手だった。
「確かに、消費税を導入した1989年以降消費は伸び悩んでいますけど」
労働環境が悪化して派遣や請負の増加。というのもある。上で払っても中抜きで、給料が回ってこないのだ。
それで、上に上がったらば自分と同じ苦労を下に背負わせるものだから悪循環。
結婚できない人間が大量にでて、公園で遊んでいる子供なんていない始末であった。
「打つ手が、ないんですよ。財政再建には、確たる財源が必要だ。という論調がありますから」
財務省にいる人間は、優秀だ。しかし、その政策は失敗だと言える。なぜか。
「インフレさせればいい。経済、わかってんのか? ま、どーでもいい話なんだけどな。私は、私の懐が潤えばいいし」
なろう大戦略だと、あっという間に真珠湾から西海岸まで制圧する日本軍。
トンデモ、戦略だ。東海岸でも兵隊が強いせいかどんどん進撃していく。
100対3000で勝ってしまうのだ。イカれている。
どういう内部パラメーターをしているのだろうか。
「殿下の政体は、絶対王政、ですよね」
「ふん。それか。民の意見を吸い上げる議会は、あるぞ? しかし、連中の意見を聞くか聞かないかは私次第だ。父上は、天界にこもりっきりだからな」
アルーシュたち3人の父は見たことがない。出てきたこともない。1000年以上も君臨しているという。なんとなく骸骨を想像した。
「ロサンゼルスを落として、東海岸まで行くのが大変だ。補給が、追いつかないぞ。陸上戦艦でも作るか?」
「船で周っていくほうがいいかもしれません」
航空機では、負けていないと思うのだ。日本側にレーダーが実装済みであったが、いきなり核攻撃。
ロサンゼルスが、真っ赤な爆発マークに包まれる。
「うお!? えー、まじで?」
アルーシュは、ゲームなのに目を点にした。
「やられましたね」
お菓子をメイド姿の桜火が持ってくると、それに群がる。部屋が狭くなったようだ。
黄色いひよこを膝の上に乗せて、ブラシを取った。
「核は、卑怯だろ。しかも、自国の領土でもやってきやがる。うあぁー」
次々と茸雲が立ち上り、拠点が消えて。
「東京が」
大爆発した。まあ、ゲームだし。勝つためならば、なんでも有りな時代らしい。
皆殺しの元帥が大統領になったのやも。そんな感じである。
「やはり、核兵器ってのは不要だな」
「でも、それがあるから大規模な戦争が無くなったとも言えると思います」
全面戦争にならない抑止力というのは、平和をもたらした。仮初であっても。
「ふん。では、歩く核兵器の転生者、転移者はどうする? 処分するか? ハイデルベルクには、召喚師という職を持った奴がいるらしい。なんでも異世界の英雄を召喚するとかいう。召喚した英雄が、とんでもないらしいぞ」
また、流れる。
それは、とんでもない。ひょっとして、聖杯でも巡って戦うのだろうか。この世界で、なんでも叶う器物なんてものにはお目にかかった事がないけれど。
「それは、とんでもないですね」
「だろう。明日、お前と引き合わせる。どうするのかも、任せよう。楽しみだな」
うーあ。全然、楽しみではなくなった。
「どうして、そんな顔をする? 私を圧倒する貴様がそんな弱腰では見くびられるぞ」
いや、だって、生きて歩く核兵器ですよ。転生者が、その職を選んでそのままのイメージな英傑、英雄を召喚できるのなら。当然、最強なのを呼び出すだろうし。
「ご期待に添えるように、努力いたします」
「痛い痛い。ちょっと、力が入りすぎだよー」
「ごめん」
「まったくもー、柄にもなく、緊張してるの? 似合わないから。どうせ、腹の中ではどうやって殺すかしか考えてないくせにー」
セリアもアルーシュも同意とばかりに頭を振る。
「多分、当然のように消えたりするんだろうなあ」
「・・・珍しくびびってる」
ティアンナに言い返せない。だって、ねえ。光る聖剣とか見えない剣とかチート武器を持っている感じでしょうし。修復不可能な槍とか。
そう、ゲイボルグとかどうなるのだろう。オデットが持っている場合とか。
「あと、召喚師を暗殺するのは無しな」
「ですよねー」
読まれてた。9時過ぎても、10時過ぎても、皆帰らず。そのまま寝てしまった。
9本ある狐の尻尾が最高だった。手触りと身体が抱き枕としては、もこもこの海だったのだ。




