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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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313話 サインしろ 

 氷柱の下がる軒下に、入口が見える。2重構造の扉は、重い。

 リュートを連れて、ギルドの中へ入るとオレンジ色の髪をした女職員が目に入る。

 名前が思い浮かばない。


「おっ、来たな。こっちだ。こっち」


 声を出しているのは、誰であろうかアルーシュだった。

 やたら馴れ馴れしい王子様は、呑気に飯を食っている。 


「我も飯を食うぞ。よいな」


 よいな、って言いながら普通に注文を職員に出すルドラ。違和感の塊である。


「この女は、竜か。また妙なやつを引き入れて。後で、面倒なら倒してしまってもかまわないよな」


「ほう? 我と…」


 セリアを見下ろすルドラが、大人気なく視線を合わせている。冒険者ギルドで、戦闘されるのは困る。


「人の迷惑を考えてね」


「迷惑だな。たしかに。だが、断る」


「ふん。飯を食ったら、裁定してやろう。狼ごときが、竜に勝てると思い上がったな」


 すっと、座って丸テーブルを挟む2人。早くも注文で、勝負しようというのか。

 次から次に注文が飛ぶ。財布が心配になってきた。


「おい。私のほうを向け」


 アルーシュは、一枚の羊皮紙を差し出してくる。


「これは?」


「サインしろ」


 いや、サインできない。羊皮紙の文言が、とんでもなかったからだ。


「これは、なんの冗談でしょうか」


 結婚の文字が入っている。7年後。つまり、アルたち13歳。ユウタは16歳になる歳で。


「見ての通り、婚約宣言書だが? 文句があるのか?」


 文句ありまくりである。勝手に婚約をすすめようなんてしないで欲しい。


「婚約なんて、無理でしょう。明日には、家が燃えてそうなんですが」


「誰が燃やすというのだ。これは、決定事項だぞ」


 なんで、決定事項なのかわからない。第一、結婚する理由がない。

 アルーシュは、自信満々に言うが。


「誰が決めたんですか」


 ギルド職員たちは、視線を送ってきている。素知らぬふりをしているけれど、ばればれだ。


「私がだ。一体、何が不満だというのだ。世界の全てが、貴様の物になるのだぞ? 半分とはいってないじゃないか。ん?」


 世界とかいらない。パンでも売っていた方が性にあう。露天を開いて、アイテムでも並べていた方が楽しいではないだろうか。手に入れて、どうしようというのだ。苦労が増えるばかりだ。


「別に、いらないですが」


「なに? じゃあ、一体、何が望みだ。言ってみろ」


 望み? 何もない。強いて言うなら、愛。愛のない世界で、恋とか愛を探してみたいではないか。

 他人のそれを見て、満足してしまうけれど。


「何も、ないですね」


「…本当に、ないのか?」


 視線を真っ直ぐに向けて言う。幼女の青い瞳は、真剣そのものだ。


「ないですよ」


「あるね。お前は、女をいつだって目で追っているじゃないか。エリアスを取られそうになって、焦っていたのを見ていたぞ。違うとは、言わせないぞ」


 こっそり覗き見していたらしい。エリアスに対しては、微妙に性欲を感じる。

 性欲だから、愛とか恋ではない。セックスしたい。それだけだ。

 アルーシュを見るに、全く起伏のない胸。白いシャツの上に金のジャケット。金のズボン。

 

 色気が、全くない。わかっていないようだ。


「さて、そう見えたなら心外です」


「くっ・・・すっとぼけやがる。いいだろう。だったら、強硬策に訴えるまでだぞ? いいのか? 外堀を埋めて無理やりしたってな」


 無理やりときた。心配になってきた。グスタフは、一応、アルーシュの配下だ。

 そして、忠誠を誓っている様子。息子を差し出せと言われて、はい、と答えるかもしれない。

 違うかもしれないが。


「どうして、そこまで、僕にこだわるんですか。他に男なら、一杯いるじゃないですか」


「おい、セリア、こんな事を言っているんだが。加勢しろよ」


 セリアに呼びかけても、そこは2人で空の湾曲したどんぶりが積み重なっている。

 もう、2人の世界にいるようだ。職員は、むしろ給仕に忙しそう。

 ついてきたリュートは、後ろで固まっている。顔は、青い茸のようになっていた。


「姉上、私は、忙しい」


「これだよ。どうして、結婚したくないんだ。その理由を言え。私と結婚すれば、幸せになる。間違いない。どこでなにをしていようとも、気にしないとも。浮気の10や20くらい許してやるというのに」


 誰か、この幼女、推定6歳の暴挙を止めて欲しい。絶対に、黒歴史になる。

 どうして、こうも無軌道なのか。


「どうみても、理由がわからないですよ」


「くっ・・・ここまで分からず屋だとは。では、どうすれば結婚する気になるのだ」


 どうすればって、いくらなんでもその理由は言えない。まさか、愛を感じないからだとか。

 恋も愛も感じないのに、結婚してから愛が生まれるとかいう話を信じていない。

 

 だから、童貞なのだが。恋するというよりも、性欲を感じるというのが問題で。

 命を助けられたから惚れるとか。恋愛といっては、いけない気がする。

 ただの吊り橋効果だ。


「思うんですが、どうして結婚したいんです?」


「どうして? 運命だろ。運命。それ以外にない!」


 運命って、またあやふやなものがでてきた。これは、いよいよ何か勘違いしている。


「運命って、それは、理由ですらないような」


「むっぐうぅ・・・めんどくせえ。理由なんてどうでもいいじゃねえか。セリアだって、そうだぞ」


 理由がないときた。これは、時間をおくべきだ。

 周りをみても、居るはずのエリアスとアルストロメリアの姿はない。

 羊人の女剣士は、つっと寄ってくると。


「師匠。話は、長くなりそうなのですか? 私も食事をして待ってますね」


 助けを求めようにも、駄目な人間ばかりだ。


「空気を読めるやつだな。もしかして、エリアスが割って入ってくれるとか勘違いしてないか?」


「アルストロメリアもいませんね。何かしたんですか」


 アルーシュは腕を組むと、顎を上げる。


「まあな。奴らがいると、毎度毎度話がそれてしまったりうやむやになってしまう。今日という今日は、今、ここで、サインをしてもらう。なにが不満なんだ」


 言うべき言葉が見つからない。説得するにしても、材料がない。

 フィナルは、こないのだろうか。すると、心を読んだように。


「フィナルなら、後宮入りで納得しているぞ。ティアンナもな。DDとレンは、お前の決める事に従うだろう。この状況で、意地悪な事を言いたくない。大人しく、サインしろ」


 悪い予感しかしない。確か、ユーウはどこかでルナと婚約して破棄するという事をやっていた。

 それでもって、アルと婚約するという。意味がわからないと思う。

 婚約は、恋愛の結果ではないのだろうか。政略結婚というのなら、理解もできる。


「できません」


「ぐぬぬ。どうしたら、サインするのだ。こうなれば、寝ている間にでもサインさせるしか・・・」


 そんな事をさせないように、DDを召喚するしかない。サモンスキルを発動させると、黄色いひよこが魔方陣から飛び出してきた。


「はっ。呼ばれたの? ボクが召喚された。という事は、つまり結婚するという事だよね」


 ひよこは、人語を話ながらとんでもない事を言い出した。


「待て待て、どうしてそうなるの」


「いや、だって、ボクも女の子だし。ほら、人類殲滅する気になったって事だよね」


 こっちは、こっちで頭がぶっ飛んでた。まだ、アルーシュのほうがマシだ。


「それは、ないな」


「どーなの。そこんところ。いいよ? 半分で手を打ってもさ。ちなみに、今、犬神も怒りゲージマックスだから日本に攻め込むかもしれないね」

 

 半分って、なんだ。人類の半分? 冗談ではない。


 誰が、これを召喚してしまったのだろう。己である。そして、アルーシュは黄色く泡立っている飲み物を口に持っていく。


「全くだ。どうして、私が、人間を保護しないといけないんだ。マジ、罰ゲームなんだけど! ユーウは結婚しないっていうし。なんなの。もう、全部ぶち壊して、人間もひとり残らず死滅させたろかー」


 酒くさい。一杯飲んだだけで、匂いのきつい酒だという事がわかる。


「で、ボクがいない間に結婚しようとか進めちゃうの? それ、どうなの。ちょっと、ありえないと思うんだけどー」


「全くなのじゃ。主様は、全員と結婚するべきなのじゃ」


 狐まで、ひょっこり現れた。ふさふさとした金の毛並み。触りたくなるのに、手が届かない位置。

 すたすたと歩いて、外へ出るセリアとルドラの姿が。


「全員って」


「ハーレムルートのなにがいけないのじゃ! 全員食ってこその男子。意気地が無いにも程があるのじゃ。はっきりいって、婚約結ぶのも問題ないのじゃ」


 もう、やめてほしい。白い毛玉は、丸いテーブルの上で羽ペンを咥えている。

 あれ、リュートはどこだ。後ろに居たが、外へ向かって歩いていた。

 逃げようという事らしい。彼に、当たるのも忍びない。


「ハーレム・・・」


「男なら、みんな大好きだよ! もちろん、ユウタも男子だし。大好きだよね」


 もちろん大好き。しかし、それは愛でも恋でもない。伊達に、童貞をやっていない。


「まったく、やっとでてこれたぜ。お前ら、わかってねえなあ」


 そこには、アルストロメリアと、


「なに? どうして、ここに」


 腰に、手を当てた格好で服がぼろぼろになった幼女が立っている。


「つまり、おっぱいだよ。おっぱい」


「ぐはぁああ」


 アルーシュは、99999ダメージを受けた。そんなナレーションが聞こえたような。

 丸いテーブルの上には、真っ赤な血がどばっと吐き出されている。

 痙攣している幼女は、クリティカルヒットに再起不能になってしまったようだ。


 そして、羊皮紙も赤い絵の具でびたびたになってしまった。判別不可能なくらい。


「悪は、滅んだな。よっしゃ、行こうぜ」


 エリアスは、どうどうと胸を張っている。残念ながら、こちらも胸はそれほどない。


「どうやら、胸が気になっているんじゃね」


 アルストロメリアは、ひよこがひっくり返っているのをつつく。


「ふむ。どうやら、勝者は妾のみということじゃな」


 もこもことした毛並みから、派手な服をきた美女になると。スラリとした太腿を披露する。


「こ、こいつ、できる。だけど、どうなのよ」


 エリアスは、震える唇で指を指す。


「いや、確かに。美人だけど。それが、何か影響を与えるかと言われても」


 今度は、レンが間合いを詰めてきて腕を取ろうとした。が、躱す。


「ええ? なんでなのじゃー」


「ふっふっふ。貴様の負けだ。こいつは、ケモナー。美女には、腰の引けたむっつり野郎だからな。かといって、ロリコンでもねーときた。手強いぜ?」


「おかしいのじゃ。やはり」「男はセックスできれば、それでいいんじゃねえのかよ!」

 奇怪な叫び声を上げる。困ったものである。全員が、ビュッビュッできればそれで言い訳ではない。 


 エリアスとアルストロメリアの口撃で、レンは固まっている。

 今の内に、クエストを消化してしまおう。ルドラを探すが、セリアとどこかへ行ってしまったようだ。

 ギルド職員に話をしようにも、避けられてしまう。


 受付は、無人になっていた。どうしてなのかわからないが、対応してもらえないらしい。

 動かないアルーシュと3匹を放置して、城へ向かう事にした。

 アルーシュたちにはすまないが、恋も愛もないのに結婚しようというのはできない。


 童貞道とは、そういうものなのだ。

 

挿絵(By みてみん)

東雲ノア様作画

エリアス

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