表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
488/711

303話 シャチョさんのパンツ  (ヘレナ、ピーター、セレナ)

「集まったようだな」


 めんどくさい会議だが、フィナルの中では超重要だった。

 円卓の中央に座るアルトリウスは、蛮族の鎮圧で忙しいというのに参加している。

 浮遊城の一室に、アルーシュ、セリア、ティアンナと。


「なんなのですか? 今日は、朝からお仕事が溜まっているのですけれど」


 急な呼び出しに、集まった面子がおかしい。

 セリアを見れば、犬の形で横たわっていた。ちらっとフィナルを見て、頭を下げるし。


「全くだ。私も暇ではない。コーボルトの治安回復で忙しいのだが?」


「これを見ても、そんな事が言えるのかな」


 中央に台が運び込まれる。メイドだ。いや、ユークリウッドのところの。

 箱の上が取られて出てきたのは、1つの四角い布切れだった。

 形状から察するに、パンツだ。


「これが、どうかなさって? ただのパンツではありませんか」

 

 メイドは、見た顔の女だ。澄まし顔で、下がる。

 ただのメイドが、このような集まりに呼ばれるはずがない。


「では、フィナルは降りるという事でいいか」


 何。


「ふー。これで、脱落者が1人。ラッキーだな」


「お待ちください。わたくし、何も要らないなんていっていませんわよ」


「あー? なんか聞こえたか?」


「いや。なんも」


 セリアは、ふて寝しているし。味方はいない。エリアスを探すけれど、いないようだ。

 はっきりいって、いじめられている。


「ですから、いらないとはいってません!」


「くっさ。欲しいなら、欲しいって言えよな。まったくよー」


「素直じゃないって、あれだね。要らないって思われてもしかたがないんじゃないのか」


「お二人とも、そろそろ、必要な時間を過ぎてしまいます。お嬢様の授業時間ですので」


「これだよ。しかし、まあ。念願叶ったりなんだけどDDやレンの姿がないな」


「…勝手に盗んでるから。あれら」


「なん、だと。それでいいのかメイド」


「残念ながら、直接対決では分が悪いので。侵攻しないという契約ならば、パンツの一枚くらい安いものではないでしょうか」


「相互不可侵条約を勝手に結ぶのは、どうかと思うぞ」


「DDの方ですね。レンの方は、釣られて持って帰って返せなくなったような感じみたいですが」


「どっちも一緒だろ! どうして、ババアどもはそうなんだ」


「レン様は、履こうとして爆発してしまったようです」


「お前、なんでそんなことを知っている」


「仔狐に、餌をやって調略しました」


「うっわ、やす、安すぎんだろ」


「いや、待て。ドラゴンじゃないが、そんなステーキを出したんではあるまいな」


「残念ながら、ハンバーグですね」


「ジャーマンか。まあ、うちのお得意みんち肉だがな。あれで、ドイツが酷い肉しかないって思われるんだよな」


 どうして、こうなっているのかわからない。


「よし。今日のパンツオークションだが、ティアンナはどうする」


「額による。匂いつき、うんこ無しなら1000万ゴルまでだしてもいい」


「1000万は、ねーべ。1万ぐらいからだろ」


 アルーシュが、視線を送っている。が、余裕の額だ。ただし、匂いがついていない洗濯した物は却下である。


「よろしいですわ。1億で」


「いや、ちょっと待て、それじゃ上げすぎだっつーの。盗ませてくるのに、どんだけリスクがあるんだよ」


「あるでしょう。桜火さんが、首になる覚悟で持ちだしてきたと思えば」


 と、扉がこじ開けられた。誰かと思えば、オデットとルーシアだ。


「2億」


「お前ら、どうしてここに」


「この話、聞かせてもらったけど。私たちも参加させてもらうのであります」


 無理くり口調をつけている子は、眼帯をいじりながら言う。


「2億って、このパンツにそんな価値なんてねーよ。忍びこんで盗んでこいっつーの」


 アルーシュは、にやにやしていう。が、


「じゃあ、さっさと降りて部屋を出ろよ。この分だと、予想外の連中まで現れかねないからな」


 議長は、すげなく言う。


「…3億」


 ちょっとずつでない。ティアンナが、一気にあげてくる。降りる気は、ないようだ。

 手持ちの金は、500億ほど。そして、使える金額を計算すれば―――


「お前ら、2人だけで買う気マンマンだな。つーか、ただのパンツだろ。3億ゴルの価値なんてねーよ」


 アルーシュは、頬杖をついて言う。

 そう。ないだろう。しかし、匂いがついているのなら別だし。金を出すのも人の勝手だ。

 闇のオークションでだって、こんな代物はでてこないだろう。


「だから、見たくなきゃ見ないでいーし。欲しくなきゃ、参加しないでいいんだぜ」


「誰も、欲しくないなんていってねーぜ。でもよー。匂いだろ、薄れてわかんなくなっちまうじゃん」


 ちら、と桜火を見る。


「アフターメンテナンス付きで、交換可能です」


「おおっ」


 まじかよ。マジなら、購入しなくてはならない。500。いや、ひねり出せば1000くらいは行ける。

 だが、ばれた時のリスクも大きい。懐に、男物のパンツを持っている聖女だなんて。

 汚いにも程があるだろう。


「10億だな。どーよ」


「20であります」


「一気に、来やがった。20億なんだよな。20あったら、どんだけの事ができるんだよ。もっと、良く考えて上げろよなー」


 ここは、様子を見るべきか。どんどんハネ上がっていく予感がする。


「…降りる。手持ちがない」


 早々に、ティアンナが降参してしまった。彼女は、戦闘力があるとはいえ貧乏なシルフだ。

 妖精の森だけに、資金力がないのはわかりきっていた。

 件の塔にだって、フィナルの配下が多数いるから兵力だって少ないに違いない。


 現状では、最弱の勢力だろう。ただ、本当にそうなのか。未知数ではある。


「ふむ。20。20が出ているぞ。ふっふっふ」


「えらい自信が有りげじゃねーか。アルトリウスの方も戦費が嵩んでんじゃねーのかよ」


 というのは、アルーシュであった。彼女もコーボルトで出費が増えているようである。

 商人と一体になっていない騎士たちでは、金の出も激しいだろうに。

 1人足りないような気がする。


「20以上居ねーか? 居ないなら、それできまっちまうぞ」


「30だ。つーか、私と同格に戦えそうなのはアルトリウスくらいだと思ったがな」


「権力を出すのは、ずるいであります」


「なんとでも言えよ。国家予算じゃなくても、ポケットマネーだけで余裕だっつーの」


「お前のそれ、予算と直結してんじゃねーかよ。まったく、どうかしているぞ」


 アルトリウスが監視してそれを止めてくれればいいのだが。

 2人して、バトルしそうである。


「汚いでありますー。それじゃ、誰も勝てないであります」


「なるほど。このオークション形式では、不平等ですね」


 助かった。200とか厳しい。だせるが、その後始末が問題になる。


「待て、ちょっと待て。じゃあ、どういう物なら公平になるというんだ」


 そこだ。単純な財力では次期国王に勝てようはずもない。ただの貴族だとか商人の娘では。

 1000とか2000とか勝負できないし。


「なれば、戦闘力で」


「げえっ、それは」


 ギャンブルが良かった。トランプを用意していたのに。


「ふっ。話は聞かせてもらったぞ」


 セリアが、腹ばいになった状態から人間型に戻って横たわっている。ちなみに要所だけかくれたほぼ全裸であった。


「こいつが、出てくるだろ。厄介な」


 結局、噛ませ役にフィナルたちを持ってきたような。そうは、いかない。


「タッグで如何かしら」


「待てっ。それじゃあ、フィナルとエリアスな」


「勝手に決められても困ります」


「ふっ。ならば、私はモニカと組んで参戦するとしよう」


「モニカ? あの牛の小娘か。あれ、ただの獣人だろ。我らと同じ高みには、ないはずだ」


「どうでしょうね。アルトリウスさまが戦場におられる間に、迷宮で培った力というのは侮れないとおもいます」


「ほほう。自信があるのなら、それでもいいがな」


 ただのパンツをめぐって死闘が繰り広げられようとは。

 夢にも思わなかった。

 争いの原因となるパンツをバーナーで焼いても結構ではないか。

 

 しかし、なんで桜火が出品したのかがわからない。


「エリアスを呼んでこないといけませんわね」


「そういえば、あいつに声をかけなかったな。どうしてだ」


「彼女は、ばかばかしいと言うに決っているのであります」


「確かに、そんな感じではあるがな。まあ、いいか。フィナルはタッグの相手を決めてから参戦しろよ。あと、ユークリウッドとか言ったら反則負けだからな。素っ裸にして、見世物にしてやる」


「危ないであります」


 チィ。結構、名案だとおもったのだが皆考えていたようだ。

 桜火は、素知らぬ顔をしている。


「もっとこう、横で寝る權利とかいうのはないのかしら」


「ほう? どうなのだ」


「それは、できかねます。できることとできない事がございますので」


 敏腕メイドといえど、横で寝るのは無理なようだ。セリアの毛を毟り取りたい。

 犬に成れたら、ベッドに忍び込めるのに。なんと、羨ましい事か。

 

 結局、フィナルはセリアに完膚無きまでに破壊されてパンツを手に入れる事は出来なかった。






 

 毛玉たちは、シャルロッテと遊んでいるようだ。

 ザビーネとルドラが、暇をしていたようなので連れて配達を済ませると。

 9時を回っている。


「師匠、今日も迷宮ですか」


「まあね。ただ、ハイデルベルクの東にあった町によってゴブリンがキチンと退治されているのか見てくる必要があるね」


 カリシュだったか。町の名前を覚えるのも苦手だ。呪文は、結局のところ感覚なのでスキルで発動してしまえばいいし。魔方陣は、登録しておけばいいので。


 ハイデルベルも気になるけれど、先にカリシュへ跳ぶと。



 路地裏に出る。

 石畳に、四角い箱。見れば、腰を抜かした男が座り込んでいる。


「大丈夫ですか」


「いや。大丈夫、だ。あんたら、魔物、じゃないよな」


 失礼な。貴族に向かってそんな言葉を吐いたら、打首である。もちろん、口にしたりしないけどさ。

 後ろのルドラを見ているようだ。


「あ、こちらは仲間です。安心してください」


 手を取ると、多少のチップを持たせた。男は、目を見開いて。


「これは」


「驚かさせてしまったようで、何か食べてください」


 手に載せられた金貨を見て、男はかぶりを振る。


「すまない。これは、受け取れない」 


「なぜですか?」


「良く見れば、子供じゃないか。そう、いえば。子供の魔術師が、ゴブリンを追い払ったとかいう話を聞いた事がある」


 ほほう。それで、どういう話になるのだろう。


「良ければ、一緒にギルドへ来てくれないか。私は、丁度護衛を探しているんだよ」


 ふむ。

 まあ、ついていくのは吝かではない。護衛というのは物騒だけどさ。

 ついていくに。


「おっと、その前に家へ寄っていくか」


 男は、立ち上がると歩き出す。すっとした立ち姿に、黒い外套を羽織っている。


「職業は」


「私の名前は、ピーターだ。職業は、皮の売り買いだな。魔物の皮をなめすのが、仕事さ。最近じゃ、魔物の素材を買い付けて卸すのもやっているね」


 それで、襲われる理由がわからない。


 路地から出ると、人の雑踏は少なかった。


「僕は、ユークリウッドと申します。職業は、冒険者です」


「その歳で、冒険者かい。苦労しているんだな」


 苦労してますとも。後ろを歩く女の子2人に、視線が集まっているようだ。


「ゴブリンがこの町を襲っていた理由とか知りたいんですよね。事情がわからないまま戦ってしまったりしているので」


 理由があるのなら。なくても、ゴブリンは人を襲う種族であるけれど。

 あれだ。人がゴキブリを見たら叩くのと同じかもしれない。


「うん。ゴブリンたちか。奴らは、北の迷宮を根城にしているらしい。まだ、攻略したという話は聞かないな。連中が、人間を襲うのは本能だろうさ。話をしようにも、そもそも人語を介さないし。こっちはこっちで、怨念が溜まっているからね。捕らえるという事もないねえ」


 ゴブリンに殺された人間がいて、また殺し返す人間がいる。普通の、ありふれた話だった。

 通りに出ると、人が集まっている場所が見える。

 そして、ピーターは走りだした。


 そこへ向かって。


「何が、起きたんだ?」


「あんた、ピーターじゃないか。どこへ行っていたんだ。中には、入らない方がいい」


 良くない感じだ。何が起きたというのだろう。通りを占拠する形で、人が集まっている。


「どいてくれ。家があるんだ」


「ぴ、ピーターが来たぞ。どうする」


「ど、どうするったって。お前、そりゃあ」


「ピーターさん。中には、入らないほうが」


 家の出入り口で、見知った人間か。男たちが、ピーターの身体を止めようとする。

 後ろへついていくと。


「何が、起きた? 何が」


「中へ通してやれ。ピーター。何といっていいかわからないが、その」


 家の出入り口に、恰幅のいい男がいてピーターと向き合う。男は、その身体をどけて中へ入る。


「何が起きたんですか?」


「なんだ。子供が、このような場所にくるんじゃない。帰らせろ」


 と、太い腕を伸ばしてくる。それをザビーネが掴んだ。


「無礼だろう。貴様、一体、何のつもりだ」


「なん、だと」


 男は、顔を歪める。ここは、ザビーネに任せて商家とみられる家へ入ると。

 血の匂い。

 石畳の床に、商品を並べる棚。奥には、皮が吊るされている。荒らされた様子は、ない。

 

 だが、女が左手の奥で倒れている。そう広い店ではない。皮を並べる棚の上で、動かない。

 その手前で、ピーターは固まっていた。

 地面には、雫が落ちている。


「へ、レナ」


 止まってしまった。女の顔は、苦悶に満ちている。抵抗したのか、顔が痣と血で彩られていた。

 死因は、胸に突き立てられた傷だとみられる。

 そのほかにも、首には締められた後が見られた。これならば、蘇生可能だ。


 烏賊臭いのが、困るが。白い液体には、直接触りたくないので布で拭いてゴミ箱へ投げ捨てた。

 頭を斧で割られていると、難易度が跳ね上がるけれど。

 どうしたものか。着替える必要がある。人の目をごまかす必要も。


「あ、ああ」


 慌てて、ピーターが階段を上がっていく。チャンスだ。

 入り口に、土壁を作り出すと。人は居ない。

 傷を治癒してから、成功率を上げる呪句を。


(神は、ここにありてどこにも見えず。光よ、さまよえる魂を戻し給え)

 『蘇生』

 スキルよりも、魔方陣で。光がヘレナに吸い込まれていく。

 上からは、また悲鳴が聞こえてきた。


 また、良くない展開のようだ。上下し始めた身体を確認してから、2階への階段を上がる。

 土壁を元に戻して、木製の板を踏んで上へ。

 そこには、女の子を抱きしめる男の姿があった。


 何か焼ける匂いだ。隠れている人間がいるようではない。


「なんて、ざまだ。ごめん。ごめんな。セレナ」


 セレナというのか。ピーターの娘のようだ。髪の毛が、半分無くなっている。

 さっさと戻せるだろうが、記憶ばかりは直しようがない。

 焼かれたのだろう。顔も、タバコの火を押し付けたようにただれている。

 

 大きな円を描いているので、松明か何かだ。このような真似をする外道と出会おうとは。

 奴隷窟も嫌いだが、これまた残虐行為も大嫌いである。

 脳を刺すような目眩がした。


 ぶち壊せと、殺せと、殺しまくれと声が響く。

 幻覚に決っている。


「傷を、見せてもらえませんか」


「ひ?」


 反応が芳しくない。著しいショックで、放心状態のようだ。ピーターにしてみれば、ショックだっただろう。魔物と戦っていると、炎でそうなる冒険者がいない訳でないので見慣れた感がある。


 腕を切り落とされたままやってくる冒険者だとか居たりするのだ。

 水を入れたコップを差し出す。涙と鼻水で、ピーターの顔には川ができている。

 ピーターは、茶色い髪の毛で。セレナと呼ばれた娘は、赤い髪をしている。


 水を飲むピーターは、水を飲んで女の子を床に横たえる。ベッドは、縄がついていた。

 女の子の手にも、縄が付いている。

 どういう目にあったのか。簡単にわかってしまう己が恨めしい。


 死んではいないようだ。顔を治していくと、顔面に深い縦傷が入っていた。

 それも治すのだが、うっすらと残っている。

 察知を使うとしよう。


(汝、三千乗世界。この世、全ての悪を憎むもの。この全てに、善を敷くものよ。祈り奉る)


 かつて、これで殺人を暴かれたものだ。殺人は、悪だ。いつか、きっと裁かれる。

 緑色の光が少女から伸びる。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ