301話 シャチョさんは、それっぽい事をする。 ●
ゼクスはレベルが上がって喜んでいたが、ユウタは複雑だった。
男を育てても、障害になるだけである。
しかし、魔物に瞬殺されてしまうようでは盾にもならない。
(結局、帰ったの23時だし)
家の門には、昔と違って兵士がいる。外から入ろうとすれば、そこを通過してそれなりに歩くと。
玄関には、灯りがついていた。
中へ入ると。
「おかえりなさいませ。ご主人様」
メイド服を着た桜火が出迎えてくれた。
「お疲れのようですね。お風呂になさいますか」
食事は、己で作った寿司を食ったのでいらない。ならば、風呂だろう。しかし、また大変な事になっていはいけない。後ろに控えていたザビーネたちは、問答無用で歩いていく。だれも、それを間違いだといわないけれど。お客だという自覚は、ないのか。
強く主張したいところである。
「別の人、はいっていないよね」
「はい。弟君たちは、就寝されておりますが…」
そこまで言って、廊下から階段に駆けてくる子供がいる。しかし、普通の格好ではない。
両側の頭を縛っている金髪の少女は、手に赤い燐光を携えていた。
背中に浮いているのは、まんま誘導兵器だ。足元には、ひよこと毛玉を乗せたレンが4足歩行している。
「あ、お兄ちゃん。みてみてー。これ、すごいんだよー」
目に星が浮かんでいる。赤い瞳に、力を感じた。これは、一体どうしたことか。
シャルロッテの変貌の原因は。
「そいつら、何かしたの」
「お察しの通りです」
すると、たたっと階段を上がっていってしまう。間違いない。有罪だ。
「あ、師匠たちが行っちゃう。またねえー」
何をやっているのか。気になる。シャルロッテの身に何が起きているのか。
明らかに、おかしな姿だった。黒く無機質なスーツ。鎧のように見えた。手も。足も。
そこに、
「お嬢さまも、冒険がしたいとおっしゃっておられるのです」
無理だよ。それ。8歳だよ? しかも、レベルがあるわけでもない。
黒いスーツのような格好は、いかにも闇落ち魔法少女っぽかったし。
ゴブリンはおろか虫だって殺せないような子だ。
「ダメだよ。絶対、駄目。迷宮に潜ろうなんて10年は、早いんじゃないかな」
「左様でございますか」
でも、ダメって言っても潜ってしまいかねない。そうなっては困る。
「んー、潜るなら桜火はもちろんDDとかレンを連れていかないとね」
反対すれば、こっそり潜るだろうし。賛成しても、今度はグスタフが止めるだろう。
ならば、好きにやらせるしかない。最大限の護衛を付けて。
「それでは、そのように」
風呂に入りたいので、廊下を歩く。すると、桜火は後ろ歩くのだ。振り返ると、慎ましいおっぱいがある。
「お背中を流します」
ここで、抵抗しておかなくては。しかし、
「メイドの義務ですので」
そうだろうか。また、ぐしゃぐしゃになってしまうような気がする。
そのままの格好で、洗ってもうらうが股間は拒否する事にしよう。
男風呂には、気配がない。だれもいないようだ。
隠れている人間もいないようである。無駄に、スキルと魔術を使って風呂に入らなければならないとは。
四角い棚に、着ているものを入れると。
「お座りください」
ふつーに、桜火が立っている。ユウタは、タオル一枚だ。股間を隠して、頭やら背中を洗ってもらうと。
いい気分になった。
お湯の中に、だれも潜んでいないようだ。なんで、このように警戒しないといけないのか。
セリアが、潜行していた事があったからだ。
ティアンナやエリストールも桜火の領分では、大人しいようである。
幸いだ。すると、布一枚の格好になってメイドさんがお湯に入ってくる。
手を伸ばしてきて、
「セリアたちに、食べ物を出したとか。それを所望します」
いつのまに、ご褒美をやる事になったのだろう。やらないと、そのまま襲われそうな距離まで近づいている。チンポは、ものすごい勢いで自己主張を始めた。危険だ。
あわてて、インベントリから寿司を取り出す。酒と一緒にお盆に乗せてやるのがいいだろう。
なんでも入っているような空間から、麦色の炭酸水をコップに注いでやる。
酢飯にネタを乗せた物で、桜火の顔がほんのりと赤くなった。
いくら注いでも、まだまだまだまだといった感じである。そうこうするうちに、更衣室の出入口から金色のひよこと白い毛玉が入ってきた。狐は、顔をごしごしとしてから膨らんでいく。
(おいおいおい)
言う暇もなく、女の子の姿になった。たわわなメロンもかくやといった乳は、しっぽで隠している。
股間も同様だ。見えたら、18禁間違いない。
ひよこと毛玉は、ぴょこぴょこと湯船に入って浮かんでいる。
「妾も同伴させてもらうのじゃー」
「下がりなさい。このけだもの」
「お前が、協定を破っているのが悪いのじゃ。のう、主さまよ」
いや、どっちもどっちで何もしないという感じがしない。さっさと出たいのに、晩酌に付き合わされている。
こうやっている状況がわからない。普通は、こうならないはずだ。
レンとか只の知り合いでしかない。主様とか言っているが、そんな物になった覚えもない。
DDは、ひよこになったままで。毛玉も喋ったりしない。
桜火には普段から、苦労をかけているので晩酌くらい付き合ってもいいのが。
それにしたって、布一枚で風呂に入るのは如何なものか。
他に、人が入ってきたりしたらどうするのだという。すると、ひよこは目の前を泳いで止まる。
「他の人が入ってこないように、門番がいるからね。だいじょうぶいっ」
Vサインを身体で体現しようとしたが、尻の羽が痙攣しているだけだった。
のけぞっている姿が痛々しい。
「お主、渾身のギャグが滑っておるのじゃ」
「な、なんだってー」
ひよこだから、まだいい。これがレンと同じように女体化したら、目をやるところがない。
湯船の上では、袋が2つ浮いている。股間は、暴発寸前だ。ビクンビクンいっていた。
「主さまよ。たまには、飲もうではないか」
すっと、差し出されたけれど。
「未成年だもの。無理です」
きっぱりと断った。飲酒は、20歳から。しかし、これも日本だけの話で。
ミッドガルドでは、なんと10歳からでも飲めるのであった。
ただ、金がかかるので飲めないのである。
しらばっくれようとしたが、
「どうするかのう。妹ごに、加護を与えたんじゃが? 取り上げてしまうかのー」
「そんな事は、できないぶっ」
ひよこは、また風呂を形作る白い石の上でのけぞった。どうやってもVの字を描こうとする。
酒を注いだコップを手に、水を飲むようにレンは飲み干していく。
DDは、酒を飲もうとしないようだ。白い毛玉は、桶の中に浸かっている。
桜火は、身体を寄せてくるし。危険だ。
晩酌は、終わらない。
目が覚めたのは、鶏の鳴き声だ。
記憶は、はっきりしている。飲み続ける女たちは、まるで潰れなかった。
酒臭いので、結局桜火の部屋へと押し込んだのだが。
毛玉のつぶらな瞳と目が合う。
狼さんは、いないようだ。木も生えていない。ベッドの下には、丸くなったチビ竜たちがいる。
毛玉の白い毛並みを触ると。
(もこもこして、まりもみたいな)
丸いし、最高級のクッションだ。角が生えているので突き刺さるけれど。
食べ物は、雑食で牙が生えているので何でも食うという。
抱きまくらとしては、最高の感触である。セリアももこもこしていいのだが、最近それをすると逃げるようになってしまった。残念である。
お年ごろなのかもしれない。
机の上には、学校のノートが置いてあり、それに目を透しておく。
書類は、起こった出来事や領地の経営状態が載ってあった。
(ん?)
目に止まったのは、異様な量の素材を持ち込む冒険者を捕らえた件とポーションの違法販売をする子供の件だ。
小説では、冒険者ギルドで大量の素材を持ち込んで驚かれるイベントであったりする。
が、領地を経営する側に立って考えて見ればわかるのだが―――
(まず、素材を一気に売りにこられても捌くのが大変なんだよな。買い取りする側に立って見て欲しいんだけどねえ)
中古ソフトだかを大量に買取ると値段も色をつけるなんて事は、ある。
けれど、同じ素材だったりするとだぶつくし。値段を引き下げないといけない。
初心者の狩場で、それをされれば他の冒険者が困ってしまう。
単なる荒らしで済めばいいが、現実には命のやり取りにまで発展してしまうのだ。
生活がかかっている側と興味本位というか何も知らずに狩っていた側。
調査していたのなら、それはそれでしょっぴく理由になる。
ゲームではないので、そこを厳しくしている国だと指名手配にもなる。
この場合、ユウタの領地があるペダ市で逮捕された訳で。
逮捕された人間が、転移者か転生者なのかが気になるところだ。
そこのところを書いていないので判断できない。
(んー。次は、ポーションか。まいったな)
氏素性のはっきりしない少女が、高級ポーションに分類される代物を不当に安く売っていた。
小説なんかでは、重宝されるけれど。錬金術師ギルドなんてものがあれば、不当廉売にあたってしまう。
これは、シャルロッテンブルクで逮捕されたようである。
そのまま殺されてはいないようだ。
全くの未開で、傷を治すポーションを販売して成り上がる。なんて、物語みたいな事はそうそうできない。何しろ、歴史のあるギルドが存在すればそれだけでお上に訴え出る案件で。
ポーションを安く売るのは、消費者にとってみれば良い事なのだ。
が、安くなったら錬金術師は困る。ギルドも困る。素材を使用しないで、チートスキルなんかで作れるようであればそれはもう暗殺対象だろう。
素材を得るために、秘境で魔物を狩ったり採取するハンターなんて職は無くなる。
もちろん、普通は少女がポーションなんて製造できないし素材だって採れない。
なので、あり得るけれどない話だ。
ポーション販売を通じて、悪徳商人と結びつくという事はあっても特定の冒険者なんかとつながりを作ってなんとかかんとかするなんて。夢でしかない。
最後は、錬金術師ギルドか魔術師ギルドの長い手で見るも無残な事になるだろう。
(そうなる前に、なんとか仲裁しないとな。アルストロメリアとエッダに頼るかね)
戦闘なら、簡単な話である。殺して、おしまい。殴って、捕獲。そんな感じなのだ。
だが、そうもいかない話だった。
一通り、書類に目を通してから判子を押す。そして、面倒なサインを入れる。
頭の上に白い毛玉が乗っているのだが、ブビッという音がした。
ジャンプする毛玉を捕らえて、髪の毛を触る。
(この野郎、うんこか?)
しかし、感触がしなかった。と云うことは、屁でもこいたのだろう。
とんでもない真似をしたものだと、顔を見る。が、きらきらした目で見てくるのであった。
(ふー。まあ、いいか。おえっ、おげっ、げええええぇ)
少女の夢を壊すなと言わんばかりの悪臭。ゲロが出そうになった。
上から来たのは、鼻が爆発するかのような毛玉の一撃である。
涙が出るのを感じ、手にはじとっとした汗が出ていた。
ポイーンポイーンと跳んでいる毛玉。流石に、かっとなったが殴っては負けである。
(まあ、厳重注意で禁錮刑はやめておくか)
2度目には、処刑を求められそうであるが。人からは、甘いと言われているけれど。
死人が出ている訳ではない。ギルドに調整させ、ギルドを通せばいいのである。
デフレは、ごめんだ。結局、底辺労働者たる冒険者の給料が下がってしまう。
食事を知らせる桜火の声が、扉の向こうからやってきた。




