299話 シャチョさんは控え ●
一番下にあるアルトリウスの絵をクリックして、画面が変わって、もう一回。
すると? GIFな彼女が!
「どうしたんだ? こいつ」
物思いにふけっていると、冷たい声が降ってくる。セリアの声だ。
「あー。怪しいのと戦って逃げられたみたいだぜ。で、落ち込んでるんじゃねえの」
落ち込んでいないし。ただ、手加減しない方が良かったのだろうかと思うのである。
周囲に風の結界を張っていたけれど、それを相手の捕縛に回していれば?
結果は、違ったかもしれない。特に、人馬形態をしていた鎧に対しては。
「ふ。そんな事か。どうせ、取るに足らない事で気を使ったのではないか? 捕らえようとした、とか」
顔を上げると、レオタード姿のような幼女がいた。
現実にいたら「アイタタ」な羽を背中にして。
「あるある。こいつ、殺すのには向いてるけどなー。触手系の術を使わねえからなー。なめくじか蜘蛛でも口寄せすりゃよかったんじゃねーの。ま、終わった事だし。飯にして迷宮にでもいこーぜ」
恵方巻きでは、満足していないようだ。三角帽子の位置を弄る幼女の腹から、音がした。
「おーほっほっほ。下品ですわよ。エリアスさん」
光る門が、出現するとそこから口にバラを加えた幼女が歩いてきた。続いて騎士たちが、駆け出していく。
「うっわ。狙ってやがった。このタイミングで聖堂騎士団を出してくんなよなー」
エリアスは、帽子を脱いで横に座る。セリアは、背中に羽だかなんだかをつけた鎧姿だ。
魔装だろう。やる気満々である。
「おほほ。ごきげんよう。ユーウ。さあ、行きましょう」
どこへ、行くのか。まだ、決まっていないではないか。それに、後始末がある。
「ふっ。後始末は、獣人たちにやらせればいい。部下にやらせておかねば、仕事がないではないか」
「もちろんでしてよ。聖堂騎士団も助力をおしみませんわ。ね、エリアス」
「むー。ここで、俺が帰るっていったらレアアイテムでそうだしなあ。アルストロメリアとエッダに、転移器の使い方を教えねーといけないんだけど」
「なら、帰ればよろしいのでわ? お引き止めしませんわ」
「むーん。明日にすっかな、で、どこよ。流石にゴブリンがいたとこに戻ってーとかやめてくれよな。あと、残ってるのって1,2箇所だろ。んで、命令は完了だぜ」
皿に、恵方巻きを乗せてみると。セリアが、すかさず口に放り込んだ。エリアスが、手を出そうとしたのにスピードで負けている。
「では、牛神王の迷宮でいいか? あとは、王都の下水処理施設が怪しい事になっているらしい。ミッドガルドのな」
牛神王の迷宮。久しぶりのような気がする。ずっと、フィールドでばかり探索していたし。
狩人とは、全然遭遇しない。彼らは、僻地で大型モンスターを相手にしているというが。
出会ってもおかしくないはずなのに。
「では、決まりましたわね。それは、そうと。お友達がまた増えたみたいですのね。紹介してくださらないのかしら」
念話で『集合』と呼びかける。
ゼクスとファムの事だろうか。それとも、ザビーネとルドラの事だろうか。いつの間にか、仲間が増えている。ティアンナとエリストールの事は知っているはずだし。
考えている間にも、酢飯の入った桶から寿司を握る。水は、つけずに酢で粘りを取る感じだ。
ネタが、美味しければ全部美味しい。というわけでもないのが、困りもの。
飾り付けが、重要らしい。板前の道は、長く険しいようだ。
「それは、行きながらでいいのではないか? あちらで、準備する事もあるだろうしな。それとも、ここで回収するのを待つか」
「それだぜ。まずは、くつろがねーと。俺、結構へとへとなんだよな」
敵を逃したのは、ミスだった。周囲の被害を考えだすと、手足を縛られたような感じになる。
相手が、礼儀正しく己のみを狙ってくるようだと尚更。
(何も、なきゃなぎ払うんだけどなあ)
誘導型の魔法じみた術というのがない。一々、己で狙わなければならないのだ。
言う成れば、自動と手動の違いというか。
集まってくるのに、半刻。魔術がなければ、ここでお休みという状況である。
まずは、転移して受付をする。入るのに、許可が必要だからで。
牛神王の迷宮には、外から来るものと転移室を使うものと2種類がある。
「それで、あいつらを仲間にするのか?」
自己紹介をしたのはいい。だが、セリアは面白くなさそうだ。鎧が、白く淡い光を放っている。
物凄く目立っていた。羽がたたまれて、腰の後ろにくっついているのだが。
革鎧をやめて、白い上着を纏っている。これも、凄く人の目を引く。
「わたくしは、なさりたいようにすればいいと思いますわ」
薔薇の花を1輪。手にもって嗅いでいる。香水も付けだした幼女は、うっとりとした表情だ。
「お前は、そう言うがな。あれは、竜族だろう。青というからには、風か水だ。風だと難敵だぞ」
彼女、敵ではない。敵だったらば、今頃、ハイデルベルは壊滅している気がする。
あまり、挑発しないでほしいものだ。
「ユーウは、どう思いますの」
「DDの考えを正してくれるなら、いいんだけどね。彼女、孤立しているみたいだし。仲間とか居ないなら、ウチで面倒みようと思っているけど」
何処かへと旅立ってしまう事もあるだろう。しかし、思い返すと出会った人の大抵が居住しているような。ルナとかオルフィーナ、オヴェリアなんて実家に帰っているのかすら怪しい。むしろ、家が実家になっているようですらある。
我が物顔で、飯を食っていたりするから大変だ。メシ代払えと言ってもおかしくないだろう。
いくら公爵家の娘でも、ねえ。
と、前の冒険者がどいて順番が回ってきた。
「いらっしゃいませ。本日は、どのような…ご用件でしょうか」
一瞬、詰まったようだ。女の職員は、人目を引く胸をしている。下から上へ見るので、顔が見えづらい。
「10層への転移装置を使いたいのですが」
セリアが、ステータスカードを取り出す。不便な事だ。ミッドガルドなら、顔パスなのだが。
「ええと、あ、セリア様ですね。それと、仲間のメンバー、さま。と、了解しました。こちらのカードを職員へお渡しください。転送してくれます」
セリアのカードは、非常に便利だ。そして、冒険者の少なくない広間を見る。
言いがかりをつけてくるチンピラの姿は、ないようだ。
ゼクスを筆頭に寄ってきた。
「10層は、浅いのではないか?」
「まだ、来た事がない人、結構いるからね」
セリアは、不満そうであるが。こればかりは、仕方がない。夜では、灯りをやや暗くした通路を歩く。
迷宮と一体化しているギルドの上部は、どこそこの駅にも似ている。太い柱で、上を支えられていた。
後ろに歩くのは、ザビーネ、ルドラ、エリアスにゼクス、ファム、ティアンナ、エリストールと。
頭割りに、売上を振れば赤字になりそうなくらい人員がいる。
5,5で分かれても良さそうなくらいだ。
転移室の入り口は、石造りで。中のレバーを操作して、一人が送るという様式のようだ。
出口は、10層で。丸い円盤に乗せられる格好であった。薄暗い場所に、敵の姿も冒険者もいないようだ。
「おー。ここ、が、牛神王の迷宮かよ。初めてみるな」
本来なら、アキラを特訓させたい。しかし、彼はミッドガルド人ではないし。転生者でもない、転移者だ。帰る場所があるので、ひょっとすると裏切るかもしれない。可能性は、低いとはいえ。
永続光を四角い箱に灯すと。真昼のように、周囲が明るくなった。
「こんなに灯りを出して、大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。基本的に、セリアが全部倒してしまうので…」
そのセリアは、早くも前に歩き出している。その隣には、フィナル、エリアスとティアンナ、ルドラが続き。前、後、後、中、中。そんな感じの構成だ。いや、全員前なのかもしれない。
慌てて、浮かぶ板を用意して移動を開始した。
「楽ちんですね、これ。こういうの、冒険者が使えたら楽ですよね」
ファムは、阿るような声だ。猫なで声かもしれない。ゼクスと違って、気を使っているようだ。
壁は、石で組んだような壁である。むき出しの岩ではない。
座っているのは、ゼクス、ファム、エリストール。こうなると、車のように椅子が欲しい。
「でも、これじゃ、襲撃を防げねえんじゃねえの」
「風の術がある。守りには、自信があるぞ」
ゼクスに、エリストールが応答する。あまり、この痴女が話す場面をみた事がなかったのだが。
先行するセリアたちは、肉塊と残骸を量産していた。死体置き場は、ぱんぱんになりそうな勢いである。
あまりにあれな残骸は、スライムに処理してもらうとして。
「俺たち、戦わなくても大丈夫なのかな」
アキラに似た事を言う。日本人だと、そういう手持ち無沙汰な反応を示すのだが。
「セリア殿が先行しているのだ。出る幕といえば、魔石かアイテムになりそうな物を見逃さない事だな。隠し通路は、壁を破壊するだろうから、な」
「パーティーに入れてもらって、良かったんでしょうか」
「体験ですからね。体験。見学しているだけでも、ために為ることがありますから」
見学というのは、重要だと思う。しかし、やってみないと覚えないのも事実で。
最初は、見ているだけでもいいのだ。進捗がないと、首な職場ではあるけどさ。
今の状態。ゲームでいうのなら、控えである。
もっと言うのなら、連れてこれていない面子もいる。ホモではないので、野郎は極力育てたくないが。
ザーツとかレウスを教育するのに、アキラを育てとくのも手である。
何にしても、己の手はそんなに広くない。
「ここは、オーク、が出るのかな。ゴブリンもでるようだけど」
ちょっと、色が変わったゴブリンとオークが出る階層のようだ。
それで、強さの程はセリアが倒してしまうのでよくわからないという。
罠も、引っかかりながら破壊の限りを尽くすのである。どういう罠なのかわからない。
「あれ、ゼクス、さっきからレベルが上がりっぱなしなんだけど」
ファムは、ステータスカードを見ている。それに、エリストールが呆れたような表情だ。
時折、斧が飛んでくるのだが水銀体がキャッチして出番がない。
控えは、本当にやることがないのであった。
「げ? 15から、もう18って。どういう事?」
どうもこうも。説明するまでもない。仕方なく、また皿に寿司を握り始めた。
下手くそだが、これは修行あるのみだ。手は、アルコールで殺菌して。埃が、入らないように風を操作する。さらに、板がぶつからないように操作するのだ。それなりに大変である。
「こいつの能力だ。知らなかったのか」
「いやいやいや。そいつは」
規制緩和。
なんでも規制を緩和しろというあれを思い出して、嫌な気分になった。
トラックにトラックを連結するような真似。
(ブチ殺すぞ、糞塵芥めら・・・)
事故が起きるから規制されているのだ。運転手を何だと思っているのだ。ロボットではない。
「なるほどねー。でも、そんな能力があったら有名じゃないの、不思議だよね」
「ミッドガルドの王族が絡んでいるからな」
「ああー。首、飛んじゃいます?」
「多分な」
けったいな事を言う。確かに、広まると不味い能力だろう。しかし、誰でも取れそうなスキルではあるが? 他に持っていないのか調査した事もなかった。むしろ、強奪とか模写とかに気を取られていたくらいだったのだ。
寿司は、簡単につくれる。だが、人気が出るくらい美味しい寿司を作るのは難しい。
というよりも、盛り付けを作るのが難しい。味を出すのも難しい。
簡単には、作れないし。魚を捌くのは、セリアの仕事だった。
その、魚とかの内蔵を扱うのが、苦手なのである。魚も駄目なら、鳥やら、豚も駄目だった。
解体とか。ちょっと、無理である。他の転生者はどうなのだろう。
「戦闘で、緊張感がないのもなあ」
「そうか? そんなに緊張していては、いざという時に動けんぞ。レベルは上がっても、ほむ。剣の技、魔術の技を磨いていなければ、空っぽのままだからな」
「そうだよ! ゼクスってば、いっつもお昼寝してるんだから」
「いやー。陽気に誘われちゃってさあ。学校も行かなきゃなんないしねえ。卒業までに、軍には入れとかって言われるし。ギルドの方からもお誘いが、あるんだよな。どうするか迷うじゃん」
ちなみに、ミッドガルドなら12歳で結婚できる。ウォルフガルドだと、7歳からだとか。
やるかやらないかは、別として。日本とは、かなり違う。
軍に入るのも12歳から、が普通だ。自衛隊だと高校卒業の18歳か。
16歳から軍入だと、正騎士になるのも20歳とかいう事になる。魔術師だと、違うのかもしれないが。
工房を開くのには、師匠の免許皆伝が必要になりそうで。
角角と曲がって、正面に扉。が、あったはずの残骸が転がっている。
控えの板へ戻ってきて、前衛さんたちが皿の上の物を口に投げ込むようにして奪い合う。
温めのお茶で喉を潤すと、また戻っていく。
「こんなパーティーでいいの?」
「んー。全員が横に並べればいいんだけどね」
狭いと、邪魔なのである。広いと人数が不足して、苦戦するしと。控えだって、やることあります。




