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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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298話 シャチョさん出会う。

 忘八とは、仁義礼智忠信孝悌を失った者だとか。

 悌がよくわからないのだが。年長者を貴び、年少者を卑下するという。

 地べたには、動けなくなった男たちが横たわっている。


「う、う、う」


 青い髪の少女は、地べたを這って逃げ出そうとしている。身体についている器具を破壊して、男たちの様子を見る。


(ティアンナ!?)


 そんな馬鹿なはずは、ない。と、下がれば刃が通過した。接近してきたのは、小柄な少年だ。

 女の子は、林に逃げていく。


(まさかねえ)


 本人なら見逃せないところだ。いや、見逃しても見過ごせないだろう。

 少年は、甲冑に剣を持っている。斜めに風の刃を飛ばすと、すいっと避けて見せる。

 見えているようだ。


 ついで、矢が降ってくる。これは、いけない。弾道は、上からだが狙われている。

 

 どうやって狙っているのか。少年は、盾を構えて下がっていく。壁を蹴って上へと上がる。

 少女は、逃げ出しているし。追いかけてくるのは、少年も同じだった。

 風の刃を放つが、盾で防がれてしまう。


 月明かりに照らされて出てきた姿は、黒い鎧に金の髪。赤い瞳だ。涼しげに髪が揺れていた。

 別の方向から問答無視で、矢が飛んでくる。連携をとっているのは、間違いない。

 正確な射撃だ。


「まさか、彼の矢を掴むなんてね」


 どうにもやりづらい。とにかく、背後に家屋があるのだ。火線は、放てないし。稲妻もそうだ。

 むしろ、風の壁で被害を周囲に撒き散らさない事に腐心しなければならないとは。

 巨大な力で、一掃してしまえば楽なのだが。敵は、心得ているらしい。


 飛来する矢を避ければ爆発して、家屋に穴があく。魔力を吸い取ってすてなければならないようである。


「これは、話が違うじゃないか。こんな大物だとは、ね!」


 敵は、ぼんやりしていない。横薙ぎに、剣を振るってくる。それをインベントリから出した盾で受け止めた。ただの盾だが、気を通して強化している。同時に、下がりつつ蹴り飛ばす。少年は、くるりと宙を翻し。追撃をしようとしたが、妨害の矢を払う。


 矢が爆発した。ただの矢が、爆発するのは異常だ。

 スキルが乗っているのは間違いない。 

 斜め後ろから、今のは横から。移動している。


(どうやって、位置を把握している? ならば)


 鷹の目。これに習熟すると、鳥俯瞰図というスキルが得られる。あるいは、もっと上の神の目か。

 どちらにしても、射手としては一流なのだろう。盾の魔術が削られているような気がする。

 これに、アサシンでも控えさせていたのなら完璧だろう。


 己ならそうするし、治癒術士と魔術師を追加するかという感じだ。


「その捌きは、異常だよ。君のは、矢避けの加護なのかな。サジタリウスの矢が届かないなんてねえ。どうするのさ、まったく予定外だ!」


 風系の攻撃で攻め立てるしかない。少年は、それを察しているのか。盾で半身を守っている。

 このままでは、いつか矢で貫かれる事になるだろう。

 敵をさっさと倒せないのは、いつ以来か。雷光を槍に宿すと。


「それが、君の決め手かな。いいね。ならっ」


 少年の魔力が高まっていく。そうはさせじと、魔力を奪う方陣を展開する。が、相手は変態してしまった。


「危ない危ない。それは、見せかけなのか!」


 出現したのは、黒い体躯に兜をしつらえたロボットのような鎧だ。

 同時に、雷光を纏った槍を突き入れる。が、下がって避ける。そして、手から円筒状の物体が飛び出してくる。


(魔装。それに、銃を仕込んだのか?)


 足元の建物を回り込むようにして、高速で移動してくる対象がいる。風の術で、周囲を把握しておくのは基本だ。風の動きで、隠形を使っている相手だってわかる。見えない敵に対処するなら、風か土か。敵は、上がってくると同時に回り込もうとしてくる。


 敵の攻撃は、弾丸だったが風の障壁を貫けていない。方陣は、ますます輝きを強めている。

 暗黒波動。周囲のマナを強制的に集めて、敵が使用できなくする術だ。


「もっと、火力のある武器が、いるねえ!」


 弾丸の替りに、足元の屋根を引剥してなげてくる。矢といい、近寄ってこようとしない。

 反撃の風刃は、鎧に吸い込まれて傷にならない。かといって、雷光を纏った槍の間合いから逃げる相手。

 ロボットの癖に、人間同様の反応速度だ。


 魔装を使った相手の熟練度が高い。普通は、鎧を纏うだけなのだが、見るからにロボット然としている。

 足元がぐらついて、矢を躱しながらも挟まれないように移動していくと。

 屋敷の端っこに追いつめられてしまう。


 館の際を追いかけてきたのは、空中を駆ける白い鎧馬。ケンタウロスに似た射手だ。全身が鎧で、足元が輝いている。浮遊していられるのは、術なのだろうか。


「これが、我らを追い詰める敵か」


「まだ、傷1つ負わせられてないんだよ。油断しないで」


 間合いを詰めるのは、重さで屋根を貫きそうな剣士と空中を駆ける弓兵。

 これは、周りを気にしてもいられないか。

 別に、正義の味方を志しているわけではない。


 だが、だからといって周囲に破壊を撒き散らして大量殺戮というのも御免被りたい。

 敵が、そういった攻撃を仕掛けてこないのが幸いだった。


 騎兵は、空を駆けながら弓を引き絞っている。

 背後に違和感を感じて、前へ身をひねると。刃がひらめいていた。

 月明かりが、刃を照らしてくれたようだ。そして、飛んでくる矢を盾で弾く。

 

 間合いぎりぎりで、剣士型は佇んでいる。槍の穂先ではなく、石づきで対象の脇を狙うけれど反応したのか。前へとするりと抜けられた。飛燕の如き速度だ。


「いやいや。今の、躱す? ちょっと、冗談じゃないんだけど」


 矢を槍で弾きながら、立ち上がる。爆風が起きて風で流れていく。

 通過していったのは、女の子であった。青い髪ではない。赤い髪に、鋭い目だ。

 どこかキースに似ている。 

 3対1。ぞくぞくしてきた。ひさしぶりに、戦っている気がする。


(さっさと死んでくれればいいんだけどなあ。やばい、これ)


 いつも、瞬殺してきたからだろうか。空を駆ける弓兵は、建物の影に隠れるし。

 上を取ってくれるなら、火線で焼いてしまうのだが。

 いっそ、建物の中に逃げ込むべきだろうか。


 そうすると、相手は建物ごと爆殺を仕掛けかねない。どうしたものやら。

 赤い髪の女は、姿を消す。隠形か。或いは、似たスキルを使っているのだろう。

 月明かりが、黒い鎧をはっきりとさせている。


(放っておけないな)


 姿の見えなくなった女の影は、見えない。上を飛ぶべきなのだろうか。

 そうすると、矢で落とされそうな気がする。

 黒い鎧は、腕を突き出すと。それを飛ばしてきた。剣は、握ったまま。

 

 防御では間に合わない。避ければ、床が裂ける。蹴り飛ばして、下の地面へ転がす。

 槍で関節部分を突いておくのも忘れない。壊れてくれればいいのだが。 

 腕がなくなった黒い鎧。肘からは、光が漏れていた。

 

 それを鞭のようにしならせて、それでいて剣のように突き出してくる。

 矢が、地面に突き刺さっては爆発して障壁に阻まれた。


「よくも、僕の腕を!」


 だってしょうがないじゃない。腕を飛ばしてくるんだもの。遠隔操作で戻って来そうな予感もする。

 反対の腕を飛ばそうとして、思いとどまったようだ。

 時間が経てば経つほど、彼らにとっては不利になりそうなのに焦りは無いらしい。


(女の子は、アサシンなのかな。厄介だ)


 心臓を一突き。首狩りもまずい。ぐるぐる回るようにして移動しているが、炎の床を使うと。

 炎にあぶられて、少女が飛び上がる。そして、赤い光が少女を包んだ。

 また魔装の技。3人も魔装に熟練した敵が出てきた。


 赤い鎧。翼を持って、手には2本の剣。隠れる気もないらしい。


「これさ。3対1なんだけど。さっさと、死んじゃいなよ」


 どうして、死ななければならないのだろうか。上へ上がってくれるなら、好都合だ。

 浮遊している相手に、火線を飛ばす。赤い光は、黒い鎧に寄って防がれた。

 盾だ。黒い燐光を放つ。盾の防御能力は、本物らしい。剣もまた、黒い燐光を湛えている。


 火線を受けて見せるとは。しかし、追撃の火線を放つタイミングで矢が飛んでくる。

 それを弾くしかなかった。曲射で、狙い撃てない位置にいる。悔しいが、連携を取られて倒せそうもない。防御力に満ちたタンクを相手にして、目が離せない。


「いっけええっ、光り輝く勝利を呼び込む剣っ」


 そして、光る鞭が右から床を削るようにして伸びてくる。その上を飛んでくる赤い鎧。

 翼が輝いている。危険だ。やられるかもしれない。

 飛べば、追いかけてくる。 

 

 矢と、少女の翼を避けて。直撃する瞬間に、暗黒波動の術を展開した。

 光が吸い込まれていく。触ってくれると、みるみる内に魔力を吸い取っていった。


「くっ、これは」


「やられたね。情報にないよ、その術」


 闇に堕ちた童貞だけが使える術である。多分。

 着地すれば、まだまだ元気に鎧姿だ。どちらか捕らえたい。しかし、矢は絶え間なく降ってくる。


「撤退しようか」


 普通に、冷静な声だ。悔しさが、感じられない。


「は? なんだと? 正気?」


 黒い鎧の言葉に、赤い鎧が返事をする。


「彼は、本気じゃない。こっちも条件は同じだけど、援軍がきたら逃げられなくなる可能性がある」


「だがな!」


 矢が、どんどん増えていく。周囲は、爆撃を貰ったように破壊の音がなっているというのに。呑気に、会話をしているとは。一人でも仕留めたい。上へ飛んで欲しい。そうすれば、強力な一撃を放てる。炎の床が、激しく燃え上がっているのに効いていないようだ。


「このままでは、様子を見ていた彼が仕留めるための攻撃を仕掛けてくる。退却だ。付き合う必要は、ないんだ」


 雷光剣は、通じるだろうか。


「わかった」


「彼を倒すのなら、決して本気にさせてはいけない。予言されているからね」


 それ、嘘だよ。だから、逃げないで。

 

 相手の限界を試してみるのも一興だが、黒い鎧の輝きが増している。ひょっとして、攻撃を吸い取ってカウンターをするタイプかもしれない。たまに、居たりするそんなボスを思い出した。


(ふつー。逃がすわけないと思うんだけどな)


 しかして、下から上へ射ってくる弓騎兵の曲射がうざい。


 黒い鎧は、槍の間合いの外。赤い鎧は、位置を変えてくる。挟むつもりだ。

 3分の1ずつずれて攻撃されれば、さすがに死ぬ。

 それだけは、させないと。下へ降りる。敵が下から射ってきているのだ。


(ん、んー)


 背後から敵が姿を見せれば、それを切り裂く用意をして。しかし、追手はこない。

 弓騎兵は、さっさと間合いを離していく。接近しようとすれば、逃げていくし。

 上に上がらず、横へと移動していく。火線を放てば、倒せるかもしれない。

 

 しかし、避けられたら? 建物の向こう側には、住宅がある。王都だ。

 高火力を出せば爆発、炎上してしまうだろう。敵の防御力を貫通する一撃ともなれば、それ相応に派手になる。

 

 着地したら足が、動かない。


 土でできた槍が、地面から伸びてきて。とっさに、拳で砕く。

 危うく死ぬところだった。


 見れば、土が集まっている。上から姿は、見せないが敵の術士か。

 腹立ちまぎれに、雷光を伸ばして上へ向けて振り切る。

 建物を破壊しても構わないだろう。


 赤い彩りに染まった家屋が、3,3,4,5に切り分けられる。

 結果は、炎上する一部分が落下してきただけだった。


(こっちが、下手を打ったかなあ。倒せないまま、逃げられるとか)


 手応えは、なかったし。避けたというよりも当たらなかったというべきだろう。

 運がいい。運が、左右する事は多々ある。


 おしゃべりな敵だった。所属くらい聞けば、話してくれたかもしれない。


(しまった。エリアスは、どこだ)


 俯瞰図からすると、当たらなかった。逃げていくようである。建物には、火が回っているようだ。

 屋根の上で、火の術を使った為だろう。

 そして、足にかけられた術を解くと。


 建物を周りこんでいく。敵の姿は、ない。隠れている敵の姿を探すけれど、正面にいるのは兵隊たちだ。

 斬り合いになっている。

 足に力を込めると、敵の姿を追い求めた。空だ。低空飛行をしているようである。


『おい? どうした。敵か?』


『ああ、ちょっと行ってくる。逃がす訳にはいかないからね』


 上空を飛んで逃げきれると思っているのか。高速で、移動しているのだ。しかし、数が少ない。

 2人。魔術師がいたのなら、もう2人いるはずだ。犯人は、現場に戻っているとでもいうのか。

 素知らぬ顔で、いるのなら倒すべきだろう。


 上へ上がって見る。が、遠い。都から出ている。

 追いかけると、そこを撃ち落とそうとでもいうのか。

 雲に隠れて、見えなくなってしまった。

 なんとも、不完全燃焼だ。今度は、逃がさないようにセリアを呼んでおくべきだろう。


 面白くない。

 必死に斬り合っている傭兵と獣人の兵。どちらが、優勢なのか。見るまでもなく獣人側だ。

 体躯が違うし。防具をちゃんと装備して、レベルを整えた獣人たちは脅威だ。

 鳥の獣人がいれば、なおいいのだが。


 鎧をどうするべきか。もしくは、このまま放置して中を探索するべきか。

 手頃な石畳に座り込んだ。追えば、さらなる増援が待ち構えていないとも限らない。

 だが、ここで手がかりが切れてしまう可能性もある。 


「おっす。どうしたよ。苦戦したのか? 座り込んじまって」


 魔女っこが遅れて中に入ってきた。ゼクスたちも一緒だ。敵兵は、寄ってこない。というか逃げ惑っている。


「まあね。逃がしてしまったよ」


 すると、幼女は「にひひ」と笑みを浮かべた。


「しょうがねえんじゃねえの。お前が逃すってことは、滅多にないしさ。町の中だから、手加減しちまったんだろ? そりゃ、逃しちまうよ。セリアだったら、ここら更地にしてるね。相手も、手加減してたかもしんねえしさ。これでも食うか?」


 慰めるつもりなのか、茸を差し出してきた。星の痣が増えた赤黒い茸だ。食ったら、死にかねない。

 

「いや。俺は、自分のがある。こっちでも食ってろ」


 時期外れだが、巻いてみた恵方巻きをエリアスの口に突っ込む。ちょっと、苦しそうだ。


「水を出してからにしろよな! そんなん死ぬわ!」


 んー。怒られてしまった。

挿絵(By みてみん)


「師匠。本マグロが食べたいです!」


「…それは」


「日本に帰りましょう!」


(誰だ、こいつにこんな事を教えたのは!)


 物陰で、動く姿が見えた。それは。

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