296話 シャチョさん土方するシャリ握る ●(エリアス幼女、アリス挿絵)
300万文字超えちまいました。でも、大丈夫だよね?
エリアスとの恋愛が、悪いんだ・・・。というか、全てのキャラと恋愛となると果てが見えないっす。
恋愛など不要よ! と。
治癒⇒ポッ、一目惚れ⇒ポッ、ちんぽ⇒あひぃのがいいんじゃないか・・・
「で、何をやってんの?」
「土方だろ。こいつ、結構、こういう事やるから」
「いや、貴族なんだよな? 配下でも連れてきてやらせればいいじゃん」
うるせえ。黙ってろ。水平を出すのに、精神を集中させているのだ。
ザビーネが、ゾンビを焼いている。洞窟からは、ダンジョンコアのある部屋が見つけられなかったし。
中に住み着いている魔物を駆除しても、中に住み着く可能性がある。
「自分でやれる事は、自分でやりましょう」
「にしても、真っ平らだよな」
当たり前である。水平くらい水で出せる。ホースで流れる向きを調べるやり方なんてのもあるが。
レーザーでもあれば、完璧なのである。ないので、プラスチックに似た錬金板の中に空気を入れた器具を使っている。
「がたがたの家とかみっともないですよね」
「そうだけどさ」
戦闘を部下に任せて、いそいそと小屋を作っている。モルタルとコンクリートもインベントリがあればこそだ。そして、水を用意できないと無理である。除染作業が簡単と言われるけれど、簡単ではない。なにしろ、本職と勝負させられるのだ。
汚い庭、汚い仕事と。無茶苦茶である。
「手馴れてるよねー。魔術で、ぱぱっとできないからねー」
ファムがお茶を飲みながら言う。日が暮れようとしている。
「こいつの特技に、でこぼこを見つけるってのがあるんだよ。すぐ凹んでるところと凸っているところがわかるんだぜ。頭、おかしいって言ってやれよ」
茸から回復した幼女は、また変な事を言い放つ。
土木作業をやっていると、土属性の数値が上がるのだ。やらないのは、損である。
なぜ上がるのか、それは不明だが。
「つっても、水も出せれば土も出せてさ。その上、空間魔術も使えるってぱねぇ。師匠とか、居たりするのか? つっても、ラムサスの爺さんはあまり話さねーし。あんたの情報って、不明なんだよな」
師匠は、いない。しかし、そうだからといってほいほい答えたものだろうか。誘導尋問というテクニックかもしれないのだ。おいそれと、喋るのもおかしな話だ。
「師匠、ね。居ますよ」
顔を向けると、そいつはそっぽを向いた。茸を手にしている。何をしようとしていたのか。
グラスに向けて、何かをしようとしていた。
「え、エリアス様がですか?」
「い、いやあああ! おねーさまが、そんな事をするはずがありませんっ。こんな汚らわしい男となんて。帰りましょうよ。おかーさまには、私から言います」
「いやー。…弟子だったっけ」
ダメだった。速攻で、バレているようだ。嘘をつけない魔女は、ぽんこつだった。
仕方なく、作業を進める。これで、恋だと愛だとかいうには難しいのではないだろうか。
土台が出来上がれば、上を作っていく。柱を真っ直ぐに立てるのも技術なのだ。土台が歪んで真っ直ぐにならない事だってある。
下地やらボード張りだって、大変な仕事だ。しかし、昨今、日本では安い仕事になりつつある。
「まあ、いいんだけどな。器用だよなー」
全然。しかし、張り方は早い。かつての、といってはなんだがレベルを持つ世界だと100倍では利かないスピードがでる。12ミリのボードを4枚持っても余裕なのだ。子供なのに、おかしな性能である。手が小さいので、それ以上だと結構難儀する。掴む力を込めれば、ボード板の方がどうにかなってしまうし。
裏には、電気の配線だって通す事が可能だ。
「兵隊が欲しいねえ」
「領地から連れてくればいいじゃんか」
「ここ、ハイデルベルだよ?」
「じゃー、なんだっけ。アル様に言ってさ、ここに兵士を駐屯させるようにしたらいいと思うぜ」
簡単にいくだろうか。戦略的には、旨みの少ない場所だ。しかし、王都に近い迷宮である。
ゾンビとなったゴブリンが畑に出現するようになれば、これからの時期に差し障る。
西日が赤い光を放ち始めた。
「そんな事もできるの?」
「おうよ。だって、こいつはアル様の腹心みてーなもんだからな。考慮には入るんじゃねーのかな。魔導騎士は、ちっともったいないからなー。ごめんだけど」
費用対効果で、魔導騎士は確かにもったいない。腕が、違い過ぎる。
彼らは、エリアスが鍛えているらしく。まとまってこられると、手加減に困る相手だ。
「天井が、ね。内装よりも外装よりも天井を仕上げて、終わりかな。結界を仕込みたいけど」
「人形でも置いとくか? 妹のじゃあれだろーけどさ」
「野獣避けならば、我に考えがあるぞ」
と割り込んできたのは、ルドラだ。壁を破壊するのは、やめて欲しい。思わずぽこんと壁紙を丸めた物でなぐってしまった。まったく、効いていないようだ。めっちゃ硬い頭蓋骨なのだろう。
「あっと。待った。そっから先は、言わないほうがいいぜ」
「なんだと?」
「あれ、だろ。なあ、おい、ユーウもゼクスもあっちむけっての」
近寄っていくのを眼下に、天井の柱を付け始めた。屋根を作るのも、大変だ。
木なのである。瓦があれば、日本の家屋になるが。トタンの板を並べるという簡単な仕様である。
「こら、見ないの」
下では、ゼクスがファムに言われている。なんとなく、想像してしまった。
あっていると、犬のそれだ。結界なら、風のものだろう。どちらかわからないけれど。
雨が降ってくる前に、屋根を取り付けて内装外装に入るのだ。
「い、いや。見ねーって」
「…目を潰す?」
「そこ、までは許して上げて」
「まったく。ユウタ以上の変態がこの様なところに居ようとはな。恥を知れ、恥を」
見ても仕方がない状況ならともかく。天井の板を張っているのである。高所作業で、足場でも組んでもらわないとできないはずだが。魔術かスキルで『浮遊』でも使用すれば、楽々だ。ただし、人力なので鍛えていないと持ち上げられないだろう。
ちなみに、誰も手伝おうとしない。親方だったら、ハンマーが飛んでくるであろう。
でも、今時、といってはなんだが日本でだって難しい案件である。
下手をしなくとも警察を呼ばれてしまうだろう。まあ、板前とか職人さんなら別なのかもしれないが。
「すいません。すいません」
「ルドラも、いきなり下を脱いだら駄目だろ。もろだし。なあおい」
危うく板を落としそうになった。ちなみに、釘を手で押さえて入れるくらい朝飯前である。
正方形の小屋が出来上がった。壁まで張ると、夜中になってしまいそうだ。
ザビーネが、姿をみせる。ゾンビにはなっていないようだ。目は、らんらんと輝き、大剣を背負っている。手には、ふた振りの剣を持ってすたすたと歩いてきた。
「茶を所望したい」
「だってよー。降りてきて、注いでくれよ」
何から何まで、人任せとは。アルたちとなんらかわらない。下へ降りていって、追加の注文に応対する。南側が山なので、西日になるのも早いのだろうか。北半球にハイデルベルはあるはずだ。日本でも、太陽光を施設しようとすれば南に構造物がない事が条件である。
まあ、採算性はキロワット24円だかになって終わっているというんだけどね。
「うー、疲れました。倒しても倒しても、ゾンビになるのは理由があるんでしょうか」
「さて、そこらへんが問題かもしんねーな。こいつはただ事じゃねえ気がする」
ゾンビになるには、ウィルスか魔術か。そのどちらかで、脳がやられる事によって動く死体になってしまう。どんな戦士でも、傷が原因で死体になってしまう事はある。だから、治癒術士はパーティーに必須だ。なり手が、女の子しかいなければ拝み倒してでも連れて行くべきだろう。
これが、ウィルスだとすれば怪我をしていないか鑑定をかけておくべきだ。
「ねえさん。鑑定をかけてみては?」
「あー、全員がいいって言うならやるけど。どうする? ファムたちは使えるのか?」
エリアスは、一応使える。というか、鑑定にもレベルがあって使い込まないと数値が上がらなかったりする。なんでもやりようでは、あるのだが。相手を勝手に盗み見れるスキルというのは気分が良くない。
「うん。基本だしね。鑑定、小隊とって上げなくなっちゃうんだよねー」
「上げてる暇がねーっつうかさ。全部のスキルを使えるようになればいいんだけど、熟練度がなあ」
熟練度を上げるのに、困っているようだ。ゼクスたちは、互いにかけているとして。ルドラやザビーネにエリアスは、目を向ける。
「…問題ない。彼女たちには、加護があるから」
「そうなのかよ。知ってたか?」
ゴブリンゾンビは、やってこないようだ。死体の前で、軽食を作るというのもなんだが。
全員が座っている状況で、洞窟の前には小屋ができている。森と近かったけれど、木がなぎ倒されてなだらかな斜面が見えている。
洞窟の中に、魔物はいないのか。鉄錆ににた匂いがする。インベントリから酢飯の入った桶を取り出す。
そして、手に魔術で出した水をかけると。汚れをきっちりと落として、軽食を作るとしよう。
「うめえ。なにこれ。久しぶりに食ったわ。ちょう、うめえー」
黒髪の少年は、出来た端から掴んでいく。ひと皿100円とってもいいはずだ。ネタだけなら2000円はいくのではないだろうか。
「これって、あれなの? ゼクスの故郷で、食べてたものなの?」
「そうよ。かー、ちっと不安だったけどここまで死なないってのは素晴らしいわ。食物もうめーし、さぼってても文句言われねーし。サイコーだな」
最後の方は、桶をぶつけてやろうかと思ったほどだ。大したものではないが、エリアスといいアリエスといい口に争って入れている。シャリを左に持って、ぼんてん握りでネタをわさび、ネタと乗っけているだけなのだが。
板前の真似事である。握れば握るだけ酢が、手に膜を作ってくれる。なんなら、水をつけたっていいのだがそれでは水でぽろぽろと落ちてしまう。盛り付けまで頑張ってしまいたいが、夜になったら帰るとしよう。夕暮れどきに、山肌で風を受けながら飯を食うのは最高だ。
桜でも植えるのがいいかもしれない。花見だってしていい。
シャリを握っては、マグロに似た魚を捌いたものを乗せていく。
「これって、どこで取れるんだ? 海って、魔物がでるんだろ」
「その海に潜るんですよ」
「おおう。どん位のレベルが必要なんだ?」
今のゼクスでは、マグロに似た魚をとってくるのも無理だろう。北にいる魚もウォルフガルド沿岸も危険極まりない。
「少なくとも、ここいらに出るゴブリンたちを単騎で倒せていかないと無理でしょうね。ゼクスさんは、魔術士で剣士もとっている。ファムさんが魔術士と治癒術士。冒険者は、両方お持ちのようだ」
細かい数値まで見ていくと、かなり残念なようだ。あまり、積極的には世の中に関わっていないようである。
「こっから、なんとかしたいんだよな。巻き戻りするのはいいんだけどさ。マイナスもあるんだよ」
「というと?」
「びびっちまうんだ。あと、どーせ死ねばリセットされるっつーのな。それで、努力しなくなるっていうかさ。生まれた時から、そうだから努力するっていう根性が失せちまうんだよ。これは、わかるかなー」
わかるか? なんて聞かれてわかるはずがない。ただ、子供がやりたい事をさせないというのに似ているかもと思うくらいだ。子供から、情熱を奪ってしまえば諦めしか残らない。自由を奪うと、思考しなくなる。そんな子供は不幸だろう。
であるなら、ゼクスは不幸かといえば不幸ではなさそうだ。
「さて、努力が実るといいですね」
「他人事だしなあ。こればっかりは、根性なんだろうな」
その通り。根性だけが、己を救うのだ。なんでも、諦めてしまっては最後に後悔する事だろう。
きっと、それは最後に。
魚は、全部捌いて切れ端にしてある。シャリを作っても作っても追いつかない。
全員が、暴力的に口へ突っ込んでいき。風の術を使うルドラとティアンナに軍配が上がっている。
目から滝のように涙しているのは、エリストールだった。
「お? ゾンビがきやがった。こいつでもくらいやがれ」
たまたま手にした稲荷寿司を緑色の動く死体に投げつけると。
それに当たって、緑の身体から光が天へ向かって抜けていく。
「なんだよ。これ、まさか浄化機能でもあるってのか。しかし、おまえらにやる寿司はねえ!」
幼女は、ぺっぺっとゾンビたちに唾を飛ばす。
そして、エリアスは人が使っているシャリの入っている桶を奪い取った。それでは、作れないではないか。頭が、すごく緩そうだ。困ったものである。
茸を入れるのだけは、許されないけどね。マジで。




