285話 白いお城のお腹 ●(オデットアイコン)
「さー、チンコだせ」
チンコ、チンコ、チンコって。この子、頭がおかしくなったん。
「駄目だって」
「ケチだろ。おっぱいと交換なんだから、いいじゃねーか。なっ?」
うるせえよ。なんだって、チンコを触らせにゃならんのだ。触られたらでちゃうわ。
絶対、駄目。エリアスには、ぶつぶつ、ぶつぶつと横で呟く。無視しよう。
城に入るのに、左に飛び出た端っこから入る。白い木馬を想像して欲しい。
「左から入っても中央に行けるようになってるのかな」
「つーか、チンコ」
と、身体を寄せてきた。肩を手で押さえて動きを止める。不満そうな顔だ。
「チンコは、勘弁して」
しかし、止まらない手。つかめば、身体が密着する。
「減るもんじゃねーだろ。なっ」
減るんだよ。中身でちゃうから。
誰に言っているのだろうか。後ろではザビーネとルドラが半眼をしている。いちゃついているように見えるのか。
エリアスの腕をインベントリから出した紐で縛り上げると。手を振りほどいて歩き出す。
「ぎゃー、これなんだ。ほどけねえ」
うるさい。しかし、回廊を歩く兵士が奇妙なものをみるような目をしていた。
案内するメイドさんが、困惑しているではないか。
城を歩くに、内側に引き込んで倒すような形をしているのに気がついた。
「師匠。ここで、何があるのですか」
「知りません。エリアスは、聞いていますか」
前を歩いているメイドは、口を開く様子がない。隣にいる幼女は、紐に夢中だ。
「くっそー。解けねえ。こら、両手が使えねえとこけたらどうすんだよ」
「その時には、支えましょう」
弾みで、胸を触ってしまうかもしれないが。弾力のない平らな地平だ。ノーカンだろう。
「まーた、スケベなことを考えてるだろ。まったく、とんでもないやつだぜ」
考えてるよ。でも、子供じゃあねえ。チンコ立たんでしょ。他の紳士たちならわからんけど。
「さっさと歩く」
これで、わざと寄りかかってくるのだ。何がしたいのかわからない。
「その娘とは、仲がいいのだな」
「んー。どうなんだろうね。そう見えますか」
竜眼を向けてくるのが怖い。ルドラの瞳で、押しつぶすとか権能があったら死んでしまう。
「竜は、より強い雄を求める。その点で、貴様は合格だ」
「こ、こらこら。駄目なんだからね。ボクのなんだから、あー、封印したくなってきたなー」
「ふっ、聖上は…ずいぶんと甘いようで」
ひよこをフードの中へ押しやる。城の中で暴れられては事だ。責任を取らされるだろうし。
「貴様、新参者の癖に師匠の種を狙うとはっ。できるな」
「ほう? と、言っておりますが?」
ぐりぐりと動くひよこと狐。出てこようと、動いているがそうはいかない。
「もー止めて。壁とか壊したら、直させるからね。直るまで、ご飯ないからね」
ようやくおとなしくなった。ルドラをみれば、顔を背ける。DDの配下とはいえ、連れてきたのはまずかっただろうか。しかし、2000年も封印されっぱなしとか可哀想だし。しょうがないと思う。
メイドさんが立ち止まると、騎士たちが歩いてくる。立ち止まって端っこに移動するので、同じように移動した。屈強な筋肉を白い甲冑で覆った騎士たちだ。訓練場にでもいくのだろうか。
「君。このおちびさんたちはどこの方かな」
「ベルゼン卿におかれましては、失言かと思われます。この方は、アルブレスト卿とレンダルク卿の息女でございます」
1人の細面をした男に、向けてメイドが言うと。先頭の男が、向き直ってくる。
手を胸に当てながら、90度に頭を下げながら、
「これは、失礼しました。ベルゼンめが失言、平にご容赦のほどを」
「隊長?」
わかっていないようだ。権力をひけらかす事はしないけれどさ。ただの騎士を処刑するくらい容易い。
めんどくさいからやらんけど。
「いえいえ。何も、無礼でもありませんよ。子供ですし。当然のお声がけかと。そのように頭を下げられて恐縮です」
「ありがとうございます。では、失礼しました」
後で絞られるのかもしれない。それほどの無礼にも感じなかったが、訳が違うのかも。
済んだ事であるが、メイドが様子を浮かない顔で伺っていた。
「なにか?」
「いえ。こちらです」
進んで行くに、人の気配が増える。階段には、兵士が直立不動で立っているし。寒くないのだろうか。
右へ曲がるまで、20mは優にあった。薄暗いのは、内側にかけての壁があるせい。
それが、寒さに拍車をかけている。
「ほどけって。これ、頼むよ」
「しょうがないなあ」
紐を解く。
正面への通路は広くて、とても戦闘用には見えない。壁が分厚いのかもしれないが。
中央のホールに移動して、続く階段を上がれば、そこが謁見の間になっている。
両脇、下には騎士の詰所があるのだろう。
「よくぞきた。待っていたぞ」
アルルの声だ。
メイドが下がって、兵士の横を通って入っていったところ。あまり、いい雰囲気ではないようだ。
「ユークリウッド・アルブレスト。只今、参上いたしました」
「うむ。さっそくだが、勇者を送り返そうと思うのだ」
アルルは、なんでも無いように言う。王様は、気難しい顔をしているし。ハイデルベルの重鎮たちもいい顔をしていない。テーブルの一番端が開けられているので、そこへ座る。横になった騎士は、ジッと見つめてきた。
正面には、文官と見られる男女が座っている。
「こら、お前、端っこじゃなくてあっちに行けよ」
会議だというのに、せせこましいったら。エリアスは、ローブを引っ張るので立ち直す羽目になる。
今度は、シグルスの横でエリアスは当然のように座った。
ルドラとザビーネは、入ってこなかったようだ。いや、入れなかったのか。
「それは、我が国に利益がございませぬ。何卒、配慮のほどを」
「しかし、帰りたがっている人間も多いのではないか? 拉致と言われるのも風聞が悪いのだ。どれくらいで、送り返せそうなのか?」
禿げ上がった老人は隣にいるこれまた禿げ老人とひそひそ話し合う。
「送還術式再起動までですがぁ・・・。1年は、最低掛かるかと思われます」
「最大では?」
「わかりませぬ。何しろ、お后様の具合次第でして」
王妃の命でも削るような送還術なのかもしれない。首輪をつけずに悪魔召喚したようなものだ。
日本人たちの勇者が、どのような行動にでるだろうか。興味はある。
帰りたいと言う人間は、少なくないだろう。
なんせ、テレビもなければゲームもないのだ。年頃の男女なら、真っ先にやるのはセックスだろうしな。
「むー。こっちで送り返してもいいが、あれか。まーた、大変な事になるだろうしな」
ちらっと見てくる。日本に行って、家具家電を仕入れたい。最新のスマフォが欲しいです。
PC? 強奪したい。ま、電気関係を整備するので手一杯なんですけどね。
インターネットは、それはそれで問題になるだろうし。王制なので、検閲とかあるだろうし。
「シグルス、何か意見はないか」
「恐れながら、勇者たちにはこの地での役目を果たしてから帰還してもらう事でよろしいのではないでしょうか。彼らとて、すぐに帰りたいという人間と帰りたくないという人間でわかれているようですし。その送還術も元の場所へと送り返せるとは決まっていないとか」
老人たちを見ると。
「確かに、送った先が本来の場所かどうかわからないようです」
無責任送還らしい。あるいは、強制送還といったところかもしれない。
「本当の事を言えば、荒れそうだな。向こうと通信を取り合うとか座標を確定して送り返すなりしないと、めちゃくちゃな事になるのだ。よくよく話し合った方がいいのではないか」
老人たちは、冷や汗を浮かべながら苦笑している。なにか、あるのかもしれない。
「続いては、ハイデルベルの状況をご説明します」
王の横には、王女が2人。と、反対側に男が2人立っている。昔、といっても未来だが男なんていなかった。男だから、王子なのだろう。痩せぎすの少年と好青年といった金髪の男が立っている。
口を挟んでくる様子がない。いなかったという事は、死んでしまったのか。そんな感じだろう。
聞いていると、頭がくらくらしてくる。
もう、貴族とか全員打ち首にしちまえよ。
ねえ。
「ついては、貴族の所領を召し上げるしかありません。それと、王に恭順を示さない北部の貴族たちをいかにするか。これが問題です。討ってでる兵は、いかほどでしょうか」
「お待ちください。彼らが、反逆を企てているとはかぎりませんぞ。書状で、馳せ参じるまでには時間がかかりますゆえ。各地の貴族も、ミッドガルド王国が後ろ盾となればおとなしくなるのではないかと」
老人は、汗を布で拭きながらいう。対するシグルスは冷ややかな視線だ。
「国庫は、尽きている。しかも、蓄えが無いときた。これでは、戦う前に兵が離散してしまいます。北部の貴族たちは、待っているだけでいい。こちらの兵力が無くなるまで、時間を稼ぐだけでいいのですよ? 当然、帝国との縁が切れた今、彼らが手を握りそうな相手はその帝国です」
帝国と結んでいたとは、初耳だ。どのくらい入り込んでいたのかわからないのだろうか。
商人が、なびいていたのかもしれないし。想像でしかないけれどさ。
「お言葉ながら、我らとて農作物が不作の原因を見過ごしていた訳ではありません。魔物を駆逐しようと、兵士たちも冒険者たちも懸命に頑張りましたとも。しかし、オーク、コボルト、ゴブリン、そしてスノー系の魔物。やつらは、手強く、繁殖力が尋常ではないのです。魔物の襲撃に怯えながら耕作するのは、上手くいかないのです。わかっていただきたい」
魔物が、すぐそこにいちゃ作物を育てるなんて無理っちゃ無理だよね。わかる。
「では、それに対して国はどのような手を?」
すると、年配の男が、
「我々とて何もしていなかったわけではない。だが、皆、死んでしまった。生きている騎士たちの方が少なくなっている。後、10も聖騎士はいない」
「それほどまでに、弱体化していたとは。兵の数はいかほどになっていますか」
「出せる兵は、騎士4000。随伴兵は2万が限界だ」
200万人いるはずなのに、2万弱。正規兵だけなのだろうか。
結構な数字にも見える。よくわからない兵力だ。
「各地の砦に散っていると。それで、迷宮の攻略は進められそうですか。手が足りないのならば、我々が手を貸しますが。アルブレスト卿のお力で既に、4つほど攻略してありますし」
「くっ。…お。今編成しているところであり、貴国の助力はありがたいが、なんとも」
おのれって言おうとしたね?
情けないか。頼るべきは、頼っていいのではないだろうか。
「4つ潰して、あと残りが西に4つ東に3つですね。ふふふ、アルブレスト卿の方が速いかもしれませんよ。残りも、お願いしますね」
「了解いたしました」
いや、ホント、無理。エリアスの大会が、迷宮形式なのだ。次もそうだと、先を越されかねない。
東にある平地の方を優先するべきだろう。ついでに3つやってしまえばいい。
「なにか褒美をもらおうとは思わないのか? 王女たちは駄目なのだ」
あー、また嫌な予感がする。アルルは、アルーシュとは違うと思っていたのに。
王の横をみれば、視線を返すように絡みあう。2人ともだ。怖くなってきた。
あー。それでしたら、配給を妨害する糞野郎をぶっ殺してもいいですかね。
というのは、ちょっと無理か。
「ジョセフという市民に、暴力を振るう人がいたりするようなのです。それに、困っております」
「ふむ? そのような真似をするやつは、成敗してしまえばいいではないか」
「ここは、ハイデルベルですよ」
シグルスが、アルルを嗜める。そこで、王が、
「あい、わかった。卿のいう通りに計らうよう」
言えば、老人たちの並ぶ最後尾にいた青年が立ち上がって一礼した後に退出する。
王の髭と髪、真っ白ではない。記憶では、真っ白だった。であれば、なんらかの原因で白くなったのだろう。それが、隣にいる王子たちと関係がありそうだ。
アルルは、頬杖をついて見つめてくる。
「このようなものでは、褒美に足りんのだ。なにか、欲しいものがあれば後で聞く。時間を取らせたな」
「吉報をお待ちしておりますよ」
シグルスもにこっと笑みを浮かべていうのだ。やる気にならない方がおしいよね。
ひよこ狐毛玉の3匹が、テーブルの上にのっていたお菓子を下に運んで食べ漁っている。
さっさと攻略してこいという事らしい。壮年の男が立ち上がると、同様に王に礼をして退出する。
どうやら、負けていられないという事らしい。エリアスが、
「あれ、勇者を始末するとかいう話どこへ行ったのですか」
「あれか。あれな。いちいち、無礼な口を聞いたからといって斬っていてキリがないのだ。寛大な心で馬鹿を哀れんでやるのがよろしいのだ。まあ、ユーウが来なければミンチだったのだ」
「良かったです。私としては、許してやるべきと」
「えー。お前が、ぶっ殺せといってたじゃん。おかしいのだ。それ、おかし」
誰だろう。無礼な口をきいたのは。さすがに、日本人を始末しろというのは気が引ける。
できることは、こっそり逃がしてやる事くらいだが。何も死刑にならないのなら大丈夫かな。
立ち上がると、エリアスがついてくる。
「迷宮の件、引き続き頼むのだ」
「はい」
どうやら、日本人の勇者。その命がかかっているっぽい。
まあ、頑張る必要も感じないのだけどさ。手が伸びてくるので、先を急いだ。
なんで、こんな真似をするのか。女というのは、摩訶不思議だ。




