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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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282話 黒い木の向こう側

 飛ばされたのは、回廊だ。

 選ぶ選択肢なんてなかった。

 土色よりも肌色をした床と壁。真っ直ぐに伸びた先には、3mはあろうかという巨体の戦士が立っている。


 目が会った瞬間、石となって左右に佇んでいた鎧の戦士が襲いかかってきた。

 顔は、蛇を人にしたような面だ。


「野郎、倒せるか」


 まったく。不可能か可能かなんて放って見なければわからないではないか。

 ひょっとすると、またしても防がれるかもしれない。蛇の頭に、赤い光が伸びていくと。

 切断されて、横へ移っていく。


 走りよってくる相手をそのまま焼いていくと。残ったのは、正面で佇む鎧をまとった蛇戦士だ。

 放つ赤い光を剣で散らしながら、間合いを詰めてくる。

 ゲームでは、ない反応の良さだ。


『おいっ、やばいんじゃねえの』


『思考を持っているって、いいねえ。それでこそっ』


 剣士タイプなのだろう。剣を手に、しかし、反対の手からは魔方陣。

 蛇戦士は、剣を掲げる。光を弾く『盾』を持っているのは、間違いない。

 振り下ろしてくる剣には、『気』が篭っているに違いないだろう。


 甲高い声と共に、地面が裂ける。それを横に避けて、反撃の『指弾』を飛ばす。

 相手の『盾』が淡い光を放って、効果を失うと。エリアスは、炎を放った。

 剣を闇雲に振るうけれど、追加される電撃と土の槍で串刺しになる。


『やったかねえ』


『やったかって、やってないフラグだよ』


 炎に、『水玉』をぶつけると派手な爆発が起きた。水蒸気爆発か。もうもうと煙が立ち上がって、相手の様子が見えない。『風』で相手の煙を飛ばすと。


『ありゃ、死んでるぽいけど』


 ぽいというか。足だけが残って、上半身と下半身がほとんどない。

 これで生きていたら、びっくりだ。

 敵の剣は、どこへいった。天井に刺さっている。最後に、剣を投げようとしたが天井に刺さってしまったようだ。危なかった。


 蛇戦士の後ろにあった扉が開く。近寄らずとも開いてくれるとは。


 階段になっていた。そして、きのこの頭だかなんだかが生えている。そこには、カマキリに似た魔物や蝶に似た魔物が屯していた。鑑定をかければ『サイアームス』だとか『フリングフライ』とかでてくる。素材が欲しいのなら、倒しておくのもいいだろう。


「どうするよ」


 エリアスは、興味が無さそう。


「どうするって、刺激しないように迂回していくかな」


 どこなのだ。ここは。


 上が開けていた。空が見えるのだ。しかし、赤い空で気味が悪い。血が滴り落ちてきそうなくらいに赤いのだ。右に迂回して進むと、魔物は襲ってこないようだ。近寄ってくれば、魔術でなぎ払うつもりなのだが。弱いから、反応しないのか。謎である。


「んー。ここ、なんなんだよ」


 知らないようだ。知っていたらびっくりする。地獄とは、また違う。ニブルヘイムは、真っ暗だった気がする。


「俺に聞かれても、わかんないよ」


 魔界かもしれないが。わからないしなあ。


「ユーウならなんでも知ってそうなのにな」


 買いかぶりだ。


 ひょっとすると、ここがそのニーベルンゲンの指輪がある場所とか。そんな訳ないか。

 有り得る話だけれど、いきなりお宝と遭遇するのは微妙な感じがする。

 敵が弱すぎて、苦労を感じないのだ。

 むしろ、味方の腹を満腹にして民度を上げるのが重要になっている。


 戦い、苦労して勝つ。いい話だ。そうありたい。本気で戦う相手を自分で育てているという。

 そんな惨めな話はないではないか。


「こらこら、また考え事をしてるだろ」


 じとっとした目で、魔女っ娘が睨んできた。半眼であるから、気持ちが高ぶっているのかもしれない。

 左に固まっている魔物の集団でも掃除すれば、気が良くなるかもしれないが。悪くなるかもしれないし。

 生理なのか不明だ。


「してるよ。この魔物、統一性がない迷宮でさ。あっち。コボルトに似た魔物が、ふんぞり返ってるよね」


 接近してしまうと、戦闘になってしまう。林の入口にコボルトっぽい小柄な獣人もどきが立っている。


「あー、そうだけど。それが、何か気になるのか? 空間を捻じ曲げてそうだけど」


 右へ進んだ結果。雑魚を蒸発させるだけの作業になっている。左側へ進む道は、林になってでてきた。

 しかし、ちょっと向こう側。正面は、断崖絶壁になっている。下は、雲だろうか。

 右には、白いレンガの建物がたっていて、その向こうにも道は続いている。


「右へ行くか。左も気になるけど、放って進もう」


「あいよー」


 左側へ進むと、格子条になった鉄の柵が立っていて。扉が開く。

 蛇頭が出現する。


「また、蛇じゃん。ひょっとして、蛇人族なんじゃ」


 しかし、会話もなく腰から吊り下げた剣を抜いて斬りかかってきた。

 それを迎え討つのは、水銀塊。飲み込むようにして、蛇男は塊に消える。

 続いてでてくる蛇男たちも、水銀塊の敵ではないようだ。

 

 壁を水銀の刃が切り裂いて、その向こう側へと突入する。

 正面へと続く道からは、黒い馬に乗った鈍色の鎧をした騎士風の敵が迫ってくる。1体だ。

 黒い槍を手に、構えを作ると。


「飛ぶなよ」


「え? うおっ」


 投げてきた槍を掴んで、相手の馬へと投げ返す。槍は、馬に刺さるが同化するようにして消える。

 スライムだか、そんな系統なのかもしれない。馬に乗った鎧を着た相手は、棹立ちになると、今度は剣を手に間合いを詰めてくる。


『飛ぶなよって、言われてもさあ』


『敵の増援がくるかもしれないんだから、高く飛ばないで』


『そういう事かよ。了解だぜ』


 言わないとわからないとは。いや、そうなのだ。言わないと、わからない。言葉とは、思いを伝えるものなのだから。上手く伝えないと、いけないのだ。乱暴な口調で話していれば、恐れられるし。そういう人間に見られるだろう。


 だから、丁寧な口調を心がける。いい人で、通したい。何しろ、すぐ殺そうとする殺人鬼なのだから。


 馬だ。狙いは、馬。動き回る相手の槍を避けながら、反撃の『雷光剣』を振るう。

 突き刺さったまま、槍を振るおうとして崩れていく。青白い光が、鈍色の鎧と馬を焼いていった。

 スライムのように形が、崩れ落ちて焦げ臭い。


『こっちは、終わったけど。そっちは?』


『しぶてえ。なんだか、しらねえんだけどさ。女の子とか捕まってたりするっぽい』


 鉄格子と壁が破壊されていて、その向こうには道が見える。横たわっているのは、かつて蛇兵だったものだろう。地面は、石畳で赤く濡れている。

 

 進むと、そこには青い炎を放つ赤い蛇の人型が立っていた。空中に、その青い炎を投げている。

 エリアスは、ひょいひょい避けているが。


『こらっ。見てねえで、助けんかい!』


 やられそうなのか。しかし、強気だ。


『いいけど、どうして、そういう物言いなんだよ』


 水をかけたら、どうなるだろう。敵に、手下がいる様子がない。

 蛇の全身を青い炎が覆う。『水玉』を出すと、投げつけた。


『げっ、凍った?』

 

 青い炎で、燃え弾けるかと思われた水の玉。しかし、予想に反して蛇ごと氷になってしまった。

 温度が、低いのかなんなのか。着るものもまた氷になってしまったのかもしれない。

 炎は、そのままの文様を描いていた。


 このまま真っ二つにしてもいい。赤い蛇の人型を無視して、その後ろにある箱を見つめる。

 視線を戻すと、エリアスの水銀塊がばらばらにするところだ。

 鑑定すると『ナーガブルーフレイム』なんて出てくる。しかし、ナーガというと竜に近いのではないだろうか。


『ん、呼んだ?』


『んと、蛇って竜の仲間なんじゃないのかなって』


『あー、そういうの失礼だからね。ボクは、気にしないけど。あれだよ? 猿と人間を一緒にするようなものだからねっ。ちょっと、むかつくし。やめてよね』


『狭い奴じゃのう。似たようなもんじゃろ』


『それ、ジャッカルと狐が一緒だとかいうのと同じだから。たぬきと狐が同じだとかいうようなものだからねっ。そこんとこ、どうなのよ』


 と、レンは黙ってしまった。聞いていたのは、よろしくないが、念話を拾えるのには参ってしまうではないか。こっそりした会話ができないというか。


「どーしよ。この子たち」


 声がする方向を見れば、鉄格子の籠が見える。天井には、板がしてあった。中には、人間の女の子が入っているという。


 そもそも、ここは試験会場なのだろうか。どうも、脱線しているような気がする。


「状態は?」


「んと、ここが何処だかわかる人」


 女の子たちは、怯えた表情だ。どこか生け贄っぽい。


「わたし、たちはザンクトガレンの者です。貴方たちは、ナーガの手下ではないのですか」


 毅然とした物言いをする。真っ裸なのに。大したものだ。髪の毛は、金。それなりに整っている身体つきだ。

「そいつは、また大分南じゃねーの。おい。まーた、じろじろ人の身体を見てんじゃねーぞ。アル様に言いつけっからな」


「…怪我していないかなーと」


「これだから、男って奴は困るぜ。なあ」


 同意を求められた女の子は、顔を真っ赤にした。


 苦しい言い訳だったか。しかし、気になってしまうのが男というものなのだ。女の子と居るだけで楽しくなってしまう。いわんや、凹凸のついた女の子の裸が目の前にあるのだ。目が行かないだろうか。いや、絶対に行く。間違いない。


 そうだ。女の子が、隣に居るだけで全力を出す価値がある。


 可愛い女の子が居て、見ないだろうか。見るでしょ。ちらっと、見るよね。


 視線を外すと、箱があった場所へ戻る。なんとも胡散臭い。後ろにある扉を開ければ、部屋のようだ。

 壁には鍵がかかっているのを発見した。


「んじゃーよー。どうする? 転移門を開いちまうか」


「その前に、ザンクトガレンってどこ? ここ、ザンクトガレンなの?」


 空は、真っ赤だ。雲1つない。砕けた『ナーガブルーフレイム』の残骸をイベントリに入れて。

 手には、鍵を持っている。女の子を返そうとするが、門が出てくる気配がない。

 やばそうだ。


「わかりません。わたしたちは、生け贄ですので」


「そっ、そーゆー事か。っていうか、転移門が開かねえ。どういう事よ。これ、やばくないか」


 転移門を開こうとするが、妨害を受けているのか。ステータスカードを取り出すと、スキルアイコンが灰色を示している。目を瞑って脳裏で確認しても、やはり灰色だ。

 魔術で以って強引にこじ開ける事は、可能な気がする。

 しかし、失敗したらどうなるのか。気が気でない。


「どうやら、罠っぽいね」


 相手のフィールドに入った以上、様子を見ながら戦うしかなさそうだ。


「連れてくっきゃねーか。にしてもここは、何処よ。DDとか知ってたりするんじゃね。聞いてくれよ」


 聞いたら、また飯を大量に食うだろう。帰れないのは、痛い。というよりも、このコースなんてあったのだろうか。フードから、ひよこが顔を出すと肩に立つ。しゃべるつもりなのかな。


「んー。ここは、ナーガ族の居城イシュガリアだね。エリアスが倒したのは、灯火のラクシャラだとかいうナーガ族の戦士じゃないかな。ちゃちゃっと奥まで行って、ナーガ司祭と城主を倒すといいんだよ。そうすれば、城と空間支配が崩れるから。あとは、交渉っていう手もあるだろうけど。ほら、エリアス置いていくとかさ」


「ねーわ! な、ないよな」


 こっち見て、怯えた顔をする。いいとも、置いていくのもいい。なんて、言ってみたいが言ったら泣きダッシュしそうだ。そこまで鬼畜になれない。


「まさか。来た道を戻れば、元の世界に戻れるのかい」


「それは、どーなんだろうね。封鎖されているっぽいから、逃がす気はないような感じだねー」


 もう、やるしかない。前へ歩き出す。のんびりしていたら、また敵がやってくるかもしれない。

 道を歩きながら、左右に分かれる場所まで戻るとしよう。


「あの、服とかお持ちじゃないですか」


 金髪の女の子は、手で股間やら胸を隠しながらエリアスに近寄っていた。


「おっと、そいつは失礼したぜ。こいつで、勘弁してくれよ。ちょっと待てって、女の子たちが着替えるのくらい待てよ」


 籠に入っていた女の子は、5人。どれも、若い。

 だーーー。さっさと進んで、敵を皆殺しにして飯にしたいんだよ。なんで、わからないんだ。

 空が真っ赤で、食欲がわかないじゃないか。

 しかも、エリアスが渡した服。ふりふりのドレスで、自分が着ない物を押し付けている。


 通常が、エプロンに白いぽっけのついたスタイルなのだ。どうかしていると思う。

 どこでもそれで、頭に乗せた帽子もいつも同じ物だ。ゲームじゃないのに、愛用しているのか。

 色がちょいちょい変わったりするが。


 左から、敵も味方も現れない。動かなくなった黒い馬と鈍色の鎧をイベントリに入れる。

 鑑定をすると『ナーガブラックナイト変異種』なんて出てきた。

 イベントリに入れた死体が減っているのが気になる。ダンジョンさんこと、桜火の仕業だろう。


 時計を見れば、13時を回っていた。飯にしよう。食欲よりも、空腹が気になる。

 幸いにして、敵の姿はない。  

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