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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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281話 黒い木の向こう側18●(集合写真な挿絵)

 石壁に包まれた場所は、四角い部屋のようだ。

 足元には、魔方陣がある。

 前には、魔物の気配。風系の術『風流』を使うと、蛇の魔物がいるようだ。


「さて、ここはどうなってんのかね」


 エリアスは、水銀体を先行させる。ゲームなら、射程が設定されているようなチート召喚だ。マジシャン系が持っていたら、反則級の代物。


 ちなみに、射程はどのていどかというと。「そりゃ、どこまでもいけるぜ? でも、見えねえんじゃ操るのにも限界があらあ」という事らしい。さすがに、見えない相手に無双はできないようでほっとしたものだ。

 ま、『遠見』で遠隔操作もどうにかなりそうであるけど。


「蛇、みたいだけど。大きいでしょ」


「おー。でも、こいつ。普通だな」


 壁の陰に隠れながら、蛇の様子を伺うと。次の瞬間、ばらばらにされていく。無残。

 水銀の刃が、巨体を切り刻んでしまった。

 敵が、復活する様子はない。蛇は、門番なのだろうか。そして、前方の扉が開く。

 

 左右の扉も開いたようだ。同時に、水銀の塊へと魔術が浴びせられる。しかも、ちょっと進んだ壁が開いて蛇の下半身をした半分人の姿をしたものが現れた。

 念話で、尋ねる。


『敵かな?』


 知性がありそうな感じだ。しかし、


『敵以外の何があるってんだよ。手伝え』


 エリアスは、杖を手にしてやる気でいた。

 普通に会話しては気取られる。回り込むようにして後ろから、追加される敵を殴ると。


『うあ。こっちに、飛び散りやがった。もちっと加減しろよな』


 加減するのが難しいのだ。弱すぎれば、相手を沈められず。かといって、強ければ強いで弾けるし。

 敵は、まだ続いて降りてくるようだ。鎧を着た蛇尾兵は、手に剣と盾を持っている。腹を殴れば、カクンと後ろに倒れた。弾けなかったが、死んでいるだろう。


 それを押しのけるようにして、上から現れる。魔術師の工房なのかわからなくなってきた。

 14とあったからには1から13まであっておかしくない。

 何か、嵌められている気がする。


『エリアス。この迷宮について知っているか?』


『んや。最近見つかったぽいじゃん。そういう事を話してたろ。で、ここまで来ているのは稀っぽいからなあ。お宝の匂いがするじゃんよ。先に、進もうぜ』


 と言っても、上からはキリがない。土壁を奥の方に出して、入り口を塞いていく。

 上からの増援が、邪魔だ。脱出するなら、転移門があるし、空気の心配はない。

 『風』スキルか魔術を使用すれば、勝手に空気が出てくるからだ。


『あー、右にしておく? それとも真っ直ぐ?』


 通路は、前と右左に分かれている。

 前へ進めば、後ろを掘られる可能性があるだろう。かといって、右へ行っても左へいっても後ろからの敵が来るような。そんな感じだ。


『右に行ってみっか。行き止まりなら、戻ってくればいいしな』


 蛇尾兵は、エリアスの水銀塊でばらばらにされたり穴だらけにされたり。大変だ。

 水銀の弱点は、魔術。敵の蛇尾兵は、魔術も使ってくるようなのだが。

 大したダメージを与えられていない。


 右へと進むに、正面と左から蛇尾兵の襲撃はやまなかった。

 もっとも、出てきた瞬間に燃え落ちるか肉片になるかなので楽ではある。

 

『こいつら、死ぬのが怖くないのかよ』


『さあ。ひょっとすると、ここが重要な場所なのかも知れないね』


 左側の扉を『石壁』の魔術で覆うと、右へと進む。正面には、何かあるのかもしれない。

 蛇尾兵は、扉から出てこずに矢と魔術を放ってくる。

 それを避けて通路の陰に逃げ込む。


『こりゃ、失敗だ。こっちは、宿舎か?』


 蛇尾兵が、大量に詰まっていたようだ。瞬間、水銀塊が攻撃する。密集した兵が肉塊になっていく。

 正面には、まだ敵がいるのか。魔術が飛んできては、壁に当たって破壊を撒き散らす。

 爆発したのは、『爆発』系スキルか、魔術か。それとも『爆風』かな。

 

 敵も、容赦しないようだ。


『正面が、当たりなのかな』


『だといいけどな。そろそろやっちゃってくれよ。面倒くさいだろ』


 確かに面倒くさい。通路から飛び出すと、飛来する矢を受け止めて、反撃の『火線』を見舞っていく。

 敵も魔術による壁を出してくるが、溶解して迷宮の壁ごと破壊すると。

 壁は、崩れ落ちなかったが応戦していた蛇尾兵は沈黙した。


『ひょっとすると、こいつら、住人だったりしないのかな』


『その可能性は、捨てきれねえけど。ま、魔物だしな。出会ったら、サーチアンドデストロイだろ』


 つくづく、エリアスは人間至上主義だ。ゲームなら、魔物とも心を交わせあったりするというのに。人間にあらずば、殺すべし。みたいな。スキルにレベルと、ゲームっぽいところがある世界なのに、どうしてこうも残酷なのか。魔物との交流があっても良さそうなものである。


 ないけどさ。あったら和むとは、思うのだ。


『なんか、また妙な事考えてんだろ』

『何も、ないよ』

『怪しいんだってば』


 いやいや、怪しいところなんてありませんとも。しかし、言っても信じてもらえないようだ。


 正面から、入ったところには何やら祭壇がある。四角い台座だ。そこには、人骨が乗っていた。

 右には、えぐいのがあった。人の頭が両手を木の枠につけられたようにしてならんでいる。

 首から下が、壁へ埋め込まれた格好だ。肌の色が、黒ずんでいて目は濁っている。


 口元からは、よだれが出ていた。何に使う施設なのか。考えるだに、気持ち悪くなる。


『燃やすけど、いいよな』


『ああ』


 蛇尾兵たちが、何をしていたのか。魔力を集めていたのかなんなのか。エリアスの手から放たれる炎で、人の姿が燃え落ちていく。奥へ行く扉は、重く動かない。


『壊しちまおうぜ。面倒くせえ』


『だよねー』


 気持ちの悪いものだ。

 仕掛けを作動させるのも、気味が悪い。分厚い石の扉を殴ると、そのまま崩壊して向こう側へと弾けた。

 通路がある。まっすぐに伸びた通路の先には、また扉があった。

 それを押すと、意外にあっさりと開く。


『うぉっ』


 飛んできたのは、石だ。投げたのは、足が蛸をした腐りかけの人に似た何かである。両隣にいる槍を持つ石の像が、間合いを狭めてくる。


 『火線』を放つと、石像が倒れて蛸足が半分になった。


「おのれ~。魔王さま、万歳っ!」


 自爆しようとしたらしい。が、石壁がそれを阻む。蛸足をした腐りかけた魔物は、弾けてしまった。


『簡単に倒しすぎじゃね?』


『こんなもんだよ。ていうか、しぶといとしぶといで面倒だし。アンデットっぽかってけど。再生しないぽいね』


 死んだふりという事もある。死体に『聖化』を施した水をかけてやってから、奥にある扉の前に立つ。

 文様が、浮かび上がってきた。

 罠、ではないようだ。


『これは、なんだろうね』


『あー宝物庫っぽい。ここ、鍵を開けるからよ。ちっと見ていてくれよな』


 鍵開け、らしい。魔方陣に、手を触れると。


『ちょ、え?』

 

 方陣が淡い輝きを一瞬強くして、扉が左右に分かれていく。


『えー。そりゃ、ないわー。中に、何かまた出てきたじゃん』


 台座だ。つるつるの四角く黒い台座の上に、水でも入れられそうな盃型の物体が置いてある。

 その上に、時計の針のような物が2つ回っていた。奥には、扉が見える。


『どうする?』


『どうするって、中に入るし。お? げえっ』


 扉は、すんなり開いて入ったエリアスは驚きの声を上げる。ドーム状になっていた。

 そこに立っているのは、つるつるした黒っぽい肌の巨体だ。2体の巨人とも言えるような。ウロコとは違うような、鎧にも見える身体。

 鮫を彷彿させる頭に、目がロボットのようになっている。


 それで、手には身体にあった斧槍を持ってエリアスに向かって飛びかかってくるのだ。

 観戦するべきか。前へ歩みだすと、右に居た方が目に赤い光を灯す。

 手には、剣と盾。

 

 あまりにも大きな身体と武器だ。普通の人間が受ければ、肉の身体は間違いなく砕け押しつぶされるだろう。


「あー、もしもし」


「もしもし、じゃねえぞ。さっさと焼き払えよ」


 通じるのか。剣が伸びる前に、飛び上がるエリアス。箒に乗って、斧槍から逃れようというのだろう。

 なんというズルッこさ。まともに戦おうとは、思っていないらしい。

 対する相手は、剣を突き出してきた。

 

 右横へ避ければ、横へ剣が振られる。のけぞって躱し。縦に落ちてくるのを、そのまま避ける。

 

「こらっ、見てるからだろっ。始末しろっての」


 黒い方から、蠅叩のように追い回されている。水銀の塊が攻撃しているが、効いていないようだ。

 鋼かそれ以上に堅いウロコなのだろうか。

 剣を避けながら、『火線』を放つと。


 淡い輝きを放って、赤い光が拡散していく。『盾』を使っているのか。『防壁』も使っているようだ。

 生き物なのか。あるいは、鎧の魔物なのか。

 定かではないが、並の相手ではないようだ。低速で、剣を振ってくる。

 

 手には、汗が滲みでてきた。


 相手も、学習したのかもしれない。右の手で振ってくる剣は、低い軌道だ。

 石壁を出すと、そこで止まった。下がろうとするところへ、また石壁。

 相手は、動けない。


 左の手に持っている、盾の先を叩きつけてきた。そこを上から、出す石壁で押さえつける。


「そういう事かよ。でろいっ。ええっ?」


 ユウタを見てか。エリアスが放った石壁は、避けられて距離を取られた。真似しようとしたら、失敗とは。

 何をやってんの。アヘ顔ダブルピースさせんぞ。


「えー」


 えーじゃ、ねえよ。

 相手に知能が有るのかもしれない。だが、手に雷をまとわせる。

 持続型の攻撃ならば、どうであろうか。接近していれば、弾かれないかもしれない。

 

 『雷』による攻撃が触れると、激しい火花が散る。剣士タイプの守護者といった感じだ。

 鑑定すると『ゴーレムガーディアンソードタイプ』なんて、出てくる。

 ひょっとすると、錬金術士が使役していたのかもしれない。


「こらっと、ちょっとこっち手伝えって、あ、そっち行ったぞ」


 タゲを維持できなかったようだ。相手は、逃げまわるエリアスを放置してユウタへと向かってくる。

 予選にしては、激しい。というか、面倒な相手だ。コンピューターなら、アルゴリズムでもありそうな物なのに。急に、ターゲットを変えるなんて。


 脇に汗を感じる。


 相手を遮る壁を利用して、エリアスが相手していた黒いゴーレムを無視すると。

 今度は、壁を狙って攻撃している。チャンスだ。ぐっと、眩い雷を動けないゴーレムへと差し込む。

 拮抗も、5秒程度。

 胸の辺りに、輝きが吸い込まれて焦げ臭い匂いを放つ。首がもげて黒焦げになった何かが出てきた。


 中に、身が入っているようだ。痙攣させていた身体が、止まってエリアスは安堵した顔をする。

 まだ終わってないのだが。

 というよりも、さっさと倒せよ、と。


「代わろうか?」


「ちょっと待てってば。俺が、倒すところを見て、あっ」


 空中にいるエリアスが、水銀塊を差し向けるも。回りこんでくる斧のゴーレムが、速い。

 こちらも、動きを合わせてぐるりと周る。黒い斧を持つゴーレムを追いかける水銀色をした塊。

 石壁と、剣のゴーレムを盾にして逃げまわった。同じようにゴーレムは、追いかけてくるのにエリアスは上から、


「こらこら、さっさと終わらせて飯に帰ろうぜ」

 

 なんて余裕だ。飯か。もうそんな時間か。時計を見ると、12時を回っていた。かなりの距離を歩きまわっているようだ。


「うーん。わかったよ」


 飯と聞いて、お腹が空いてきた。


 斧槍のゴーレムにも、きっとバリアがあるのだろう。『火線』は、弾かれてしまう。『土壁』は、すんなり通る。『石壁』でも良いようだ。昆虫標本になってしまったゴーレム。鑑定では、ゴーレムガーディアンハルバードと出てくる。


 尻尾は、ないようだ。魔術を弾く相手とまともに戦える魔術師がどれだけいるのか。

 とんでもない会場を引き当ててしまったような気がする。


「奥の扉が開きそうじゃないかな。調べておいてよ」


「あいよー」


 降りていく。そして、『雷光剣』が斧槍ゴーレムの頭へと刺さった。焦げ臭い匂いがして、首が落ちる。中から、黒焦げになった物体が這いずりでてきて。痙攣しているが、動かなくなる。

 スライムにも似ていた。


「あかねー。おっ?」


 2体を倒したせいか。エリアスが横へ引っ張っていた扉が開く。

 エリアスは、中に入っていった。死体と鎧をイベントリへと引っ張っていく。

 何かに利用出来そうだ。魔物にしては、かなりの能力だった。

 

 何よりも、真っ当なリビングアーマーだったし。サンプルとして、経営している迷宮で利用できないかと思うのだ。やはり、目玉となるような魔物が必要だ。ガチャだけでは、下火になってしまう。


 射幸心をくすぐるようなアイテムだとか置いておけば、がっぽがっぽであるけれどね。


 面白くないと、人は残らないし。遊ばせる、楽しませる事が重要なのだ。

 ゲームでも、迷宮でも。やはり、楽しくないとね。

 難しすぎれば、それはそれで面白くない。でも、歯ごたえがないとも言われて困ったものだという。


 じゃ、どうするのって言われると。困ってきて、色々と選択肢を出さないといけない。

 しかし、儲けないともいけなく。あれこれしようとすれば、開発費が必要だ。

 開発するには、課金が必要で。無くてもいいけど、遊ぶに不自由しないだけのアイテムは必要。

 

 実に、迷宮運営とは悩ましい。ま、ボイス付きだったりすると何回クリックしようともセリフは一定だったりするのが現状。未来においても、それはそれは大変だ。


 迷宮なら、武器やら防具が現物となるのだけど。ゲームだと、只のデータだ。運営が終了してしまえば、何も手元には残らない。おかしいではないか。思い出も、たっぷり詰まったデータだったりするのに。課金した金は、全部開発者の懐へ消えていき、プレイヤーたちには何も残らないとは!


「おーい。こっち来てくれよ。たっぷり、金が置いてあるっぽいけどどうするよ」


 思考を中断。呼ばれて、入ったところ。部屋の中には、石の箱が無造作に開けられていた。

 中には、金の塊が丁寧に詰められている。壁には、本が大量に敷き詰められていた。

 回収するのに、時間がかかりそうだ。

 

 何かが填まる音がした。外へ出ると、そこには大きな砂時計があった。砂の量は、あまり多くないようだ。これが、リミットタイムを表しているのだろう。

 爆発するのか、扉が閉まるのか。


「そろそろ出ようか」


「ちょと待てって、入れるのに時間がかかるんだよ。あーもう面倒くせえ。スラ子に飲ませとくか」


 スライムを保管庫に使う気のようだ。他にも部屋があるのに、1つしか入れない。

 最初に入った部屋以外の扉はロックされるのかも。

 扉をぶっ壊すのもいいが、中の物までぶっ壊れてしまう可能性がある。


 転移門で、外へ移動するべきだろうか。もしくは、部屋の扉をぶっ壊してしまうというのもいい。

 あるいは、砂時計を破壊すれば仕掛けが止まるかもしれない。止まらない可能性もあるが。


「いこう」


「金は? ちょ、金。まだ、結構残っているって」


 本を入れたところで、砂が少なくなっている。歩いて外へ出るべきか。一旦扉向こうの部屋に戻ってみるとしよう。天井が、下がってきている。


「あっち、あっち。部屋。壁が、無くなってるぜ。開いてるじゃん」


 倒すのが、条件だったのか。

 何も無かった部屋の扉がくぼみとなっている。向こう側には、魔方陣が見えてきた。

 エリアスと一緒に、そこへ立つと。 

 輝きを放った。


 どうやら、こちらが正解のようだ。危うかったのかもしれない。

挿絵(By みてみん)

左からオデット、シャルロッテ、キース、ヴィルド、ルーシア、キャシー

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