280話 黒い木の向こう側17●(ミーシャ挿絵)
2で装置を動かした結果。
出たのは、暗闇だ。即座に、『永続光』で灯りをつける。魔物の姿は、ない。
「まいったな。こりゃ、本格的に踏破されてないっぽいぜ」
わかっているとも。でも、立ち止まっているだけ時間がすぎていく。前へ進むしかない。
「いこう」
と、狐が歩いていく。ひよこを乗せて。探索でもするのだろうか。
カンテラに火をつけて腰に下げると。魔術で出来たぼんやり光る玉を前へと移動させていく。
先が真っ暗では、やりづらい。落とし穴でなくても、ただの穴に落ちて死ぬとかもごめんだ。
「スケルトンかよ」
骨兵が、右側から出てくる。一本道ではないようだ。急に現れたので、右に通路があるのだろう。
『風流』を使うと、いくつか広間があるようだ。扉らしき物も感知できる。
風の出口が見当たらない。という事は、酸欠になってしまう。
であれば、『風』スキルもしくは魔術でも使えないと人間は、生きていられないだろう。
水銀の塊が、手の形を取ってスケルトンを叩き潰す。非常に便利な召喚体だ。
「右に行ってみようぜ」
頷く。真っ直ぐ進むと勾配なのか下へと下がっている。右は、スケルトンが20以上いるようだが。
防御スキルと術は、もれなくかけてある。矢が飛んでこようが槍が飛んでこようが、いきなり死にはすまい。
「スケルトンが大量だけど、その向こうが怪しいな」
「ふーん。まあ、いいんじゃね。潰して進もうぜ」
人型のスケルトンたちだ。武器は様々で、杖を持ったタイプを先に攻撃するとしよう。弓を取り出して、『聖化』を加えた矢をつがえる。放った矢が、頭に突き刺さった。砕かないと復活してくるタイプもいるが、刺さったスケルトンは動かなくなった。
成功だ。
「こいつら、あくびが出るな。セリアに比べたら、てんで話になんねーよ」
あれと比べたら、駄目だろう。最近、足の指で弓を構えたりする変態だ。逆エビの姿勢で、ポーズを取ってくる。逆さになって弓を射る事に意味があるのか。訳がわからない。
柔軟性をアピールしたいのかドヤ顔をするのだ。わかるだろうかそのポーズ。
「まあ、そうかもねえ。扉、開くかな」
思考を他所に、エリアスは扉を見て。
「あかねえなら、ぶち壊して進もうぜ」
罠でもなんでも破壊しようというのだ。面倒くさがりなのが、移ってしまったのだろうか。鰐型のスケルトンも居たが、これはリザードマンタイプだろう。あまり、大差がない。
扉は、石でできている。扉の横には、石でできたような台座がある。大人なら、丁度腰の辺りだ。
エリアスが、それに手を添えると。
「魔力を込めて、起動させるタイプだとラッキーだな、おっ」
石が、一瞬光を放つと。扉は、左右に引っ込んでいく。エリアスは、満面の笑みだ。
「罠かと思ったよ」
「まーなあ。逆に、罠ならひねくれた奴だぜ。さ、進もう」
扉が開いた向こう側もまた乾いた土が続いていた。ただ、壁が石壁になっていたり鍾乳洞のようなつるつるした部分があったりとちぐはぐだ。
後ろから、人の足音が聞こえてくる。どうも、追いつかれそうな感じだ。
犬だかなんだかを発見しては、水銀体が捕まえて肉塊にしている。出番は、無さそうだ。
「んー」
正面に扉がついた場所と右へと続く道がある。扉には、何か仕掛けがありそうだ。
「開かないのかな」
「仕掛け扉には違いねえけど、こいつは開ける装置っぽいのがねえな」
中に宝箱でも置いてありそうな雰囲気だ。しかし、簡単には開かないようにしてあるっぽい。
破壊するのは簡単だが、中まで壊れてしまう恐れと崩れてくる可能性がある。
普段なら、問答無用で壊しているところだが。
仕方なく、先へ進む事にした。お宝が有りそうな雰囲気だが、ここでは開けられないのかもしれない。
「雑魚ばっかりで、エリアスので十分じゃないかな」
「そーだろ。へへへ。ま、お前が居ると助かるけどなー。俺が苦手なのもいるかもしんねえし」
そういうけれど、単体でセリアのように素早くて攻撃力がある敵なんてそうそういないだろうに。
人に頼るのが悪いとは言わないけれど、どうにも肉弾戦に弱い。
いや、サモナーだとかマジシャンというゲームでいう後衛職が接近戦に強いというのもおかしな話なのだが。
実際には、その括りもあってないようなもの。
黒っぽい1つ目をした犬やらゴーストタイプの敵も、水銀体で根こそぎである。
アイテムがドロップしてもおかしくないのだが、犬の死体とか再利用したくない。
イベントリに入れるくらいだ。
壁際に、ぼんやりと光る水晶が生えている。何かに使えそうだ。金色の狐が接近して、前足でぺしぺしと叩いていると。
「げげっ。いい水晶がっ、魔物かよ、あぶねえ」
一抱えは、あろうかというぼんやり光る水晶が浮き上がる。足らしきものまでついていた。
ひよこと狐は猛ダッシュで、戻ってくる。壁に沿って、奥にある扉まで部屋になっているのだ。
その壁にある水晶が、全部立ち上がってきた。
「魔物だったんだ」
「落ち着いている場合かよ。もったいねえ、水晶だけ欲しいぜ」
『罠穴』に落としてしまおう。イベントリに繋がっているだけなのだが。落ちると、そのまま回収できる。であれば、戦う必要もないではないかと言われる事もあるのだが。基本的に、知性があればそうそう落ちたりしない。そんな訳で、無理やり落とすしかなかった。
「おや、先客か。って、まだ子供じゃないか」
後ろから声がする。面倒だ。扉に近寄ると、横に引けばそのまま開いた。
「ちょっと待ってくれよ。こいつら、全部回収しようぜ」
と、粘る幼女。穴を解除しながら、手を引きずっていく。全部倒せば、扉が開くとかいう事もなく。
追いつかれたからには、先へ進まないといけない。
というよりも、後ろの人間たちは戦闘しないのだからすぐに追いつかれるではないか。
石の魔物を倒しているのならいいのだが。
「もったいねえ。全部倒したら、結構な金になるのによお」
エリアスは、大会の事をすっかり忘れているような感じだ。手を引っ張っていくと、またも狐が戻ってきてフードの中へ飛び込んだ。連れてきたのは、色が、青い鰐のような魔物と小さなゴブリンタイプだ。手には、包丁を持っている。
水銀体が、またしても取り込んでいく。かなり無敵感があるではないか。
「よわ。なんてよええんだよ。もちっといい敵がいねえのかね」
居たら面倒だろうに。居ない方がいいに決まっている。鰐の死体とゴブリンぽいのをイベントリに入れると、前へ歩きだした。今度は、3つ又だ。右の方向へずっと歩いてきたので、また右に行くべきだろう。『風流』を使えば、その先には扉があるっぽい。
「この迷宮、メインの魔物が決まってないのかな。統一感がないよ。ひょっとして、どこかの魔術師が実験をしていた工房とか?」
「あり得るけど、それなら火のマナと土のマナに偏ってるのがわかんねえなあ。どういう工房なのかねえ。普通は、偏りがあるとこだと使いづらいと思うけどな。鍛冶なら別なんだろうけど」
とすると、鍛冶用の工房なのかもしれない。水晶の魔物とかが作成されているとか。
「ともかく、先へ行ってみりゃわかるな。次の扉っと」
扉は、スライド式ではなくて。次の物は、押す方式だった。中には、3mほどになる高さの鎧が3つほど置かれている。
「あー、こりゃ、リビングアーマーかよ。さっさとやっちゃってくれ」
見れば、敵はまだ動き出していない。ならば、先手必勝だ。『火線』を飛ばすと。
鎧は、赤くなって胴が溶け落ちた。中に何かがいたようだ。それが、嫌な匂いを出す。
3体とも、動かない。近寄ったところ、死んでいるようだ。中身は、スライムか何かだろう。
調べる気にもなれない。
敵は、接近したら動き出すタイプだったのか。鎧の中は、からっぽになっていてその背後に六芒星の転移陣らしき施設がある。
エリアスは、その施設に乗ると。
「うーん。こいつは、1が選べないみたいだ。2の次が7っていうのがなあ。結構、すっ飛ばしてるような気がするぜ。どうするよ。一旦、戻って3を選んでみるか?」
「このまま7に行ってみよう」
なにしろ、すぐ後ろに競争相手が来ているのだ。戻っている暇はない。
淡い光を放って、出た場所は明るい。
下を見れば、その光源が何なのかわかった。
溶岩だ。そして、前には何もなくて離れた位置に開けた平な岩場。
その上に、ゴーレムが座っている。他には、立てる人間の足場らしき場所が見えるが。
人はいない。
「どうするよ。倒しちゃうか」
といっても、他の人間が転移してきたらエリアス共々落下するではないか。狐たちは、必死になってフードへ入ってきた。頭の上に乗っていた毛玉も熱気で、逃げこむ。
「飛べる?」
エリアスは、箒にまたがる。
「何時でもオッケーだぜ」
やるというのなら、やる。他のパーティーが現れるのを待って、攻略するべきなのだろう。
そういうように見える。
『浮遊』を発動させて、地面を蹴ると。無重力になったかのように、空を移動していく。
落ちれば、溶岩に真っ逆さまだ。ゴーレムは、赤い。そして、黄色い帯のような関節。そこから、淡い光が漏れている。ゴーレムが腕を構えたところに、『火線』を打ち込むと。手が溶け落ちた。意外に、脆いようだ。
さらに、反対の手も『火線』を貰うと地面に落ちていく。ひょっとして、これで終わりなのか。
口を開けば、やはり口に。頭が、転がり落ちた。すると、そのまま前に倒れる。
「あちゃあ、全然だめじゃんか」
赤いゴーレムは、動かない。エリアスは、近寄っていく。倒れた背後に、また転移陣があるようだ。
動かなくなったのを確認して、降り立つ。
「こいつ、結構強そうなのになあ。ま、いいか。次だ次」
素材は、皮が何かに使えそうだ。イベントリに入れるべく『罠穴』を下に広げて、そのまま水銀体に落としてもらう。エリアスは、鎧の中を見て呪文を唱えている。ぐるぐる廻る魔方陣。すると、ぐにゃぐにゃとした拳くらいの溶岩が近寄ってくる。
「こいつは、いいもんかも。マグマンゲットだぜ!」
まぐまんてなんだ。勝手に、名前をつけたに違いない。水銀なら、なんなのだろう。
水だから、アクアマンとかそんな感じかもしれない。が、違ったら叩かれるかも。
やめておく事にした。
「それ、いいものなの?」
エリアスは、残りの殻を水銀体が落としながら、熱そうな赤いスライムを見ている。
「いいに決まってんじゃん。水と雪にプラスして土と火をゲットしたようなもんなんだからよー。ま、サモナーじゃねえんだけどさ」
サモナーじゃないのに、召喚獣を集めるなよと言いたい。しかし、マジシャン系で使えない事もないようだ。倒すと、ボスが居なくなってしまうのか。新たなボスが出てくる様子は、ない。
さっさと、転移してしまうべきだろう。
転移装置に立つと。
「今度は、14か。かなーり飛ばしているっぽいけど。大丈夫かよ」
エリアスが、尋ねてくる。心配なのだろうか。2人で潜るというのは、実際、稀だ。
「それは、俺に聞かずに爺さんに聞けば良かったんじゃないかな」
ラムサスは、かなり孫に甘そうだった。ならば、事前に情報が得られる可能性は高い。
「いやー。じいちゃんには、聞けねえよ。それって、インチキじゃんか。失礼な事を言うなよな」
ちょっと口が滑ってしまった。素直に謝っておこう。
「ごめん」
「いいけど。一応、協会の公式戦なんだからよー。気合入れてくれよ。うっ、ちょっと腹が痛い」
全然離れてない場所で、やりだした。
「ちょっと、そこでやるのは」
「うるせー。俺が襲われたら、責任持てんの? ねえ」
逆ギレするし。言葉が出てこない。悪口を言いたいけど、思いつかないよ。
ひょっとして、序列とかあるのだろうか。いや、まさかね。
女の子と一緒にいれば、嬉しいし。チンコも立つはずなのだが。
立たない。
何しろ、胸はぺったんこだし色気は無いし。花摘みとかいって、面倒になったのか。そこらでウンコしたりするし。どんなに可愛くても、距離感は大切だ。こう神秘的な物であるべきなのだ。アイドルは、ウンコしないのと一緒だ。
エリアスは、後始末に土魔術を使う。
可愛いけど、チンコは萎びてしまうわ。ウンコに小便で興奮する人も居るらしいけどさ。
ねえよ。黒歴史になってしまうだろうに。
あくびをしながらエリアスは、装置を動かすと。今度は、石壁が広がる場所に出てきた。




