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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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278話 黒い木の向こう側 ●(ミミー挿絵、ラムサス)

 前日になってしまった。 


 ラインベルクは、エリアスの父親が領主を務める町だ。

 人口は、40万人というけれど実数はもっと多いに違いない。

 転移した場所は、魔術師ギルドの本部。


 離れに飛んで、それから中に入るという。重厚な鎧をまとった男が2人出口に立っている。四角い出口といい、厳重な守りだ。近寄っていく。


「姫様。お待ちしておりました。お急ぎください」


「おう。急ごうぜ」


 フリーパスだった。

 外へ出ると、そのまま正門へと走る。歩いている人間が、何事かと視線を向けてきた。が、彼女の顔を見るや何も見なかったというように顔を前にする。


「時間は、何時からなの」


 広い道路にまばらな人が歩いている。エリアスは、駆け足だ。


「9時だよ。でも、8時30分くれーには揃ってねえといけねえんだ」


 内ポケットから時計を取り出してみれば、8時40分である。とっくに遅刻ではないのだろうか。


「間に合わなくない?」


 そびえ立つ巨大な建物の入口にも兵士が立っている。エリアスの顔をみれば、門が横へスライドしていく。


「だー。だから、急いでいるんだろ」


 入って中を走る彼女は、正面の受付を無視。横へと舵を切って広場を右に。右の方も高い柱が並ぶ。

 そこを抜けて、左へと曲がればまたもそこは長い回廊だ。


 階段を上がって扉がある。そこに、兵士の男が控えていた。


「姫様、お入りください。それと、従者の方は入れません。中に入る者は、1名でお願いします」


「こいつな」


 しかし、オデットもルーシアも中へと入ろうとする。おかしいではないか。


「私たちも参加するであります!」「それでは、書状の方を拝見したい」


 と、エリアスが袖を引っ張るのでそのままザビーネと2人を残して入ると。

 地面が石でできた体育館の後ろという感じの場所に出た。或いは、練兵場の後ろというべきか。

 数が、段違いだ。


 100人とかではなくて、1000人くらいは中に入っているのではないだろうか。

 後ろの方へ並ぶと。手から汗が出ている。緊張しているようだ。

 静かだ。

 後ろへオデットとルーシアがくっついてきた。


「5分前だな。それでは、魔術大会の開会式を開始するっ。全員傾注!」


 男も女も背が高い。後ろに並ぶと、前が見ない。背が低いと、それだけで不利だ。背丈が欲しい。

 できる事なら、2mくらい欲しい。そこまではいいか。

 でも、身長が高いとそれだけでモテるのだ。もっと、身長があればと。何度願った事だろう。


「今大会は、歴史ある魔術師協会が開催する古いトーナメント方式です。なので、諸君らは2名の枠を巡って競い合ってもらいます。本選出場をかけて。皆、師を持っているとは思います。己の術をこの日の為に、磨いてこられた」


 長そうだ。聞き取りずらい声は、男の物。拡声器に近い、大きな声である。きっと『拡大』でも使用しているに違いない。声を大きくする魔術がある。


「まずは、本選出場へふるい落としにかけられる。といっても、ここに集まられた方で殺し合いをしろ、というのではなく。迷宮に挑んでいただくという物ですな。ただし、これは非常に危険です。中で途中棄権する事も可能ですが、女性の方は危険な目に合うでしょうな。それを念頭に置かれて、参戦してください」


 てっきり、全員で戦い合わせられると思った。しかし、違うようだ。


「えー。開始は、5分後。4つに分かれて迷宮を踏破していただきます。協力し合うのもよし、敵対するのもよしですな。ですが、転移石を使用された段階で失格とさせていただきます。なお、魔術師同士で殺し合う事もまた失格となりますのでご注意ください。先頭の方から転移術式によって、移動していただきますの。なにか質問がある方は、どうぞ」


 4つの迷宮か。魔術師同士で殺し合うんじゃないのね。殺し合い形式だと思っていたのだが、拍子抜けだ。


「ふむそこの方」


 手を上げたのか。


「迷宮を踏破。という事は、奥にボスがいるという事ですか」


「そうですな。道中には、アイテムになる素材もありますの。それは、ポイントになります。最終的には、それらも考慮にいれられる事ですのう。さて、そろそろ刻限ですじゃ。先頭の方から順に飛んでくだされ」


 なんとも、話が早い。転移術ではなくて、石を使っての帰還のようだ。皆、年の頃は10代後半から20代といった感じである。若い術者というのは、少ないのか。

 

「腕がなるなあ。つか、お前ら来んなよ。俺ら、あれ」


 オデットたちは、別の場所へと移動していた。左右で言えば、右の列。左の列に並んでいる。


「あいつら、本気か? っていうか、ザビーネは放って置いていいんか。ちょっと待っててくれ。説明してくるぜ」


 三角帽子を脱いだ幼女が、たっと走っていく。ザビーネは、羊人だからだろう。なんとなくわかった。獣人に対する差別というものは根深い。だから、解消しなければならない。とは思わないが。自己防衛なのだ。差別というのは。あって、いいものではないが。


 なくならない。

 周りをみれば、視線が集まっていた。なんとも不気味な視線だ。何も言わないし、絡まれもしないのだが。居心地が悪いという。


 さっさと済ませて、ウォルフガルドのゴブリン、オークを掃討しないといけない。

 ハイデルベルも同じだ。デーン村の南にある塔を綺麗にするとか。都とバーモントの治安を回復させるだとか。そもそも、エルフ狩りをしているような商人が野放しになっているような国だ。


 寄ってくる人間がいる。静かな足取りだ。周りにいる人間が、そちらへ視線を動かした。

 老人。にしては、体格がいい。オールバックの髪の毛は、真っ白。

 顔に浮かんでいるのは、侮りか。


「貴君が、アルブレストか」


「そうですが、何か」


 服は、だぶだぶとした黒いローブだ。袖口は、金。杖は持っていないようだ。


「エリアスの祖父にあたるラムサスという。ここ、魔術師協会では講師を務めておる。単刀直入に言おう」


 なんであろう。帰れというのなら、帰ろうと思う。


「エリアスとの婚約など、絶対に認めぬ。優勝しようが、それは変わらぬと思え」


 それだけ告げると、立ったままだ。なんとも好感度が低い爺だ。ぶちのめして、転がすのは簡単だろう。

 しかし、老人虐待になる。


 無言だ。


「おい、って、じいちゃん。なんで、いるんだよ。ここに来ちゃだめだろ」


「ふふ。お前の顔が見たくなってな。妹も連れてくるとよかったのじゃよ」


 爺とエリアスが抱き合うと。あまり、おもしろくない。爺、厳しい面が崩壊しているぞ。


「まー、あれだよ。こいつと参加すれば、優勝は間違いねえし。応援してくれよな」


「お前が、そういうのならそうなのじゃろう。だが、結婚は早すぎる。絶対に、反対じゃ。お前には、もっと相応しい者を見繕うとしようの」


「またそれかよー。どうでもいいじゃん。ほら、呼んでいるぜ。転移術式が使える奴が不足しているんじゃねえの」


 後ろに控えている黒ローブ軍団。ぞろぞろと引き連れてきたのか、動きが停滞している。


「すまんのう。終わったら、絶対に顔を出すんじゃよ。おじじは、待っているからの」


「わあったよ。大丈夫大丈夫」


「それから」


 といって、顔を近づけてきた。


「孫を怪我させたら、打ち殺すぞ」


 と、告げてくる。なんという孫馬鹿なのだ。一瞬、会場を火の海に変えてやろうかと思った。

 が、やらない。


「さようでございますか。誠心誠意、がんばります」


「ふん」


 ラムサスは、おもしろくなさそうだ。顔は、元通り。何か言い返してやるべきなのだろうか。


「じいちゃん、早く、急ごうぜ」


「わかったわかった。では、またのう」


 エリアスに見せる顔と向けてくる顔が違いすぎる。もう少し、柔らかい対応ができないかと思ったが。娘に男がまとわりついたら、鬼の形相にもなるだろう。シャルロッテに彼氏でもできたら、確かにそうなるに違いない。というよりも、ついたりなんぞした日には拷問しかねない自信がある。


 つっつく指の感触を覚えた。


「なんか言われたのかよ」


 言われましたとも。しかし、殺すとか穏やかではない。いや、自分がそうだったら言う前にどこかへ拉致を考えるだろう。


「いや、なんにもありませんでしたよ。エリアスは、心配するような事もないです」


「ほんとかよ。じいちゃん、あれで武闘派だからなあ。怪我しなきゃいいんだけど」


 どうやら、心配しているようだ。しかし、負けると思われるのは心外ではないか。


「俺が、負けるっていう事ですか。丁重に歓迎しますとも」


「んー。それは、大丈夫だろ。でも、そのひよことかさ。やめてくれよな」


 ひよこが何かするのだろうか。そんな事はない。最近の仕事といえば、食って寝るだけだ。

 肩をみれば、ひよこがフードに潜り込むところだった。反対の肩からも狐が移動していく。

 頭の上では、毛玉が乗っていた。


「しないと思うんですけど、どうなんだろう」


「まあ、いいや。時間かかるっぽいなあ」


 実際、進むまでに時間がかかっている。どんどん、開いた門に姿を消しているのだけれど。

 最後尾まで、5分とかでは終わらないようだ。という事は、後ろほど不利なのではないだろうか。

 

 転移門に入るまで、手持ち無沙汰。

 進みながら、


「これ、制限時間とかあるのかな」


「この方式だと、多分、デットオアライブだと思う。罠とか。越えられないようだと、出場者、ゼロってのもありえるかもなー。ま、そんなんでウチの親父と母ちゃんはくっついたみたいだけど」


 魔術師といっても、自由恋愛は珍しいようで。家というよりは、血統だとか。

 珍しい魔術を修めているだけで、婿入りするという事もあるらしいのだが。


「デットオアライブって、出場者は同意しているの?」


「こいつは、すごい報酬が出るんだよ。大概は、賭けに利用されるからな。ちなみに、全員死亡してしまった場合は親の総取りらしいぜ。クリア不可能とか。そんなんで、プールされる額が跳ね上がっている場所だってある。ちなみに、クリア不可能っていっても騎士団とかでクリアされている場所だったり、未開の場所だったりするらしいんだぜ」


 要するに、賭け。賭けで儲けた金が、大会で動くという訳だ。そりゃもう身分だって、飛び越えたりもするだろう。家が傾くなんてこともあるだろうさ。


「なんか、めんどくさくなってきたよ」


「おいおい。ここで、やっぱやめましたっていうのはやめてくれよなー。俺が家から追い出されるだろ!」


 追い出されても、関係ないではないか。…あるのは、魔道具がつくりづらくなったり兵隊が動かしづらくなったり。…十分に手伝う理由になりそうだ。


 とくに、地質を改善したり下水道を作るのには土魔術が不可欠。機械が碌に揃っていないのだから、魔術がないともうにっちもさっちもいかない。山田たちが図面を引いても、やりづらい場所だったり人手が足りない事も多いし。


「わかったよ。とりあえず、そろそろかな」


 長くて短かった。術式方陣の上に開いた門が、見えている。最後尾だ。

 果たして勝てるのだろうか。 


 迎えたのは、半目になったラムサスだ。


「じゃ、じいちゃん、行ってくるぜ」


「ふむ。しっかり、やるんじゃぞ。危なくなったら、すぐに帰るのじゃ。アリスが何かいっておるようじゃが、安心せい。じいちゃんのところへくればいいのじゃよ」


「へへ。ありがと。じゃ、ほら、入れよ」


「まったく、婿を認めたのは失敗じゃ。これを持って行きなさい」 


 四角い石だ。何かの魔除けのつもりなのだろう。黒光りする石からは、魔力が漏れている。

 

「召喚石かー。ありがと。でも、俺にはちゃんと使い魔がいるし」


 と、長く続きそうなので門をくぐると。そこは、人が溢れる広場だった。

挿絵(By みてみん)

Syow様作画

ミミーです。

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