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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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274話 黒い木の向こう側11(クラリス、エリィ、ザーボン、ベネディクト、ベックマン)

 ザビーネが、目を覚まさない。戻って、着替えるとザビーネを背負った。

 なかなか、深い眠りのようだ。うわ言で「父様」とか言っているし。

 家出でもしたのかな。


「お姉ちゃん、疲れちゃったけど。あたしがついて行って上げるよ」


 クラリスが、元気そうに飛び跳ねた。


「待ちなさい。もう、大丈夫です」


 エリィに回復をかけておいたが、魔力が戻っているようではない。ふらつく手を騎士に引かれている。

 入り口に整列していた兵士の間を、抜けていくと。

 悔しそうにしている少年が目に入った。顔に、それとわかる表情がある。


「どこ、行くの?」


「まずは、奴隷商人のところへ行きます。奴隷を買い取って、兵士に訓練しなおせば」


「お父さんに、また怒られると思うよ~」


 そりゃそうだ。子供が、勝手に奴隷を購入したと知れば激怒するかも。己なら、返してきなさいというか。困惑するだろうな。

 城の門へ歩けば、後ろについてくる兵士がいる。護衛なのだろう。


「奴隷。ですか」


「駄目でしょうか」


 エリィの考えている案。奴隷兵士を作ろうというのに、近い。しかし、レベルを持っている人間がどれくらいいるのか。それで、吹っかけてくるかもしれない。デブ商人を思い出して、虫唾が走る。


「いえ。でしたら、早速向かいましょう」


 このままエリアスと訓練しないままでいいのか。良くない。良くないが、来ない。

 迎えに行くべきだろう。ここは。いや、行ってどうする。念話で問いかけるが、反応がない。

 エリィは、用意させた馬車に乗り込む。


「さあ、こちらへ」


 手招きするのだが。弱った。

 

「ザーボンだっけ。商人さん」


 馬車に乗ると、内装は質素な物だった。しかし、狭い。魔術的な素養が無くて、堅い敷物だ。

 これでは、尻が痛いだろうに。


「そうです。これから、ザーボン氏の元へ向かいます」


 そうして、城門を通過するところで止まった。ザーボンとその一味が、アイスマンらに連行されているのだ。何がどうしたら、そうなったのだろう。止まったところで、エリィが降りて進む。


「ベネディクト。これは、一体、どうなされたのですか」


「姫さま。その、ミッドガルドの方と面会をされているのでは」


 ベネディクトと呼ばれた女騎士が、おずおずといった調子で前に出てくる。

 横には、見た男が並んで立っていた。


「それも、終わりました。今から、奴隷の方を買い付けに行くところです」


「左様でございますか。アルブレスト様は、どちらに?」


 エリィが、馬車へと視線を向けてくる。慌てて、顔を引っ込めた。


「お兄ちゃん、何かあったの?」


 あったといえば、あったし。無かった事にはできないだろう。どうする? 奴隷、いただきました。と、言うべきだろうか。


「あの奴隷商人と、ちょっとね」


「ふーん。あっ、手招きしてるよ。行った方がいいんじゃないかなあ」


 笑顔で、言うから断れない。というか、どうして城に来る。馬車を降りると、ザビーネが台で横になってしまった。深い睡眠らしい。


「何か、御用でございましょうか」


「ええと、サー・ベネディクト。貴方は、アルブレスト卿に無礼を働いたと。そうなのですね」


 90度で、頭を下げてくる。なんとも、転身の速い事か。いじってやりたいところだが、エリィもいればクラリスも見ている。穏便に済ませてやろうとすれば、


「エリィ殿下。お話を聞いてください!」


 と、デブが声を上げる。アイスマンの部下が、それを押さえつけた。エリィが、近寄っていく。


「どうされましたの。ザーボンさん」


「この方々は、奴隷を盗んだ騎士の味方をするというのです。私は、何も無礼を働いた覚えなどないのにっ。おかしいでしょう。奴隷を取り返そうとしただけっ。決して、間違いではないっ」


 顔を赤らめてザーボンが抗議する。馬鹿め。権力を持ち出せば、さらなる権力で葬り去られるのは必定よ。何故気付かぬ・・・愚かな奴・・・豚は、死ぬまで豚のようだな!


「この方を、兵隊に襲わせたとか聞きましたよ。そうなのですよね、サー・ベックマン」


「はい。恐れ多くも、ミッドガルドの騎士を襲うなど。大変な失態です」


 ベックマンは、様子を見ていた男の騎士だ。ベネディクトと一緒にいた。

 私は、悪くありませんとでもいいそうな顔をしている。態度も実にふてぶてしい。


「進言いたします」


「はい」


 ベネディクトが、手を上げる。

 

「ザーボンの商店を差し押さえ、慰謝料に充てる案がよろしいかと思われます」


 すると、ザーボンは興奮してか目がぐりっと裏返る。どうも、勝手に気絶してしまったようだ。


「わかりました。検討します。その、買いにいくのが後日になってしまいました。一度、父と話をしてまいります」


「はい」


 エリィが踵を返すと、アイスマンがお辞儀をして城へと進む。続くゲルラッハも、頭を斜めに下げてついていく。

 残されたのは、酔っ払ったザビーネとクラリスだ。


「何するー?」


 幼女は、何しに残っているのかわからない。


「そうですねえ。炊き出しでもやりますか。こいつ、寝てるので」


 角を引っ張ってみたりするけれど、反応がない。放っておけば、睡眠レイプされそう。


 城から出ると、向かったのは冒険者ギルドだ。その前へ移動して、簡易のテントを作ると。

 かまどと鍋を用意する。ザビーネは、寝たままだ。椅子に座らせた。寝たふりじゃないのか。


 まずは、水を魔術で鍋に出す。次に、薪に木の棒で火を起して。


「こんなところにいていいんですか」


「いーのいーの。あたしも、手伝うよ」


 雪で、達磨を作って遊んでいるわけだ。通りの広さは、それなり。広くもないが、狭すぎもしない。

 そこで、通りがかる人間にお椀と汁を振る舞う。集まってくるわ、来るわ。


 大盛況だ。恐ろしい人出に、なってあっという間に鍋が空になってしまう。

 しかも、並んでいる人間が町の人のような気がしてしょうがない。

 全員が、貧しい暮らしをしているのかもだ。


「すぐなくなっちゃうんだねー」


「水を注いでも、注いでも足りない」


 次第に、陽が沈んでいく。早くないだろうか。お椀を洗う人が、ユウタで注ぐのがクラリスといった具合。誰が、やってもいいのだ。注ぐのは。


「ねーねー。その魔術って、簡単なのかな」


「これですか」


 『水流』これを『操作』して、注ぎこむ。大量の水で、溢れないように。

 アクアだったり、アクアストリームだったりするけれど。火ほど不自然じゃないはず。

 火なんて、握れやしない。っていう固定観念が邪魔をするんだ。


 普通じゃないし、簡単ではあるけれど。


「魔術師なら、基礎ですね。迷宮に潜った時に、一番助けられる術ですよ」


「へー。だったら、あたしも使えるようになるかなぁ。教えてー」


 クラリスは、素直な子だ。将来も素直であって欲しい。


「いいですとも」


「ほんとー。やったー」


 なんていうが、女は忘れやすいのだ。同時に、異様なまでに記憶していたりする。

 忘れる方に、賭けておこう。


 クラリスは、笑顔で物乞いに手渡していく。メイドが、冷たい目をしていた。

 お嬢様になんてことをさせるのだという、そんな顔。素知らぬ顔をして、行き交う人を眺める。


「もっと木のお椀を用意しておかないといけないな」


「力持ちなんだね~。水が少なくなってきたよ」


 そんな事に乗せられる我ではない! と、思いつつ酒樽を出して水を加えていく。

 

 薄すぎず、濃すぎないように。肉を入れるのも忘れてはいけない。香ばしさを出すと、舌から汁がでてきた。食ってもいいレベルだ。


 薄く切った肉を鉄板で焼いて、木の皿に乗せてやる。豚肉なのが、あれだが。

 この際だ。量で、攻めよう。寂しいので、ブロッコリーだか人参だかをつける。味付けは、山田に作らせたスパイシー。


 濃い茶色のソースが食欲を引き出すだろう。誰にでも合う代物。


 もっと、薪が必要だ。丸太から、薪をその場で用意している。それで、斧を振るってお椀というよりも四角い皿を作る。


 そっから切り出す作業は、手間がかかるのだ。タダ飯を食った人間が、手伝ってくれるとか。

 そんな事もあって、酒樽から酒盛りがスタートしてしまう。


 これで、美女か美少女がいれば文句なしだ。


 流石に、もう夕方か。陽が沈む。

 エリアスに、問いかけないとイケナイだろう。


 子供は、寝る時間も早いのだ。あまり、時間はない。

 魔女とはいえ、同時に幼女。体調が悪いのかもしれない。 


「もっとやりたいよー」


 という幼女を馬車に押し込む。流石に、任せっきりにできない。メイドが一礼して去っていく。幼女に、色目を使っても効果はない。幼女狙いというのは、ないわな。


 それから、肉と野菜を用意して。代わりに給仕をするという女性に、譲っていくと。

 寝ているままのザビーネを背負って転移した。

 

 いつまで、ザビーネは寝ているのだろう。おっぱいの感触は、一級だ。

 













 セックスしたい。しかし、拓也は簡単に帰れない。馬車の陰で、セックスしたかった。

 やろうと思えば、できない事もなかったが。アキラがいる。


「ずいぶん、彼女たちを信頼しているんですね」


 アキラの顔は、ネリエルたちが生きて帰ってくる事を確信しているようだった。

 狩りをしている最中も、任せっきりだったし。果たして帰ってくるや、馬車に乗り込む。

 オークたちの巣がある。攻撃には、人数が必要との事だ。


 少数で巣を破壊するのには、戦力が足りないという。


「そりゃな。だって、見たろ。素早すぎだっつーの。どんだけ速いんだよ」


 獣人である4人の動きは、それこそ燕とかそういう類に見えた。何しろ、地面を走る狼を追い抜く。

 或いは、追いついて頭を叩き割るのだ。逃げ出す狼たちの姿を見たら、納得である。


「彼女たちと仲がいいですよね」


「とんでもねえよ。逃げられたばっかなんだぜ」


 逃げられた。という事は、男女の仲だったのだろうか。


「あいつら、何を考えてるのかわかんねし。ま、男としての魅力が足りなかったんだろうなあ。まったく、芽がないようでもなかったんだけど。あ、付き合っちゃいねえよ。嫁いるし。マールだけでいいかなって、思ってるわ。今更だしよ」


 複雑な関係のようだ。マールとは、黒髪の狼か犬人なのだろう。よくわかりづらい。


 御者台の後ろは、閉まっている。ネリエルたちの馬車は、先行していた。


「好きだったとか」


「まさか。まあ、やりたいとは思ってたけどな。好きも嫌いもないぜ。俺は、俺に優しい奴が好きだよ。ま、そんなの中々いないんだけどな。優しくして、好きになってもらうってのは悪くない手じゃある。ATMになるってのも、男の甲斐性なんだろうし。金と力だよ。やっぱさ」


 戦闘は、恐ろしかった。矢が、美雪や定子に刺さったらどうしようと。そればかり考えていたし。

 力か…。ない。金は…それもない。

 力と金がものを言う世界か。拓也にとっては、想像もしていなかった世界である。


「力。レベル、ですよね」


「そうだ。レベルがありゃあ、それだけで評価される。なんつーのかな、集客力と知名度とかいっぺんに変わるし。そーだ。拓也は、特殊なスキルとか貰ってねえの?」


 それがあれば、城から追い出される事もなかっただろう。多少の金は、貰ったもののそれだけでやっていけないというのは、すぐにわかった。


 ないものは、ない。


「あったら、よかったんですけどね。後から、目覚めるという事もないようです」


「そっか。そいつは、ご愁傷様だ。俺は、強奪スキルを持ってたんだよ」


 それを言うのか。そう、危険だ。しかし、過去形。無くしたのだろうか。

 神様なんて、居やしない。


 不公平だ。なんで、拓也たちにはない。あって然るべきだ。おかしいよ。


「今は、ないと」


「無くなるって、ひでえよな。それなら、息吸っただけでレベルやら魔力が上がるチートを貰えばよかった」


 とんでもない。貰えただけで、幸運ではないか。拓也は、身一つで異世界にきているのだ。

 美雪も定子も同じ。 


「やっぱり、そのレベルのチートはもらっている人がいたりしますか」


 息吸ってレベル、魔力が上がる。最高だ。

 セックスしてレベル、魔力が上がる。最高だ。

 腕振ったらレベル、魔力が上がる。最高だ。

 もう、瞬きでも、目をこすったらでもなんでも良いのではないかと思う。


 試しにやってみるが、何もおきない。流石にエアセックスは、無理だ。


「いや、ないな。今のところだけどさ」


 いないのか。馬車は、真っ直ぐに南へと向かって王都への進路を取っている。村が、迷宮の周辺にない。

 生きていけないからだろう。耕作地ですらない土地を進む。


「瞬きするだけで、レベルやら魔力が上がってもいいかんじですね」


 であれば、どんなに楽だっただろう。でないから、苦労する。


「まったくだぜ。腕振るだけとか、寝るだけでもいいよな。あと、セックスするほどパワーアップするとか」


 イージーモードで楽しそうだ。ただ、何の達成感もなさそうであるけど。楽な生活を送っていけそう。


「拓也も大概な事を考えるよな」


「そりゃ、そうですよ。こっちに来て、死にそうになったりしてますから。レベルは上がらないですし」


 レベルが重要だ。武器もすごいのが欲しい。アキラの剣は、黒くていい感じをしている。


「拓也も悩みがありそうだな。俺に相談してみるのも、手だと思うぜ」


 言って良いのかな。少し、強欲な気もする。馬、鳥馬。飛べる馬。とか。なんでも入る袋とか。

 そういうのがあれば、ずっと楽になる。そして、美雪と定子を一緒に連れていくのは危険だ。

 一緒に戦うとかいうけれど、漫画ではない。死ぬかもしれない。それが、他の人間ならいいのだが。


「アキラさんも、最初からそんなに強かったんですか」


 アキラから手渡されるカード。そこには、騎士だとかレベル51だとか載っていた。剣士が90だ。

 拓也と雲泥の差がある。スキルも豊富だ。魔術士が5で止まっていた。


「いや? そんな訳ねえって。微妙だろうな」


 これで、微妙だったら拓也はなんなのだ。欲しい。レベルが。しかし、1も上がっていない。 


「そう、ですか。そのくらいまで強くなる方法ってないんでしょうか」


「そりゃあ、簡単な話だ。大将にくっついていけばいい。ただ、枠がなあ。12人とかになってとんでもねえとこには、いけねえし。タイミングなんだろうな。一旦上がれば、自力でどうこうできるからよ」

 

 自力。今の拓也が、1人で戦ったら? すぐ死ぬ予感がする。ゴブリンは、仲間を連れているし。


 やはり、ユークリウッドは経験値を増やすスキルを持っているのだろう。強奪を持っていたのに、戦わなかったのだろうか。

 

 城への距離は、かなりある。ローマ時代の歩兵は、25キロを歩いたというが。

 馬車の移動時間で、計算できるだろうか。獣人とか走れば、そちらの方が速そうである。


「上限は、どれくらいまでなんでしょうか」


「わかんねえ。限界ってのが、これまた無さそうなんだよな。上位の職を取っていく感じになるからよ。剣士だけで終わりってんじゃねえんだもん。で、経験値を増やす職っていうのが冒険者系なんだわ。憶えておいた方がいいぜ」


 冒険者。拓也は、剣士で持っていない。拓也は、どうなのだろう。


「スキルで増えるんですか」


「まず、編隊(パーティー)っていうスキルがある。そいつを組めば、能力上昇だとか自然浄化だとかまでもらえたりと便利な奴なんだよ。で、ゲームと違うのはレベル差があっても組めるってことだ。そして、まあ、ここがきついとこなんだが格上の方が経験値を持って行きやすい。だから、組むなら同じくらいの奴と適切な場所に行くべきだな。ここいらは、混沌としてるから判断がつけられんけど」


 それで、増えるのか? よくわからない。


「冒険者をメインにする奴隷を紹介してやろうか? こませるかどうかわかんねえけど」


 それは、嬉しいような。でも、扱いきれるのか。心配だ。返事は、保留にしておこう。


「相談してみます」


「そっか。まあ、そうだよな。あと、先輩として言うけどな。男をパーティーに入れるのだけは絶対に止めたほうがいい。そうでなくても、やばいんだけどな。なんだったら、男だけ女だけにするか男女ペアにするか。だなあ。分裂してからが、本番かもしれねえ」


 アキラは、一家言あるようだ。奴隷に独立されたからだろうか。気持ちは、なんとなく伝わってくる。

 

「逃げられたからっすか」


「あーそうだよ。そうでなくても、駄目っ。マジで、自分よりも強い奴と組むっていうのはフラグでしかねーよ。一緒にいるだけ、時間の無駄? みたいな。でも、それでも大将にくっついて行くしかねーんだ。そんときゃあ、2人は家に置いておくとかの方がいいぜ。ほら、大事な物は隠しとけってな。んでも、浮気とかされっとなあ。一緒に居た方がいいんかね。わかんねーけどな。俺も、考えるよ。最近、マジで」


 女を取られた男の箴言だ。重く受け止めない訳にはいかない。しかし、ユークリウッドは子供で寝取られというのはちょっと違う気がする。やっていなけりゃ、寝取られとは違うか。心変わりというのが、適切だろう。


 ま、女という生き物は謎だ。この世界にくるまで、気がついていなかったのだから。

 2人の気持ちに。女心というのは、不可解極まる。


「はあ」


「もうちっと、しっかりしねえとな。おっ」


 前を行く馬車から、人が飛び出していく。2人ずつ。恐ろしく速い。照準を合わせて銃を撃てと言われても、命中しそうにないスピードだ。一足で、20mだか30mだか跳ねていた。


 オリンピックだってぶっちぎりで優勝だろう。


 ネリエル、チィチ。ミミーとミーシャだったかな。


「何しに行ったのでしょうか」


「魔物に決っているだろ。でなきゃ、敵だ。あいつら、走った方が速いんだよ。大将もそうだけど。そんで、惨めになるわけよ。だっせえよな」


 信じられない。子供が、流星のように走っていくなんて。見る間に視界から、姿が消える。両側には、林があって中は杳として知れないのだ。敵が潜んでいないとも限らない。


 怖くないのか。拓也は、怖い。死ぬのが、もっとも怖い。

 美雪も定子も怖いだろう。


「大丈夫なんですか」


 何回目かの問いだ。


「あいつらがやられるなら、俺らはもっとやばい。それに、こうやって馬車でとことこ歩いているのは安全を確保する為なんだぜ。近くに魔物が居ないか探索しているっては、あるんだ。で、お前らを連れているとなかなか無茶できねー。なので、次はもちっと方策を練らねえとな」


 素早いというのは、それだけで凄い。小学生の時に、足が速いというだけでヒーローだったりした。


「獣人が、この国に少ないのが不思議です」


 ギルドには、居なかったようにも見えるくらいだ。


「そりゃあ、なんとか山脈が南に走っているからな。ポーランドっぽい、その下で、獣人たちの国が広がっているんだよ。さっき言ってたウォルフガルドは、ここだな」


 手綱を手渡してくると、太もも地図を広げて見せる。

 馬は、大人しい。拓也たちが居る国の下方向には、山が描かれていた。

 その向こうに、獣人たちは居るという。行ってみたいものだ。


「山さえなければ、すぐですか」


「いやあ。あの山は、飛行生物がいてやばいよ。超えるのは、並大抵じゃ無理だ。飛行船で越えてくのが、無難だろうな。もしくは、大きく迂回してミッドガルドから入るか。でも、ミッドガルドが通行を認めないらしいしねえ。戦争みたいなのが、絶えないからなあ」


 戦争と聞いて、身がすくんだ。異世界と聞いて、戦国の世を思い出すのは高校生気分だからだろうか。

 しかし、獣人のように動けない。拓也は、特別でもなかった。


 戦争が怖くないのか。アキラは、平然としている。

 門が近づいてきた。 


「詳しい事は、後で話すか。中を調べるから、皆を起こしてくれ」


 門では、検問をしていたがするっと都に入れる。

 

「くああ。やっとついたの?」


 定子の首が、くいっと持ち上がる。


「いや、まだだね」


 後ろの座席に移ると、美雪と定子が肩を寄せあって寝ていた。仲良しだ。昔からの仲良し。

 アルストロメリアは、横になっていた。パンツが丸見えである。

 

「お腹が空いたね。宿で、何食べる?」


「パンとスープしかでねえのもあれだよなあ」


 あくびをする定子は、腕を上にして背伸びする。胸の形は、見えない。残念だ。


「肉のある物を注文しよう」


 稼ぎが多いのか悪いのか、まだ判断できないけれど。明日死んでるかもしれないし。


「やりっ。今日は、ご馳走だぜっ」


 も、だ。


 定子は、嬉しそうだ。拓也は、一体いくらの稼ぎになるのか心配だ。胃が痛いというわけではないが。

 外は、すっかり日が落ちてきた。

 さっさと風呂にでも入りたいところだ。そして、ご飯を食べたら思い切りセックスしよう。並べて、楽しむか。それとも、口で楽しむか。

 

 この世界でなければ、できない事だ。そう思えば、悪くない。

 スリルの後でするセックスというのは、最高だとも言うしね。


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