269話 黒い木の向こう側6
「あー。北に行くんだ」
ひよこが耳元で語りかけてくる。飛び上がったものの、一旦着地した。
なにせ、すぐにザビーネが落ちてしまいそうなのだ。手でもっていようにも、赤ん坊を抱えるという風にはいかない。身体が大きすぎる。おっぱい型の鎧も邪魔をしているし。
「何かあるのか?」
地面の雪を眺めて、インベントリから鳥馬を出す。それにザビーネは、乗ってもらうと。
再度、飛び上がった。地を蹴る感覚と同じ要領。ふわりと浮かぶ身体は、重力に逆らって空を駆ける。
後ろについてくるザビーネの鳥馬は、必死の形相だ。
「急いで行った方がいいかもねー。ボクは、どうでもいいけど。ユウタは、気になる事が起きてるっぽいからさ」
「もったいぶらずに、お教えすればよいのじゃ」
狐も知っているらしい。なんなのか。森から矢をかけられる心配がないように高度をとっていくと、木が豆粒のようになっていく。塔は、高さが5階立てほど。それなりに高いが、周りの木ももっと高い。
北といえば、村と町があるらしい。それに関係しているのか。
「村が襲われているとか?」
「ピンポーン。大正解だよ。オークも元気だねー」
「ゴブリンも多そうじゃの。それに、でかいのがいるそうじゃぞ」
狐を支配下にでもおいているのか。まるで、見ているような言いようだ。
雪で覆われた大地と森から、緑色をしたゴブリンと色とりどりなオークの集団。
村を囲んでいるようだ。大きな身体をしたゴブリンだかオークだかもいる。
『ザビーネ』
念話を送ると。
『なんですか。師匠』
『待機ね』
『わかりました』
素直でよろしい。
村の全滅は、時間の問題だろう。一刻の猶予もない。ザビーネが降りて戦うのも、巻き込む恐れがある。弟子を焼き殺した師匠なんて、なりたくないよな。
後ろを見ると、ついてくるザビーネの鳥馬がある。尚の事、上から掃射した方が早い。
死ぬかもとか、勘定に入れないタイプだ。間違いない。
直上まできて、『火雨』を降らせていく。敵の攻撃は、弓矢だ。村に向かって走っている敵は狙い難い。
近すぎると、中に入り込まれる恐れがある。
簡単な柵なので、きっと燃えるだろう。
オークとゴブリンの混成部隊に、止めの『火線』を放つ。雪と相まって凄まじい爆発だ。村から500mは離れているのに、上空まで死体の破片が飛んでくる。2倍、3倍の大きさを持っているゴブリンも黒オークたちに比べれば可愛い物だ。
盾で防ぐとかいう知能もないようだし。これならば、ザビーネに戦ってもらう方がよかっただろうか。
終わってみれば、楽勝だった。強いゴブリンは、いないのか。
魔術に耐えて、向かってくるような。強い魔物を探して、飛行していると。
逃げていくゴブリンとオーク。散り散りになって、逃げ出していく。
下で斬り合っていた魔物も、スケルトンといったアンデット以外が敗走中。
ザビーネもまた、地面に降りて追撃に入っていた。
「これは、カレーライスかラーメンじゃないかなー。ナイスアドバイスだったよね」
むかつくが、其の通り。きっと、飛行していたらのんびりと向かっていただろう。
一瞬が、勝敗を分けるという事もままあるし。腹が空いてきた。
村で何かを食べていこう。
村の中での戦いは、終わっていない。南側の入口へ降りると。
「あんた。バーモント伯爵に雇われた魔術師様かい?」
おばあさんが話しかけてくる。手には、フライパンと鉈だ。ちぐはぐな武器。とても戦えそうにない皺が、顔に刻まれている。
勘違いしている。どう答えるべきかな。ここは、当たり障りなく行く方向で。
「旅の者です。オークたちに襲われている村をみて、助太刀しました。不要でしたか」
「おお。旅の冒険者様かい。アンデットたちも始末してくれんかのう。何かできる訳じゃないんじゃが」
と、おばあさんの後ろではオーガストと名乗った兵が座り込んでいる。包帯を巻いて痛いたしい。
「わかりました。すぐにも片付けましょう」
「そうかい。助かるよ」
おばあさんにそう言われると、すぐにでもやらなければいけない気分になった。年配者には、すごく弱い。
精神年齢は、何歳になっても己は10代なのかと思い呆れ果てながら。白骨兵と村人が争っている間に入っては、頭を叩き潰す。胸に玉があるタイプと頭に玉があるタイプといろいろあるが、大概は頭を叩き壊せばおしまいだ。
「ごはん。たべたいなあ」
「ちょっと待ってよ」
最近のひよこと狐ときたらグルメになりつつある。村に食堂は、あるだろうか。雪で滑って倒れないように、気をつけながら50回ほどパンチで倒すと。ザビーネが南口の方から鳥馬に乗って現れた。兜を被っているが、胸から背中まで身体中に矢を受けて針鼠になっている。
「おい? ザビーネ? 生きてるのかそれ」
少女は片方の目を閉じて喉から、血を出しながら。
「師匠、しくじりました」
崩れ落ちてきたのを受け止めて、『回復』をかける。矢を引っこ抜きながら、『浄化』と合わせて淡い光がすいこまれていく。また、無茶をしたものだ。追いかけたのに、反撃を貰って滅多射ちにあっているなんて無様。
すくっと立ち上がると。ザビーネは、らんらんと目を輝かせる。
「もう一度、行ってきます!」
やべえよ。こいつ、セリアと一緒だよ。彼女の方は、回復をかけるとユーウに向かって行くという。
面倒くさい性質だった。似た雰囲気だと思っていたら、劣化セリアだ。
「待て! まーまて。反撃してくる相手に、今度こそ仕留められるぞ」
鳥馬も酷い。特攻に付き合わされて、死にかけだ。淡い光が、鳥馬の黄色い身体を覆うと立ち上がった。
そして、なぜかザビーネと目を合わせて頷いている。やる気なのか。そうはいかない。
「師匠」
「駄目だ。ご飯にしよう」
「戦いたいです。戦わせてください! お願いします」
すがりついてくる。止めてほしい。引き剥がそうにも乗っかかってくる。そのまま、引きずっていくと。
村人の怪我に魔術をかけながら、先ほどのおばあさんの元へ向かう。
「おや。もう終わったのかい。これでも、食って元気を出しな」
鍋から木のお椀に肉の入ったスープがでてきた。頭の上にあったおっぱいが移動していく。
残念。
「ここいらじゃあ、とっておきの物さ。熊の肉だけど、臭みはとってあるから食えるだろう?」
おばあさんから貰うザビーネは、丼を鳥馬にも渡して喰らいつく。
「いただきます」
切り株が、椅子だ。適当な丸太に座っている村人もいる。雪で建物の形状は、わかりずらい。
軒先をみれば、氷柱が溶けていないでぶら下がっている。
「あんた、どっから来たんだい? 旅の者っていう割には荷物もなさそうだし、服はそんな薄着だし。王都の方からにしちゃあ、ここはバーモントの南にあるからねえ」
なんと答えようか。無難なものを選ぶ方がいいだろう。
「南の森を抜けて来ました」
「なんだって? 南は、妖精様の石がある塔でオークどもが占拠しているって話じゃなかったかね」
オーガストにおばあさんは顔を向ける。包帯の下にある目が開いて、ユウタの目と合った。
疲れから、驚きに表情が変わる。
「こっ、これはアルブレスト卿。見苦しいところをおみせしました」
男は、伸ばされた足をあわてて畳む。そして、両の膝をつくと。
「今日は、どういった事でここへ? 援軍の要請は伯爵様へ出しましたが。1日、2日では援軍も来ないと思っておりました次第。全滅を覚悟していました。オークたちを退けたのは、何よりも喜ばしく。部下たちも生き残れたようです」
まあ、全滅するわな。囲まれるとか。なんで、人間の数が少ないのかが気になる。オークたちに数で負けているって。どうなの。なんなの。
「オークたちは、この村だけを襲っているんですか」
「それは、わかりません。とはいえ、ここが1番近い村のはずなので真っ先に襲うのならここでしょう。他を襲うのなら、ここが目障りになりますから」
ふむ。ならば、ここを砦にしておくのもいいだろう。しかし、スプーンを使う前にスープは3匹のペットたちによって食い尽くされようとしている。横では、ザビーネがうまそうに汁を啜っていた。
あれ? 腹減っているんですけど。
「土壁で補強しておきますか。南北にして、塀が必要そうですね」
おかわりをおばあさんが、注いでくれるのだが汁まみれになっても3匹の闘争がおわっていない。
なんて意地汚いんだ。
「どこへ?」
「ちょっと、工事しますよ」
ぽかんとした顔が、似合わなくて吹き出しそうになった。どうして、そんなに驚いた顔をするのか。
オーガストに『回復』をかけて立ち上がる。腹ペコだが、仕方がない。
村は、南北東西に道が伸びている。しかし、入口は南北に限定するようにしておく方がいいだろう。
まずは、土壁で枠をつくり東西には吊り橋と堀。南北は、堅固な扉という風にして。
夜中でも、襲撃に備えられるようにした方がいいだろう。
楼閣も必要か。人が通れる程度の広さに広げて作る。南側だけが、やたら立派な屋根付きだ。
凝った装飾だけは、村人たちで作ってもらうとして。時計を見れば、11時だ。
朝飯を抜いて、昼飯になっている。ザビーネを迎えにいくと、
「あれは、なんだい。すごいのを作ったんだねえ。これなら、大丈夫じゃないかい」
「あ、ああ。しかし、こんなもんを短時間で作っちまうってミッドガルドの魔術師ってのはすげえんだな」
「ふふん。これが、師匠のお力だ。お前たちも精進するのだぞ」
ザビーネは、なぜか自分の力のようにいう。お代は、いいのだろうか。
「それでは、これで」
「あんた、これを持って行きな」
おばあさんは、肉を手渡してきた。でかい肉だ。毛皮に包まれているが、匂いがしない。
受け取ると、すごく冷たかった。
「これは、ありがとうございます」
「なに、たいしたもんじゃないけどね。オークたちに食われちまうよりは、マシだろうさ。まったく、領主様のおかげで村の人間がケガばっかりしちまって困ってたんだ。何もしなかったら、バチが当たるさ」
おばあさんは、大笑してみせる。本当は、困っているのではないだろうか。おばあさんの頬は、こけている。あまり、血色がよくない。
やせ我慢しやがって。恩を売ろうとは、千年早えんだよ。
インベントリを開くと、酒樽を並べていく。桜火が操る食料庫にとって樽を作るのが、面倒らしい。回収しておくのがいいけど。
「おい、あんた? こんな、なんだいこれ」
「酒と小麦粉です。食べちゃってください」
「釣り合いがとれてないじゃないか。受け取れないよ」
まだ食べているザビーネの腕を引っ張るが、スープとパンを口に頬張りながら歩きだす。
鳥馬に乗って、飛ぶ。
「よかったのですか。あのような事をして」
「まー。どうせ、領主の懐へはいっちゃうんだろうしね。でも、気持ちの問題さ」
良い事は、良い事なのだ。そのやせ我慢をする気持ちで、お腹が一杯になった。
忘れないでほしい。やせ我慢する気持ちを。
おばあさんとオーガストのいる村が、みるみる遠ざかっていく。
オークたちの死体は、まだ残ったままだ。
シルバーナからの連絡は、ない。帝国からの刺客と見られる忍者と魔術師はどうなったのだろう。
きついお仕置きを受けているのかもしれないが。
◆
「うっぜーー。なんで、俺がこんなど田舎で商売したりしなきゃいけねえのよ。爺ども何を考えてやがる! 才能の無駄! 時間の無駄だぞっ」
金髪の幼女は、荒れている。なぜだか手伝いに回された拓也。先輩であるアキラは、苦笑していた。
「だって、アルちゃんのお金が大変な額だっておじいちゃんたちも困ってたんだよ」
銀髪をくるくると巻き髪にしている幼女は、その身に大きな箱を持って一角に陣取る。
「だからって、ないわー。ここは、ないわー」
ハイデルベルの冒険者ギルドに間借りするという。転移室も作られて、移動が可能になったらしい。
拓也にとっては、縁遠い話だ。しかし、どこへでも行けるスキル、術というのは羨ましい。
己にもできるようになるのだろうか。
「ここも、ギルドがあるみたいなんだけどね。売上は、良くないんだって」
「つーか。そっちのギルドから人を回させればいいんじゃね。俺、研究者であって戦闘なんて無理だっていってんじゃん。マジで死ぬかと思ったぞ」
「だーかーらー。何度も言ってるじゃないの。アルちゃんの研究、お金がいーっぱいいるじゃないのー。黄金錬成するんでしょ? だったら、稼がないと」
「あー、金が落ちてないかなー。あ、そうだ。あいつに金を出してもらおうぜ」
あいつって、ユークリウッドの事だろうか。ジョブスも手伝っているが、目が笑っていない。何故だろう。危険な匂いがする。
テーブルを拭いているのは、美雪と定子だ。どういう訳か2人は、手伝いをする事に。
いいのだろうか。冒険にでなくて。
良くないのだが、ジョブスとの話が脳裏に引っかかっていた。
「つかさー。助手に、女ねー。いるの? 教えるって、面倒くせえ。マジで、教師なんて柄じゃねーんだよ」
「まあまあ。ほら、地下に専用のお部屋を作ってくれるらしいし。ご飯も持ってきてくれるみたいだし。寝る時には、上で寝ていいみたいだよ」
施設を手伝うのは、アレインとセイラム。子供に手伝いをしてもらっている。
ポーションを作ろうというのと各種の製薬を手伝うというのが、主眼らしい。
拓也には、何がなんだかわからない。器具は、フラスコだかなんだかが並べられるのだ。
隅っこに階段が作られて、その下が研究施設になるのだとか。
まだ、形もない。まずは、売り場を整えるのですら時間がかかるのだとか。
冒険に出るには、それらを片付けてからのようだ。
「あー、わかったよ。で、あいつはどこに? 研究材料くんは、どこよ」
「研究材料なんて言わないの。あたしたち、殺されちゃうよ」
エッダの手伝いをする獣人の幼女たちが、目を光らせている気がした。
「誰に?」
幼いから、わかっていないのか。
「誰にって、もう。周りを見てよ」
アルストロメリアは、エッダの言葉でぐるっと頭を回した。獣人が、特に殺気を隠そうともしていない。
ネリエルだとかミミーだとかミーシャだとか。余程、女の子にモテるようだ。
次いで、アキラが。
「聞こえなかったふりするけど、な。指令があったら、大変だぜ? 素っ裸で貼り付けの刑とか、よ」
「ふ、ふん」
ふん、って言っている。しかし、びびっているのは確定的だ。もっと、慎重な物言いをするべきだろう。アルストロメリアは、味方に刺されて死にそうなタイプに違いない。
四角い箱を持って、棚を整える。
「んじゃ、出発ぁーつ」
馬車に乗ると、拓也たちは西門へと向かった。尻が、痛い。
乗る馬車の中は、堅い敷物というか。スプリングが効いていても、衝撃がくる。
しかも、狭い。エッダが残って、禿げおっさんがその手伝いをするのだとか。
「で、お前らやったの?」
アキラの言葉に美雪が、かあっと顔を赤らめた。
「おいおい。マジかよ。早すぎんだろ。ふつーは、手順とか踏むもんじゃね? どう思う?」
「うるせー。俺に振るんじゃねえ。な、なんなんだよ。やったって」
顔が熱い。定子も、拳をわなわなと震わせている。
隣に、美雪で前にはアルストロメリアと定子だ。
顔を赤くした2人に、驚いているのかアルストロメリアは顔を斜めにして不思議そう。
「ははーん。天才とか言っているが、お子ちゃまだな」
「なん、だと? てめー、言っちゃあならねえ事を言いやがったな? 勝負だ。勝負」
ろくなことにならないだろうに。アキラは、幼女を煽っている。やめてほしい。
今回のクエストは、アイスラットの生き残りを処理する事なのに。
着く前から、仲間内で戦闘とか。
「くくく。良いぜ。やろうってんのなら、後で相手になってやるよ」
後ろに乗っている馬車の人がいてくれれば良かったのだろうか。
道中は、雪景色で真っ白になっている。
作物が取れないと食料品も高いだろう。ギルドの飯ですら、1食なんと3000ゴル。
王様から貰った手切れ金は、20万ゴルであっという間に無くなってしまう。
稼がないと、生きていけない。3人で、誰も死なせずに狩りをすることができるだろうか。
道中では、ラットの死体を担いでいく同業者とすれ違う。真っ白な身体をする大きなネズミだ。
それでも、動きが早くて倒すのが難しいのだとか。
不意に、馬車が揺れる。
「ゲットだぜ! はっはーっ。こりゃ勝負あったな?」
アキラが、剣に人並の大きさをしたネズミを見せてくる。まだ、生きているようだ。
そのまま御者台を飛び降りると、首を落とす。と、身体を半分にした。
「なっ。てめえ、剣士。いや、騎士かよ」
「ぷくく。こりゃあ、お嬢ちゃんパンツ一丁で逆さ立ちをしてもらわねえといけねえな。あーっはっはっは」
真っ赤を通り越して、湯気が出そうな感じになった幼女は、扉を開けて御者台に乗る。
「たった、1回でいい気になるなよ? 俺が、倒す。貴様の命もここまでだな!」
「ほう? 言って良いのかい、お嬢ちゃん。かぼちゃパンツが黄色に染まっちまっても責任は持てないぜ?」
すると、
「いい加減にしろ、アキラ。子供を煽ってどうするつもりだ」
馬車が接近してきた。切れ長の瞳と黒髪が鮮やかな剣士風の出で立ち。
ネリエルという名前らしい。隣には、兜を被る戦士が周囲を警戒している。
「わーってるよ。けど、こいつらを守りきるってのは結構大変だぜ」
「それが、任務だ。つべこべ言わずに、集中したらどうだ」
「まあ、そんなに当たらなくても良いじゃありませんか」
「全くだぜ。俺に当たっても、兄ちゃんとは会えないんだからな」
言った瞬間、雰囲気が悪化した。アキラは、全方向に喧嘩を売るスタイルなのか。
それとも、天然で相手を怒らせる達人なのか。どれもこれも、争いになりそうだ。
跳びかかってくるのは、アイスラットだけではない。偶々彷徨いていたゴブリンだとか。
そんな連中を倒しながら進む。
「ちっ。貴様、魔術の心得まであるのか」
「ふふふ。見た目で、判断しないこったな。さてと、ここで何をするんだ?」
「水質調査とゴブリン、ラットの残りが棲みついていないか。それと、迷宮の中に水を汲んでくるというのが仕事だな。特に、昔からここは浄化施設だったようだ。有り体にいえば、聖水を作る為の水が採れる」
水汲み施設なのか。迷宮という事しかわかっていなかった。
ともかく、盾と槍を構えると進む。後ろがセイラム、アレイン、ミミー、ミーシャ。最後尾がチィチ。
2つパーティーが組める感じである。
「つか、そんな重要な施設をどうして放っておいたんだよ。ほっ」
バッティングセンターのボール以上に速い。アキラは、その飛びつきを反射神経だけで二つにしているような気がする。
「知らんよ。ただ、こいつらは速いし普通の盾じゃ食い破られるだろうしな。忘れられたんじゃないか?」
アルストロメリアは、物知りだ。
「で、このスケルトンだとかが入ってくると汚染される訳か」
道中には、冒険者の死体が転がっている。全身がかじられたようだ。
「スケルトンか。こいつらも問題だが、アイスラットが。お?」
小さく白いネズミが、アルストロメリアが使役する蛇に捕まる。
「珍しいな。こっちが、本物じゃないか? チィチは、どう思う」
「実物を見た事がないので、なんとも。ですが、アイスラットの表示が出てくるので違いないかと」
獅子族の女戦士だという。彼女は、ステータスカードを見て、ネズミとそれと交互に視線を動かす。
「奥まで、進んでみるとしよう」
浄化施設では、冒険者たちが水を桶に汲んでは台車に乗せている。それを持ってギルドまで持ち帰るのが仕事のようだ。
「あんたらも、こいつを汲みに来たのか。ギルドの依頼書は、持っているんだろうな」
男が、1人で寄ってきて声を出す。手には、槍。他の男たちも、斧やら剣を持っている。
「依頼書だあ? そんなもん、聞いてないぞ」
「それならば、引き返して貰ってきてもらおうか」
雲行きが怪しい。そこへ、アキラがずいっと前へ出る。
「へえ。お兄さん方、態度がでかいじゃないの。ここは、みんなが利用する場所だろ」
「ギルドで管理する事になる、そういう方針だ」
「誰が決めたんだよ。そいつは、土下座する事になると思うぜ?」
といって、アキラは桶で汲み出しては鞄に入れていく。
男たちは、殺気立って槍を向けているのに。
「どうしたよ。良いんだぜ? そら、ぶすっとやっちまってもよ。どうした。早くやっちまえよ」
男は、迷っているようだ。やるのかやらないのか。
「待たれよ。どうして、そう突っかかるんだ。私は、ネリエル。ウォルフガルドにあっては、銀狼騎士団に在籍して千人長を拝命している。こちらは、錬金術士アルストロメリア。水質調査をしに、ここへ来たのだ。水を貰って帰るのも仕事だ。よろしいか」
こういう時に、権力が物を言うという事なのだろう。こそこそと話し合う相手は、矛を収めるようだ。
「いいだろう。しかし、次からは許可証を貰ってからにしてくれ。ギルドの収入は、冒険者への支払いに充てられるのでな」
命がけの仕事なのだから、安くてはやっていられないのも実情なのだろう。
「全く、どうしてそう喧嘩腰なのだ。これでは、チンピラだぞ」
「うっせーな。けど、怪しかったろ。ああして、水を管理しようなんてヤクザなやり口じゃんか。俺は、許せねーよ。みんなが飲むもんだろ」
水にこだわりがあるのか。飲水だって、タダではないのだ。日本は、ほとんどタダのような物であるが。聞けば、その飲水1桶で300ゴルだとか。意味がわからない。
「飲み物が、タダだというのは貴様の思い込みだろ。どこでも、有料になっているのが実情だよ。皆が、クリエイト・ウォーターを使えると思うな」
「全くだな、やはり奴を研究させて欲しい。特に、脳だとか目玉だとか」
今度は、幼女がワンピースで踊る事になった。




