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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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268話 黒い木の向こう側5

挿絵(By みてみん)

 顔が暖かい。そして、頬が冷たい。

 目を開けると、毛で痛む。というか痛い。手を動かして、その物体を掴むと。


 引っ張る。どうして、冷たいのか。

 引き剥がそうとすれば、顔面に爪が食い込んで痛い。腹の毛で、窒息寸前だった。

 そして、右の頬を濡らしているのは。


 黄色い大海ができている。金色のひよこと狐は退避して、反対側で毛玉と一緒だ。

 ぐったりとして、熟睡している。木の姿はない。ひょっとすると、と思ったが犯人はセリアだ。

 どうしてくれよう。


 3匹を移動させて、机の上にやると布団をゴミ箱(イベントリ)に投げ込んだ。

 水を魔術で桶に出して、湿った顔を布で拭く。新しい布団をインベントリから出して、セリアを寝かせる。

 立ち上がって、ローブに着替えると寒い。魔術が作用してくれるまで、温くならないのだ。


『おはよ。今日は、どうするの』


 ひよこが、ちび竜たちに囲まれて動けないでいる。押し競饅頭しているようだ。


『2日しかないけど、迷宮を潜るしかないね。掃除を頼まれているし』


 思い返せば、あの地方。アルーシュと変身して破壊した都市があったような気がする。

 

 名前が出てこないので、痴呆症か健忘症なのかもしれない。


『主さまも、朝から災難なのじゃ』


『起こしてくれれば助かったんだけどな』


『すまないのじゃ。わらわも気がついた時には、攻撃を受けておったのでな』


 狐は、ぺろぺろと足やら第二関節の部分を舐めている。


 立ち上がると、毛布を上にかけてやる。全く反応しないので、熟睡しているようだ。


『てっきり、尻尾でもつかんでびったんびったんやると思ったけど。甘くない?』


『そうだね。ちょっと甘いかもしれない。起こしてくれれば、良かったのに』


 しつこいようだが、退避していたので言っておかないと示しがつかない。3匹、ジャンプするとそのままフードに潜り込んできた。扉を引いて、通路に出る。廊下では、ザビーネが直立して待ち構えていた。


「おはようございます。師匠」


「おはようございます」


 歩きながら、後ろについてくる。嫌な感覚だ。見られているのは、慣れない。

 とんでもない拾い物だ。おっぱいはでかいが、ひよこのようについてこられるのはうっとおしい。


「朝から素振りの稽古ですか?」


「ザビーネもするのかな。いいけど」


 玄関から出ると、転移門を開く。向かったのは、昨日の黒い木の向こう側。

 雪が降って、オークの残骸が隠れているようだ。少女とクラリスの姿は見えない。

 塔は、遠目にも大きな建造物だ。


「まさか。このまま探索をされるのですか」


「そうです。ちょっとだけ」


 塔の前には、聖堂騎士と魔導騎士の集団が朝餉を炊いていた。


 オークの姿は、見当たらない。天幕の前には、柵が設えてあり探索するという様子だ。


 走って近づいていくと。ザビーネは、追いつけない。兵士は、視線を向けてくる。

 攻撃する素振りは、ない。


「君、こんなところにくるとは冒険者か?」


 兵士の男は、訝しむ声だ。誰かいないのだろうか。


「みたいなものなのですが」


 困った。兵士をぶちのめす訳にもいかない。こういう時に、フィナルでもエリアスでも居ればいいのだが。


「うーん。坊や、遠くに来たにしては危険な森を抜けてきたんだな」「おいっ、おわっ。ちょっと来い」


 兵士の後ろから、別の男が近寄ってくる。鈍色の鎧を着た騎士っぽい。


「部下が、失礼しました。あれも、サー・アルブレストの仲間でしょうか」


 ザビーネが、必死になって走っている。巻き上がる雪は、弧をを描いていた。


「そうなのです。攻撃は、止めてもらえますか」


「寛大な御心、感謝いたします」


 ここで、難癖でもつけるべきなのだろうか。凄く嫌な貴族を演じる事も可能だ。

 あまり、意味が無い上に評判が下がるだけ。やる必要もない。息が上がっているザビーネは、鍛え方が足りていないようだ。


 荒い息で、歩いてくる。一気に、走り抜けたのだが、騎士の案内で通りぬけていくと。

 白いコートを白銀の鎧の上に、赤いマントを羽織るアイスマン。

 と、黒いコートを同様に着る男が並んで待ち構えている。


 何か用でもあるのだろうか。


「おはようございます。サー・アルブレスト」「おはようございます」

「少し、お時間をいただいてもよろしいですかな?」


 アイスマンは、話がしたいのか。時間は、有限だ。


「はい」


 案内されて天幕へ入る。兵士の横を通り過ぎると、


「貴様は、中に入るな」「何だと」


 兵士に呼び止められてしまった。


「弟子が何か粗相をしましたか」「弟子? この羊人が…ですか」


 男は、目を見開いている。アイスマンに目をやると。


「構いません。お通しなさい」「はっ」


 兵士の目には、侮蔑の色がある。深刻な獣人差別がそこにはあるのだろう。


「弟子、を取られたのですか。お名前を伺ってもよろしいか」


「ザビーネだ。昨日から、な」


「左様で。なんとも、珍しい。まあ、座られよ。それで、話というのは内部というのが」


 地震か。揺れる。丸いテーブルの奥に3人の男が座っているが、慌てた表情。


「どうやら、連中も何か手を考えているようだ。卿が、浄化した塔の上階は制圧できた。しかし、地下にも通路が発見されてな。そこの探索が、難航している。この分では、冒険者を呼ぶ必要があるような感じだとか。そして、今の振動。黒オークたちの使役獣の可能性がある。やつら、魔獣も使うからな。ゲルラッハ卿、説明の補足があれば頼む」


 黒い鎧の騎士は、ゲルラッハ卿というのか。兜を脱いだ顔は、細面に金の短髪。装飾品を頭につけている。エリアスが所属する魔術師協会の騎士っぽい。


「地下は、先のミッドガルド王国建国前からある代物のようだ。オーディン神が直接支配なされた神代よりの祭器らしくてな。オークどもは、負のエネルギーを捧げる事によって魔界をつなげようとしていたみたいだ。石碑は、魔物の身体能力を高め凶暴化させる力もある。逆に、正のエネルギーを捧げる事で魔物の沈静化する事もできる。ゆえに、ちゃんとした施設を作るべきなのだ。その費用があれば、な。そして、ここはハイデルベル。我らとしては、金を払うつもりはない」


 なるほど。便利な魔導具のようだ。駐屯する騎士団なり、開拓団でもあるべきなのだろう。

  

 金があれば、なんとでもなるという。しかし、金を出す意味というのはあるのか。領主がやるべき事であって、己にはなんの益もない。なんの益もないのに、投資するのかというと。困った。


「なるほど。どうやら、冒険者を呼ぶしかないようですね」


「或いは、この国の騎士を呼ぶ、という選択ですね」


 黒オークにやられている連中が、どういう役に立つというのか。森がざわめいている。『風流』を使って、森を洗うように流す。敵だ。数は、100程度。


 騎士たちで、十分やれる数だが奇襲を受けるのはよろしくない。立ち上がると。


「サー・アルブレスト?」


「少し、掃除をしてきます」


 外へ出る。ザビーネが追ってこようとするが、飛行魔術が使えるようではないようだ。彼女も飛び上がったが、星の重力に引かれて落下していく。残念。


 天幕を飛び越えて、見れば。猿が西側の森から走り出る。


 『火雨』を使う。文字通りファイアが、雨の如く降り注ぐ術。横から斜めに降り注ぐ術が、猿たちを襲って火達磨にしていく。人よりも大きな猿の集団だ。鑑定すれば、アイスエイプマンとでてくる。白い毛で、わかりずらい。が、ファイアで燃えるとは如何に。


 ファイアは、当たれば燃える。何を燃焼させているのかわからないが、きっと酸素と可燃物なのだろう。

 でないと、頭がおかしくなりそうだ。


 半分まで踊る火達磨ができたところで、相手が逃げ出す。全滅させてもいいが、手間だ。


 戻ると、


「何事ですか」「アイスエイプマンですね。もう、逃げていきました」


「そうですか。それは、よかった。素晴らしい手並みですな」


 魔物が出るという事で、探索すればいいのだろう。下の階を。どこまで潜ればいいのかわからないが。


 森の中だ。食料の供給も必要だろうし。


「壁が、必要ですね。それと、食料を置いていきます。金は、どれくらい必要になりそうなのか計画書をまとめてください。エリアスに渡しますので」


「良かった。助かります。それと、迷宮の探索をなされるおつもりのようですが。先に、バーモント伯爵領にいかれるよう。お願いいたします」


 挨拶しろという事なのか。面倒くせえ。でも、顔を通す必要はあるんだろうね。


「バーモント伯は、何の御用でしょう」


「バーモント伯が、お招きしているのです。悪い話ではないと思います」


 悪い話ばかりなのだ。だいたい、ATMしろという。最近では、無料の食料品店でもあります。

 少女は、美しかったしチンコが朝だからか凄く元気だ。会いに行くのも、やぶさかではない。

 クラリスは、ぺったんこで将来を期待しよう。


「わかりました。場所は」「こちらです」


 テーブルの上にある地図で示されたのは森から北にいったところだ。その間には、デール村もあるのか。


 あまりに端折られた地図で、役に立つのか立たないのか微妙だ。


「バーモントは、人口が8000人程度の小さな町です。鳥馬を使えば、すぐにもつくでしょう。デールという村が、北へ行ったすぐにありますので寄られてもいいでしょうな。兵力の大半を失ったとなれば、立て直すのも難しいでしょうし」


 敗走した兵でやられた者も生き返ったが、戦えないだろう。人は、そういうものだ。


「では、探索はお任せして物資を置いていきます」


 立ち上がって、会話を切り上げる。

 天幕の外に、ザビーネが立っていた。外に出て、戻らなかったようだ。


「師匠! 空を飛ぶ術を教えてください!」


 それか。飛ぶ術って、あんた魔術士じゃないじゃん。剣士だよね。だよね?


「確かに、『飛空術』はありますけど。それ、格闘士、拳士のスキルですよ」


「なら、拳士に」


 腹にパンチしたい。剣をすてて、拳士になろうというのか。まだ、騎士でもないのに。その意気込みはいいのだが、性急するぎる。


 小走りに、外側へ移動すると、土壁を作っていく。四方に、壁と階段。休憩所を作っておく。土を火で炙れば、煉瓦に早変わりだ。あまりやり過ぎると、時間がみるみるうちに無くなってしまうのが欠点であるのだが。


「師匠。さすが、です。こんな事までできるなんて」


 ふふん。なかなかに立派な入り口と出口。そして、外には掘り。休憩所に寝室と便所に下水道まで作った。

 その時間たるや、ゲーム下でのぽちぽちにも負けていないスピードだ。天幕の中にいた兵士たちが、中に入っていく。まあ、壁側だけなんだけどね。


 その一角、倉庫でインベントリを開くと酒樽から小麦粉の入った樽と並べていく。


「あの。手伝いは」「それじゃあ、紙とペンを渡すから記入しておいて」


 入り口には机。そして、椅子を置くとザビーネがメモっていく。セリアだったら、絶対にやらない事だ。弟子というよりは、秘書になってしまった。桜火というと、家の事とダンジョン管理で忙しいし。こういう相手がいると、楽しいかもしれない。おっぱいでかいし。


 寒いけどバニースタイルにでもなってもらえると、なお目の保養にはいいだろう。


「こんなもんかな」「お疲れ様です。そろそろ、飛空術を」「んー。なら、この後で飛んでいってみる?」

「はい!」


 元気でよろしい。しかし、並べた樽が壮観だ。綺麗に並べられてあり、どこに何があるのか一目でわかる。整理整頓ができていない倉庫など、許されない。


 外へ出ると、兵士が上を見上げてどよめきを漏らしている。ふふふ。櫓といい、2階は素晴らしい出来だ。むしろ、中に入れて内側で魔物を倒すというのもありだろう。


「師匠。これを作っても魔力は、持つのですか」


「問題ありません」


 ついつい熱中して、ドーム型の砦に発展してしまう。


 扉は、木製で貧弱だけどね。しょうが無いよね。大きさを合わせて作るのって、時間かかっちゃうの。わかってほしい。村人系列のジョブが持つ『土木』は、いい具合に作用する。持っていて、損はない。


 駐屯地の壁は、分厚くできている。以前、ペダ村でつくった砦とは雲泥の作りこみ具合だ。


「さて、出発しますか」 


「飛行術ですね?」


 いや、使えないでしょ。まさか、おぶさる気なのか。近寄ってくる。ザビーネの身体だと、フードの中にいる子たちは押しつぶされてしまうのではないか。


 そして、腕を絡めてくる。


「どうぞ」「どうぞって、これで飛ぶの?」「そうです。飛んで、覚えます」


 覚えられるんかい。ものは、試しだ。おっぱいが当たる。これは、柔らかくていいものだ。

 飯食ってないし、エリアス来ないけど。まあ、いいや。飛び上がった。

 魔術大会まで、残り2日じゃなかったっけ。

 

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