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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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264話 黒い木の向こう側

 何も着ていない女の子と黒く太い木がある。

 女の子たちは、それに固定されている人もいた。


 どうする。


「一旦、こいつらを連れて戻るとするのだ。お前は、どうする?」


「調べます。エリアスたちが来るかもしれませんので」


 木とつながっているお尻からは、白いものが垂れていた。オークたちは、精力絶倫。やりまくっていたのだろう。


 段の上は、平らで左手にはオークが使っていたとみられる調理場がある。その反対には、人骨とがらくたの山だ。まるで、産業廃棄物処理場にある塵芥のように斜めになっていた。


 調理場には、壺があり、そこに入っているものに衝撃を受けた。さっと壺と調理場にファイアを放つ。


「おい、何をしてる?」


 アルストロメリアが話かけてきた。その後ろで拓也たちがげーげーと戻している。見たようだ。


「洗い清めているんですよ」


 壺の中は、見せられない。おぞましい。ピンク色をしたものが入っているからだ。普通は、燃えない壺と肉も魔術の炎が解決してくれる。可燃物質もないのに、燃え上がると。


 大型の壺にも炎をかける。時計を見れば20時になっていた。子供は、寝る時間だ。


 セイラムとアレインが、せっせと武器を収納鞄に納めている。働き者だ。転移門を開いて、女の子たちをハイデルベルに移動させていく。虚ろな感じで、危ない精神状態だろう。ケアが必要だ。


「こんなものが、あるんですね」


「ええ」


「男の子が、いないのって、もしかして」


 そのとおり。オークの食材になっている。この世は、弱肉強食。故に、食料として人間が食われてしまうのも自然だ。奇怪な表情を浮かべていたり、上を向いてぶつぶつ言っている女の子がいる。相当な精神的ダメージを受けたのだろう。


「それでは、帰るとするのだ。私は、王宮へ飛ばしてくれ」


 アルルは、さっさと帰るつもりのようだ。


「仰せのままに」


「お前も、居残りをしていないでさっさと帰るのだ。ではな」


 転移門に姿を消す。セイラムとアレインは、ラトスクに。拓也と美雪、定子はハイデルベルの冒険者宿へ送ると。


「この木、おかしいな」


 おかしいのは、わかる。アルストロメリアとエッダが、木にナイフを突き立てていた。


「魔樹だ」


「魔樹?」


 よく通る声を放ったのは、エルフだ。

 エリストールが、椅子に腰掛けて飲み物を飲みながら足を組み替える。ザビーネというと、素振りだ。


「というと、豆の木とは正反対の?」


「世界樹ユグドラシルを豆の木とは…。その通りだが、正反対というよりもこいつは汚染されて人工的な呪いでできているように見える。何かの儀式に人間を使っていたようだな」


 なんともはや。オーク、全滅させるしかない。生き残りをかけた戦いであるからして。


「あー。やばい」


「ちょっと、アルちゃん」


「こいつ、向こうと繋がってやがる」


 錬金術士である幼女2人が、木から離れると。


 脈動する木から、紫と黒が混じった毒々しい物体が出てきた。オークたちの死体から、赤い燐光が発生して吸い込まれていく。


「そうか。魔樹を利用して、何処へとつなげる気だったようだな」


 オークたちも知恵が回るのか回らないのか。面倒な真似をしてくれる。そこへ、轟音がする。駆け足で向かっているにしては派手だろう。入り口から敵か。木が、壁に吸い込まれるようにして消えた跡には。


「魔界か地獄か。或いは、虚ろなる贄の園か。後ろの敵に前の入り口とはな。どうする」


 虚ろも魔界も地獄も勘弁して欲しい。


「敵じゃないと思うよ」


 現れたのは、フィナルとエリアスだった。互いに、顔がダメージで蛸のように膨れている。その後ろに桜火がついていた。無理やり終わらせたのかもしれない。


 もっと早く来てくれないと。経験値は入っているのか疑問だ。


 2人ともやり過ぎで、回復しないのだろう。服は、あるのかないのかという感じだ。ピンク色のそれが、ちらっと見えたけれど全然チンコは反応しなかった。残念。

 

 その手の人には、垂涎なのかもしれない。


「だー。なんか、できてるぞ」


「貴方が粘るからでしてよ」


 幼女2人で、泥まみれになっている。泥レスリングでもしてもらいたいものだ。将来的に、ありだろう。

 エリアスの母親は、むっちりとしたボインだったし。


「うっせ、うっせー。ゾンビプレイ汚えっつーの」


 白黒の幼女2人に付いている騎士たちが、可哀想だ。もう勤務時間を超えているだろうに。


「これ、調査が必要です」

 

「なんなのかしら」


 と、フィナルが触れると淡い光を放って弾かれる。


「空間の断面かよ。フィナルは、超えられねえってことは魔界くさいな」


「なんですの。あたくしだって、いけます。ただ、準備が必要で」


 フィナルは、行く気っぽい。けど、後ろの騎士たちが「やめろ、やめさせてえええ」のオーラを放っている。ちらっとエリアスは、騎士たちを見て。


「なら、俺とアルスで行ってくるか」


 それから、アルストロメリアに近づいて腕を握った。ツンツン幼女は、引き剥がそうとするが取れない。


「駄目です。貴方は、ここのオークを掃除するの」


「えー。つまんねーよ。つーか、眠くないのかよー」


 エッダは、困った顔で見てくるけれど助手は必要だ。できる事なら、戦闘力のある人間が付いてきてほしい。


「行く人は、いますか?」


 尋ねれば、ザビーネとエッダが参戦した。桜火は、木があった場所を調べている。


「アルちゃんも行こうよ~」


「ええ? だってよお。明らかに死にそうな雰囲気を放ってるよな。それ」


 ですよねー。首だって、入れたくない色合いですもん。絶対、何かある。

 普通なら、回れ右だ。


「魔界の素材を取ってくるチャンスだよ~」


「おお。チッ、しょうがねえな。行くぜ」


 チョロい。アルストロメリアは、凄くチョロい。ヨイショしたら、何でもしてくれそうだ。

 憎たらしい顔をするが、そこも味になるかも。


 幼女たちは、考えるも行く気になったようだ。オークの死体が、聖堂騎士たちの手で焼かれている。ゾンビ化するのを防ぐ為の処置だ。死体を放置していて、スライムが掃除してくれればいいのだが。それはそれで、巨大スライムの誕生に繋がったりする。


 エリストールは、入ろうとして腕を桜火に掴まれる。


「危険です。精霊族は入らない方がよろしいかと」


「なんだと…。しかし、ですね。私は、守護騎士。主を守るのが、仕事です」


 殊勝な事をいう。いきなり押し倒して、大きなお尻を撫で回すのもあり。

 かなり、あり。


「貴方が入れば、マスターを危険に晒すとわかっていて行かせる訳にはまいりません」 


 エリストールと桜火が、戦闘になりそうだ。しかし、


「くそっ。また亀甲縛りをされては、かなわん。おいっ、死んだら承知しないからなっ」


「貴方、何を言ってますの」


 フィナルが、ずいずいと詰め寄る。また、喧嘩が始まりそう。

 

 さっさと、出発しよう。黒い空間を覗き込むと。部屋だった。

 薄暗い部屋に、石壁。正面に扉がある。右を見れば、大きな石像が立っていた。

 後ろから、ザビーネが入ってくる。続いて、エッダとアルストロメリア。


「ここは、なんだ」

 聞きたいのは、己の方である。説明して欲しいのも、己だ。解説して欲しい。


 石像の頭は、豚顔だ。オークの守護神的なものなのかもしれない。

 そして、胃液が逆流する匂い。床を見れば、人骨がまたもオブジェのように地面に撒き散らされている。

 戦って、死んだ冒険者のようだ。





◆◆◆



 拓也が、転移門を抜けるとギルドの一室だった。

 階段を降りていくと。


「おー。ひよっこ共、お帰りか」


 やや禿げた職員が、声をかけてきた。気さくな男だ。鼻の頭に傷があり、シャツを着ていても圧迫されている筋肉が目につく。


「ただいま、帰りました。宿を取りたいのですが」


「おうおう。お前らの部屋は3階の一番手前になったからよ。そこへ行ってくれ。風呂も用意する事になったんで、気が向いたら入ってくれよな。飯を食うのなら、声をかけてくれりゃあいい」


 気さくな人だ。


「手前が空いたみたいだよ」


 美雪は、そういう。しかし、わざと空けたように見える。気のせいではないだろう。

 冒険者たちは、ひそひそと話しているし。気にならないはずがない。


「あー疲れた。風呂からにしねえ? あっ、でもまた入る事になるかもなあ」


 すけべな手つきをする。定子は、そういうところがあるのだ。小悪魔というか。しかし、嫌いではない。

 やりたいし。


「おーい。一応、ステータスカードを見せてくれよ。確認をしておきたいんでな」


「はあ」


 なんであろうか。勇者として認められなかったはぐれものだ。居てもいなくても構わないではないか。

 糞っ。

 怒りがこみ上げてきた。王族、貴族、魔術士、兵士。どれもこれもを、殴らざる得ない。


 事故とはいえ、巻き込まれたのだ。相応の扱いがあって、然るべきではないのか。


 カードを3人揃って出すと、後ろのテーブルでさっさと注文をする女の子2人。

 良い根性である。


「こりゃたまげた。お前ら、一体、どういうつながりなんだ?」


 やや化粧の濃い女の職員と禿げ職員が話をして、拓也へと顔を向ける。

 後ろでは、勝手に注文が決まったようだ。


「どう、とは?」


「アル王子殿下と知り合いになれるとはな。替わって欲しいくらいだぞ」


 王子殿下ね。平民と知り合いになるのが、珍しいのはわかる。セレブと下級国民なんて接点が、ないような物だ。理解できない事態なのだろう。


「そんなに、凄い方なのですか」


「凄いも凄いっていうかだな。冒険者なら、誰でも組みたがるだろうよ。なんせ、EXP倍々UPをお持ちになられる。しかも、脇を固めるのは女神教の聖女と魔術師協会の若手だろ。半端な伝手じゃないぞ。ついているなお前ら」


 そんなに凄いのか。大事にしないといけない。EXPが馬鹿みたいに入っているせいか。レベルが既に20を超えた。


「レベルが、21なのは凄いってことですか」


「しっ。自分のレベルを言う奴があるかっ。自分で、言うな。俺たちだって、堂々と言えないような守秘義務をだなあ。スキルの事は公然の秘密だから、いいんだよ。んで、な。普通のルーキーってのは、10を超えられるかどうかが関門よ」


 自分でバラしてしまっていたが、後ろでは雰囲気が違っている。なんというか、引き締まっているというべきだろうか。


「10超えられないで、死ぬ人もいるって事ですか」


 やれやれといって、頭を振る男。


「いいか? 坊主。この(ハイデルベル)じゃあ、平均レベルは15前後なんだぜ。城の兵隊は、20から試験を受けられる。警備兵、末端の兵士で10からなれるんだけどな。しかも、レベルを持ってねえ奴なんてごろごろいるんだ。そんで、おめえらを見たのがレベル1だろ。そして、昨日の今日じゃねえか。おかしい上がり方だぞ。普通は、1,2年で5とか。レベル20なんて5年、10年かかるもんなんだよ」


 そんなに、かかるのか。拓也は、普通に上がるものだと思っていた。


「たっくー。ご飯にしようよー」


「ちょっと、先に食べてて」


 胃の中は、空っぽだが食欲が増している。股間が痛いし。


 そして、禿げ男に向き直る。ギルドマスターではない。その横で、女の手で3人分のカードと革袋が差し出される。


 多い。袋は、ずっしりとした重み。


「でだ。そんなおめーらが、妬みを買わねーはずがねー。わかるか?」


「ええ」


 その為に、できる事といえば何があるのか。自分で身を守るしかない。


「てめーらのパーティーには、男が1人、女が2人。しかも、結構可愛いよな」


 どういう話になるのか、読めない。真っ白だ。


「ふつーなら、まず無理だ。速攻で攫われる。可愛い女を連れていて、大した事のねー男が守りきれるかっつーとよ。何もなくても、美人なんて絡まれて、持ってかれるな」


 そりゃあ、そうだ。日本ではない。日本であっても、美雪と定子はハイエースされるレベルだ。油断ならない。見渡せば、視線を外される。


 治安も糞もないような世界か。しかし、日本とて似たようなものだ。他方で顔が良ければ、女であれ男であれイージーモード。わかっている。


 そして、努力する必要性も。


「そうして、脅すのが話なのですか」


「んや。可能性の問題だ。注意喚起は、必要だろ。現実、そうなるしな。そういう事にならないように、話してるんだ。お前らの場合は、ギルドから護衛が出る事になっている。街の中を彷徨くなら、まずギルドに顔をだせ。護衛が付く。そして、固まって歩け。移動経路に、暗がり、脇道を通るな。もしも、お前らの身に何かあればギルドの幹部から下っ端まで何があるかわからんのだ」


 最後の言葉は、怯えだ。男から吐き出される息に、諦めが篭っている。


「治安が、悪いみたいですね」


「おうよ。お前らの居た世界は、どうか知らんがな。…それと、どこでレベルを上げた。言わんでもいいが、聞いておきたい」


 話してもいいのだろうか。勘案するが、さして問題ないような気もする。


「まず、川沿いのネズミが出る迷宮と山と山のふもとにあった迷宮です」


「そうか…。ちょっと待て、確か報告があったな。ネズミってあの白い悪魔どもか」


「そうです」


 白いネズミだった。素早い動きで、牙と爪が脅威に見えた。拓也たちは、ほぼ何もしていない。


 禿げ男が、出てきて肩を叩く。そして、抱きついてきた。気持ち悪くなる。


「さすが、勇者様だなっ。城に居る連中よりも、ずっと凄えよ。お前やるじゃねーか」


 やばい。自分の手柄ではない。なのに、勘違いをされている。


「いえ。それは」


「よっしゃあ。そのなよなよした態度と身体から、想像できねー。けど、あの糞ネズミ共を倒すとはなあ。大した奴らだぜ。しかも、山って。まさかオークどもまでか」


 すいません。

 そっちも、盾に隠れて倒せていないのです。槍で突いている真似で。


「あの」


「お前ら、廃棄物だなんて言っててすまなかった。本物の勇者だったとはな。彼処には、多くの仲間が行ってやられてたんだ。しかも、捕まった女冒険者たちまで帰ってくるなんてよう」


 違うって、と後ろで定子が言っているのに取り合っていない。もはや、またも酒盛りだ。


 禿げ男が、涙を流して喜んでいる。顔が、赤くなって気持ち悪いのだが。そんなこと、お構いなしに迫ってくる。


 間違いだ。


 土下座する冒険者たち。入ってきた男たちが、何事かと固まっている。


「剣士なのに、槍なんて使ってやがって阿呆だなんて言っててすいませんでした!!!」「すいません。もやし野郎とか言ってて!」「チンコもげろって、言っててごめんなさい」「抱かれてもいいです! 兄貴!」


 最後のに、悪寒が走った。


 言い過ぎだろう。剣士が、槍を持てなかったら困る。


 阿呆なのか。槍を勧められて憤然とした物だが。それよりも、流されている。


「よっし、勇者さまの奢りだ。飲むぞっ」


「…っしゃあぁ。あっ、飲みます?」


「あ、はい」

 敬語だ。未成年だけど、問題ないはず。


 勇者って。

 誰の奢りなのだろうか。きっと、己のなのだ。弁解するのを、拓也は諦めた。美雪たちも、飲んでいるし。


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