260話 こいつら、早くなんとかしないと15●(シグルス暗黒面)
エリアスたちは、出てこない。
ロメルが、立ち去ってまた戻ってきた。
「羊人族をいかが致しますか」
「名前は、聞き出せましたか」
キャシーが、やってきて耳打ちする。入口には、むさくるしい熊人がたっていた。ドメルだ。
「まだです。勝手に、尋問をやっては間違いもおきますので。地下の牢屋に入れてあります。アキラ、案内をしてやってくれ」
狐が、フードの中に駆け込んでくる。白い毛玉とひよこは、赤茶色をしたバンと名乗る猫の頭の上に乗っていた。不自然なくらいに猫の頭が大きい。宙に浮いていたりする。
白い狼は、椅子の上で丸くなった。
牢屋への階段をアキラの案内で降りると。
「この子、どこで捕まえたんだよ」
「オークが住み着いていた迷宮でね。アキラより強いかも」
「マジでー? ショックだわ」
後ろに、3人の日本人がついてきている。牢屋には、獣人の姿がちらほらと。
男と女は分けられているようだ。女の姿が羊人だけというのは、不自然だが時期的なものなのだろう。
鉄格子の前に立つ。
「この子か」
「どうするのよ。殴って吐かせるのか」
そんな事をしても、関係がこじれるだけだ。両手を鉄とみられる輪で封じられた格好だ。
足には、お決まりの鉄球付き。魔術が仕掛けられているのだろう。足を動かさずに、顔だけ上げてきた。
「えーと。暴れないなら、外してご飯でも食べながら話をしようと思うんだけど」
「…なんだそれは」
じーっと見つめていると。
「なあ、鑑定を使えばいいじゃん」
「けど、人権とか」
「気にする必要あんの?」
そうなのだが、気が引けるのだ。相手から、聞き出した方が良いような気がするし。
「わかった。暴れないから、外せ。貴様が相手では、今は勝てない」
わかってくれたようだ。アキラに目で合図すると、鍵を開けていく。
武器を奪って攻撃してこないとも限らないけどさ。
階段を上がっていく拓也たちを見て、アキラを先に行かせる。
暴れたりは、しないようだ。
「じゃあ、ついてきて」
「ああ」
猫が、浮遊しながらついてきている。エッダのペットではなかったのか。
「すげえ、おっぱいがでかいねえちゃんだぜ。仲間にすんのか?」
言えないような事を堂々と言う。猫は、つぶらな瞳で邪気を感じないのがおかしかった。
「まだ、名前も教えてもらっていないのですけどね」
「ザビーネだ」
「ザビーネさんですか」
けっこうな歳のような気がするようなしないような。獣人の年齢は、わかりずらい。
顔に、シワでもできていないと10代にも見えるし。実際は、60とか言われてもびっくりするだろう。
石を積んで舗装された壁に、取り付けられた灯りが目に入る。魔力を通せば、込めた分だけついている優れものだ。消し方は、ボタン1つで消える。中の仕組みによって消灯が可能だ。これを作ったのも、山田だったりする。
階段を上がってきたところでロメルが、視線を送ってきた。ぴっちりとした灰色のスーツを着たドメルと話をしているようだ。何かあるのだろうか。
羊娘のザビーネをテーブルに案内すると。
「君の名前を教えてもらっていない」
「ユークリウッド。仮面をつければ、ユウタとよんで欲しい」
白い仮面をつけながら、言う。レウスにばれると厄介だ。というか、バレてないのかが気になる。
「ユークリウッドか。魔法戦士か? 私の攻撃を受け止めるとは、只者ではない」
「そうなんだ。それで、ザビーネはどうして迷宮にいたの? それと、いきなり攻撃してきたのは何故?」
桜火が、皿にバンを乗せて持ってきた。テーブルの上にあった皿が片付けられて、座った人に珈琲か紅茶を用意している。
お辞儀をして、感謝する。
兜でよく見えなかった髪は、緑。紫色をした瞳と目が合う。
「馬鹿か? 迷宮で出会う他人は、全て敵だろう。今まで、そうだった。それに、貴様とあの金ピカは強そうだったからだ」
ほう。いい勘だ。少し嬉しくなった。
「私の斬撃刃を全て止める腕。立ちはだかる壁が、できたようだ。手合わせをしてもらいたい」
「駄目だな」
背後に割って入ってきたのは、影。影から、幼女が立ち上がる。
「こいつと戦いたいのなら、まずは私を倒してからにしてもらおうか。ザビーネとやら」
羊さん、ピンチです。セリアは、立ち上がるやいなや挑発するように手を動かす。
「武器は」
「なんでも構わないぞ。裏手に多重金剛結界を張った場所がある。勝負してやろうではないか」
「その減らず口を叩き潰す」
どっちも似たタイプの戦闘狂だった。頭が痛い。しかし、2人でやりあってくれるのなら助かる。
横をみれば、拓也たちが談笑していた。アキラが、よってきて。
「あれで、良いのかよ」
「いいんじゃ、ないですか。エリアスたちが戻って来ませんけど、ポーション屋を立ち上げる話をしたいのですけれど。よろしいでしょうか」
済まない。ザビーネ。生きていたら、骨でも拾うよ。死んでいないといいけど。フィナルやエリアスは、回復魔術を使えるからね。
拓也が、顔を向ける。
「ポーション屋さん、ですか。やり方を先程の錬金術士さまが教えてくれるのですか」
「そうです」
「え? ちょっと、マジで。おかしくね…。俺、そんな副業をもらってないんだけど」
アキラが、珈琲を飲みかけてカップをテーブルに置く。あんた、電気工事について勉強をしている最中でしょう。さっさと、工事できるようになってくださいよ。電気あると、便利なんだよね。
魔力は、使わないでおけばそれだけ他に回せる。
「電気」
「ぐああああぁ。そうでした」
「電気って、なんですか」
美雪が、質問してくる。三つ編みに、黒髪がよく似合う。でも、貫通しているんだよね。膜がない。
「電気工事をできる人間を育てているんですよ。ゆくゆくは、大型発電所が必要ですから。火力でも水力でも風力でも良いんですけどね~。原発は、駄目って言われているので作れませんけど」
アルーシュが、大の反原発だった。爆発したら、責任とってくれるんだろうな。なんて言われたら、無理です。トリチウム水蒸気とか飛散するのをどうやって、防ぐかっていうのが問題だし。ずっと、魔力を使っているのにも限度があるし。
やっぱ、自然を破壊しないような代物でないとね。
「その電気、わかんねえんだけど。白線がどうとか、黒線はスイッチにつなぐとかくらいならわかるんだけどさ」
白線は、マイナスだ。非接地側ともいう。重要なことなのに、曖昧とは。基礎が、なっていない。
すっかり、泣き言ばかり。やれそうな他の事といえば、土木系なのだけれど。魔術でやってしまえるので、ユンボの開発をする必要があるのか怪しい。あれば、便利なのだけれどね。そこへたどり着くまでに、相当な時間が掛かりそうなのですよ。
「電気って、魔法で生み出してたりするんじゃないんですか。この灯りだって、電気でつけているようにみえないんですけど」
美雪が、つっこんできた。そうなのだ。だから、困っている。自然のエネルギーを利用した方がいい。
魔法、魔術を使えば使うほど魔物が活性化するなんてオチがあっては堪らないし。備えあれば、憂い無しだ。
「それよりさー。さっきの子たちを止めた方がいいんじゃないのかい」
定子が心配しているのか。セリアとザビーネが出て行った扉を見ている。ポーション屋の話をしたいのだけれど、アキラが立ち上がると。
「んじゃ、見に行くか。どうせ、ボコられてると思うぜ」
「小さい子の方が心配になるね。ちっこいのに、いじめじゃないのかよ」
逆だ。逆。見た限り、セリアにザビーネが勝つ見込みは1パーセントもない。
扉を開けて、進むと観客席が見える。石でできた壁には、魔術がかけられてある。
「あー。まあ、やっぱりか」
羊娘は、緑色をした髪がばっさりと背中までやられていたり自慢の角が途中から折れている。
爪と同じ感覚なのだろうか。
手には、剣があるけれど。
「うわー。あの、銀髪の子、すごいってことですか」
「おいおい。口の利き方に気をつけた方がいいぜ。ああ見えて、この国の王女さま。ついでに、大将のこれよ」
これって、なんだ。あんなこれは、いやだ。毎日稼ぎが悪いと殴られる生活なんて、ごめんだ。
すいません。あれを引き取ってくれるなら、お金を差し上げます。なんて言ったら、間違いなくマウントを取られてラッシュが待っているよね。わかってるよ。
いくらATMでも限界は、あるのよ。わかってください。
「そうなんですか。失礼しました」
拓也は、90度に頭を下げる。危ないからね。口には気をつけないと、セリアは気にしなくても他の獣人に喧嘩を売られてしんじゃうよ。ほんとだからね。特に、ネリエルとかロメルの前で言うのは危ないよ。
「ま、わからなくてもしょうがないですよ。護衛も何もつけてないですし。見た目、奴隷か何かに見えますからね」
「それ、ひどくね。着るものに頓着しないのは、大将もいっしょじゃん」
「そういわれると、立つ瀬がないです。同じものの方が、何回でも使えて便利だと思うんですけど」
「貧乏性って、抜けないのかねえ。あ、あれ、やばくないか」
アキラが、指を差すところ。ザビーネが斬撃を放ったカウンターをもらって倒れている。剣での遠距離攻撃こそ、一品の物があるのだけれど。回避能力が、劣っているようだ。躱そうとしているのだが、セリアの手刀による攻撃が早くて、足が取れかかっている。
そして、劣勢になったところで追撃をもらって仰向けになった。手招きをしている。
「呼んでいるみたいだ。どうする?」
「行くしかないでしょう」
結界を超えて、近寄っていくと。そこには、幼女が横たわっていた。その着ている鎧は、原型をとどめておらず。手は、逆になっており。足が取れかかっていた。生きているのが、不思議な状態だ。
鼻の頭を擦るセリアは、
「ふー。なおせるか?」
事も無げにいう。完膚なきまでに、破壊された鎧を剥がせばうめき声が上がる。最強を目指すのは、いい心がけだ。しかし、いきなりボスと戦うのは無謀もいいところだろう。回復をかけていくと、取れかかった足がくっつく。
ザビーネは、お腹を抑えている。
「う、生まれなくなっちゃうぇえ」
血を吐き出した。大丈夫ではない。精神まで折られてしまったのか。手を取れば、骨も元通りのようだ。
ぺっと、血を吐くと。ザビーネは、剣を杖にして身体を起こす。
「まだだ。まだ、やれる。最強になるんだ。私はっ、貴様を倒して最強になってみせる!」
まだやるきなのか。セリアは、ふーっと息を吐くと。首を振りながら、
「今日は、これまでだ。まだ、挑戦するには早すぎるな。貴様の剣では、私に勝つどころかフィナルにすら勝てまいよ。せめて、自動回復と闘気。そうだな、光剣をマスターしてからにしてもらおうか」
「なんだと、私の斬空剣をっ。勝負しろっ」
「ふん。ではっ」
やばい。セリアの拳を受け止めた。ちょうど、ザビーネの腰を狙っているところで。ザビーネの目が、ゆっくりと向く。
「命拾いしたな。放せ」
危なかった。腰から下が、粉みじんにされるところ。寸前で、キャッチしたのにザビーネの剣が振ってくる。それを手で受け止めて、足をとって転がすと。剣を持つ手を捻って、動きを封じる。足で、攻撃してくるのをセリアが掴んだ。
「暴れるなら、折っておくか?」
いやいや。なんて、乱暴な。動きを封じるだけ。首を横に振って、合図する。
「くっ。糞。おぉおおおおおお。ちっくしょおおおおお」
女の子にあるまじき言葉だ。力を込められども、動きを封じていると苛立ったセリアは。
「時間の無駄だ。いいな?」
腹にパンチをかます。軽く放ったようだ。ザビーネは、汚い噴水を立てた。
剣を拾い上げると。
「それは、私の物ではない。が、貰っておこう。戦利品だ」
なんという強奪者。賭けになっていたのだろうか。賭けた物によって、ザビーネはどうなるのだろう。
「どうなっているの」
「どうもこうも。こいつは、今日から私の奴隷だ。なんでも言う事を聞かせるぞ」
「まさか、奴隷紋を入れるんじゃ」
「はっ。まさか。こいつの矜持が、そういう低さならそうする。なかなかに強い。羊人にしては、なあ」
痙攣して、反応がない。やりすぎたのか。回復をかけると、呼吸が収まった。が、鼻から吹き出た内容物で鼻が曲がりそうだ。
下乳が、見える。すごい。潰れるはずの重力に逆らっていた。
「おっぱいで、挟んでもらうか?」
セリアは、自分の胸を見ながら言う。自分で、言うのか。それを。いや、立っているけどさ。
「それは、酷い。彼女の意思というものがありますよ」
「ふっ。まあいい。フィナルが、うるさいからな。こいつの攻撃力にフィナルの根性を合わせたら、いい勝負ができそうだ」
確かに。前衛に、これを持ってきて盾替わりにしておくというのは手ではある。本人が、回避しないという前提だが。
戻っていくと、後ろで治癒術士の女獣人たちがかけよっていく。
「それはそうと、こんなところで油を売っていていいの?」
「こっちのセリフだ。さっさと再編した軍の訓練に参加しろ」
また、面倒なことを考えているようだ。
「忙しいの。俺は、日本人を3人ほど早急に育てないといけないんだ」
「うー。なら、アキラを借りていくぞ」
アキラに3人を育てさせるか。それとも、アキラが育てるか。アキラが育てたって、大してかわらない。
では、アキラが軍を指揮するとか配置を考えるとか。面白そうだ。
上手くいくかは、別として。




