255話 こいつら、早く何とかしないと10●(ユウタ挿絵有り)
「マスター。アルトリウス殿下の存在が確認されます。いかがされますか」
魔物が襲ってこないのは、何故か。狩っている奴がいたからだ。
迷宮の前に陣取るのは、赤と白の天幕に竜をかたどった紋章をする軍隊。
「いきなり攻撃されたりしないよね」
「念話で会話されては?」
「さすがに、それは難しいよ」
相手は、王族なのだ。ついでに、神族でもある。勘気を被っては堪らない。
進んでいくと、兵士が寄ってきた。3人の日本人勇者候補は、顔を見合わせている。
「大丈夫ですよ」
「ミッドガルド軍だ。こんな場所にいるのが、不思議だがな」
ちらっと、こちらを見る。困るではないか。説明に。
「多分、ハイデルベルの窮状を見かねて援軍にきてくれたのだと」
「本気でいっているのか。このスケこましめ」
「スケこましなんですか?」
「違いますよ。迷宮で遊ぶ、といっては語弊があるでしょうけれどね」
アルトリウスは、ブリタニアの蛮族反乱を鎮圧するので忙しいはず。このような迷宮にくる理由は、ない。
「こいつの言葉は、真実と嘘が混じっていたりするからな。女に対しては、潔癖のきらいがある。というのは、見せかけでなあ」
この女。アヘ顔ダブルピースさせたい。しかし、どうした事だろう。アルトリウスがいるとわかったら、チンコがおとなしくなってしまった。
ふにゃふにゃだ。
「ええ。エリストールさんのような美女は、とても魅力的ですよ。お尻は、とても安産型ですし。男は放っておかないでしょうね」
おええぇえ” 言っていて気持ち悪くなった。駄目だ。世辞は、駄目だ。
ひよこが、熱い。急に高熱を帯びてきた。狐も一緒だ。次いで、膨らんでいくと。
「あああああああああああああ”」
人型になった。2人の幼女が出現した。室内が、一気に狭くなる。魔術で、妙に広くなっているのに。
「だから、妾は危険じゃと言ったんじゃ」
「なんなの。このビッチ」
2人は、掴みかからん勢いだ。それに、ドン引きの3人。何が起きているのかわからないのだろう。
頭を掴んで座らせると、冷たい林檎ジュースを注いだコップを差し出す。
失言だった。全身が、痒くなっている。
「マスター。降りてください」
扉が開く。馬車も回収しないといけない。特別製だしね。一品ものだ。
全員が出てくるのを見計らって、インベントリに入れる。兵士が案内してくれるようだ。
DDとレンが、エリストールの足を蹴っている。じっと見たら、やめるという。いじめではないか。
苦笑している拓也。特に苦労せずに手に入れた物は、あっさりなくなるんだぜ。
その2人と上手くやっていけるかどうかなんて努力にかかってるんだぞ。
絶え間ぬ努力。人間ATMとして、役に立たないとわかったら手のひらクルーされるんだぞ。
わかっているのかね。
「アルブレスト卿?」
いっしゅん、きょうが橋に聞こえたよ。どうしたんだろう。
3人で、仲良く両手に花状態して堂々としているからだろうか。輝いて見える。
「いえ。おかしかったですか」
「…こちらです」
いかつい顔の男は、見下ろしていう。何もなくても高圧的に感じるのは、身長のせいだろう。
にしても、女の子とイチャイチャしているのを見ているとどす黒い物を感じる。
女など、いらぬと。顔が良いだけで近寄ってきた女は、もっといい男を見れば離れて行くものなのだ。
どうして、愛やら恋やらを信じられよう。滅びてしまえ。腐って、もげろ。羨ましい。
しかも手をつなぎやがった。
「アルブレスト卿、こちらですよ」
「ええ」
首だけが、ちらちらと後ろを向いてしまう。他の兵士ときたら興味有りげに視線を寄越す。
見るんじゃねえよ。ぶち殺すぞ。拓也は、恐ろしくないのだろうか。ある日突然去っていく女の子を。
男も似たような物だ。他の男が、かっこよければ去っていく生き物なんだよ。セックスしていたって、離れていくかもしれないんだぜ? どうして信じられようか。まさに、童貞の思考なのだろう。だが、そうだとしても結ばれたなら応援するべきだ。
ナイスカップルなのだし。男1人に女2人というハーレム状態だが。妬んでも仕方がない。
己を見た兵士は、口笛を吹くどころか直立する石像になった。
願わくば、イケメンに言い寄られて簡単に転がらないで欲しい。
簡単に転がる女は、また簡単に転がるだろう。青い鎧に、剣を背負った騎士が歩いてくる。
「ユーウ。よく来たね」
アドルだ。知り合いの出迎え。テントが張られているのは、迷宮の入口である崩れかけた石づくりの建物からすぐそこのようだ。
クリスの姿が見えない。ブリタニアは、いいのだろうか。
「なんで、こんなところに? ブリタニアの蛮族たちは、鎮圧したの?」
鎮圧したという情報は、耳にしていない。
「蛮族は、各個に打ち破ったよ。彼らの結束も、聖剣の前には崩れ去るしかないからね」
「なるほど」
引き抜かれた聖剣と王剣を手にしているアルトリウスが全面に出れば、正当性が出る。というところか。
そもそも、騎士王というのは創作の人物と言われるところなのだが。
ブリタニアでは、かつてそのような王がいたとか。では、今指揮を取っているのは将軍クラスなのだろう。
「こっちだよ」
ぞろぞろとついていけば、簡単陣所に天幕がしてある場所に通される。
「よく来たな。アルブレスト卿」
4人の騎士長たちが、円卓を囲んでいる。卓だけでも、重たいだろう。レベルを持つ者でもなければ、持ってこれない重量だ。クリスが、隊長たちの後ろに並んでいる。
一礼して、入ってすぐ片膝をつくと。
「ふふ。貴様が、ハイデルベルに手を出すとはな」
「はっ。アルル様からは、好きにしてよいとお言葉でございます」
頭は、下げたままで答える。後ろの人間も真似しているようだが、DDとレンは膝どころか立ったままだ。
しかし、誰も咎めない。
「ふむ。面を上げよ。堅苦しくてかなわんな。なあ、アドル」
アドルは、真横から歩いてクリスの横へ立つ。
「はっ」
「お前も、堅い奴だった。道すがら、帝国軍の連中と出くわさなかったか?」
ああ。速攻で、鉄くずとなっておりますとも。素直に、答えるべきだろうか。報告しておくか。
「さて、居たようないなかったような。爺を1人、女忍者1人捕えました。シルバーナが尋問中でございます」
「ほう。早いな。であれば、少しだけ手伝ってやろうではないか」
嫌な予感がする。日本人たちのパーティーに加わろうという事に違いない。まだ、レベル3ですよ。
だが、王子はやる気だ。断れば、粘着されるだろう。
「わかりました。ですが、ここの迷宮を探索する予定です。よろしいですか」
「もちろんだ。その為に、ここへ来たのだからな」
エリアスの姿がない。アルトリウスの陣営には、彼女の力が必要なはずだ。フィナルもそう。
チンコは、蛇に睨まれたかのように大人しい。むう。
「しかし、帝国の機動兵器はなかなかに強力です。エンシェントゴーレム無しに、太刀打ちできるのでしょうか」
心配だ。味方の兵士が弱いとは思っていない。しかし、心配になる。
「ふむ。ここにいる隊長たちならば、太刀打ちできそうか」
わからない。どれほどの能力があるのか。二足ロボットに乗っている兵士も騎士なのだろうし。
「わかりません」
「しょうがないな。アドルとドスも待機だ。飛空船には警戒を厳にさせておけ」
飛空船の姿は、見えなかった。という事は、山の向こうにでも隠しているのだろうか。
用心深い人だ。赤い瞳が、瞳孔を細める。
「はっ」「殿下、お言葉ながらご自身で探索されるのはいかがなものかと」「俺が決めた事だ」「ですが、危険です」「危険なのは、承知の上よ。俺のレベル上げを邪魔するな」
黙ってしまった。ドスとは違う長髪の少年だ。黒髪が良く似合う。赤い鎧に、腰には2本の剣。
すらりとした体格だ。慎重な性格なのだろう。
「レベル上げは、結構です。その上で、あの幼女たちは一体、何者なのですか。頭が、高いのでは」
「ほら、レンってば、喧嘩を売られてるよ。買っちゃいなよ、YOU」
「妾ではあるまい。お主の方じゃ、ほれ、視線がそっちじゃ」
「なんだってー!! ぼ、ボクが喧嘩を売られてる? しょうがないなあ」
やばすぎる。いきなり天幕が更地になってしまうとか。ずっと、ひよこでいた方が安全だ。
「なあ、もどろ?」
竜になられたら、大半の人間が消し炭になるだろう。それだけは、勘弁してほしい。
「やだ。ぷんぷん」
ぷんぷんってなんだよ。子供じゃないだろうに。
喧嘩は、よくない。ほら、味方同士でさ。ねえ、やめよう? あ、人間の味方じゃないんだったわ。
じっと見つめていたら、ひよこと狐に戻ってくれた。『スッシー20皿かなー』『妾は、お稲荷さん40皿なのじゃ』ひでえ。もう、勝手な事を言い出した。破産するよ。こいつら、たかりだすし。
「ふ。危ういところだったな」
「は?」
「ランスロット。お前は、観察眼をつけろ。あの化物どもが暴れだせばハイデルベルが滅ぶではないか。それでは、本末転倒ぞ。しかも、2体同時に喧嘩を売るとは。この馬鹿者め」
アルトリウスに、唾を飛ばされて少年は椅子に腰を落とした。きっと、予想もしていなかったのだろう。
人間体でいたら、これほど迷惑な生命体もいないだろう。皆が騙される容姿をしているからだ。
特に、DDは人間を殺す事を生きがいにしていそうなくらいだし。
「アドル。あやつらについて、説明しておけ。それでは行くぞ」
アルトリウスが、パーティーに加わった!
しかし、王子然とした振る舞いだし困る。この子は、がんがん前に出て行って倒すのだ。
天幕を出て、桜火が差し出したお茶を飲む。喉がからからだった。
「マスター。迷宮に入るのですね」
「そうだけど、問題があるのかな」
「いえ」
帰ったら、帰ったでシルバーナの身が危なそうだ。そうでなくてもやばいかもしれない。
フィナルに、出会わないように祈るしかないだろう。
「その心配は、ありません」
読まれている? メイドは、にっこりと笑顔を浮かべた。落ち着く笑顔だ。どうして、性欲で汚せるだろう。心の中で恥を感じつつ、チンコが立たない事へ疑問を浮かぶ。
「あの」
拓也が、話かけてくる。
「王子さま、ですよね」
そうですね。
「ええ」
「王子さまは、城にいましたよね」
それか。しかし、喋る訳にはいかない。一発で、訝しむとは。実は、拓也って探偵に向いているのかも。
「ええ」
「…秘密ですか?」
「探っては、いけない秘密というのもありますよ」
わかってほしい。その秘密を探ろうとした人間は、騎士を剥奪されて退役だ。冒険者になれるかどうか。
怪しいだろうけど。駄目なのだ。
「わかりました。それと、パーティーはどうするんですか?」
石でできた入口に差し掛かっても、アルトリウスの歩みは止まらない。勝手に、己への要請が飛んでいた。
鬼だ。このままだと、拓也たちに経験値が入らない事が予想される。
「全員で組みますか」
やむ得ない。ひよこたちに、ふかふかで丸い形をしたクリームの詰まったパンを食べさせて組む。
「ほう。こいつら…育てる気か」
雑魚だろうと。どんなに雑魚でも、日本人なら見捨てられるはずがない。先輩としての努めだ。
「拓也さん、美雪さん、定子さん」
「「はい」」
足場を魔術の光が灯す。槍を持ち、盾を構えた前衛スタイルだ。どうする。ステータスを見られては困る。
「ステータスカードを預かります」
「えっ。でも、これがないとレベルがいくつなのかわからないし。スキルも上げれないんですよね」
そうだ。それでも、預かる。
「ご了承ください。どうしても、預からないといけないのです」
「わかりました」
「おいっ。こいつをあずけたら、やばいんじゃねえの」
「定子、ロボットやらの残骸を見たじゃないか。どのみち、俺たちはユーウくんに従うしかないよ」
現状を認識しているようだ。いちいち説明しなくていいのは助かる。
「見られると困る情報があるんですよ。かといって、ああ、早くお願いします」
「ちぇ、説明してほしいぜ。はいよ」
3人のカードを受け取って、加入させると。さっさと先行するアルトリウスとエリストールが、
「いつまで、のんびりしている。いくぞ」
迷宮の中へ突き進んでいく。転がっているのは、オークだ。緑色をしたオークが、切断面を爛れさして横たわっている。
情報も何もないのに。
「あの、槍で叩くとかは?」
あの2人がやるわけがない。インベントリから、板を取り出して3人に乗ってもらう。
「その、この迷宮でやることは多分、あまりないかもしれません。お茶でも飲みながら、見学してください」
オークの強敵がいてほしい。しかし、緑色のオークでは期待できないかも。
石壁に設えた灯火を見ながら、ため息がでた。
全く、王子さまは人の事情を鑑みねえええ!




