250話 こいつら、早くなんとかしないと5●(ちょっと大人っぽいシルバーナ)
ジョセフは、アクアの親父だ。
それを狙うとは。必ず、犯人を探し出して刑務所にぶち込まないとな。
こっそり殺しとく、というのは止めておこう。
殺戮者から脱出しないと。称号も殺戮者をゲットしてしまっている。固定でないのが救いだ。
「こら、あまり強く引っ張るな。ちぎれるだろっ。もっと優しくだなあ」
「わかりました。こうですか」
森妖精の耳は冷たい。軽く、撫でるように。すると、寒いのに肌が赤みを増してきた。変態だ。
「う、うむ。いいぞ」
エリストール号の操作方法がわかってきた。ハンドルと握るのと同じ感覚だ。バイクと同じである。他にも、おっぱいで操作できそう。やらせないだろうね。
「犯人は、どこへ逃げたと思う?」
視線を感じる。値踏みする物と観察する物を。糞ったれな奴ら。
犯人は、現場から離れるのが普通だ。そして、人ごみ。プロならば、そうそう離れずに機会を伺うだろう。現場に残って観察する。異世界だからといって、さっさと離れるだろうか。例えば、現場に重要人物が現れる。という事を期待して、『盾』を発動した。ついでに、『風の壁』を民衆にかけて、
「なあっ!?」
痴女が驚く。耳を割るような爆発だ。が、『風の壁』が自爆を防いだ。
周りには、空間ができた。すし詰めの中に、真っ赤な血潮。爆発させられたのか、それともしたのか。
「野郎。まさか自爆するとはな」
野郎でないかもしれない。
だが、まだだった。続いてジョセフの傍でも爆発が起きる。とんでもないボマーだ。
この分では、どれだけ爆発物があるのかしれた物ではない。終わると思った。しかし、爆発が続く。
「どこのどいつだ。叩き斬ってやる」
エリストールが、腰から剣を抜く。とっくに民衆は逃げ出して、大混乱だ。中心部に向かって逃げていく。攻撃は、主にジョセフとユウタを狙っている。ならば、いいのだが。爆発物を投げている様子は、ない。であれば、何か。見えない物。
空気か。酸素か。相手は、それを爆発する魔術にしているのだろう。
周りを見るに、敵の姿は見えない。『隠密』が使えるのかそれとも相棒が『隠密』を使う職なのか。予想以上の強敵だ。FPSをやっていたような敵に近い。敵の姿が見えないのに、手当たり次第に火線をぶっぱなせばまたしても殺戮者だ。
煙を撒くしかない。
「風爆!」
簡単なスキルで、地面から巻き上がる土煙。煙によって相手から見えなくなる。熱センサー持ちなら、照準を合せてくるだろう。
「何を、見えないぞ」
囮だ。これは。次の瞬間が、勝負だ。敵の攻勢が、どれかで決まる。勝ち筋は待つしかない。
「ええいっ」
「動くなって」
エリストールが、風を吹き飛ばす呪文を発動させる。動かない相手を察知した。もちろんジョセフや隣にいる男ではない。それとは違う。建物の隙間から、様子を伺っている。風の術に通じれば、その動きもまた手に取るが如しだ。
敵は、攻撃を諦めたのか。追いかけると。
「貴方が、今の攻撃をされたのですか」
黙ったままだ。いつもなら、問答無用で電撃を浴びせるところだ。大概、死んでしまう。スタンでもいいだろう。腰の引けた男の背後を取る格好になっている。背格好から筋肉が褐色のローブに隠れているのがわかる。爆弾スキルでも持っているのか。鑑定をかけると。
【名前】ジェイムズ
【性別】男
【年齢】32
【職業】発破士
【スキル】爆弾製造 爆薬製造 爆破 転送 任意起爆
【ステータス】◆
特殊な職だ。殺すべきかいか。はたして、振り向いた男の手には、手のひらサイズの丸い物。残念。
「がはっ」
肘がジェイムズの腹にめり込む。丸い物体は、そのまま上へ投げておいた。と、乾いた音。空中で爆発したようだ。破片が飛び散るタイプだと、大変危険だが仕方がない。範囲指定の『風の壁』でなんとかするしかないだろう。ちなみに、これは魔力の消費が激しくておすすめできない術だ。
超回復能力を持っていても、減り方が半端ではないのである。
終わりではない。まだ視線を感じる。苛立ちが、乗っている物だ。
「おい。大丈夫かっ」
と、言ってる傍からエリストールの拳が横に振るわれる。殴られたのは男か。反対に戻ろうとして、
「お命頂戴する!」
男が、手を構える。難民スタイルだ。ターバンに毛皮という。その手には、四角い箱。手をかざして、火線を放つ。
火だるまが出来上がった。そして、建物が派手に弾ける。上からも、剣を構えた男が決死の表情だ。またしても。
「あびゃっ」
飛び降りる相手に向けて、壁からレンガを引っこ抜いてなげつけていく。上から振ってくる男たちが、被弾してピンク色のオブジェと化した。
「貴様、さっさと手伝え」
声をかけられた。
倒れているジェイムズは、動かない。振り返って、反対にいるエリストールを見れば、肩を荒げている。『防壁』と『盾』が切れそうそうなのだろう。敵は、円陣を組んで囲んでいた。
味方の兵は、何処に? いるわけがない。貴賓館からは、すこしばかり遠い貧民街だ。
派手な魔術をぶっぱなすわけにはいかない。先ほどの火線で、反対側の建物が派手な音を立てて爆発したからだ。
圧力をかけてくる相手。しかし、
「ミッドガルド王国の者と知っての攻撃か」
暗殺者だ。名乗りに応じるだろうか。
自爆する連中だ。手加減できない。味方がやられてからでは、遅いし。
「……」
沈黙が返事だった。先制だ。そして、「あ、ああっ」と、己の胴を見つめる黒い覆面たち。
そこには、斜めへ赤い筋が通っている。如何に素早くとも、攻撃は一気加勢だ。手を止めたのは、愚。
「助かったぞ」
敵は、振るった手刀が見えなかったようである。斜めに身体がずれて、崩ていく。
「いえいえ。これで、終わりとは思えませんね」
爆風が押し寄せてくる。黒覆面たちの自爆だ。
「無事だったようだな。私がついているのだ。百人力だろう?」
「ええ。今後も、よろしくお願いします」
エリストールは、ぱんぱんとコートにつく砂埃を払いながら剣を収める。盾や鎧が淡い光となって消えていった。魔装の技に、磨きがかかっている。
「ジョセフさんは」
「大丈夫みたいだな。なかなか人望があるようだ」
ついでに暗殺されそうになったのか。それともメインだったのか。許せた話ではない。
『んー』
『どうしたのじゃ』
『竜人呼んじゃった』
ひよこと狐のぼそぼそとした話声が聞こえる。一体、いつの間に呼んだ。それを聞きたいが、エリストールも話すので会話に集中できない。
「兵士を募集するのが、いいだろうな」
「え?」
そんな無茶苦茶な。越権行為だ。王、或いは騎士団長、宰相がするべき事だろう。外国人がやることじゃない。
エリストールは、見下ろしながら腕を組むと。
「いや、何。自警団だよ。人間の村や街には大抵あるものだぞ。治安を守る騎士や兵士が足りない時には、そうして守っているのだろう?」
その通りでございます。でも、王様でもなんでもないんです。ですから、無茶苦茶言わないで。
「この国の兵士は、何をしているんでしょうか」
「けっ。奴らが、役になんて立つもんかよ。大概は、酒をかっくらってらあ。あんたがた、騎士なのか?」
ジョセフを抱える男が反応した。かなり、不満たらたらな様子のおっさんだ。
アルルと一緒のところを見ていたのか。それで、騎士と推測しているのかもしれない。
騎士なのか。なんなのか。わかっていない。朝から酒を飲んでいるのか。酒を飲んでも酔わないので、飲まないからその気持ちがわからない。糞野郎どもを、どうにかしてやる気にさせるべきだろうか。それとも、全員斬首にするべきだろうか。
虐殺者は、やめようと考えたばかりなのにすぐに殺そうとする。癖になっていた。まだ、見られている。捕まえる事ができたら、お話が必要だ。
「どうにか話あってみる事が必要ですね」
「本気か? ぶっ殺して、新しい奴と入れ替えるというのが貴様だと思っていたがな」
珍しいと、顎に手を添える。紅茶でも飲めば、さぞ絵になるだろうに。人が多くなれば、テロの危険がああるという事だ。多い人だかりは、無償の食料のせいかもしれない。つまり、自己責任だ。
力が抜けてきた。
「……」
「しっかりしろ。お前が、やる気を失ってどうする。食料を配給して、悪を討つ。それだけの話だろう?」
悪を討つ。望むところだ。
しかし、簡単に言ってくれる。そのために、犠牲がでるとしてもやるべきなのだろうか。きっと、貴族たちには目障りに映っているに違いない。貴族と争えば、またしても以前の戦争を繰り返す事だろう。万単位の軍勢を殺して、殺して殺しまくるという。
それを避けようとすれば、一体、どのような手段があるだろうか。核。或いは、それ以上の力を見せつける。というのも手か。究極の抑止。それは、一体何か。
「エリストールさん。ちょっと、手伝って貰えませんか」
「何? マンコを貸すのは駄目だぞ。ティアンナさまに、怒られたばかりだ」
痴女は、艶やかな声で言う。
マンコなんて、早い。しかし、単語に股間が起き上がってしまった。そんな馬鹿な。単語だけで、元気になるとは。
きかん棒を沈めるべく念じるが、エルフのいい匂い。香木を焚き染めたような。かぐわしい。
「おい?」
「ちょっと、こちらへ」
いかがわしい事は、何もしない。合体したりだとか。拓也やアキラとは違うのだよ。童貞は、結婚するまで童貞です。逆レイプは、犬に噛まれたと思って忘れます。身体違うし。大丈夫。
チンコ、歯型がついちゃってますけどね…。腐って取れそうです。
「おい? なんだ。この布は」
「魔装使って、鎧もだしてくださいね」
仕方がない。頭から布をかぶって骸骨の腕を出すと、痴女に怯えが走った。ノーパンで路上をうろつくくらいの度胸があるというのに、骨だけの手が怖いらしい。
「こ、これは、なんだ。私は、どうすればいい」
「持っているだけで結構ですよ。姿を見せないように」
と、整った顔に仮面を付ける。化粧をしていないしっとりとした冷たい肌だ。ムンクの顔に似た白い仮面に黒い眼窩。赤い光があれば、ぱっと見でならリッチそのものだ。
暗殺者たちが襲ってきた場所へ戻ると。まだ、死体はそのままだった。誰も怖がって近寄らない。
『おい。どうする気だ』
『見ていてくださいな。テロリストに人権はありませんよ』
誰彼構わず怒りをぶつける。気持ちは、自己中心的な物だ。『自分たちが受けた痛みを相手にもぶつける』これなのである。そこには、憎しみの連鎖しかない。
スキルを発動させると、立ち上がる死体。四散したはずの身体から、骸骨が10体ほど出来上がった。死体に肉がないので、ゾンビではない。
食事のいらない労働力のできあがりだ。これは、死霊王のスキルで。『アンデット製造』を使用する事ができる。余人に見せれば、嫌悪される事間違いないスキルだ。
この世界。アンデットに対する嫌悪感は、凄まじい。今のところ、リッチが人の住む街中を歩いているなんて事は、見たことがない。
敵に仕掛けるには、強烈なスキルだろう。何しろ、転生できないという。地獄か天国かしれないが。
共通スキル『変声』を使って、
「さあ。畑を耕しにいきなさい」
『お前。正気か。同じ同族だろ』
『しょうがないのです。彼らは、やすらかに眠るにはやりすぎました。困っている人を助けると思えば、彼らも喜んで働いてくれるのではないでしょうか』
と、全くの詭弁で相手を煙にまこうとしてみたが。
『貴様~。やはり、鬼畜外道! ティアンナさまの夫にはふさわしくない!』
『わっ』
揺さぶってくる。このままでは、布が解けて中身がバレてしまう。すると、でてくるのはアルブレスト家の嫡男と女エルフ。とんだ醜聞になって、お家断絶なんていうルートが見える。それは、まずい。
「このっ」
しょうがない。手でどかそうとするエリストールから離れる。あくまで、被り物が落ちてしまった風に。なんという悪党だろう。全部、彼女におっかぶせるのだ。スケルトンたちは、行列を作って北門へ向かっている。人々の視線は、半分にわかれた。
そして、仮面が外れて露わになる桃色の髪をした女エルフ。毛皮のコートから、下着が覗いていた。
「あ、あんたは。森妖精じゃないか。リッチなのか?」「憲兵を呼べーっ」「死霊使いだぞ!」「ひっ。こっちをみたわ」「恐ろしい。なんで、紛れ込んでいるんだ」「囲めッ」
哀れ。エリストールは、民衆に囲まれてしまった。このままでは袋叩きにあうだろう。
離れながら、思う。
「ち、違う。私じゃない。あいつだ。アルブレストのユーウだ」
「誰だよ。そいつは、どこにいるんだ」
見えないだろう。中には、『看破』持ちがいるかもしれない。しかし、一定範囲内にいる必要があるのだ。ましてや、壁に取り付いて登っていく。怪しい動きをしている人間は、いない。強姦しようとすれば、ぶっころだ。ぶっころ。
ちょうど、ジェームズが倒れているところの直線上。
そこに、手を置く。びくりとした反応。隠れているのは、気配でわかった。乳臭いし。視線の主だろう。
「どうして、こんなところにいる?」
「そりゃ、あんた。ほら、か、監視だよ」
シルバーナの声だ。
誰の監視だ。誰のおかげで、カジノのオーナーをやれていると思っているのだ。野死ぬ運命にあったのに、助けてやった恩をまるでわかっていない。父親は、それなりなのに。
「ほう。タイミングがいいなあ。不思議だなあ。加勢してくれてもよかったんじゃないか?」
「それは、無茶じゃないかい? 角度が、悪いさね」
あくまでしらばっくれる気でいるらしい。度々、おかしいと思う事があったのだ。中でも、レウスを巻き込もうとしたのは許せない。当たりなら、うさぎぴょんぴょんの刑だろう。全裸で。
「おかしいな。尋問は、済んだのか?」
「そいつは、与作丸の仕事さ。あたいは、その」
監視だというのか。誰の命令で? それは、アルーシュだとでも言うのか。ひよこに聞けば一発だろう。
だんだんと、油汗が浮かび上がってきた。厚着をしている。つまり、用意してきたという事だ。
あわててきたのなら、革鎧だけだろうに。
「なあ。俺は、嘘が嫌いだ。嘘判定の魔術なんて、ないけどさ。そろそろ、我慢汁も限界ですよ。食らってみる? 痛いですよ」
みるみる顔が青ざめていく。
「た、たまたまなのさ。ほら、ジョセフとかいうのを監視しておかないとさね。ねえ、もしかして本気であたいがばらしたとか思ってる?」
こくりと、頷く。
「射出された液体で、子宮を貫通して死ぬ。というのはいかがでしょう」
「その、本気じゃないよね。あれだよね。…ごめんなさい」
屋根に、暖かい湯気が立つ。黄色い汁だ。それで、済むと思っている顔だ。たまには、お仕置きだべーをするべきだろう。ちらっと、エリストールを見ると、手足を縛られて丸焼きの豚姿にされていた。
涙目で、きょろきょろと伺っている。さすがに棒へ逆さに縛られて運ばれる丸焼き寸前のエルフを見て、笑っていられない。




