247話 こいつら、早くなんとかしないと2●(ルナのオヤジ挿絵有り)
「冒険者とすれ違わなかったですけど、これって普通なんですか?」
拓也が不安そうに尋ねてくる。確かに。異常事態だ。水流の呪文で押し流してしまった可能性があるにしても、全くいないというのはおかしい。イケメンは、女の子を連れてピクニック気分のようだ。不安そうにしているのは、一時だろう。
くるくると変わる気分に付き合っていられない。
「異常、といえば異常です。けれど、こういう物でしょう。小さな迷宮でも、魔物が際限なく沸くタイプのようですし」
ダンジョンコアが見つからないとは。川辺にあるアイスラットの迷宮は3階層。もっと下があるのか不明だ。元は、地下墓地らしくゾンビがうようよ湧いてくる。限がない。だから、放置されていたのだろう。最奥に祭壇を簡単にこしらえて、聖石と呼ばれる神官、治癒術士が作るアイテムを置いてきた。
これで、ラットを駆逐しておけば掃除は御終いだ。
さっさとあったかい食べ物にありつきたい。腹が減っている。
性欲が薄いのが幸いだ。これで、セックスしまくりなんてことになったらやばすぎる。
墓場でセックスとか。
「それで、俺たちはやってけそうでしたか?」
正直に言えば、難しい。槍で突く、魔物を弾く。体勢を崩して、止めを刺す。
どれも、基本だ。しかし、物語の主人公を張れそうなくらいの魔力だとかないようだ。
まだわからないけれど。際限なく剣を飛ばす固有能力を持つとかそういう味方が欲しいのだが。
まだ、バリア持ちくらいだ。強奪持ちは、喪失しているし。騎士やら僧侶、魔術師は揃っている。
固有能力こそ、欲しい。味方に。
「まだ、わからないですけど。これからでしょう。一応、鑑定をしてもいいですか」
「お願いします」
歩きながら、鑑定すると。
【名前】スギモト・タクヤ
【性別】男
【年齢】15
【職業】剣士
【スキル】槍術 盾術
【ステータス】◆
槍スキルを覚えたようだ。細かい部分は、割愛しよう。二段突きレベル1だとか知っても仕方がない。
【名前】マシロ・ミユキ
【性別】女
【年齢】15
【職業】治癒術士
【スキル】盾術
【ステータス】◆
【名前】カミジョウ・サダコ
【性別】女
【年齢】15
【職業】格闘士
【スキル】
【ステータス】◆
ステは、割愛だ。
なんという、ノーマルキャラぶり。あまりのノーマルぶりに同情心が湧いてきた。
神も仏もないとは、このことかと。コレクターならレアキャラが欲しいに決まっている。
SSレアください。
女の子たちが、やっている仕事とまるで違う職だった。しかし、初心者なので槍でも使わないと危ない。ゲームと違って、装備できない事はないし。リーチこそ命だ。かといって弓は、修練が必要になる。適当にうっても経験がなければ的に当てるのは難しい。
ヤンキーっぽい髪型をした女の子が、格闘士というのはなんといっていいやら。普段から喧嘩を重ねていたのだろうか。
フィナルを思い出して、拓也の行く末が心配になってきた。金的とかつかわなければいいのだが…。
「うーん。武装があっていなくても、当面は槍と盾でしょうね。それ以外は、弓を練習しましょう。ゲームなら、武器が合っていないところですけどね。ちなみに、美雪さんが治癒術士。拓也さんが剣士で定子さんは格闘士です。武器は、杖、剣、爪といった感じになるんでしょうけど」
「なら、そっちの方がいいのでは?」
ゲームではないと、説明するべきだろう。合っているからといって、攻撃力が変わるわけではない。
むしろ、リーチがある分だけ槍が有利。そこをわかって欲しいものだ。
弓は、格好良いけれど実際に矢を当てるとなると難しい。
さらに言うと、動く対象に当てるのは、難しいのだ。盾で防御もすれば、矢を切り落とすスキルもある。
「お金が貯まって、自分で買えるならどうぞお好きに。しかし、槍がいいと思います。少なくとも、ゴブリンくらい呼吸するように倒せないと」
すると、不満そうだ。黙ってしまった。いたいけな少年をいたぶってしまったような気分である。
そこへアキラが割って入る。
「一応、言っとくけどさ。この先も冒険者をやってくなら、大将にゴマすっといた方がいいと思うぜ? なんたって、貴族様だし、将来の国王だしなっ。反抗的だと、あっさり捨てられるかもしれねえぞ」
ぽかんとした顔をする3人。アキラは、余計な事を言う。彼らが、どう判断するかを測っても遅くなかったのに。それに、国王はごめん被る。大陸を制圧しても、王様はごめんなさいだ。毀誉褒貶が激しい世界で好きな事もできないではないか。
人材は、欲しいけど。ノーマルキャラは、普通削除対象になるだろう。
諸兄諸氏でも、被れば削除するはず。キラキラホロになるのならいざ知らず。
こればかりは、後々ユニークスキルに目覚めるのを祈るばかりだ。
ショックを受けたのか細い声で拓也が言う。
「そんな偉い人だったんです、か」
「いえ、全然えらくないので普通に接してください。普通が一番ですよ」
フォローしているのに、アキラはそんな事を鹹味しない。
「いやいや、そんな事いってフィナル様とかに出会ったらこいつら小便漏らしますって」
そうだろうか。確かに、フィナルは過激なところがある。その上、裏では何かやっている子だ。
セリアとも喧嘩をするし、エリアスと一緒になってあれやこれやとボロ雑巾にされている。
マッチョ騎士ばかり集める性癖があるようだし、男くさいけど。
大丈夫。
「そんな怖い子じゃないんで、あ、そろそろ出口ですね」
「出口に出れるの魔術でもあるのかと思いました」
「まあ、最初はそう思うよな。転移魔術が欲しくて、大概の奴が魔術士をセカンドに取るんだけど挫折すんだよ。おかしいだろ、この経験値っ」
アキラは、自分のステータスカードをパシパシと手で叩く。壊れても知らないかのよう。割れたりすれば、再生料がかかるというのに。いや、確かに経験値がアホみたいに必要なので迷宮に潜っている必要がある。ちょっと狩りして、あとはのんびりなんてしていたらあっという間におっさんだ。
ちなみに、アキラは騎士を上げている。メインは、それに絞っているらしい。
まんべんなく上がるのは、やはりチートのようだ。
「経験値は、どうしようもないですね。すごく経験値をくれるとかいう魔物がいないので、数でなんとかしないといけません。ああ、列車しようにも知能があるので迷宮以外ではなかなか上手くいかないです。あれ」
入口からでたところ。そこから、白い鎧に白いコートを羽織った騎士たちが屯していた。
全員が、直立不動だ。
3人の日本人たちは、その異様な光景にびびってしまったのか。小さくなっている。
そりゃそうだ。全員、2m近い巨躯ばかり。
そこへ、アキラが。
「いやーご苦労さまです。ちょっと通してもらいますよー」
と、のんびりした声を出す。わずかに震えているから、彼もビビっているのだろう。
知っていても、びびってしまう。その雰囲気に。
馬車を復活させて、整列しているところまで進む。御者をしていると。
肉だるまのマッチョさん、土下座している。
その横には、倒れている幼女が2人。あわてて、お召し物をかける騎士たち。
オデットとルーシアが、手を振ってくる。
倒れているのは、フィナルとエリアスだった。どうして、倒れているのかというと。
「ふっ。何回挑もうとも無駄だ。根性は、認めるがな」
よく通る声が聞こえてくる。完全に、いじめっ子だ。黒い鎧に、銀髪の悪魔がのびた幼女たちを見下ろしている。戦っていたようだ。何も戦う理由なんて、見当たらないだろうに。
子供の喧嘩にしては、派手だ。暖かいお湯が地面を流れて、真っ赤にえぐれた大地がすり鉢になった箇所が幾つも見える。
林だった場所にあったはずの木が、どこかへ無くなっていた。
「にゃはは。いつものようにやられたであります。フィナルも残念であります」
「また、地面をこんなにして…」
誰が修復すると思っているのだ。雪がすっかりなくなって、城壁も半壊している。ハイデルベルク城と市街地を守る壁に至る耕作地は、まさに戦場になってしまった。色々な魔術を使ったに違いない。氷のオブジェクトから巨大雪ダルマまで、鎮座していた。
亀裂の入った地面を見て、頭を抱えそうになる。セリアに土下座させたい。
もはや、怒りで爆発しそうだ。人んちをこうも無残な遊び場にするとは。
おしりぺんぺんでは、もはや済まない。
ん。しかし、おかしい。忙しいとかいって、会いに来たという事。
これが、何を意味しているのか。もじもじしている。
まるで、ガチャ代にこまった汚嫁のようだ。
こやつ。
「こいつらが、手合わせを申し込んでくるからこうなった。私は、悪くない」
閉鎖空間だとかそういう都合のいい場所があればいいのだ。しかし、そんな都合のいい魔法はなかった。
迷宮でやればいいんじゃね? なんてことも考えた。冒険者の生計が破壊されるので、無理な事に気がついた。迷宮からのアイテムで生計を立てているので、そこを破壊されたら路頭に迷うに決まっている。
多分。
「本当?」
眼帯の位置を調整しているオデットに尋ねる。
「だいたいは、当たっているであります。でも、売り言葉に買い言葉でどっちもどっちであります。結構、エリアスも突っかかっていたでありますし。なんか、こうなったら勝つまでやってやらあ、みたいな事を言っていたでありますよ」
それは、そうだ。しかし、白目を剥いてよだれを垂らしている。全力を出し切ったようだ。
「でも、こんなに戦ってたら魔術大会に出られるのかな。魔力が少しも感じられないんだけど、あ。補給すればいいよね。それでも、疲労で立ってられないじゃないかなー」
ルーシアは、心配そうだ。最初は、止めようとしていた子も諦めたのか。匙を投げている。
「ともかく、直すから手伝って。セリアは、この人たちを冒険者ギルドへ案内してあげてよ」
「むー。いいだろう」
セリアに案内させれば、鬼も悪魔も裸足で逃げ出すだろうし。安心だ。
気絶している2人は、家臣に手当を受けている。筋肉ダルマは、裸のままでいる。
見なかった事にした。
地面の修復をしよう。このまま放置すると、来年は収穫できない土地が出来上がる。
城壁もぶっ壊れたままだ。北側と西側に渡って、キャッチボールしやがったに違いない。
一緒に、修復を手伝ってくれそうな人間は、
「ユーウ、もてもてであります」
「そうなのかな」
全く実感がわかない。破壊工作を受けている気分だ。どうして、他国の地面を耕しているのか。
耕した物を均しているというべきかもしれない。積もっていた雪が、広い範囲でなくなっている。
人間耕運機です。
「火炎、マグマも使ったな? これは」
「にゃはは。当たりであります。エリアスは、火属性と地属性を合わせてセリアを倒そうとしたでありますが、その結果は見ての通りであります」
均している間に、馬車を用意した騎士団は去っていった。手伝ってくれてもいいのに。
「火山みたく吹き出したもんねー。凄かったよー」
全然、良くない話だ。黒い地面は、つまり固まった溶岩。そして、怒りもマックスヒート。
「ひょっとして、怒っているでありますか?」
「これで、怒らない方が珍しいと思うよ。だから、あっちでやれと言ってるのに」
上を見上げた。専用の決闘城。他にも、場所はあるのに。
浮かぶ月が増えている。砕けて、増えて。また増える。
「あっちは、まだちょっと早いでありますよ。拙者ももっと強くなるであります」
オデットの事ではない。というか、どうしてオデットも戦おうとするのか。
「ねー。今日は、お雑煮にしようよー。お餅を焼こうよ」
いいけど。よくない。きっと、ATMされるに決まっている。しかも、今は土方のおっさんだ。
幼児3人の土方ってなんだろうか。
「面倒だ。ブレードローラーああああああああ!」
ロードローラーではない。耕運機に付いているあれだ。そして、大変だ。
魔術でちまちま埋めるだけ? そんな事はしない。耕していないと無駄だし。他の人間ではとんでもない時間かかるし。人間がいない事を確認して。
「これ、重いでありますよ」
重いに決まっている。幼女の手には余る代物だ。抱えるような格好。おっぱいがあったら、潰れているだろう。無くてよかった。
「頑張るの、オデット」
ルーシアは、応援するように後ろに回る。雪のついた黒髪を払うと。
「ルーねーも持って!」
オデットがキレ気味でいう。ありますあります言う彼女も、きついらしい。
遠くに離れたその距離、100mはあろうか。魔術でぼこぼこを埋めながら、整地し。壁の修復をしただけで半日が過ぎてしまった。
完全に、教育に失敗している。エリアスとフィナルにセリアとアルを並べてケツバットしたら、どんなに気持ちがいいことか。




