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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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244話 雪国は、退化してました。●(グスタフの挿絵有り)

 馬車を追えば、まともではない魔物がにじりよっていた。

 ティアンナだけならば、楽勝だろう。しかし、風の術が通りづらい相手が増えれば別だ。

 厚い氷で覆われたゴーレム系。素早い動きとブレスで馬車を狙うスノーウルフたち。

 空をとびまわる白い姿の鳥獣。女の上半身に、黒い瞳。ありえない生物が、宙を舞っている。


『こっちで間違いないのか?』


『信じる者は、救われるってね。西に大きな川が流れているからね。そこの下にいくと迷宮があるよ。というか、迷宮多すぎ。この国は、冒険者が少なすぎるのかも』


『危険ではないのか? アキラとやらでは、手に余る魔物ぞ。ティア、がいるとはいえのう』


 ひよこと狐が囀る。鳥馬から、狙撃していくのだ。数だけは多いが、一撃で倒せるので楽だともいう。問題は、吹きすさぶ雪と冷たい風だ。ユウタは苦にしなくとも、馬車の馬が持たないだろう。


『にしても、過保護過ぎないかなあ。ティアンナとエリストールがいれば、安心でしょ』


『なら、竜人っていうのを貸してくれ』


 竜人。竜が人になった種族だ。高い知性と戦闘力を持つとか。黒龍のような力を持っているのなら、非常に有用だ。


『無理だね』


『主さまよ。竜は、人を餌にしか考えておらぬよ。むしろ、帝国にいる黒龍が人間を操って攻め寄せてこぬ方が不思議なくらいじゃ。西の大陸におる白龍、黄龍もにたようなもんじゃろうな』


 兵隊が少ないのだ。困った事に、折りからの難民問題。それに、領地では奴隷が問題になっている。兵士と騎士の数が実態の人口よりも遥かに少なくて四苦八苦している。全員を催眠スキルでどうにかしてしまいたくなるのが、普通だろう。それくらいに、厄介だ。


 人が集まれば、光よりも先に闇が濃くなるのだから。


『うーん』


 つまらない。敵は、一撃で倒れていくから爽快というよりも作業になっている。シューティングゲームと何ら変わらないのだ。それでいて、討ち漏らせば馬車が危ないという。若干のスリルを味わいつつ、地面からの敵で馬車が浮いたりする。


 護衛の兵が、指揮官とはこれ如何に。


『竜族は、ね。ボクだって、本音を言えばそうだもの。獣人だって、そうじゃないのかなあ。今は、押されているみたいだけどね』


『猿がいっちょまえの面をしておるがの。竜は、プライドばかりが高いのじゃ。ま、当面は好きにするがよかろう。どうにでもなるのじゃ』


 仲良くすればいいのに、争う事を宿命づけられているかのよう。人は、他を迫害して生存領域を広げるからだろう。生存競争なのだ。竜の巨大な体躯を維持するには、カロリーが馬鹿みたいに必要だろうし。人間がいては、おちおち休めないだろう。


 憎み、妬み、争うのが人の常ならば。なお、優しい世界を夢見る。

 

 赤い光弾が、杖から放たれる。焼け落ちていく魔物たち。地を埋め尽くすように集まってきては、屍を晒す。何者かに操られているかのよう。毛玉が、ごろりと寝返りうった。フードの中は、獣臭くなっている。体臭がきつい。


『どうして、こんなにも魔物が増えているんだ。冒険者は、何をしていた?』


『知らないけど、迷宮を掃除していないのは確定的だね。少なくとも、耕作できるような状況じゃないよ。ひょっとすると魔族の影響かもしれないね』


『この地には、獣人も少ない故の。わらわが語りかけて、動く霊狐もおらぬ』


 雪狐とかいないのであろうか。不思議だ。


『狐族は、寒いところにいないのかよ』


『霊力の強い者には、交信できるのじゃ。されど、資質無き者に語りかけるのは難儀よ。それと、獣人を魔物と同一に見ておるようでな。森妖精や風妖精が迫害にあっておる。そんな国じゃよ。ここは』


 糞みたいな国だった。差別も迫害も一定の理由があるのなら、理解できなくもない。しかし、さしたる理由もなく弾圧して奴隷にしたりするなど。おかしいではないか。もちろん、そういった事がありもしないのにあったあったというのもおかしい。話を広く集め、事実を明らかにするべきだろう。


『それもいいけどさ。あの闇鴉っての放っておいていいのかな。なんなら、ボクの方で始末しておくけど』


『お前は、やりすぎるし。手を煩わせる事じゃない』


『さすが、我が主さま。こやつの考えておりそうな事を読んでおられる』


 普通に、わかる。DDは、人間を殺す時にしか手を貸さない。どんな殺されからをするかわからない上に、根っこから殺しているのではないかという。そう、根切りを容赦なくやる奴なのだ。可愛らしい人間形態とは裏腹に。


 闇鴉についてわかった事といえば、何者かの依頼を受けているという事だけだ。捕らえようとすれば、自爆、自害をやってのける。忍者姿をしているので、与作丸辺りで話がつきそうな気もするのだ。なんとか、事を収めたいところ。なんでも殺していては、恨みが増すばかりだから。


『来るかなあ』


『絶好のポイントだね。ボクでも、ここが仕掛けどころだと思うよ。両側に林があるポイント。更には、その奥に川の支流がある。逃げるのも、伏せるのもここよ』


『そうかの。迷宮に入ったところを追っていく方が、良いのではないじゃろうか。わらわなら、迷宮で戦っているところを狙うのう』


『ぷーくすくす。それ、セオリーすぎじゃん。入ってくれば、逆にわかるしー。風の術で捉えられるじゃん』


 それは、どこでも同じだろう。相手が、林に紛れこんでいる時が危険だ。地中を移動するワーム系の魔物。ファンタジーでも定番の巨大ミミズは、現代人の想像を超えた怖さがある。何しろ、でかい。飲まれれば、死ぬ。巨大な蛙もそうだろう。頭からぱっくりされて、蘇生不可になる冒険者は後を絶たないのだ。


 地面は雪。落とし穴でも掘っているか。はたまた、


土壁(アースウォール)!」


 火では、雪が爆発してしまう。四方から迫る敵の攻撃を避けつつ、馬車への火の玉を防ぐ。先に土系を使って支配権を制しておくことが寛容だ。眼下を進む馬車に、投擲物が迫る。敵のそれをティアンナの術が粉砕して、広がる爆風が押し寄せる。


 赤い火の粉が、上がって。

  

(青の蒼。来たれ、水瓶よ。水面よりもなお深く。無限に広がる永劫に流転するそは、清浄なれば。移り出ずる瀑布。射出。湧きいでて、池を満たせ)


「水流」


 垂れ流し、押し流す。幸いに、近くにある川へ流れ込むだろう。或いは、迷宮か。雪を押しのけて、水が四方を浸していく。と、固まっていった。敵の術か。


『火と氷の術者がいるようだね。油断していると、馬車がやられるかもしれないよ』


 そうは、いかない。術者を捉えた。そのまま振りかけらる水を浴びて、氷へと変じた。術者がいようが、数がいようがものともしない術だ。飛び上がって、水の上を駆けてくる。それに、火線を浴びせかける。光の速さで、敵に迫る攻撃を浴びて黒装束たちは蒸発していく。


 敵の数は、多かった。しかし、水に飲まれて消えていった者が多い。水面を走る者は、少なく。かつ、丸裸。弱くは、ない。アキラなら、倒されているレベルだ。或いは、ティアンナがいなければ馬車を守りきれなかっただろう。黒い塊が、虚空に生まれる。


 そこから、鴉に乗った黒装束が炎を放ってくる。分裂して、二対になると。

 3人。1人と2人に分かれた。鴉は、分裂するようだ。真っ黒な巨鳥の上で、呪印を組んで。


「降参するなら、今の内だ。今ならば、全てを許そう」


「ほざけええええ、一族の仇っ」


 少女の血を吐く絶叫だ。恩讐が詰まっている。故に、決戦は避けられそうもない。移動しようとする黒い鴉の動きが止まった。


「今、ならば。か」


 瞑目する男は、どこか与作丸と同じ雰囲気を感じさせる。同族なのかもしれない。


「ひさめ、かげろう。お前たちは、手を出すな。私が負けた時は、依頼を放棄するのだ。そして、この者に仕えよ」


「父上?」


「別に戦わなくとも」


「そうはいかん。散っていった者たち。全ては、私の目算が狂っていた。ミッドガルドがでてこようとは」


 男は、覚悟を決めている。しかし、殺すまで至らない。真っ直ぐに、接近してくる鳥に乗る男。

 速い。弾丸と化している。不意を付いたつもりなのだろう。その腕が伸ばされて、刀が振り下ろされる。

 刹那に、白刃を受け止めて。根元から叩き折る。


 馬車には、被害なし。地面からの奇襲も落ち着いているようだ。拳を腹にめり込ませると。

 手刀で、布を奪っていく。鍛え上げられた筋肉がでてきた。【封印】を掛けておく。自爆されては困る。


『手加減するの?』


『人材が足りない。使える人間なら、1人でも欲しいね。この人、火線の対策を知っているようだし』


 そう。火線は、接近された状態では使いづらい。特に、水場では。相手と相討ちに持ち込まれかねないのだ。水蒸気爆発して、もろともに死ぬ可能性を否定できないのだから。

 一撃で、崩れて。悶絶しながら、下から刃を繰り出してくる。


「おおぉおおぉ』


 雄叫びを上げながら、しかし、からぶる。返す刃を振り回すところに、拳を入れていく。

 全身の骨を砕くと、鴉が消えてしまった。落下する男の手首を拾いながら、ゆっくりと降下していく。

 

『武器がなくなっても、殴りかかってくるのは大したものだけど。弱くない?』


『印を封じられては、ただびとじゃろ。おんしも、鬼じゃわ』


『鬼じゃないもん。竜だもん。ぷんぷん』


 弱くない。しかし、セリアほどでもなく。そして、接近戦をするには自力で飛んでいるくらいの能力が必要だ。


「貴様ぁ~。よくも、父上を。許さないぃいいいい」


 女の声。それを、遮る手の主は低い声で。


「かげろう。父上の言葉をもう忘れたのか。このままでは…。あの方に勝てない」


「しかし、兄上。あやつは、一族のことごとくを葬った。我らが、仇を討たずしてどうするのです」


「それで、女子供まで巻き込むつもりか? 弁えろ」


 なんてことは、しない。しかし、与作丸はどうだろう。アルーシュは? するかもしれない。

 レウスが怪我をすれば、血迷うかもしれないし。わからない。未来なんて、決まっていないのだ。

 

『あー。でた。迷宮に、水が流れこんでボスが底からほら』


 川辺から白い塊が、姿を現す。巨大だ。10mはあるのではないか。立ち上がるそれは、ネズミに似ている。しかし、爪はでかい。巨大に成長したというのに、眷属と同じスピードで馬車に向かっている。魔術で吹き飛ばすのもいい。


 鳥馬から飛び降りると、そのまま地面に着地した。痛みは、ない。普通の身体なら、足の骨が折れて横たわっているところだ。ましてや、大人の身体など持つことなどできない。足の指に力を込めて、地を蹴れば100mが瞬きの内。


 流れる景色を横目に、迫りくる獣を迎え撃つ。風の術を行使するだろうか。ぬかるんだ地面を蹴りながら、前へ。


『珍しいね。殴って倒すなんて。もしかして、いいとこ見せようとかいう。ぎゃぴ』


『たまに、締めたくなるよね。こう、きゅっと』


『そのままやってしまえば、いいのじゃ』


『ひどいー。しぬー』


 力を緩める。ひよこは、死なない。潰れても、生き返るだろう。ただのひよこではないし。襲ったりすれば、魔物の方が危ういのは確実。白い氷の肌を殴っていく。拳は、ありえないほどの打撃力を発揮して眷属のアイスラージラットが吹き飛ぶ。


 連続で殴っていても、スキル補正『強打』『強拳』『剛打』『剛拳』『貫通』『吹き飛ばし』がかかる。幼児の拳だ。普通なら、素手で殴ったら潰れるのはユウタの拳だろう。小さな手だし。

 見上げながら、腹を殴っていく。


 力を入れれば、向こう側が見えるほどの威力。人間ならば、恐れをなして逃げ惑うだろうに。飛びかかってくる相手を肉塊に変えていくと。親玉が覆いかぶさってきた。否、爪による振り下ろしだ。それを避けながら、殴りつける。


 アイスデビルラットの腕が無くなった。急に風が吹く。息を吸い込んで、相手の動きを止めようというのか。同時に、蹴りがやってくる。敵の攻撃をまたしても拳で粉砕すると、横倒しに倒れていく。すかさず、もう片方も拳を叩きつける。


『うわー、ぐろいー』


『肉が、売れそうじゃな』


 売れるのだろうか。魔物肉なんて、なかなか口にしない。よほど困っていないと。最近は贅沢になっている。道を塞ぐ巨体を引きずってどかす。まだ、狩りをしていないのだ。馬車に視線を送れば、むっつりとした青い髪の少女が馬を進めてくる。


「…ユウタ。上手く倒さないと、肉が食べられない」


「気をつけます…」


 ティアンナに怒られた。殴って倒すと、ハンバーグくらいにしか使えないのだ。魔物の肉が嫌いだという人間もいるので、誤って出せば食品偽装に当たってしまう。


「これが、ボスなら中には雑魚しかいない?」


「入ってみないとわからないね。ひょっとすると、水浸しで中に入れないかも」


 これだけ魔物があふれてきたのだ。下手をすると、テロってしまったのかもしれない。いや、きっとそうだろう。人間の冒険者がいない事を祈るしかない。戦闘の結果とはいえ、迷宮に水を流し込んでしまった。こういう事は、事前に告知しておかないといけないのである。


 ハイデルベルがどうなのかは、知らないが。 


「まだ、まだだ。放せ、兄上。父上の、皆の仇を」


 鴉に乗った黒装束が馬車に近寄ってくる。まだ諦めていないのは、陽炎と呼ばれた妹の方か。

 炎の術を使ったのは、妹の方に違いない。きっと。

 鑑定を使えば、名前もスキルもステータスもわかってしまう。


 陽炎。火の忍術レベルは2だ。与作丸と同じ程度。それでは、話にならない。瞳術も使えるようだが、それでも実戦で使えねば意味がない。


『仲間にするの?』


『さて、どうしようかな』


 反抗的な女は、まだ戦いたそうにしている。力の差を見せつけて、ねじ伏せる獣欲が湧き上がってくる。

 どうしてか。


「いいとも。なら、父親と同じように戦いを挑むもよし。兄は、どうする」


「わたしまでも戦えば、一族は」


「負けたら、殲滅するしかないね。挑むという事は、そういう事だよね」


 唇を結ぶ。覚悟は、ないようだ。そして、声を荒げる少女は刀を抜いた。

 

「いいのかなあ」


「死ねぇえええええ! 爆遁、火球乱れ撃ち」


 印を組むと、同時に火球が飛び出す。至近距離だ。水を壁を張れば、爆発するだろう。土の壁であれば、吹き飛ぶだろう。ならば、そのまま殴る。次々と飛来する火の玉。でかいそれは、馬車も狙っている。


 許せない。

 爆発するよりも、速く動き。殴っては、接近する。


「ば」


「馬鹿な? ふう」


 足を掴むと、振り回す。変な方向へ足が向いた。エロゲならば、このまま、尻につっこんでぱんぱんするところだ。悪党なら、そうなっているだろう。或いは、顔面パンチで歯が全部無くなっているとか。レウスの馬車を襲った時点で、手加減するつもりはない。折れ曲がった足をそのまま。


 地面に叩きつけると、おとなしくなった。父親よりも、ずっと根性がない。

 女だからか? 違う。セリアなら、やられてもやられても立ち上がってきた。彼女のような人間は、そうそう居たものではないのだろう。


『やっさしー。ちょっとやさしすぎない?』


『腕を突っ込むくらいしてやっても、よいのじゃよ?』


 二匹は、ドン引きするような事を言う。毛玉が、女の子の上で飛び跳ねる。まるで、倒したかのように。

 土下座した男を見下ろしながら、エリアスがこない事を考えだした。

挿絵(By みてみん)

いろどりいろは様作。グスタフです。


「なんか、悪っぽいよな」


「濃い顔です」


「顎割れてそう」


 アキラは、そのうち殴られる事を言い出した。

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