233話 弟と道場 (ユウタ)
寒いです。ココロが。
え、懐が? 悲しくなってきましたよ。
そっちも寒いです。
ジングルベルがなってますよね?
もちろん、なってますよね?
今宵も、サンタコスでカップル狩りをしないと。
ほら、万年シングルベルがなっているんですよ。
血の涙を心で流しつつ、ですね。
ええ。
愛なんて、どこにあるんでしょうね。
流されるようにして、付き合っちゃいなよ。YOU。
お前が言うなって?
わかりました。ロシナを好きなだけ殴っていいです。
あ、アキラもやりまくってるんでオマケしときます。
NTRも托卵もノーセンキュー!!!
◆
最近、寝るのが早くなっている。
疲れているのだろうか。
ユウタは、後5日に迫った大会の事を思い浮かべた。勝手知らぬ大会。
ひょっとすると、己を超えるかも知れない。そんな実力者がいるかもと。
期待に、胸が高まる。
(まあ、なんとかなるだろ)
そんな曖昧な風でいいのか。不安を感じつつ、下調べをするか迷う。
出場者の事。勝敗は、相手の降参か死か。
魔物の事も気になるし。やることは、沢山だ。領地の書類を片付けて、それからレウスを迎えに行くか。
そうして、微睡む。
『グスタフの事は、いいのかなー』
『仮にも父親が、黙っている事をほじくり返す訳にもいかないだろ』
『これ、主さまができない事を無理強いするでない。こやつめの言う事は、たまーに疑いなさいますよう』
『ひどいなー。ボクは、いつだってユウタの味方だもん!』
ひよこが追求してくるが、言えない事はある。狐は、尻尾をわさわさせて注意するけれど。隠された秘密を暴き立てて、家庭に波風を立てる事がいいのかどうか。わからないのだ。
素知らぬ顔をして、やり過ごすしかないような。そんな気がしている。誰にでも、隠し事というのはあるのだし。言いたくない事だって、あるだろう。ましてや、隠し子など。
疲れで、目が覚めないと思ったが。
朝は、早い。といっても夜も早くなっている。ユーウがいた頃は、そこのところを分担してレベル上げもできた。しかし、今、ユーウが融合しているのか消滅してしまったのか。反応がない以上、安全な場所で寝るしかない。その間は、無防備である。刺客でもやってくれば、やられるかもしれない。外であれば、魔物、魔人も襲ってくるだろうし。
ベッドから足を下ろす。ふにゃふにゃの足だ。とても、岩を破壊できるような足ではない。肉が付いてはいるが、子供相応の足であった。靴下を履くと、スリッパに足を入れた。
足元には、ちび竜たち。樹やわんこの姿は、ない。ひよこと狐に毛玉がローブに付いているフードの中に転がっている。
(人型を止めて、食っちゃ寝しているよな。こいつら。ああああああ)
叫び出しそう。
ひよこに狐。悩みが無さそうだ。朝から、レウスを修行に出さねばならない。それと、学校へ編入できないか。
その手続きだ。学校に通うのはいい。冒険者になるにしろ、ならないにしろ。友達を作るには、学校が一番だし。行きたくないような出来事が起きれば、ユウタの力業で解決だ。
(レウスがうんと言ってくれればいいんだが)
廊下を歩きながら、寒々とした冷気に身が締まった。
人見知りなので、断られる可能性がある。しかも、昨日は魔族の手下と交戦して滅茶苦茶であった。
主に、戦場が。アキラは、防御するので手一杯だったし。特殊能力を失ってからも、諦めずにハーレムを目指しているのは評価したいが。そんなにハーレムがいるのだろうか。不思議な気持ちになってくる。
(アキラは、やりたいだけなんじゃねえのかなあ。若いからかね。暴力とセックスと金が大好き、みたいなとこあるしな。わからんでもないけど)
とかく、女を顔で選ぼうとするのだ。ネリエルには逃げられて、マールとチィチが残っているような状態だ。さらに、女奴隷を宛てがったのだが。
(そっちには、手を出さないんだよな。どうかしてるぞ)
誰でも言いわけではないのか。選り好みをしているようでもあり、してないようでもある。
顔を洗いながら、食堂へ向かう。すでに、桜火が弁当の用意を済ませていた。
手渡される毎日の弁当箱に感謝しながら、
「おはようございます。ユーウ様」
「おはよう。今日のは」
「ハンバーグを主にサラダとポテト。それに餃子を詰め合わせてみました。ハンバーグは、タレに工夫がしております」
ハンバーグに仕掛けがあるのだろう。肉を口に入れると、とろけるような。じゅわっと染み出てくる旨みとか。チーズが入っている事もある。にんにくが効いていれば、鼻まで貫く刺激があったりする。肉にもそれ用の牛やら豚を使うので、タレやらソース無しでも美味い。
桜火からは、いい香りがする。大人の女性だ。
(いかんいかん。血迷ってどうする。…戦うのは、どうにでもなるんだ。俺だけでいいからな。問題は、レウスが同じように戦えるかどうかなんだよなあ)
銀髪の弟。血が繋がっていない弟。まだ見ぬ弟もいる。
薔薇か何かか。鼻腔をくすぐる香。笑顔をみせる女性に、惑わされそうだ。
暖かな気持ちになって、困っている。食堂へ向かいながら、雀の音がする。
末と思った弟に、更なる弟。心配していた事態が、拡大して止まらない。
グスタフは、どこまで把握しているのか。知っていて放置しているのか。
放置しているのなら、人として、親として間違っている。
しかし、
(父親を殴るって、言うのは簡単だけど。やっぱ、難しいぞ)
ユーウならどうしただろうか。彼なら、容赦なく殴りつけただろう。
爺の方なら、説教したに違いない。しかし、ユウタはどちらもできない。
年功序列、長幼の功。入り乱れる記憶が問題だった。
勇太と悠太とユウタ。3人の記憶が絡まって、こんがらがる。
ユウタは、2人の人格が統合されてできたような。そんな得体のしれない存在なのだ。
シャルロッテやルナに変わりは、ない。しかし、ルナといいオルフィーナにオヴェリアは一体何時になったら帰るのか。まるで、我が家のように住み着いている。
(3人とも金遣いは、荒いし。買いまくるし。オデットとルーシアが癒しだわ)
この辺が、貴族と相容れない。ユウタは、守銭奴なのだ。金が減ると、途端に不安に駆られる。
ちょっとでも領地の経営が、赤字に傾こうものなら居てもたってもいられないだろう。
それでなくとも、持ち出しの多さに嘆いているというのに。アルーシュの投資といい、飛空船の建造といい。ダムを作るのは、いい。それは、まだわかる。しかし、軍事費がでかい。
いくら食料を売っても、まだ足りないという。金は、天下の回りものとはいえ。
食事は、朝から豪華だった。楽しそうに、妹や弟がしているので反対できないでいる。
が、この辺りでびしっと言うべきか。食卓には、全員が揃っている。いや、レウスがいない。そして、ザーツも。
ユウタを察してか。
「お兄ちゃん、食べないの?」
「いや、食べるよ。ただね。ちょっと、考え事をしていたのさ」
妹は、不安げだ。安心させるように。がつがつと口に放り込むと。
「ユーウは、上品に食べなさい。よく噛んで、ほらこう」
おませなルナが、これ見よがしに言う。殴りたい。幼女の笑顔。
食卓の白い布を引っくり返すとか。子供を相手に大人がする事ではないけれど。
愛らしい顔ではあるが、衝動が湧き上がる。その気があるのかないのか。
多情な子であるから、相手にしない方が身の為だ。
「…今日は、学校にも顔を出すよ」
「毎日、ちゃんと学校に行かなきゃ不良になっちゃうよ。先生がいってたもん」
不良って、なんだそれ。思わず言いそうになる。
どこの先生だ。妹に言われて、湧き上がる怒りが脳髄を支配する。
ユウタが、補給をさぼれば前線の兵士は干上がる。
妹の言う事を聞かないユーウではない。しかし、事情がある。何も好き好んで欠席しているわけではないのだ。
レウスを学校に通わせる手続き。これを済ませて、レウスとアキラを連れて道場へと向かうのがいいだろう。学校に行っても、戦いがある訳でもないので退屈だ。しかし、レウスが友達を作るのにはうってつけの場所。彼には、もっと広い世界を見てもらい成長してもらわねばならない。ユウタと違って、異世界人とかいうようではないようだ。
(弟の学校もそうだし、魔物が潜んでいた山の調査もあるんだよなあ。あー、どうしよう)
問題は、次から次に出てきて概ね知略でどうこうできる範疇を超えていた。
アキュに与えた飛行船がやられるほどの魔物たち。獅子の頭に山羊の頭と合成獣まで混じっていた。
さらには、悪魔もどきの蝙蝠羽を持つ下級魔族。数が問題だ。
ユウタやセリアは、問題にしないが。ウォルフガルドの獣人たちには、きついだろう。
冒険者でない、レベルを持たない兵士が多分に混じっているのだから。
死体も多い。頭が無ければ、諦めるより他にない。その場に居合わせれば、不可能ではないが。
そんなユウタを見てか。
「ユーウってば、人の話はちゃんと聞かないと! 駄目なんだからぁ」
「聞いてると思うけど、ルナちゃん」
明るい金髪をサイドアップにした幼女が、ヒステリックな声を出す。オヴェリアが控えめに言う。
嵐が過ぎるのを待つのみだ。なだめても、更なる悪化が待っている。どうして、女子はこうなのか。
ユウタには、わからない。子供だからか。
「わかっているって。学校にも、顔を出すと言っているだろ」
「ふ、ふん。そんな事を言って、欠席したら酷いんだからね。ローエンくんに、聞くから」
学級が違うのに出席しているのか把握しようしている。ローエンに言い含めるべきだ。
ルナがむくれて左右にいる2人がなだめるという。そんな風景を後にした。
向かうのは、レウス。次に、アキラのところだ。なぜ、アキラかというと。
「俺が、子守…かよ」
朝早くから、叩き起こすと。元ハゲが、ごねる。
昨晩もお盛んだったのだろう。
乱れたシーツに、がびがびの股間を綺麗にするまで時間がかかったようだ。
朝までやっていなかったのは、幸いだった。流石に、昨日から今までやっていたら困った事になる。
もこもこした髪の少女が、用意を整えて食事をとっていた。
奴隷であるが…。
「あー。俺んとこ、こんな感じだからさ」
「そうしたいなら、それでもいいけれどな」
レウスは、食事を取ったようで物欲しそうな顔をしていない。
母親は、外を掃き掃除していた。何か、不安でもあるのか。
周りを伺いながらだった。身体の調子は、戻っても何かがある様子。目が離せない。
配下であるアキラの食事も切り上げさせると、向かうのはミッドガルドにある道場。
(学校よりも、道場かね。下手な時間に連れてったら目立つ)
ルナや妹に気がつかれる可能性。それを考慮に入れると。レウスを連れて、武者修行だ。剣を教える道場で、ミッドガルドにはそこかしこに道場がある。
日本の物は板張りであるけれど、ミッドガルドのそれはローマ風だ。
大理石の柱が立つような。そんな切り出しの建物で、武術を教えているという。
忍者がいるせいか、床を板にした道場もなくもないが。
そちらにも行かなければならない。
剣闘士から拳闘士まで。入口の衛士に話をするが、けんもほろろの対応だった。
「なあ。これって、道場破りなのか? ついでに、なんで俺がミッドガルドに入国できているんだよ」
質問ばかりだ。対応は、アキラが外人だった事。それに、子供ばかりで相手にされなかったという。
「レウスの護衛ですよ。わかりますね?」
「いや、わかんねえもん。わかんねえから、聞いてるんだぜ。説明もなくて連れてこられてもさー」
いちいち説明しないといけない男だった。
察しが悪いというべきか。
レウスに聞こえないようにして、言うべきだろう。
「特訓ですよ。そして、ミッドガルドに来たがってましたよね」
「あー。そりゃあ、そうなんだけど。なんだかさあ。汚いもん見るような視線が、気になるんだけど」
そうなのだ。ミッドガルドは、重度な差別が存在する。即ち。
「金髪でないと、人扱いされない事がありますからね」
「なんでだよ。それ、マジでおかしいし。なんとかしねえといけないだろ」
なんとかする。その必要を感じない。
なんとかしなければ、いけないのだろうか。それが、気にいらないなら他所の国にいくべきなのだろう。金髪は劣勢遺伝なのだから混じれば黒髪に負けるはず。理由も色々ある。
だれもが金髪。次いで銀髪。銀といっても、白髪に近かったりするので困った物だ。
逆に、差別されるのがアキラたち日本人の黒髪だ。髪と皮膚の色で、差別される未開の国である。
「んー。でも、差別なんてどこでもあるでしょう?」
「いやいや、ねーよ。そんなん」
「日本人の常識は、当てはまらないですよ」
「話し方、元に戻ってんぞ」
と、言い含めていれば、
「どうやら、困っているようなのだ」
「これは、いいタイミングですね。さすが、アル様」
騎士たちを連れていない。斜め後ろに、黒髪を白銀の兜で覆う女騎士がいる。
周囲に騎士と兵が散らばっているようだ。まるで、囲むようにしていた。
アルルは、えっへんという感じで鼻息を出す。黄金の兜に鎧を纏っていた。
つかつかと、歩いて寄ってくると。レウスの頭を掴むと、脇に抱える。
助けを求める視線が、弟から飛んでくるけれど。それは、別に攻撃ではない。
我慢するように、視線を返す。
「ここで、何をしているのだ?」
「ええと、道場を見学しに、ですね」
「ほほう。道場破りなら、衛士をぶっとばして入るがいいのだー」
幼児はむふーっと、口を結んで言う。手を振りながら、否定の意見をシグルスに求めるが。
「いやいやいや」
幼児の後ろを見ると、いない。白銀の鎧を纏った騎士が剣の柄で門で槍を持つ男の首を打っている。
眼を疑うような景色だ。
「あの?」
「さー中に入るのだ!」
どうして、こうなっているのかわからない。道場を囲む兵。それで、予感をする。道場破りをするかどうか。確定していないのに、勝手に道場を破る物だという風に仕立て上げられた。そんな感覚を他所に、アルルとシグルスは奥へと進んでいく。
「さあさあ、頼もう! われこそは、アキラ。剣豪ハルトムートよ、いざ勝負!」
「え?」
アキラが、素っ頓狂な声を出す。シグルスがアキラの名前を騙って、突き進むのだ。チィチもびっくりしていた。強かに打ち据えられた家人たち。柱を抜けて進んでいくと。少年たちが、そこで待ち構えていた。立っているのは、仮面の男と家主か。
髭を蓄えた美丈夫だ。布を肩から着るスタイルだった。寒いだろうに。
その横に立つ、仮面をつけた白い頭の男だ。
その感じの悪さときたら、えにも言われぬ物がある。
どうして、そのような悪性を感じるのか。真っ白なイメージとかけ離れた汚液といってもいい感触。
腐臭に満ちた恨めしい骨と凹んだ眼窩が訴えかける。男の背後に、ぼうっと浮かぶ霊体だ。
女、男。子供まで。数多の死霊が取り付いている。
「何かな? ここは、武を高める教練の場所。貴様たちのような、あ? で、殿下?」
「いかにも。このお方こそ、ミッドガルドの継嗣たるアル王子殿下なるぞ。者共、頭が高い!」
後ろにいたアキラの足を突いて、しゃがませる。
「ふーむ。こやつ、が。なあ。シグルス。調べは付いたのだろうな」
「はい。この者。外国人であり、本国では幾人もの罪無き男女を殺害したる咎人でございます。恩人を殺し、友と呼ぶ男を殺し。戦場にあっては、上官を殺し。平素にあっては、身分を詐称し、美貌と才覚を以て、人に取り入りたる由。ましてや、愛を嘯き家族を食いたる人鬼とか。直ちに、処刑するべき悪にて候」
成程。見た目は、白く仮面を被る。真っ新な。外見だけならば、白鳥のよう。
流麗な立ち姿だというのに、悪寒を感じていた。この者、人の姿をした邪悪。
「何か、弁明する事はあるか?」
「殿下、この者は…」
そこまで言って、白い髪に白い鎧を着た男に動きがある。
何もさせない。床を蹴ると、滑るようにして男の腕から頭頂までを斬る。
「かっ」
短く声を出すと。手刀を受けた男は、赤い噴水を上げて横に倒れた。
何かを喋りたかったようだ。が、聞くだけ耳が汚れる。
悪即斬。
「そんな。この者が何もできないとは」
「この世に、悪の栄えたためしはなく。外道に、慈悲はない」
感想からすれば、雑魚だった。期待外れ。
そんな雑魚の死に様に動揺したのか。
後ろに後ずさるハルトムートは、眼を大きくして驚いていた。
ちらりと見る弟は、眠そうな顔をしてる。ショックだった。
「お見事。剣士として、最上の域にあると言われた食人鬼も形無しですね」
シグルスが、家人を捕縛していく。取り調べが待っているのだろう。
死した外道。鑑定すると。
世には白騎士と知られる。またの名前を、白嶺のバルパレオスだったか。
完全に、名前負けしていた。
「おかしいだろ。大将、剣を持ってねえじゃん」
アキラの突っ込みは、無視だ。最強を目指すのに、得物は要らず。
曰く武に極意有り、無刀こそ極地也。




