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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
413/711

228話 パンツ・・・2 (ユウタ)

 魔術大会まで、あと6日。

 しかし、エリアスは倒れてしまった。

 馬車の奥には、ユウタが空間魔術で設えた部屋がある。部屋を繋いだというべきか。

 馬車の奥にある扉から移動できるのだ。


「服を着替えさせて、身体を拭いといてくれないか」


 ミーシャは、白い綿毛のようにふさふさとした耳を動かしながら頷く。


「頼む」


 幼女は、お仕着せの革鎧のまま上からエプロン姿。ベッドの前で、エリアスを下ろして頷く。

 酷い有様だ。汗と汁と何某か名状しがたい汁と。塗れてべっちょり。

 ミーシャは、パンツを取ると。


「!?」


 差し出す。臭い。そして、茶色い物がついている。これは、女の子に言葉いうのなら相当なショックだろう。胸にしまっておかねばならない。

 ずいっと差し出される。


「いやいや」


 これでは、まるでパンツ泥棒ではないか。汗が染み出てきて手ぬぐいを取ろうと、ユウタがポケットに手を入れると。


(ば、え。何、なんだ?)


 湿った布の感触。これは、


(まさか、パンツか)


 嘘つきはユウタだった。

 ミーシャのジト目に、耐えてやり過ごす。 

 パンツ泥棒をしようだなんて思っていない。布をそっと、エリアスに握らせてミーシャに任せる。

 思いっきり怪しまれている。


(世界1位さんじゃないし、俺にはそんな事できやしねえ)


 人にできない事をやってのける。だから、世界1位。メイブリッジに、パンツ。

 特に、女の子のパンツ被ってたり匂いを嗅ぐとか。無理だ。

 ベッドに寄りかかる幼女を白い布で、ミーシャが拭いていく。口元には、布が巻かれている。

 

(ひょっとして、臭いのかな? まさか、なあ)


 まさか【補給(リフレッシュ)】したらすぐに魔力が溢れかえるとは。想像していたが、エリアスの容量は大した事がないようだ。魔力は、精神力に直結してくる。即ち、精神力があるということは根性があるということではないのか。だというのに、日本人には魔力がない。アキラは、冒険者と騎士を得ている。騎士をレベリングするのに苦しんでいるようだ。


 火力がいなくなってしまった。見れば。

 レウスやアレインがセイラムを連れて戻ってくる。

 ゴブリンに、灰色の狼、大型の猪。飛来する矢がつながれた馬体に弾かれた。

 矢を弾く障壁が展開している。とはいえ、侵入されないほど強固でもない。


「すっかり囲まれているのか」


 魔物たちは、木々を利用して移動していたようだ。アキラとチィチもまたオークの集団に囲まれている。

 周囲には、魔物の死体が。左側は、山側。右は、開けた平原なのだ。穴でも掘って隠れていたのか。

 魔物の数は、増している。


 馬車を走らせて魔物の群れへと突っ込む。


「乗れ!」


 強行突破。ではなくて、降りると。そのまま、電撃を乱射する。普通は、電撃なんて人は撃てない。手から放たれる青白い光を見ながら、矢を弾き飛びかかってくる狼の頭を殴り飛ばす。


「大将、俺らは?」


「引っ込んでいてくれ」


 エリアスが倒れているので全部ユウタが倒さないといけない。水を大量に流して電撃を放つのもいい。しかし、どうしてそれが地面に流れていかないのか不思議だ。いや、それを言えば空中に電撃がでてくる事。それ自体がおかしな事になる。川に電撃を流してみても、大量の魚が浮いてくることはないし。魔術とスキルの組み合わせでそうなるのか。


 水に流れていくよりも地面に流れていってしまうほうが物理法則にはあっている。つまり、アイスシートのスキルとサンダーのスキルでどうして電撃が流れるのか。それが、また不思議だ。導体でいうなら銅辺りでもなければいけないのだ。検証すれば、頭がおかしくなってしまうだろう。そう、電気は絶縁体である空気を突き破るくらいの電圧があるから流れる。


 そんな感じで。

 電撃をばらまけば緑色をした魔物が倒れていく。粗末な剣に防具をつけていた。

 狼、猪に乗っていたのか。鞍が付けられている。物言わぬ身体になって、残骸が地面に横たわっていた。

 そこに、巨体がでてきた。

 身体は、5mほど。ゴブリンの顔に、みちみちとした筋肉。大きなゴブリンが、盾を構えている。

 木製だ。電撃を恐れたのか。


 唇の端を上げて、火線を放つ。ジャイアントゴブリンの構えた盾には、膜が張られている。

 防御用らしい。しかし、水のよう。例え、氷を張っていても結果は同じだ。

 水蒸気爆発を起こして青い巨体は、四散した。


(たあいもない。雑魚だな。しかし、レウスにはきつい。あと、数か)


 鋼鉄の鎧を纏ったオークの戦士たちが、武器を持って巨体の影から走り寄ってくる。

 口から牙を生やし、手にもつなんとも知れぬ剣やら棍棒を振りかぶって。

 馬車に取り付こうというようだ。


(ふん。あまいんだよ。考えが)


『上、味方が来たんじゃないかな。誰かさんが、連絡を入れたみたいだよ』


『主様の手にあまるやもしれんからの。獣人どもめ、ちゃんと魔物を退治しておかんといかんのじゃ』


 ひよこが、肩の辺りで狐と囀る。この2匹。たまには本気で戦って欲しいものだ。

 もっとも、変身を嫌がるのであるが。

 下手に手を出されるのも困る。空中に飛来しているのは、飛空船。駆逐艦クラスか。

 青い色と白で染められている。船体にあるマークは、皿にチーズが乗っている。


(どこの船だ。知らない間に、エリアスが建造していたのか)


 金がどんどん使われていて、セリアといいエリアスといい。人の財布をあてにするものだから、怒りが募る。

 オークは、間合いを詰めて濁った黄色い目を開き、飛びかかってくる。その足を殴りつけて、剣を持つ腕を粉砕する。頭が下がったところを裏手で殴れば、頭が潰れて噴水を作った。


 1匹や2匹ではない。困った事に、相手の数はどんどん増えていく。エリアスが使役していた召喚体。それが倒していたものに比べて手数が少ないせいかもしれない。【人形化】は、奥の手だ。ならば、鎧になるか。それは、勿体無い。


 剣を抜き放ち、斬撃を飛ばす。烈空剣、一の太刀。片手だけで放つ一刀流の技だ。

 空中を空気の刃が飛ぶスキルでもある。誰が登録しているのか。謎だ。

 苦戦していたゴブリンたちがどのような動きをしても、それが真っ二つにしていく。

 電磁剣を使うまでもない。上がるのは、ゴブリンとオークの悲鳴だ。使役しているのであろう魔獣は、逃げだしている。


 倒せども、キリがない。

 空中から、敵か味方か。騎兵が鳥獣に乗って降りてくる。

 空中で、蹴散らしたはずのグリフォンと戦っているようだ。

 山から出てきているのか。群れが、数を増やしている。


(こいつは、軍団を投入するべきだ。まさか、東側がこれほど魔物に侵食されているなんてなあ)


 住民がいなくなって山から森から、でてきたという訳か。

 コーボルトの虐殺は、許しがたい。今になって、むかむかしてくるという。


(そういや、コーボルトを操っていた日本人たちはどうなったんだ? 連絡がない。種族の鏖殺なんて考えた野郎は、けじめをつけてもらわねえと)


 話にならない。殺しまくろうと、作戦を考えた訳でもない東条は東京裁判で死刑になったというのに。ウォルフガルドでのナチズムもどき。それを主導したであろう日本人が裁かれないのは、どうにもおかしな話だ。


 平野部分には、いなかった。それゆえに、進んできた。多少のゴブリンが目についたけれど、エリアスの使役する水銀の盾で狩っていたので楽だった。


『しくじったなあ。これは、酷い』


『えへへ。黒龍でも呼んじゃう?』


『それは、ない。あいつ、地形を変えて暴れだすだろ。適当な、げっ』


 ゴブリンたちの駒は、グリフォンだけではないようだ。乾坤一擲か。獅子の身体に、蛇がうじゃうじゃと載った魔物。山羊の頭が尻にくっついている。それが、4頭。飛び跳ねながら、距離を縮めてくる。


『キメラかの、妾たちの出番なのじゃな?』


『わからないが、待ってくれ。俺で、十分だろう』


『あちゃあ、残念。ボクは、いつでもスタンばってるよ』


 このひよこを暴れさせたらウォルフガルドが危ない。蜥蜴だらけにする事は、火を見るよりも明らかだ。目に眩しいどやー姿。白い毛玉の方は、馬車の中で遊んでいる。


「オマエ、ニンゲンカ」


 驚いた。従えているのは、ドレッドスネークキマイラ。その影に、黒い肌をしたゴブリンは珍しい。というか。ゴブリンに、似つかわしくない個体が立っている。いや、人語を話す時点で人なのかもしれない。


「だったら、何か問題があるのか」


 合成獣(キメラ)は、動かない。期待させてくれる。どの魔物も大概は、放つ一撃で死んでしまう。

 いや、一撃で仕留めていたから。苦戦する方が、楽しいではないかという。相矛盾したところが、でてくるのだ。敵は、強くあって欲しい。だから、セリアを鍛えるなんて事をユーウはしていたのかもしれない。

 普通は、敵を育てたりしないものだ。


 顎を撫でるゴブリンは、


「コレガ、チートヤロウトイウヤツカ」


 どうも、人間であったかのような口ぶり。それも日本人の香りがする。だが、バレバレだ。

 話をしている間に、スキルを奪うという。目だ。


「強奪系かよ、じゃあな」


「ナニ…」


 相手は、目でスキルを奪うタイプ。それほど、時間をかけられない。同時に、相手は飛ぶ。

 が、雷光剣が身体を引き裂く。焦げて黒く炭化した相手を鑑定すると、


【イジメ・ヒュウガ】

【種族】ゴブリンロード

【状態】死亡

【固有技能】 強奪Ⅴ 妖精神の加護 権能の魔眼

【技能】 鑑定Ⅴ 身体強化Ⅴ 使役Ⅴ 召喚魔術Ⅴ 剣術Ⅴ 等


 ステータスも下まで見ない。もう、見るのが億劫なくらいにスキルを持っていた。こういう個体こそ、チートではないのだろうか。

 人の事を言えないが。合成獣たちもまた返す雷光を放つ線が焼き尽くす。どうやって、この電撃が形を保っているとか。深く考えたら、キリがないだろう。試しに、地面へ刺してみるけれど。地面に吸い込まれて消える事がない。むしろ、触れている場所がつるつるの鏡面になった。

 

(こいつは、エリアスたちじゃ荷が重かったな。下手すると、かぼちゃ頭でアヘ顔ダブルピースさせられていたかもしれん。よかったよかった)


 ただ、黄金橋をかけられるという類を見ない体験をさせられた訳であるが。彼女を殴ったりは、するまい。そう誓って、馬車に戻る。蘇ったりしないように、ゴブリンロードの死体は、きっちりとゴミ箱ホールに投げ込んだ。ダンジョンで消化されて、真っ当な魔物としてアトラクションを盛り上げてくれる事だろう。


 荒みきった大地に、鳥馬に乗った忍者が降りてくると。


「や、やーやー。そのー、大丈夫でしたか」


 ニンジャーズのチーだった。左右には、レッグ、テリコ、クレアと獣人が並ぶ。地面に鳥馬が足をつける。それに騎乗したまま、寄せてくるので。


「ここ、魔物で溢れかえってますね。報告は、上げているんですか?」


 馬車に乗り込むと、馬に鞭を入れる。大将がやられたせいか。魔物は、ほうほうの体で逃げ出している。

 それに火線を飛ばしていく。


「はい。それなんですけどねー。ボスを倒しちゃった、んですよね?」


「ボスというと、さっきのゴブリンの事か。あいつは、やばかったな」


「いやー。さすが、漆黒の、あれ?」


 チーは、馬車の御者台を見てそれから視線を向けてきた。


「エリアス様は、どちらでしょう」


「俺が、倒した。見れば、わかるだろう」


「いやー、え? 本当ですか」


 この小ビット、物分りが悪いのか。それとも、ユウタの思いすごしか煽られているのかわからない。

 レウスが見ているかもしれない。仮面を取って正体を晒してしまうのは、不味い。

 コビットのほっぺを掴むと左右に引っ張って、持ち上げた。


「はう? 痛い、痛いです」


「アキュさんは、来てるんだよな。さっさと周辺の魔物を片付けてくれ」


「あうー。に、ニンジャーズにこんな暴力を振るう人はいないのに~。ほら、レッグさん、テリコさん、クレアさんやっちゃってください」


 すると、猫耳をしたテリコが、


「そら、断ります~。だって、こんだけの魔物を1人で倒したんやったら…隊長、そらもうSランクも真っ青やって。噂に聞くあの人並やん。うち、まだ死にたくないもん」


 ぽよよんと胸を揺らす。薄い服しか来ていないような忍者姿。中身は、モンクなのだ。

 レッグは、やはり眼鏡を光らせて言う。


「俺も、テリコの意見に賛成。まずは、アキュさんに手配書の魔物『這い寄る黒い邪妖精(ゴブリン)』が退治された事を連絡するべきなんじゃね」


 冷静な言い様だ。チーは、最後に残ったクレアを見る。彼女は、水色の髪の毛に目を隠したまま首を振った。


「びえええ。た、隊員が反乱ーーー? あれえ? なんで? なんで、反乱が起きちゃってるのーーー!?」


 どうも、チーはギャグ体質のようだ。飛び上がってあたふたとしているから、笑いをさそうというか。


「ここに、拠点を作りたいですね。その手伝いをしてもらえますか?」


「あ、はい。あれ? あれれ? なんで僕は、返事しているのーーー?」


 チーは、混乱しているのか。ふらふらとして、明後日の方向を向く。

 鳥馬は、勝手に飛んでいきクレアは慌てて追いかけた。どうなっているのか。

 空の戦いも済んだ様子。飛空船が、高度を下げてくる。


(砦を作るついでに、レウスに剣技を教えるとしようかね)


 土の魔術を発動して、山際に近い位置から壁を作る。魔物の気配は、すっかり遠い。

 目に見える位置には、姿がない。場所的にも、ちょうどいい。北に行けば山。南は、海。東には平野。

 海岸沿いに、魔物を駆逐する拠点になるだろう。

 馬車に寄って、


「もう大丈夫だぞ」


 扉が、開く。


「敵は、いなくなっのかよ。って、壁ぇ?」


 周りを土の壁で覆われているのに、アキラが気がついた。

 レウスともども降りてきて、


「この壁、魔術で作ったんだよな? ぱねぇ」


「基本だし。魔法みたく家ができるわけじゃないからな。ただの土の壁だ」


「いや、つってもって…。なにかするのか?」


「ああ。レウス、構えろ」


 レウスは、微動だにしない。構えといって、構えがわからないのだ。

 いろは、もそこそこ正眼からだった。


 


 



 






 

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