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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
412/711

227話 幼女の・・・

 明るく魔灯が照らす事務所の室内。

 アキラは、奥の方でくつろぎながらのんびりと飯を食っているようだ。

 登録を事務所の方で済ませると。エリアスは、むっつりした顔のままだ。


「本当に、ゴブリンを退治しに行くのかよ」


「そうだが?」


 セイラムとアレインがいそいそと支度をしてやってくる。

 向かうのは、馬車でも使って東に向かうのがいいだろう。

 道は、混んでいた。


「ふえー。いいけどさ。何も、雑魚から教えようってのかー。だるくね? もっと強いのいるとこにしよーぜー」


 エリアスのかぼちゃ頭を取ると、大人げないと思いながらほっぺたを左右に引っ張る。


「ふぎゃ。はにすんだよ」


 おらおらおらと、ぐにぐに引っ張った。レウスが、ゴブリンを倒せるのか。まだ、わからないのだ。


「レウスは、まだレベル10だぞ。ゴブリンを相手にするのは、危険だ」


「ちょっと待てよ。それ、普通だから。兵士が10くらいだし、ここのやつらだとレベルなんてなくても戦う事だってあるんだぜ? 当然、やられたり食われたりするけどなー」


「死んだらどうすんだよ」


「へーきへーき。弟の為なら、地獄だってへっちゃらだろ」


 へっちゃらではない。精神が摩耗するというのに。エリアスは、全然わかっていないようだ。

 人の弟をゴブリンの餌にでもしようというのか。さらに、頬を伸ばして泣く前にやめた。


「ふぐぅ。手加減しろよなー」


 泣き顔だが、当然の報いだ。レウスは、守るしレベルも上げるのだから。

 アキラパーティーも加えて転移門を開くと、町の外へと移動する。

 馬車をインベントリから出す。


「なんでも入ってるよなあ」


「なんでもじゃねえ」


 愛がない。愛が。アガペーとかいう無償の愛などは、信じるに足りない。所詮人は利己で動くもの。


 レウスを馬車の後部に乗せて、前にはアキラを。後ろにはチィチとエリアス。

 アレインとセイラムはおまけ要員だ。ついでに、ミーシャを給仕につけた。

 戦闘が殆どできない人間が、4人と。黒髪に黒く染めた兜を被る少年が。


「なあ。ユウタさんよ」

「なんだ」


 話かけてきた。アキラには、事情を話している。物分りが悪いので、勉強していたところを連れ出した。


「借金が返せないんだ。どうしたらいい?」


 かぼちゃ頭を被せるべきかもしれない。アキラの髪をむしりとりたい衝動にかられた。

 この話。ループしている気がする。馬に鞭を入れると。


「地道に、無駄遣いをしないで働けばいい。それと、夜の大運動会をしすぎだぞ」


 後ろの方を気にしながら、いう。後ろでは、馬車の荷台で寛いでいる子供たちの姿があった。

 板で仕切りが付いている物ではない。が、馬車といいながら戦車よりも硬い装甲だ。

 アルが乗るので、自然と魔術と科学を合わせた鋼板がつかわれている。

 それでいて、外の景色が見放題だ。


「あ、ごめん。でもな。無駄遣いは、してないんだけどな。なにか商売を教えてくれよ」


 なにか。漠然とした言い方に、不安を感じる。手っ取り早く儲けようと思えば。


「魔剣とか作ったりは、できないのか?」


 アキラは、そんな事ができないとわかっていていう。科学の発達した世界から着たというのに、彼ときたらお菓子のつくり方すらわからないし。電気や電流、それに電圧といった理系も学習が遅い。インピータンスが何かわからない。シーケンス制御が何かわからないというのはいい。理系を使った金儲けができないのなら、料理か裁縫か。


 そういったところも。


「無理だろ。そんなんできてたら、俺、鍛冶師になっているわ。職業を変えようにも、レベルを上げるのがきつすぎだろ」

「そんな事はないと思うぞ」

「それさー。あんただけだから! ったく。なんだか、不思議だよな。仮面、むぐ」


 御者台に立ち上がって、アキラの口を手で塞いだ。べっちょりとした唾液がついた。気持ち悪い。


「ともかく。金をただの冒険者もとい非正規雇用者が稼ごうと思ったら、命懸けの仕事をしなきゃな」

「職安にするなよっ。夢が見えなくなるだろ! なあ、エリアス様も言ってやってくれよ」


 少年は、職安と聞いて顔色が変わる。なんなら、ハローハローなワークにするべきか。


「んあー? いいんじゃね? その職業安定所ってのに、アキラはネガティブなイメージを持ってんのな。前向きに考えようぜ。あっ、ちょっと先にいったらゴブリン共が待ち構えてやがるぞ」


 御者台から入れる作りだ。中に座る魔女っこが、水晶玉を覗き込みながら言う。

 把握した。岩陰に隠れている。道沿いには、畑があった地帯を抜けて山肌に差し掛かる辺りか。

 人家は、ラトスクの周りに少ない。東側は、開発が遅れているようだ。

 西側に偏りすぎた。馬車の中にいる弟を探すと、


「レウス、やれるか?」


 こくりと頷く。子供の身体に、相応の剣。短い剣だ。それで、ゴブリンがやれるのかどうか。

 緑色と肌色をした背丈の小さな姿が見える。近寄っていくにつれて、待ち伏せをしている様子が見てとれた。


「周囲のは、俺が排除しとくから」


「この子がねえ。よし、チィチ、やろうぜ」


 アキラとチィチが左右に立つ。パーティーは、アキラ、チィチ、エリアス、レウス、アレイン、セイラム、そして、ミーシャだ。ユウタは別にしてある。

 レウスは、ゴブリンが出てきたら前に出る役だ。

 剣士(セイバー)を取らせた。

 素振りをしたりしている。心配で仕方がない。鈍色の甲冑を小人族風にしつらえて、兜も頑丈な物を。


 ゴブリンたちは、馬車を囲むようにして移動していく。好都合だ。

 通り過ぎるのもいい。しかし、レウスのレベリングである。


「んじゃ、まー他のに気をつけて」


 アキラが、盾を構えた。長方形の2mはあろうかというラージシールドだ。

 木製の盾に魔術でコーティングがしてある。鋼鉄ではない。

 弓矢が飛来する。それを受け止めていると。


「前に出んなよ。こいつら、ゴブリンアーチャーが混じってんじゃん。俺が、倒しちまうぜ!」


 電撃が、緑色をした小人を貫く。姿を見せていたゴブリンが倒れて、一際体格のいい魔物が出てくる。


「オークども、隠れてやがったか」


 手には、棍棒を持ち大股で歩を進めてくる。2m長の背丈に毛皮。厄介だ。毛皮には、剣でも刺さっているかのように突起物がある。よく見れば、それが人の骨であった。かつても、苦戦させられた相手で見た目とかレベルで判断してはいけない。丸太のような腕には鉄の輪っかをつけていたりと、装飾品を装備している。

 オークにゴブリンを見て、


「油断すんなよ。ユーウ、こいつはやべえ。手伝ってくれ」


 黒い三角帽子の鍔に手をつけた幼女は、声を鋭くして言う。

 次の瞬間。飛来する魔物を殴り飛ばす。頭は、鷹だった。胴体は、真っ白な羽毛。

 爪も鋭い。だが、頭は弾けて魔物は倒れた。


「グリフォン? そんなの聞いてねえぞ」


 アキラが、焦った声を出す。

 ゴブリンがグリフォンを飼いならしていたのか。タイミングよく飛翔してきたのかわからないが。

 魔物が追加されて、アキラは防ぐので前に出れない。レウスやアレインたちもまた影に隠れるように移動している。

 魔女っこが、 


「こいつは、結構なハードじゃん。チーに嵌められたか? きっついぜ」


 箒をくるくる回して言う。箒の先からは、電撃が伸びる。細い稲光がオークたちを焼く。が、真っ直ぐに走ってくるゴブリン、オークの混成部隊。


「どうだろう。たまたま、強力な魔物が出てきたのかもしれない。ともかく、こうなってはレベリングどころじゃないな」


「次は、弱いのを期待するぜ」


 アキラは、弱気だ。だが、チィチと作る壁の後ろでは怯えた子供たちがいる。

 もう少し、都合よく弱い敵が出てきて欲しいものだ。スライムでも、叩くゲームのようにあって欲しい。

 だが、


「ちょ、あれ、ジャイアントタイプか!」


 山肌の向こうから大型のゴブリンが歩いてくる。目が2つ。サイクロプスを彷彿させるような魔物だ。

 青白い肌に、丸太の一部を持っている。投げられれば、馬などひとたまりもないだろうという位。

 不意打ちをするのには、ちょうどいい地形なのか。相手は待ち伏せをしていたようだ。 


「エリアス」

「任せときなー。魔力を吸い込むような奴じゃなきゃあよっと!」


 炎槍(フレイムランス)。長大な槍が箒の先に出る。空を滑っていき、ジャイアントゴブリンに炸裂した。その間に、水銀の召喚体がゴブリンたちを貫いていく。レウスたちの身体が、淡い光を帯びる。レベルが上がっているのだろう。


「それなりに数がいたのか。お疲れ様」


「んー、肩が凝ったわー。俺、そんなにタフじゃないんだぜ」


「そうか。おやつでも食べるか?」


 黒い長袖に覆われた肩。エリアスは、さも凝ったように腕を回す。

 インベントリに何があるか考える。大抵の物は、揃っているが。

 レウスの戦いは、魔物に止めを刺す事になっていた。前に進みながら、アキラたちと一緒になって魔物が死んでいるかどうかの見聞といった感じになっている。

 ユウタは馬車の御者台に乗りながら、隣に帽子をとる幼女が座る。


「いただくぜ。何かな何かなー。クッキーがいいんだけど。あと、珈琲は砂糖を一匙。ミルクも入れてくれよ」


「はいはい」


 白い耳を左右に揺らす幼女に視線を送ると、そこには既に珈琲が用意されていた。そして、砂糖と白い液体が注ぎ込まれる。皿に木の色といった菓子を乗せる。インベントリには、豊富なお菓子が常備されていた。アルがすぐに出せというので、常にお菓子は用意してある。 

 

「つーか、さー」


「うん? 何だよ」


「このパーティー、俺が養殖してるみたいなんだけど。レウスの修行になってねえじゃん」


 黙って狩りをすればいいのに、愚痴だ。だが、女の愚痴は聞いてやらないとヒステリーを起こす。


「そうだな。でも、グリフォンやらいるようだし安全って訳じゃなさげだぞ」


「そりゃわかるぜ。でもさー。なんつーの? ぎりぎりの戦いでしか得られない物って、あんじゃん? 俺はそういうのがしたいの」


「ないものねだりをするんじゃねえ。ほれ」


 出すのは、ちょっと変わった生地に具が乗ったほかほかの代物だ。単純にピザなのだが、インベントリの中では時間が止まっているのである。出来立てほやほやに、湯気を上げている。熱すぎるそれ。

 はたして、エリアスは気が付くだろうか。

 

 口を大きく開けた幼女の手をとる。気がついていない。


「いただくぜっ」


「まだ、熱いぞ」


 ほかほか湯気を上げているのだ。口に含まれてから、吐き出されては叶わない。

 空から、またも敵だ。飛翔する相手を火線で打ち落とす。

 

「それさ。どーやって一瞬で撃ってんの」

「そりゃあ。秘密だ」

「教えろよー。普通、こき使ったらそれくらい教えてくれたっていいだろ。なあ」


 そんなに簡単に師匠は、教えたりしないものだ。人の技は、見て盗めというのに。

 幼女は、無いものねだりをするというか。


「お前なあ。俺が、素材を取りに行く時にはついてこなかっただろう?」

「俺だって、忙しいもん。学校もあるしさー。魔道具を作るのって、時間がかかるんだぜ」

「それは、わかる。なら、とんとんで教えられないな」

「そこは、胸を貸すつもりで教えたっていいじゃん。けちけちすんなよ」


 この幼女。自分で強くなろうという気がないというか。英才教育を受けたというのに、独創性がないというか。水銀の盾は、強力な魔術だけれど。どこかで見たような術。スノーマンを使う術を使っていたというのに、とんでもなく退化しているようだ。幼女だけに。


「詠唱は、省略か破棄のスキルを取る。それで、解決じゃないか」

「それなあ。上級職のスキルじゃん。省略しようにも、できない術ってあんじゃんかー。火線みたいにさー。省略すっと、とんでもなく威力が落ちて線香花火みたいになんの。使えねーじゃんか」

「火線だって火線Ⅰから火線Ⅱで倍率が違う。熟練度を上げれば、解決だろ」

「それ、どんだけ魔力があまってんだよ。無駄打ちするような魔力が、お前以外の奴にそんなあるとおもうなよなー。だから、教えてーっていってんじゃん」


 要するに、この女。【接続(リンク)】させろと言っているのに等しい。【接続】は、フィナルが蘇生をする為に許している。アルーシュがどうしても魔力が必要だというので接続したり。そんな簡単にどんどこ他人と接続していったりすれば、枯渇するに決まっているではないか。


 だが、


「うーむ。なら、レウスとパーティーを組んでいる時に【補給(リフレッシュ)】してやってもいいけど」

「にひひ。ありがと。恩にきるぜ! じゃ、さっそく」


 さっそく、空中から飛来してくる鷲型の魔物。グリフォンの群れに向かって、エリアスは箒の先から赤い光を放った。太いそれは、空中で拡散していく。


「うっ。ほ、補給を」

「やるな。大した腕前だ。いいのか?」

「いいから、早くしてくれ。気絶するぜ」


 いいのか。これは、色んな意味が入っている。

 彼女の魔術は、魔物の集団へ見事に命中した。よろめく幼女がもたれかかってくる。

 広い御者台なのに、座らずに倒れ込んでくるとは。アキラたちは、魔物に止めを刺すので夢中のようだ。

 魔力の移動に、手を取ると。


「あ、ああ。あひぃああ…」


「おい?」


 薬でもキメたのか。不気味な声を上げて、エリアスはよだれを垂らす。汚い。

 アキラの唾で汚れた手を洗ったばかりだというのに、災難が続く。

 今度は、幼女のよだれが降ってきた。


「あ、あう、ああ。も”、も”、は、はい”らない」


「おいおい。誤解を受けるような事をいうんじゃないぞ」


 振り返れば、ミーシャが興味有りげに見ている。

 次の瞬間。顔面の位置にあった股間から、シャワーが降り注いだ。


「ひぎぃい。もう、もう…」


 幼女の顔は、色んな汁で大変な事になっている。お互いに。  

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