225話 サンドバックは (ユウタ)
エリアスは、いろいろと災難が降りかかる。
大会の期日は迫り、彼女は困難に直面する。
発覚する父親の隠し子。ユウタは、弟(血の繋がらない)の為に奔走する。
食卓では、ルナとセリアが仲良く飯を食べているのを横にしてさっさと、切り上げた。
よからぬ事に巻き込まれそうだからだ。
フィナルは、さっさと帰ってしまうし。エリアスは、着替えから出てこないし。
(そして、これは、どうなってんの)
登城してみると、レウスにギルがいた。というよりも晩餐会の如き広間にポツンと、長いテーブルが置いてあって。そこに、レウスが座っているという。後ろでは、ギルとその姉が給仕のように控えていた。レウスは、混乱しているようだ。
壁は、黄金で、ところどころ白い柱が並んでいる。目に悪いくらいのギラギラぶりだ。
シグルスが手で招くそこに、
「おはよう。よくきたな」
「はっ。お召により、参上致しました」
「むー。その仮面といい、これはいいとして、その行儀の良さがむかついてくるのだ」
アルルは、座ったまま顔の前で手を組んだ。その横には、シグルスが立っている。
「しかし、ですね。これは、しょうがなくないですか」
「貴族が揃ってなければ、構わないのだ。砕けた口調で話す者も少なくないぞ」
「そっちの方が問題ですよ!」
(まだ、子供なのに、無理だろ)
ユウタが、8歳だったころに果たしてお城で堂々とできただろうか。いや出来なかっただろう。
シグルスは、何も言わない。アルルは、王族。もう少し、厳しい口調というか威厳が欲しいもの。
王族なのに、偉そうにしないのはどうした事だろう。
レウスの前には、幼女たちが並んで座っている。
「ともかく、今日は、狩りに行く前におやつにしようと思う。あ、レウス。こいつらは知っているな?」
テーブルに座る面々を見たレウスは、首を横に振った。なぜだか、身体が震えているようだ。
「ふーむ。なら、紹介しておくか。横から、白い仮面の変態。ユウタ。その隣がセリア、エリアス、フィナルなのだ」
変態ではない。なぜ、変態にされているのかわからない。白いケモ耳の幼女を撫でるセリア、エリアスが頷いている。フィナルは、暖かい視線を向けてきた。
(どうしてよ。まさか、パンツの件か?)
といっているところに、顔面へ爆撃でもあったかのような女と男が入ってくる。
2人は、入口で立ったまま。
「遅いですね。シルバーナ。与作丸」
片方は、長かった髪が短く切られている。無造作に切られて、坊主にでもしようかという勢いだ。
シグルスは、目を細めて言う。罪人に対する処罰のよう。
「ご覧の通り、彼らも反省してます。貧民街の開発を推し進めるべく、資金を投入する予定もありますので許してやってください」
許すも許さないも、シルバーナも与作丸も関係あるのかどうか。
監督責任があるとなれば、アルーシュがそうだ。彼女が、偵察任務や潜入をやらせていたのだからこうも殴る必要はなかったろうに。
「えっと、具体的に何かやったんでしょうか」
「2人は、貧民街を管轄にしています。仮に、遠く離れていても管理監督は責任があります。特に、事情を知らなかったとは言えないはずですよ。なんでしたら、管轄を外しますか。そちらの方が2人にとっては痛手だと思いますが」
2人の視線が、ちらっと合う。
それは、踏んだり蹴ったりだろう。過酷な任務についておきながら、呼び出されて顔が青くなるまで殴られているとか。
「それは、ちょっと待った方がいいかと」
「お優しいですね。それと、2人の配下「まっ「お待ちください!」
「だー、人が言おうとしているのを遮るのは良くないのだ。けれど、シグルスもやりすぎてはだめなのだ。2人も反省しているようだし、ユウタに告げ口をするのは待つのだ」
ほっと、した表情。幼女は、顔を俯かせた。何をすれば、そうも慌てるのか。気になる。
「何をしたの」
「勘弁してくれ」
与作丸が、手を合わせた。シルバーナは、そっぽを向く。
何を勘弁するのか。盗賊を使った取立てが問題といえば、問題であるような。
しかし、取立てとは厳しい職業だ。普通の精神では、持たないだろう。或いは、それを元に人を痛めつけるのが大好きというような人種になら向くのかもしれないが。2人は、入口の床で正座をして反省の姿勢だ。
「まー、あれなのだ。レウス、こういう奴らだから仲良くするのだぞ。むー?」
レウスは、黙ったままだ。というよりも、ぼそぼそと返事している。
「おびえているようですね。セリア様、あまり威嚇しないように。彼女は、殺気を放っているようですけれどそんなに怖い人ではありません」
「あ、あの。僕は、こんな場所にいてもなんのお役にも立てないと思います」
「そんな事はないぞ。これから、狩りにいくのだ。供をするようになるからな。ギルの方には礼儀作法を叩き込むから、姉共々、メイドたちと授業があるのだ」
「僕はっ」とギルが言いかけて姉に口を塞がれた。
どういう事になっているのか話についていけない。食卓に使われる長いテーブルには、柔らかな生地のケーキが白いクリームを乗せて出されている。さらに、苺を切って形を整えられた物のようだ。セリアが、いくつも食べている。お代わりを何度もしていた。
「狩りとは、どこへ?」
「お前が考えるに、決まっているのだ。適当な場所に連れていくのだ」
「あたくしもついて行きたいのですけれど、ここはエリアスさんにお任せしますわ」
「ええ? ちょ、ちょっと待てよ。きたねーぞ。また逃げやがっ」
ショートケーキを食べて満足したのか。フィナルは、席を立つ。
「朝の仕事、まだまだありますもの。仕事を疎かにしては、面目が立たないですわ。それでは、お先に退出致しますの」
「むむ。回復が減ってしまったのだ」
回復役が、エリアスとユウタになってしまう。となると、固定砲台はセリアという事に。
しかし、
「ふっ。残念だが、今日はパスだ。ユキシロを世話と紹介しないといけないからな。それに、ウォルフガルドで人の手配をしなければならない」
「む、むう。となると、誰が、砲台役になるのだ?」
レウスの育成だが、レウスが戦わないとあまり意味がないような気もする。
当面は、
「今日のところは、殿下がでるまでもないでしょう。夕方のパーティーにご参加くださいますよう」
「ふむー。なら、エリアスだけなのか」
「ええっ? ちょっと、俺、修行したいんですけど」
「黙れっ! このへっぽこ魔女。スカートまくしてかぼちゃにするぞ! 聞けば、まるでセリアに歯が立たなかったようではないか」
「そ、そのう。それは、相性が…」
「そんなのは、言い訳なのだ。ユウタは、セリアをぼこぼこにできるのだ。話にならない」
かぼちゃ頭のエリアスは、黙ってしまった。
アルルまで、顔を膨らませてエリアスに食ってかかっている。これでは、サンドバックもいいところだ。麦を束ねて打たれているような感じでエリアスの株が、下がっている。
「大会がありますから。やる気を見せる事でしょう。エリアスなら、やってくれますよ」
というと。
「その件だが、本当に、エリアスと結婚はしないんだろうな? 嘘だと、ぶっ殺すのだ」
「子供が、婚約するとかいう方がおかしくないですか」
「ふーむ。まー、私との婚約を破棄しない限りエリアスは無理なのだった。そうか、そうか。残念だったなエリアス」
それが、サンドバックの理由だろうか。
というような訳がわからない話になる。王子もどきと婚約をしているのだから、エリアスが望んでもそうそう破れない。家を捨てるというのなら、なんとかなるのだろうが。魔女っこの家は、なかなかに厳しそう。その背後には、魔導騎士が控えている。お目付け役であり、同時に監視役なのかもしれない。逃げ出さないように。そして、両親に逐一報告があるとか。
想像して、げんなりした。
「ふふ。それは、それで大変です。とはいえ、今回の大会には例の指輪の資料と破片が賞品になっているとか。是非とも勝ちたいのでしょう」
シグルスが、訳知り顔をした。彼女なら、なんでもお見通しという感じだ。
ひよこに、毛玉、それに狐が足元でケーキをねだる。どうも、食べたくてしょうがないらしい。
ちょっとだけ拝借して、皿を下にすると勢いよくなくなってしまう。
白髪の幼女と目が合って、ぷいっと顔を背けられた。残念。猫人なのに。にゃんこなのに。
にゃあにゃあ言わせるチャンスなのに。
「それでは、レウスとエリアスを連れていってもいいですか」
「うむ。ところで、どこへいくのだ?」
「ウォルフガルドの東です。正確には、ラトスクから東に向かって狩りをしようと思ってます」
「ということは、ゴブリンとかオークとかそんなのか」
「そういう事になります」
「ふーむ。それじゃあ、貧民街の整理でいいな。だるいのだけれど。しょーがない」
シグルス任せなのだろう。アルーシュは、ウォルフガルドにかかりきりだし。帽子を取った幼女が、
「ご、ゴブ、リン?」
「そうだが?」
「ちょ、ちょっと待てよ。そんなんじゃ「パンツ」わーーー!」
仮面の口元を押さえる。幼女は、パンツが弱点のようだ。熊のパンツは、どうなったのであろうか。
フィナルとなにやら会話していたが、そのまま有耶無耶になってしまったのかもしれない。
2人のやり取りは、不明だ。
「あ、レウス。ああいうのに、なっては駄目なのだぞ」
「う?」
レウスは、う、としか言えなかった。どうも、極度のあがり症のようだ。
がちがちに固まっている。
「リラックスしろといっても、セリアは殺気を隠そうともしないのだ。困ったのだー」
なぜか、セリアが殺気を放っている。どういうつもりなのかわからない。
「ふん。雑魚を育てても、雑魚のままだ。ユウタも酔狂な事をする」
「すぐに、セリアと同じぐらいにしたいな」
「ちょっとまて、それ、俺は? ねえ、タッグパートナーは俺だよな? ちょっと、ひどくね?」
ぱこんと、エリアスのかぼちゃ頭をはたく。
「十分に強くなってるじゃん。その上を目指そうっていうのなら、死に物狂いっていうかだな。本気っていうのが、ないとな。誰もが鍛えているんだから、同じ事をしてもセリアに勝つのは厳しいぞ」
「空間魔力炉」
「それ、奥義なんだけど。他人に、奥義を教える奴がいる、のか?」
「いいじゃんかー。出し惜しみすんなよ。なっ」
とんでもない事を聞く。エリアスが空間魔力炉について興味を抱いているのは知っている。
強くなりたいのなら、結局のところ自分で強くなるしかない。師でもないのに、弟子になったつもりで幼女は聞いてくるのが困りものだ。
レウスの手を引いて、すたすたと歩き出す。エリアスが、あわてて帽子を手に追いかけてきた。
シルバーナと与作丸の顔に回復魔術を掛けて、退出すると。
「なーなー。教えてー。なーってば」
「駄目に決まってるだろ。どうして、そんな事を教えなきゃいけないんだ」
「ほら、セリアに勝てないといけないじゃん? 他のやつらも倒せるようになってないとさー」
「そのうちな」
手を引くレウスは、息を大きく吐き出した。エリアスは、エプロンから箒を取り出すと。
「そのうちだな! さっさと行って、レベルをあげようぜ」
湿っぽかったのに、元気がもう出てきたのか。
すぐだと脳内で変換してそうだ。幼女と言語が、たまに違う。
王宮の中にある転移室からラトスクへと転移して、部屋を出ると、
「3人で、狩りにいくのかよ」
「なわけあるか。このラトスクでアレインとセイラムを拾って冒険者ギルドにいく」
「知らない奴を入れるんか。大丈夫なのか。心配になってくるぜ」
レウスを冒険者ギルドに、人になれさせないといけない。
「んじゃ、ここで誰をパーティーに加えるんだよ。またアレインとセイラムとかいうお荷物なのか? 使えないぜ」
思案のし所。ギルドの中を移動していくと。レウスが、いきなり転ぶ。
「うっ」
「おやあ、すまねえ。足が引っかかっちまった」
いかにも、チンピラというような冒険者だ。まだ若い獣人の男だ。レウスを取り囲むようにして、少年たちが威嚇する。喧嘩を売っているようにしか見えない。
「すまねえ、じゃねえ。土下座しろ」
「ぎゃは、何いってんだよ。餓鬼が、こんな場所を彷徨いたって仕事なんてありゃしねえんだぜぇ? けえんな。ママのおっぱいでもしゃぶってんのが、お似合いよ!」
このような手合いが、まだ残っていようとは。最近顔を見せない内に、チンピラが出現したというのか。
「ギルド職員は「おいおい、俺は謝ったじゃねえか! 天才バルバス様の率いるAランクパーティーに喧嘩を売ってのか? あ?」
「買えば、いいんだろ。買えば。バルバロスの間違いじゃないのか。俺は、知らんぞ。そんな奴」
と、背後から蹴りがやってくる。
「危ない!」
レウスを狙っての攻撃だ。仮面を被っているだけで、これとは。
2次おkにしときます。




