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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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224話 パンツが…(ユウタ)

 その日の朝は、何故か目が覚めるのが遅かった。

 重い。何かが乗っているようである。

 それで、目が開く。


「…ん」


「う、うぎゅっ」


 身体を起こしたところ、奇妙な声がした。頭が腹に当たったのか。アルルが、腹を押さえてよろめいている。ベッドの上から落ちた。金ピカの鎧を脱いで、金ピカに黄色と白を混ぜたワンピースを着ている。頭の羽飾りは、付けているけれど。幼女が、どうやってはいったのか気になる

 

 ついでに、何をやっていたのか気になる。というよりも、結界があるのに入ってくるとは。

 疲れで、破壊されているのに気がつかなかった。

 内側に力が篭っていなかったようだ。


「おはようございます。殿下」

「う、うむ。おはようなのだ。ところで、いつもアルーシュの奴は小さな木になって入ってきているようだな?」

「困った事ですが、そうです」


 部屋の入口にあるドアの横に、小さな入口がある。器用に入ると、そこにある扉を閉めているようだ。

 ベッドには小さな狼の姿はない。


「ふむふむ。ということは、私やアルトリウスが入ってきても問題はないのだ」

「いえ、問題ありすぎですよ」


 頭がおかしくなってしまったようだ。元からおかしいのかもしれない。ユウタには、プライバシーがあるはずなのにあってないような物になっている。これでは、将来、自家発電ができないではないか。大変な問題だ。


「問題ないといったら、ないのだ。そういう事だから、後、使いをよこすから登城するように。アルーシュは戦後処理で忙しいみたいなのだ」


 アルルは、一応王女なのだし王子の風体をして部屋にいられても困る。

 しかし、そんな事をお構いなしに話を進めるのだ。

 アルーシュは、忙しいのだろうか。そして、まだ早朝である。ちゅんちゅんと雀が鳴いていた。

 枕元で蠢いていた毛玉とひよこに狐を放置して、立ち上がると。


「了解しました。しかし、なぜ家に来るんです?」

「ん、ほら、自由なのだ。将来の結婚相手が、寝坊していては困るのだ。飯もこっちで、あ、戻るのだ。では、またな。城には、来るのだぞ」

「仰せのままに」


 しゃがもうとしたら、脛を蹴られた。痛い。


「他人行儀は、止めるのだ。では、あとでな」


 黄金の具足は、見た目よりもずっと硬く力が入っていた。


『んー、んー、そ、外! 外だよ』

『どうした』


 ひよこがもぞりと身体を動かすと、飛び上がる。ひよこなのに、飛行が可能だった。小さな黄色い羽をはためかせてなんとか浮いているというような感じだ。


『結界を感じるよ。急いだ方がいいよ!』


 奇妙な事に、DDは急がせる。なぜ、急がせるのか不思議だ。

 着替えも簡単。黒いローブを羽織り、下は短衣と短パン。それに長袖。ひよこと狐、毛玉がフードに潜り込む。フードだけは、獣臭いので交換する。絹製で、さらさらしている。


 廊下にでるも、人の姿はない。外は外でも、家の外か。早朝だというのに、下に降りて外へ出ると。

 眉をひそめるような光景があった。

 凍えるような声に、呆れた声音。幼女は、


「ふっ。造作もない。所詮、貴様には何もないのだ。だから、その程度なのだよ。なんとしてでも勝とう執念がない。情熱もない。それで、魔術大会を勝ち残ろうだと? 片腹痛いぞ」

 

 と、地面に倒れているのは黒い三角帽子を被った幼女だ。庭が、大変な事になっている。

 そして、結界が張られていた。他人の家で、戦闘とはいったいどのような了見なのか。

 いみじくも、貴族の一員だというのにすぐ横にはフィナルの姿がある。

 横には、白い毛の猫人族。まだ幼い幼女だ。しかし、見覚えのあるような。

 にゃんにゃん言わせたくなる。なつかしい感じだ。


「なあ。どうして、こんな事になっているんです?」

「おはよう。そうですわね。それについては、貴方の方に心当たりがあるのではなくて?」

「あるけどさ。それにしたって、なんでエリアスとセリアが戦っているんだ」


 しかも、人の家で戦っているのだ。庭の芝生も菜園もめちゃくちゃになっている。あえていうなら、怪獣が暴れまわった後のようだ。魔術も攻撃も容赦なく双方が、繰り出したのだろう。家に飛んで来ないのは、フィナルが結界を張っているからか。


(どうして、ひとんちで戦ってるんだ。こいつら)


 すると、唇をきっと曲げた幼女は縦ロールを弄びながら。


「そう。お有りになるんですのね。ええ、独り占めをするなんてとんでもない行為ですわ。その気は、ないと言いながら人様の物に手を出す。泥棒猫を成敗しているのです。これは、正義に基づいた行為。当然の罰ですわ」

「ええと、大会に出るだけなんですけれど」

「ええ、ええ。それ、それが問題ですわ! どうして、エリアスと魔術大会に出るというのか納得いきません」


 納得いかないと言われても、頼まれたから出るに決まっている。そこに、どのような思惑があるのかしれないが。頼まれれば、嫌ともいえない。

 しかし、幼女はそれが気に食わないらしい。どうやって、宥めたものか。

 

 美味い物を食べさせるに限るが、それで悪化するかもしれない。対応を誤れば、進退窮まる事もあるだろう。チビ竜たちが足元に寄ってきたので鱗を触って泥を落としてやる。まるで、土竜のようにどこでも穴を掘る困った竜たちだ。猫人の子供を見て、低い声を出す。威嚇しているようだ。

 それを見ながら、


「どうして、納得がいかないんだ」


 言えば。エリアスは、地面から立ち上がりながらユウタを見る。


「どうして? それは、もちろん! 魔術大会で優勝すれば、そのカップルというのは結婚する習わしだからですわ! そのような奸計、このフィナルの目が黒い内は断じて見過ごせません!」

「そんなの、しなきゃいいだけの話だろう」


 フィナルは、目を丸くした。どうして、そんな面白い反応をするのだろう。


「へ? え、ええと。しなきゃ、いいのですの?」

「違うのか?」

「えー、そのあたくし、てっきりエリアスと結婚をするために大会に出るものとばかり思っておりましたの」


 目が元に戻った。いちいち大げさな表情。口元に手を当てて驚いていた。エリアスを見れば、箒でセリアと殴り合っている。秒間にして、数十合という速さで。離れれば、セリアの足には剣が出てきた。伸びる剣だ。16刀流を止めて、伸びる2本の剣がエリアスの防御を削る。


「くっそーーーー!」

「ふっ。箒マシンガンは使わないのか? これが、防げるか!」


 距離を取った。普通は、後衛が距離を取る。

 水銀の盾を展開するエリアスに、セリアは弓を構えた。弓とは、汚い。


「そりゃ、ちょっと待てよ。汚いぜ」


 距離を取って呪文を唱えているエリアスに、


「戦いに卑怯も糞もあるか。これで、終わりだ。スターダストッ」


 雨降り星が降り注ぐよう。矢は、弧を描いて上から横から襲いかかる。


 傘のように広がる水銀の盾が、幼女の身体を覆っていく。それに向けて、剣を足がわりにしていたセリアの手から矢が放たれる。手に矢を持つ動作さから放つまでと、水銀の盾が状態を回復するまでのラットレース。ただの矢に見えて、盾に当たる度に爆発する。魔力が込められているのか。水銀の盾が黒く染まっていくと。


「終わりですわ」


 フィナルは、ニンマリとした顔だ。あまり面白くないところがある。

 どろりと水銀に魔術を通した盾が崩れて。そこから、エリアスの姿がでてくる。蜂蜜色の髪の下。口の前で拳が、震えていた。


「でりゃああ!」


 エリアスは、風車のように箒を回して、矢を撃ち落としていく。その防御は、長く続かない。

 どうして、長く続かないかというと。  


「爆風を防げませんものね。それに、横からも攻撃が来ていますし。エリアスは、セリア様と戦う事を覚えた方がいいかもしれませんわ」


 エリアスの肩に、背中に、何本もの矢が刺さっている。脳天に刺さっていないだけいいのか悪いのか。手合わせにしては、手加減が見えない。よもや、殺す気で攻撃をしているのではないだろうか。結界の内部を覆うように炎と雷が舞ってセリアの身体を貫かんとするけれど。命中しても、身体に吸い込まれるようにして消える。


 吸収されている。


 反対に、放たれる矢に雷や火がついたまま飛来してエリアスは四苦八苦だ。

 これはいけない。魔術師の生半可な攻撃は、セリアの技を強化するだけ。

 意味がない。勝負は、水銀の盾を展開している間に大技を繰り出すべきだった。

 いや、エリアスの持つ術ではセリアの特殊防御を突破できないのかもしれないが。

 加えて、ロシナと違ってエンシェントゴーレムをまだ授かっていないのである。


 もう、終わりにするべきだ。仲間同士で、死ぬまでやるのは見ていられない。 


「もういいだろう。そこらへんにして、食事にしよう」

「むっ。仕方がない。飯を抜きにされては、困るからな」

「ま、待てよ。まだ、俺はやられちゃいねーぞ」

「ふっ。もう少しできる奴かと思ったが、それではルーシアとオデット以下、ロシナにも負けるだろうよ」


 やれやれと、手をひらひらさせるセリアは結界から抜け出てくる。すたすたと歩いて、玄関までやってくると。


「ユーウは、エリアスと結婚する気なのか?」

「お前、何を言っているんだ。フィナルといい…」

「ふっ。そうだろうとも。フィナルが、気を回し過ぎだ。そういう事で、桜火の飯を食うとしよう。こいユキシロ」

「雪城、だと?」


 白い猫人の幼女。白いシャツに、青いスカート。頭には黒いカチューシャをしている。セリアが寄ってきた後ろで、地面に倒れるエリアスの姿。重症だろう。矢からは、血が出ている。白い猫人の手を引いたセリアは、面白そうに。


「ユキシロを知っているのか?」

「いや、まさかな似た奴を知っているから似ていると思っただけだ」

「ふっ。ユーウが欲しがっても、こいつはやれんぞ。ウォルフガルドの新たな礎を築く家臣となるのだからな」

「むー」

「ふふ。堂々とした物言いをするのは、いいと思うぞ」


 雪城ならば、欲しい。


(しまった。ユーウを演じきれなくなっているぞ)


 丁寧な言葉遣いは、苦手だ。今更なのだが。


 雪城は、反抗的な猫人だった。なので、今の内からにゃんにゃん言うように調教しておけば素直になるだろうし。是非にも欲しいが、セリアが手放さないようだ。さっさと家の中に入ってしまう。反対に歩いて、フィナルに介護されている魔女っこを見に行くと。


「くっそおおおおお! フィナル、てめえぇ、ずりーぞ、このやろー。きたねーよ、あー!」


 人の顔を見るなり、真っ赤な顔になった。どうも、負けたのが恥ずかしかったらしい。


「ちょっと、動かないでくださいまし! 手当てが捗りませんわ」

「てっ、てめっ。いつから、そこに?」


 肩を上下させる幼女は、とっくに限界だったようだ。


「ちょっと前からかな。それにしても、フィナルは酷い。セリアと戦わせるなんて、鬼すぎるよ」

「うう」


 エリアスが、泣きそうだ。気丈な魔女っこも、先日からの対応で精神が折られかかっているのやも。

 仮面を被ると。


「よーしよしよし。いい子だ。エリアス、やれば出来る子! まだまだ、これからだってばよ」

「ほんとか? えへへ」

「なんなんですの、この空気、その仮面。気に入らないですわ!」


 元はといえば、ユウタがこれを招いたのかもしれない。だが、言っておくべきだろう。


「フィナル」

「なんですの?」


 仮面を外して、怪訝な表情をするフィナル並んで立つ。


「セリアと戦うのは、やめた方がいいんじゃないかな」

「いや、ですわ。いずれ、超えねばならない壁ですの。エリアスは、ぜんっぜん戦いたがらないですし。いい機会ですので、セリア様と戦い経験を積んだ方がよろしくってよ。それくらい、貴方にもお分かりになるでしょう」

「けどさ。あれ、存在が反則すぎるよ」


 セリアは、ほとんどの魔術を無効化或いは吸収する事ができる。エリアスをおんぶして歩きだそうとすれば、フィナルがそれを引きずり下ろそうとして、しがみつくエリアスとで綱引きをするし。この女たちは、謎の生物だ。理解しようとすれば、頭がおかしくなってしまう。


 女が、騎士団にいるのはごく稀で戦場にだってでる女というのは少ないのに。二人ときたら、子供だというのに、冒険者までやれば決闘だってやる。さすがに、セリアと決闘をやるのは無謀だ。闘技場では、無敗、常勝の帝王。遠距離になれば、石を投げて戦艦を破壊するほどの万能ぶりであるから。魔術師、それのみで勝とうというのは厳しい。


 玄関を開けて入ると、


「ここで、いいのではなくて? そんなに怪我をしてないでしょ、ずるいですわ!」

「けっ、怪我人だからなっ。なあ?」

「そうだな。ただ、またセリアと喧嘩したり決闘したりしないように揉め事は避けてくれ」

 

 二人で相撲をとっている。ひっぱるのがフィナル。引きずるのが、ユウタ。間のエリアスは、しがみついたままだ。


「こらこら、放して」

「いやーですーわっ」

「ぎゃー、こらっ、パンツ脱げる。あっ、おい、ざけんなよ、アッー!」


 フィナルがそのまま熊のプリントがしてある白い布切れを持って食堂に向かってしまった。

 パンツだとすると、エリアスはノーパンだ。


「お、おろしてくれ」

「うん」

「ひでえよ。どうして、俺がこんな目にあうんだぜ」


 エリアスを下ろすと、回復をかけているのによろよろと壁に手をつく。

 それは、魔術大会に出ようだなんて事を言い出した為ではないだろうか。

 ともかく、パンツがなくなった幼女に替えの物を出すと。


「お前、変態だなっ」

「違いますよ。僕は、変態じゃありません。準備がいいと言ってください」


 しかし、幼女は白い目を向けている。

 決して、ロリコンではない。否定するのに、幼女の反応は芳しくなかった。  

 ひよこを握りしめるも、


『あのままだったら、エリアスが死んでたかもしれないんだもん。ボクは、いいことしたよね!』


 確かにいいことなのだが。エリアスの好感度が下がってしまったのではないだろうか。

 機嫌を取るのが、大変だ。

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