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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
406/711

221話 道化があらわれた! どうする? (ユウタ) 

迷宮に潜るユウタ一行。

そこに、現れたのは。

 寝ている子供たちを見て、


「おい。どーすんだよこれ。寝てるぞ」

「しょうがない。進むしかないな」


 かぼちゃを被った幼女は、苛立ちを隠さない。

 ボス部屋まで戦っていないのに、地面を棒で叩いていただけで疲れてしまったようだ。


「しょうがねえって、俺、帰っていいよな」

「それは、困る。俺も本気でかぼちゃ頭にするしかない」

「ひでえー。鬼っ悪魔っ」


 ぽこんぽこんと叩いたら、いい音がする。濃い緑色の頭は、穴が空いていた。そこから、目も口も通じている。

 幼女は、銀色の液体を3人が寝る浮かぶ板に張り巡らせると。


「進むかー。でも、なんだ? 入口で寝て、まずい、こいつあ!」


 風の術で、その流れを変える。おそらくは、睡眠か麻痺か。どちらにしろ寝ている冒険者たち。

 おかしかったのだ。不自然に寝た幼児たち。

 レウスは、寝息を立てているがそれ以上に灼熱の怒りが吹き上がっている。

(指一本触れさせねえ。死にやがれ!)


「こ、ぼっ」


 虚空に白面だ。すかさず叩き潰す。男の顔だが。


「はやっ。もう死んだっぽいんだけど」


 身構えたエリアスの回りをカバーするように空間魔術を展開する。万が一にも、レウスはやらせない。

 空間に出てこようとした敵か何かで真っ赤な噴水がアーチを描く。

 だが、元に戻ろうとした肉塊を再度叩く。


「そいつ、魔人か? 再生能力持ちだなあ。燃やしとくぜ」


 エリアスの杖から猛火が放たれる。赤い炎が、舐めるようにして肉を焦がす。

 

「こ、こ、これは失礼」


 男の声に、悪しき波動を感じた。

 正面から声がする。通路の奥だ。冒険者たちが壁によりかかる先に、顔を白くした男が上半身白、下半身黒タイツ姿で立っていた。目の回りは、赤く。気色の悪さは、申し分ない。


「もうし、ぷっ」


 男は、真っ二つになった。油断ならない。死なない相手だ。不死に近い再生能力なのかもしれない。道化姿の男は、白髪を散らして燃え落ちる。放ったのは、火線(レーザー)。手より放たれた赤い筋が、男を2つにした。が、


「あ、あ」

「なんか、話したがってるみたいだけどなー。聞かなくていいのかよ」


 生きている。


 インベントリから丸太を取り出す。手に余る物体も、やすやすと掴み、男を叩く。

 叩く。真上から、ゴキブリを潰すようにして血しぶきが上がる。

 通路の奥、角から男がわずかに白面を出して言う。


「ちょっと、待って、人の話を聞きなさいよ! この餓鬼ども!」


 どうにも死なない。聖属性の術で聖別していなければ、死なない相手か。

 魔族を相手に、不死なる者が混じっていようとは。あるいは、上級魔族なのかもしれない。

 彼らは、悪魔、精神体に近い能力を持つという。


「聞けってば! こら、そこ、死ぬ、死ぬから話合いにきた奴の話くらい訊けよーーー! 余裕ねえだろ、ちっちゃくねえか!? おい」

「止めが、なかなか決まらねえなあ。ひょっとして、あれかよ」


 渾身の絶叫だ。さすがに無視するのは、気が引ける。

 魔術を用意しながら、


「なんだ。変態な道化に知り合いはいない。冒険者をこんなふうにして話あいもないだろ。違うのか? もっと普通にしろよ。そんなんだから、やられるんだぜ」


 肉塊になっても蘇ってくる相手は、久方ぶりだ。煉獄の山で相対した異貌の者以来か。

 フィナルを抱えて、苦戦した相手が思い出される。彼のものとて、聖別からの死を免れなかった。

 白い顔に、不気味な目。狂気を孕んでいる。


「ひーっひっひ。いいですねえ。その容赦ない攻撃。魔王様が、認めるだけ、ぶっ」


 頭がはじけ飛ぶ。男の胸には、杭が刺さった。これで、死なないのなら大したものだ。


「こ、こら、人の話をぎ、ぎげって。い、言ってるでしょ。ねえ。ちょっとは、話す、気、君ぃ~」

魔王(へんたい)の手下か。なら、話は早い。妹は渡さない。絶対にだ」


 底冷えする怒りと共に、魔力炉を活性化させる。全力は出せない。

 なぜなら、星が壊れてしまう。なんでも叶えてくれる復活の玉でもあればいいのだが、


「あんたねー。だから、言伝があるって、あたしは、その件を言いにきたのよ」

「何? 変態野郎が?」

「シャルロッテの事、よろしく頼むってばあああー。あーもー。言ったわよ。あたし、やるのは好きだけどやら、ぽえっ」


 拳が顔面と貫く。タフな魔族だ。これが、噂に聞く不死系魔族なのだろうか。

 からくりがあるはず。それが、なんなのか掴めないでいる。

 魔力で再生するにしても、減り方が遅い。

 

「や、る、わねえ。あんたぁ。たしかに魔王様、おぼっ」


 割りと力を込めた雷光拳。青白い電撃が、道化姿の男を貫く。普通ならば、これで一撃だというのに死なないところが凄い。


「こ、これで、や、やったと思うなよ”」


 地面に、倒れた。電撃が弱点だったようだ。雷擊のみならず、ジョブを【教皇】に変えての一撃。

 攻撃だけで、聖属性が乗るクラスだ。反面、聖属性を持つ生命体に攻撃しずらい欠点がある。

 なお、悪口がいえないなどの縛りもある。


「で、それは本当なんだな?」

「こ、このガキャ~。言ってんだろ。俺は、使いだって。だいたい、そこの、やばい、死ぬ、死ぬって」


 普通に、触られているだけで継続ダメージが通っているのか。相手は、不死だけに特効のようだ。

 【冒険者】に戻すと。

 【鑑定】を使う。


【名前】マリエル・サン・ピエール

【種族】魔族

【職業】貴族(公爵)

【状態】瀕死

【能力】分裂A 影渡りA 自動回復B 再生B 

【称号】道化 


 何やらスライムじみた能力が出てきた。 


「ふむ。本当に、死にそうだな」

「これほど話を聞かない餓鬼とは、しくじった。死にたくない…」

「わかったわかった」


 放してやると。


「さ、さい…」


 さいならと言おうというのか。


「待て。聞きたい事がある」

「こ、こんだけやって今更話を聞こうっての~。あんた、魔王様の子供じゃないのかしら」


 度肝を抜くような事を言う。道化だけに、演技かもしれない。自然と煽ってくるような顔といい。

 殴りたくなるのが、普通ではないだろうか。そんな道化(オカマ)だ。


「魔王は、どこで何をやっている? 次から次に刺客が待ち伏せてくるぞ」


 歩きだす。続くのは、かぼちゃ頭と子供たちを乗せたかぼちゃだ。

 マリエルは、


「そ、なるほどね。それで、あたしも刺客だと思ったわけねえ。だけど、こっちも強硬派を止めらんないのよね。そんで、あんたがやられるようなら守りきれないってことじゃない? こっちとしては、本格的な戦闘を避けてんの。ロゥマに拠点を移したしねえ。なのでー。姫様の事は、あんたに任せるっていう事らしいわー。そんで、守りきれないようなら迎えに行くって事ねー。じゃ、ちょっとやられ過ぎて限界。話をしたかったんだけどねえ。次期魔王様♥」


 投げキッスにめまいを覚えた。精神攻撃がきつい。


 腕を頭の後ろに組んで、股間をこんもりとさせた黒タイツ男。さらに、キモ過ぎた。白面に髪の毛が三股。先っぽが団子になっている。

 散々なぐっていなかったら、怒涛の連撃を見舞っていただろう。

 ユウタを横目に、壁にめり込むようにして姿を消す。容易ならざる相手だ。

 後ろを振り向くと、


「あの魔族、やばいな。次に会ったら、倒しておく方がいいと思うぜ」

「んー。あそこまで無抵抗だと、止めを刺すのはな。さすがに」

「あれだけ再生してこれるって、大概だぜ。そして、何もしてこねえっていうか何もさせねえってどうよ」

「何かさせる? ありえないな」


 かぼちゃ頭に黒い三角帽子を乗せた幼女は、肩をすくめて手をひらひらとさせる。

 レウスがいるせいだろう。歯止めが効かない。つい先に手がでるようでは、セリアを責められないではないか。しかし、魔族は人類の敵なのだ。ひよこと狐はお昼寝のようである。ぴくりとも動かない。


 と、肩に毛玉が飛び乗った。くるくると回りだす。これは、今頃起きたのだろう。

 歩みを進めるが、最初に出くわしたのは眠りこけた大きなコウモリだ。

 黒い腹を見せて、地面にひっくり返っている。


「はあ。どうぞ」

「これ、さっきの奴がやったんじゃねえの。睡眠雲(スリープガスクラウド)かもしれねえぜ」


 と、箒から青白い光が伸びて突き刺さる。雷杖(サンダースティック)だろう。

 魔法剣に魔砲まで使いこなす彼女は、杖術にも通じている。

 素手での戦いは、フィナルに分があるようだが。

 

「マリエルの気配は、しない。エリアスは、どうだ」

「んー。こっちもしねえ。しかし、あんなのがいるんじゃ油断できないな。空間結界を展開させてたりするん?」

「ああ。次に会ったら、どうするか決めるとしよう。聞いていたら、な」


 とはいえ、敵対的行動をとっていない魔族をそれだけで殺すというのはどうかしている。殺人愛好者ではないので、友好的態度を取るというのなら考えるだろう。寝ている子供たちが起きてくる様子はない。どんどん先に進んでいくと、魔物と同じように冒険者が寝ている。生物ならいいが、アンデットであれば寝たりしない。


 大変な迷惑魔人に違いないだろう。地下2階で、死亡するなど悪夢だ。

 寝ているのは、男3人と大型の蛭だ。赤い身体のナメクジに似た体型。

 頭と見られる部分に、口がある。危険な魔物だ。2階では滅多にいない強敵だろう。


「倒しておくか」

「寝たまま死ぬのって、やべーよな。ていっ」


 近寄ったエリアスの箒から電熱攻撃が蛭を切り裂く。赤い身体が、裂けて臭い匂いを放つ。

 焼けた肉というよりも、腐ったドリアンというべき匂いだ。


「これはきついな」

「ある意味、このマスクで助かったかもしれないぜ」


 パンプキンヘッドの効果か。鼻の部分がかぼちゃで覆われていて、匂いを相殺してくれたのだろう。

 

「俺もかぼちゃを被るかね」

「いやいや、ちょっとまった。それだと、目とか鼻とか見えるっしょ」

「ぐ、それは、不味い」


 臭い。陰謀の匂いがしてくる。へんな匂いで、やられそうだ。

 鼻は、悪くないので匂いがきついと涙がでてくる。それくらいに、きつい。


「意外な弱点だな。この悪臭、ユウタに効くのか。覚えておくぜ」

「寝ている人たちがいなきゃ、焼き払ってるぞ!」

「がんばれー」


 観戦する気か。近寄っていって、ぱこーんと叩く。


「お前も手伝うんだよ!」

「ええ~。俺もつかれーたー」

「嘘だ! 鼻で歌を歌ってんじゃねーか。俺の方が倒れるわ!」


 ぶつくさいうエリアスと一緒に男たちを壁もで持っていく。と、臭い匂いの元で香を炊いてやる。

 離れる頃には、わめき声が聞こえてきた。


「あんさんもよーやるわー」

「いえいえ。お嬢様ほどでは、ありませんよ」

「ふっふっふ」

「ほっほっほ。では、さっさと進もう」


 道草ばかりだ。レベルをがっつり上げにきたというのに、コウモリばかり。

 蛭と毛虫に、コウモリ、コウモリと。メタルスライムもどきが活躍する。

 自動で攻撃するのだから、お手軽だ。この銀盾は、常温で固まらない。


「3階までいっちまうか! 変な魔族が出てきたけどよー」

「ああ」


 やる気が今一だった幼女に、エンジンがかかりだした。

 魔石がでてこない。のが不満だ。1匹や2匹でなくもっと大量に倒す必要がある。

 ユウタは、すごく運が悪いのだ。

 ぐねぐねとしたS字の通路を抜ければ、そこにボス部屋があった。


「さて、ボスちゃんボスちゃん。いますよーに」

「…いないな」


 ボスは、またしてもいなかった。魔族が待ち伏せしているようでもない。

 ただ、冒険者のパーティーが屯っている。


「まさか」

「そのまさかだぜ。脇き待ちしてやがるぜ! どーする?」

「…先に進もう」


 これもそれもダンジョンマスターのせいだ。ボスからもガチャメダルがドロップするのである。

 大量に倒せる魔物が浅い層にでてくるのなら、そこは常連たちによって占領されるだろうに。

 ガチャを導入して、クエストを改良してドヤ顔でコーンスープをがぶ飲みしているであろう牛に殺意が沸く。低レベルの冒険者たちの生活を破壊する気なのかと。


「汚ねえなあ。湧き待ちしてるってことは、他の冒険者が狩れねえって事だよな。そんなんありかよ」

「ゲームじゃないからな。沸く以上、どうしようもない」


 牛太郎ことミノス2世は、ダンジョンマスターであると同時に表ではミノス島の王だ。

 経済的な活性化を狙っての策なのだろうが、策士、策に溺れるともいう。

 彼の策なのか疑問符が浮かぶ。


 低レベルが死亡するということは、将来的には高レベルが生まれないと同義なのだ。

 死滅した餌がなければ、ガチャも終わりではないか。養分あってこそのガチャである。

 早晩に、ガチャは行き詰まるだろう。

 あくまでも、娯楽、ギャンブルならばいい。


 冒険者は、所詮、日雇い労働者なのだ。危険な仕事で、高額を稼ぐがゆえに夢見がちな人間が多い。

 それを潰すとなると。


(わからないな。お手並み拝見だ)


 うまくいくなら、真似するのが商売人の汚さ。いいものは、すぐにアレンジされる。

 事、商売だけは独占になる、故に。

 

(初めにガチャシステムを考えた奴は、天才だな。悪い方向で、だけれど)


「俺は、つまねーと思うんだけどなあ。こつこつ努力する事をわすれちまうんじゃねーの」

「それはあるけどな。儲かるのは、正義なんだよ。売上は、絶対の指針だ」

「魔術師ギルドには、ガチャなんてねーけどな」

「その代わり、実力主義っていうか。血統主義じゃないか。人間の品種改良じゃあるまいし」

「そんなもんだぜ。言葉を返せば、魔力こそが絶対の指針なんだよ」


 世知辛い。魔術師ギルドもガチャ迷宮も夢がなさそうだ。




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