220話 ガチャ? (ユウタ)
エリアスの家から、出たユウタたち。
アレインとセイラムを拾って牛神王の迷宮に向かう。
そこでは。
道場に向かうか迷う。
やはり、迷宮だ。実戦あるのみ。ごつごつした石壁に石柱が広がる広間だ。
餓狼饗宴は、危険すぎる。なので、牛神王の迷宮だ。
ペダ市の迷宮は、アトラクションすぎて危機感がない。
接待プレーになっているのである。あれは、いいのか悪いのかわからなかった。
子供をつれて、遊びにいくようなテーマパーク化が進んでいる。森に囲まれているのに、ゴブリンたちが全滅する勢いだし。
かといって、アースガルドへ繋がる豆の樹ダンジョンも戦乙女の古代迷宮も難易度が高すぎて危ない。
「なあ。なんで、俺まで仮面をつけなきゃいけないんだよ。これ、蒸すんだけど」
注文の多い幼女である。黒い三角帽子の下に、白い仮面をつけさせた。
エリアスは、硬い口調でいう。
「だいたい、こいつら連れていくんなら俺は降りたいんだけど? アキラとかチィチを使えばいいじゃんか」
「年が違いすぎるだろ。わかれよ」
レウスは、子供なのだ。アキラと同じように戦えるはずがない。
エリアスは、馬鹿なのか。いい加減な言い様に、かっかとなる。
「ぐうう。あっ、そーだ。ウィルド殿下とかどうよ」
「だーめーだ。お前が、鍛えるんだ。だいたい、暇してそうだろ。アルトリウス様には、お願いしておく」
「おおぅ」
ひしゃげた三角帽子が彼女の気持ちを表していそうだ。ユウタは、そこでかぼちゃ頭をインベントリから取り出す。
パンプキンヘッド。まんまかぼちゃ頭である。
仮面とともに、眠っていた一品だ。レアな装備こそ眠っていないが、ごみのような使い道のなさげなアイテムがわんさと眠っている。大抵は、補給用なのだが。こいう場面で使おうとは、思わなかった。
仮面を取って、
「もがっ」
パンプキンヘッドにしてみた。
「言う事を聞かないなら、そいつ、つけたままにするからな」
「ええ~」
とんでもない要求だ。しかし、レウスの為だ。そんなやりとりに、アレインとセイラムは面食らっている様子。子供が3人なので、牛神王の迷宮入口広間にいる冒険者から視線が集まる。彼らは、鴨に見えているようだ。
にやにやとした視線を放つ男と視線が合う。
「なんだよ」
「何か用でもあるのか?」
黒髪を後ろで結ぶ中年の冒険者だ。ユウタは、男の目の前に行って尋ねる。
「餓鬼をつれてくるところじゃねえ。帰った方がいいんじゃねえか? 低レベルでここはきついだろうがよ。外でレベリングした方が、安全だぜ。やめといた方がいいんじゃねえの」
「心配なら無用だ」
そこまで言うと、
「あんた、そいつらの保護者か何かなのか? かなり減ったとはいえ、初心者狩りが全くなくなった訳じゃねえんだぜ? 罠に嵌って売り飛ばされねえとも限らねえ。地上で、兎狩りからチャレンジした方がいいと思うわ。これは、馬鹿にして言ってるんじゃねえぞ」
「ふむ。失礼した。それは、考えている。些少だが、取っといてくれ」
500ゴル程度のチップに銅貨を差し出す。それを受け取った男は、
「最近、階層のボスも変わってるからな。あんたやそっちの嬢ちゃんが腕ききだとしても、範囲攻撃されちゃあ苦しくないか? 装備も鎧なしじゃあよ。ギルド鍛冶場にいけば簡単な鎧を作ってもらえる。話をしてみちゃあどうだい」
「ありがたい。てっきり、喧嘩を売られているものだと思ったが」
ちゃらちゃらと、銅貨を弄びながらも冷や汗が浮かんでいる。緊張しているようだ。
「いやいや。俺は、ブレイズ。ここじゃあ、ちょっとした古株だ。地下10階までは潜っているし、そこのツァーリボンバの仲間と揉める気はないぜ」
「ツァーリボンバ?」
「いや、暗号みてーなもんだ。俺らは、まだ死にたくないんで行ってもいいか?」
「ああ。時間を取らせたな」
振り返れば、レウスたちは所在なさげにしていた。
周りを見ると、さっと視線を逸らす。どうも、にやにやしていた視線は思い込みのようである。
(ツァーリボンバってなんだ。ちぃっ。ぶち殺してやろうと思ったのによお~)
とんでもないキチガイ思考だ。いくらなんでも、さすがに、無理がある。弟を馬鹿にされたようで、カッとなるのはいけないのに止まらない。ブレイズが屑であったのなら容赦なく顔面パンチをかますところ。しかし、普通に観察力のある男であった。
(なんだか、カッとなりやすい。カルシウムが足りてないのか?)
インベントリから牛乳を取り出して飲む。
弟の評価をあげねばならないだろう。でなければ、馬鹿にしたような視線も無くならない。
銀髪を弄る弟を見て。
「ふうっ。鎧、作るか」
「ええ? ちょっと待てよ、インベントリに鎧が転がってんじゃねえの。使い古しの奴がさー。サイズを見繕ってやればいいじゃん」
口元を拭いながらインベントリを漁ると、中は綺麗に整頓されている。イベントリはゴミ箱だ。罠を仕掛けるくらいにしか使えない穴になっている。適当な大きさの鎧を出していく。
アレインとセイラム、それにレウスは似たような体型だ。すっぽりと入ってしまう鎧を装備している。どれも重量軽減の術がかかった代物だ。
白を選ぶアレインとセイラム。黒を選んだレウス。対照的だ。どちらも一緒なのだが。
「武器は、短剣でいいか」
「3人とも、市民なのな。そこから、か」
アレインとセイラムを冒険者ギルドに登録して、入口に行くまでにまた時間がかかった。エリアスは、少々ご立腹気味だ。隅っこの方で、人が集まっている。何かがあるが、人で見えない。
それを眺めていると。
「登録とか、事前にやらせとけよなー」
「忘れてるだろ。ここと、ミッドガルドは繋がってないぞ。ウォルフガルドとも」
「あー、そういや、そうだったぜ。てへっ」
エリアスは、ぽこんと自分の頭を叩く。舌を短く出しているのだろうが、可愛くない。
可愛いより不気味だ。かぼちゃ頭だし。
3人をつれて、入口に立つと。
「ほんとーにいいんだな? 一角兎を集めた方が効率良さそうな気がするけどなー」
「いいんだよ。どうせ、エリアスの攻撃で敵は蒸発するだろう?」
「いや、そうなんだけど」
子供たちは、棒を握っている。全員が、3m程度の棒をもって叩いて歩くのだ。
壁に寄りかかったまま視線を向けてくる男たちもいるが、視線を逸らした。関心も無さそうだ。
棒であっても、それなりに重い。回数を重ねていくと、腕が上がらなくなる。
休憩も必要だろう。
進んでいく通路には、魔物の姿が見えない。
しばらく歩いても、敵に遭遇しない。
「これは、まさか」
「あのユー、ウタさま。どうかなされたのですか」
「魔物が、狩られてるんじゃってことだぜ。つまり、冒険者の数が多いんじゃねーの」
セイラムは、すっぽりと覆われた兜から不安な顔をのぞかせている。
ガイドブックは、購入済みだ。今月から、ガチャが導入されたらしい。
悪魔の兵器を投入するとは…。1階に魔物が出ない訳だ。
「1階の魔物からでもクエストで狩り尽くされるわけか」
「なんでよ」
ガイドブックをかぼちゃ頭のエリアスに手渡す。3人が横並びで薄い本に群がった。
「えー、なになに。今月から、ガチャキャンペーン? 高レベルも垂涎のレアアイテム満載? どうなってやがる。牛太郎、狂いやがったか」
ちなみに、牛太郎というのはダンジョンマスター。
幼女の手が震えている。ガイドブックに載っているのは、cランクのアイテムだ。それでも、迷宮に挑む冒険者たちにとっては祈ってでも欲しいアイテムたち。1回が3000ゴルと安目に設定されているのも憎たらしい。パーセンテージが10パー。
それなりだ。それなりに、いいアイテムがでる。
最新号のガイドブックによれば。魔物を倒すと、ガチャコインがでる仕組みだ。しかし、この迷宮の魔物は倒すのは容易ではない。
エリアスは、ファイアの一発で倒せるコウモリでも冒険者にとっては生死を賭けた戦いだ。
その為に、迷宮深部に潜る高レベルパーティーが雑魚狩りに来ているのだろう。
これは、低レベル冒険者にとっては死活問題だ。
魔物がいなくなれば、クエストどころではない。
魔物とクエストの奪い合いになる。結果低レベルは、死に絶えるではないか。
が、管轄外なので何もいえない。
「流行りに乗りやがったな。けど、冒険者が減ったら意味がないだろうに」
「なぜです? 魔物が減る事はいいように思えます」
アレインが、反応した。
セイラムが、棒を振るっている。アレインは、セイラムを守るようにして動く。しかし、レベルが低すぎて彼女ごとやられそうだ。
「なぜって、お前、馬鹿だろ。ちょっと考えろよ」
「クエストが、足りない、という事ですか」
「レウス、よく気がついたな。アレインがわからないのは無理もない。エリアスは、馬鹿といってはいけないぞ」
「へいへい、あだっ」
人を馬鹿にしてはいけない。
かぼちゃを殴ると、ばこんと音を立てた。幼女は、しゃがみこんでいる。
敵が出てこないままに、地下1階のボス部屋まで来てしまった。
休憩だ。中には、ボスの姿もない。しかも、ボス部屋の前にはパーティーが屯している有様。
ボス狩りのようだ。
ちびっこ3人は、腕が震えている。筋肉が限界を迎えているのかもしれない。だが、乗り越えねば戦う事なんてできない。
「きついか?」
「ん、うん。でも、冒険者になるんだもんね。そうして、クシャナねーちゃんを迎えにいくよ」
感動した。涙が見えないように拭う。
「おー。言うじゃん。でも、先は長そうだけどなー。正直にいっていいか」
「駄目に決まっている。人の希望を潰すような事を言うんじゃねえ」
犯すぞ、このビッチめがと言わんばかりにかぼちゃ頭をがしがしと揺すってやる。3人がいなければ、裸にひんむいて正座させるところだ。
「でもよー。真実は、いつだって残酷だぜ? 努力が叶わねーってこともある。ちゃんと、そいつを受け止められるようにしてやんのも、先輩としての仕事だろ? な、ユウタ先生?」
「やめろって、素養は努力でなんとかなる。俺は、そう信じている」
「だといいけどな。ガチャで簡単に強くするってのには、反対だぜ」
「うまく考えたもんだろ。集金には、もってこいだからな」
ガチャというのは、金になる。誰もがこぞって回すのだ。それが、そこそこの性能で超性能でなくとも。
ダンジョンマスターからすれば、魔力を集めるには生死が必要だ。魔物が死ぬか、それとも冒険者が死ぬか。そこへの過程で、魔力を消費してもらう事、こそが肝要。魔力を得られないガチャは、景品をよくする以外にない。
かといって、景品の質を上げれば赤字だ。それに、迷宮が攻略されてしまえばダンジョンマスターとて無事ではいられない。その景品で倒されかねないし。危ない。いやさ、超性能の武器防具を装備した冒険者にやられる事はないと、誰が断言できるのか。
魔力を貯めるのに、冒険者が必要なのにそれで配下が倒されてしまってもいけない。
かつ、冒険者にとって有効な装備でないといけない。それらをクリアーしようとすれば、質を押さえる以外に手がない。金を掛けて、作れば魔物を他所から購入する事もできないだろう。魔物を作れば、魔力を消費して困る。
それでも、ガチャるだろう。双方にとって、当たればでかい儲けだ。サクラを入れて回すという事も、実際に考えた。
が、リスクが大きすぎて駄目だった。ユウタもガチャの導入を考えた。儲かりそうだったし、ガチャを回す人間の心理というのはなかなか泥沼から抜け出せない。ギャンブルとは、至極人を駄目にする。依存性の病気のようなものだ。
(元手が、電子記号ならいいんだけどなあ)
電子なら、いくらでもいい。だが、魔力となれば別だ。
ダンジョンマスターには、厳しそうな案件をいかにしてクリアーしたのか。
興味が沸いてくる。直接聞きにいったところで、種は明かされないだろう。
(ひょっとすると、牛さん。まさかの自爆コースなんじゃ)
牛さんというのは、ミノス王の後継者で牛太郎の愛称で呼ばれるミノス2世の事である。
まんま牛顔で、体格もそっくり。ただ、そっくりなだけに図体の大きさと来たら2階立ての巨躯。性格が温和で人に騙されているのかもしれない。或いは、流行りに乗ってしまったか。
入口に集まった冒険者たちを思い出す。そこが、ガチャ台置き場だったのだ。
彼らは、ガチャに魂を引かれた囚人たち。
抜け出す気力もないのだろう。
愚かで、哀れなる操り人形。彼らは、ガチャのために生きていく。
「集金ねー。魔力で、武器を作るにしても割にあわねーと思うけどなー。元の武器が貧弱とかだったら、詐欺だぜ」
「中身が、ごみか。ありえる」
「どういう事なんでしょう」
「うん。この世界は、見た事がすべてって事だぜ。セイラムなんかすぐに騙されそうだもんな」
「そんな、事、ありません」
体育座りをしている幼女は、アレインと並んで座っている。その反対に、レウスが。
そして、
「そろそろ入るか。湧かねーっぽい」
「ああ」
1階は素通りだ。魔物と戦う事すらない。罠も、落とし穴を見つけるくらいだ。
「これが、ボスモンスターの居る部屋…。でも、何もありません」
「戦った跡があります。どのような魔物が出るのでしょう」
「お前ら、もうこれを読んどけよ。レウスも休憩。一緒に本を読んだほうがいいぜ」
珍しい。エリアスが、人に気を使って下知するのは。
ボスがいるはずの部屋は、何もいなかった。そして、浮遊板の上で3人が休憩する。
「良くないと思うけど。仕方がないか」
「どっちみち、こいつらになにができるってんだよ。メタルウォーターを使うからよ」
鞄から取り出したのは、丸い瓶だ。口には、コルクだろうか。茶色い栓がされてある。
エリアスが、中身を出すと銀色の液体だった。まるで、生きているように動く。
「ふふん。こいつが、銀盾くんよ」
「知ってる。さっさと進もう」
「うう。そういう反応されると、悲しいぜ」
かぼちゃ頭をした幼女が肩を落とした。しょうがない幼女だ。
肩を叩く。
「なに、頼りにしてるって事だ」
「むー。ホントだな?」
「おうよ。盾さん頑張ってくれ」
エリアスは、ばふっとかぼちゃ頭から鼻息を吹き出す。
こんなのでいいのだろうか。やる気には、なったようだ。
後ろから、
(な、なにいい。ちょっと待てよ)
3人の寝息が聞こえてきた。




