表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
404/711

219話 フィナルんち (ユウタ、エリアス、レウス、アリス)

 そこは、まるで茨に包まれた古い館だった。

 レウスは、見知らぬ場所に来て不安を隠せない様子だ。

 何度も外観を変えるので、一度として同じ様子ではない。

 飽きたら、変える。そんな風だ。


「ったく、どーかしてるぜ」


 胸を突きながら、不承不承に言う彼女は箒を手にしていう。


「入れなかったら、どーすんだよ。無理やりにでも入りそうだけどよー」


 三角帽子を取った幼女が、中から鍵を取り出す。鍵にしては、馬鹿でかい。


「壊して中に、入ろう」

「やーめーろ。本当にぶっ壊しそうだし、やめてくれよな」


 手をわたわたとするエリアスは、汗を浮かべている。本気で壊すつもりはない。


「なにがあるのかな」

「あー、まー、中に入ってからってことで」


 蔦が絡んだドアノブに、大きな鍵穴。それに金色の鍵を差し込む。

 金属が回転してこじ開けるような音がする。中で、動いているのだろう。

 それが一段落して、止まると。


「開いたか? よし」


 ドアノブをひねる。ややあって、引かれるドアの中は薄暗くてよく見えない。

 と、

「おかえりなさいませ。お嬢様」


 初老の執事が、斜めにお辞儀する。黒い服に白いシャツを着たメイドが、並んでいた。同様に、壁を作ってお辞儀をしている。


「おっす。ただいまー。おかんは、どうしてる?」

「アリス様は、研究室です。お呼びしましょうか」

「んにゃ。今日は、ユウタが来てっから邪魔になるだけだぜ。もし、来たら追い返したいんだよな」

「左様で。父君から、顔を見せるようにという言伝を言いつかっております」

「めんどくせーな。じゃあ、応接間で待たせておいてくれよ」


 執事は、きびきびとした動きで帽子や箒を受け取っていく。ちらっと見る彼から表情に変化がなくて、愛想笑いを浮かべるのが精一杯。仮面を付けているので、見えないだろうが。

 メイドの一人に、案内される格好で進む。


「あんちゃん。ここ、どこなの」

「エリアスの家だ。レウスが、魔術を教わる時にはここに来るといい。…そのうちにな」

「なんか、凄そうだよね」


 レウスが、不用意に物に触れようとする。その手を掴んだ。


「危ないぞ」

「え?」

「こうした格式のある家、魔術士の家ではおいてある物に触れては駄目だ。呪いがかかるかもしれないしな。気をつけろ」

「うん。気をつけるよ。でも、面白いね。これなんか、変わった猫だよ」


 視線の先には、黒猫が台の上に鎮座していた。生きている。しかし、変わっているのは尻尾が2本に分かれている事だ。猫又の使い魔なのかもしれない。黒で染められた内装は、金がかかっていそうだ。

 扉を開けて、メイドが進んだ先に黒と赤で設えた部屋に案内される。


「どうぞ、おくつろぎになってください。何か、飲み物は入用でしょうか」

「それは、どうも。しかし、心配は無用です」


 インベントリを開くと、そこから林檎を絞ったジュースをグラスに注ぐ。

 そして、銀髪をいじる幼児に手渡した。興味津津だ。


「ありがとー。これ、なにかなー」

「飲んでみればわかる」


 採れたての一番をぎゅっと濃縮して味わい深くした一品だ。食物もそうだが、飲み物も不味いようではアルの側近は務まらない。ごくごくと喉を鳴らす弟の頭を撫でる。大して等身は、変わらない。頭1つくらい大きいくらいだ。飯の状態が悪かったからだろう。


「美味しいね。これ」

「そうか。いくらでも飲んでいいぞ。ただし、激しい特訓が待っているけどな」

「あうー」


 どうも、このレウス。憎しみを得なければ、ぽややんとした子なのかもしれない。

 どうにかしてクシャナを取り戻さないといけない。彼女を取り戻さないと、隣人のギルが病んでしまいそうだ。それに引きずられては、いけない。

 いっそ、彼も王宮で下働きをしてもらうのはどうだろうか。

 

 良い案に思える。

 かちかちと時計の音が、時間の流れを教えてくれていた。


「クシャナちゃんは、レウスのこれなのか?」

「えぶしっ」


 小指を立てて聞くと。

 レウスが、果汁を盛大に吹き出した。危ない。しかし、ふかふかの絨毯が汁まみれだ。

 あとで、エリアスに侘び料を払わないといけないだろう。


「えうー。そ、それは」

「ふむ。憎からず、か。ふむふむ。ここは、お兄さんに任せなさい。悪いようにはしない」

「ええ? でも、王宮っていったら王様だよね。どうしようもないよ」

「任せろといっている」


 軽く幼児の背中を叩くと、むせ返りが一層はげしくなった。やりすぎたかもしれない。

 後悔していると。

 入ってきたドアが開いて、


「やーまいった、まいった。おかんに捕まってさ「あら、こちらの方、エリアス、このビッチ、ちょっとこちらに来なさい!」

「は? ちょ、ちょっと待てって「黙りなさい、ビッチ! 貴方という人は婚約者がいながら、お友達というから聞いて見に来てみればユークリウッド様ではなくて、アル様でもないではないですか! だいたい、貴方、フィナルちゃん以外のお友達を連れてきた事もないのに間男など! 恥を知りなさい!」


 いきなり平手で、殴られた幼女は胸元ががばっと開いた美女に掴まれる。黒いドレスに切れ込み、というには大胆すぎる胸元がへそまで見えるのだ。目のやり場に困るエリアスの母、彼女はさらに平手を見舞う。


「ちょ話を「ちょ、ではありませんよ。貴方は、自覚がありません ここで、性根を入れ替えましょうね」


 微笑む美女。絵になる光景だ。が、掴み上げられた幼女は必死だ。


 見ていられない。このままでは、セリアにやられたフィナルと同じ状態になってしまう。歯も再生する世界なので、なんとかなるといえばそれまでなのだが。

 エリアスを打とうとする美女の手をはっし、と掴んだ。


「お止めください。事情は、わかりませんがエリアスは我が友」

「伴? 無礼な!」


 美女の魔力が膨れ上がる。エリアスの倍は、あるだろうか。とてもではないが、幼女では太刀打ちできないだろう。しかし、受け流す。【威圧】だ。マナを乗せたそれ。エリアスというと、腰が抜けている。


「これは、無礼をいたしました」


「ほう? これは、どうして侮れないわね」


 美女は、エリアスを放すと黒く長大な扇子を手にした。


「このような場所で、本気ですか」


「娘は、これで、あれな性格です。貴方が騙しているとも限らないでしょう? 催眠術をかけた様子は、ないようですが。支配の権能。悟られないスキルがあるやもしれません」


 人形にしていないというのに、疑り深い。母親は、過保護だった。


 美女の振るう扇子を篭手で受け止める。火花が散った。鋭い突きだ。

 身長差が、激しい。

 長い足による踏み込みも、セリアには劣るがそれでもなかなかの腕といえよう。

 ひよこも狐も何もしない。手伝ってくれる事がないペットたちだ。

 

 さらに数合。上下に振ってきたそれに、疾風の足技が混ざる。躱し、篭手で受け止める。

 なかなかの剛力。長い足の連撃に、天井を使った体術。煙火連弾に火花が散る。

 扇を使って、視界を塞ぎつつ、肘から打ち下ろす。右の鈎突き、左の打ち下ろし。

 頭上から、踵を下ろしてくる。受け止めれば、扇を突き立てにきた。

 

 反撃するのは、易い。が、セリアではない。殴れば、死ぬかもしれない。

 最後の下段足刀は、掴んだ。


「貴方、できるわね」

「だから、そいつは、あー、ユウタってんだよ。俺の友達な」

「よろしいでしょうか」

「合格ではあるけれど、恋愛など、魔術師の家にはないわよ。そこの子供は、はぐっ」


 なにを言っているのだろうか。レウスを試そうというのか。思わず握っていた手に力がこもってしまった。


「おかん、こいつに冗談は通じねえから。こいつは、からかう奴だとマジになるからやめろってば」

「わかりました。エリアス。何かあれば、許しませんよ? わかっているでしょうね」

「だーもう、わかってるって。さっさと引っ込んでくれよ」


 そして、目が足から伝ってそこにいくと飛び上がりそうになった。

 履いていないのだ。目が、おかしくなったのではないか。切れ込みのある服を着ているというのに、それはいけない。どこへそこのあれは行ったのか。ユウタには覚えがない。

 

 エリアスは、紙切れを美女に渡すと。


「あら、いやだわ。ご無礼をお許しくださいませ。お客様。…熱い視線ですわ」

「…」


 顔を赤らめた。何が書かれていたのかわからないが、それは名前なのかもしれない。

 危急に変化した対応。それが、何を物語っているのかわかってくる。

 扉を閉める頃には、アリスの顔が般若から菩薩になっていた。


「お前、どこみてんだよ。変態だなー」

「は? 変態は、あの人だろ」

「そういうの、むっつりっていうんだぜ。スケベ」


 困った。全然、話が進まないではないか。


「というかね。家に来たのこれが初めてでもないのに、どうしてああなんだ?」

「仮面」

「なるほど」


 レウスは、びっくりして固まっている。かなり怯えているようだ。無理もない。

 派手に蹴りや突きをしてきたというのに、テーブルや椅子が破壊されていないので手加減したのだろう。

 暴れるなら、外でやるべきだ。だというのに、仕掛けてきたのだから美女は腕のほどが伺える。

 セリアなら、一撃で部屋はぐしゃぐしゃになるのだから。


「それでな。これ、鑑定結果だけどな。よく、見ろよ」


 一枚の紙が、手渡された。そこには、「こいつユーウ」と書かれていた。


「おい」

「あ、違う反対だ。裏にしろって」


 レウスには、見えないようにしてそれを見ると。


「ば、ええ?」

「諦めな、そいつが真実だぜ。つまり、お前」


 そこには、レウスとの血縁関係はなし。とある。つまり、グスタフとも血縁関係ではないのだ。

 となると、ユウタ、ユーウはいったいなんなのか。捨て子かそれとも養子か。

 遺伝子は、裏切らない。見てしまった真実に、打ちのめされて膝が震えている。


「まー、気にすんなって。なんなら、家に来るか?」

「い、いや。ちょっと、めまいがする」

「気持ちはわかっけどなー。こいつをどうするかなんだが、黙ってた方がいいぜ」


 それは、そうだ。黙っていないと、どうなるのか。グスタフと血縁がないという事であれば、シャルロッテンブルクも接収されるのかもしれない。目の前が真っ暗になって、倒れそうだ。

 だが、男は1人でも立たねばならない。倒れるならば、前のめりで。

 何度でも立ち上がる。


「あ、ああ」

「どうする? 今日は、休んだほうがいいと思うけどな」


 ひっくり返りそうだ。だが、男は我慢なのである。


「いや、予定通りだ。アレインとセイラム姫を加えて、迷宮に向かう」

「へぇ。…タフだねえ。てっきり、泣きダッシュするかと思ったぜ」

「吐かせ。俺は、倒れたり逃げ出したりしねえ」

「そうかよ。まっ、他の連中は気にしないだろうけどな」


 ユウタが気にするのだ。騎士なんてやらずに、どこかに引きこもるのもいい。

 なんなら、ダンジョンマスターとして1000年くらい地下に潜るのもいい。

 アルのお守りなんて、やってられないし。


「よし、それじゃあ「よう、ん? 誰だ、貴様は」

「おいおい。おやじ。いらっしゃいだろ」

「俺は、悲しい。む、娘が浮気など。そんな娘に育てた覚えはないぞ! 間男め、成敗してくれるわ!」


 細面の男は、目をくわっと開ける。真っ赤に染まっている目だ。

 よもや。魔眼を発動させるつもりか。

 林檎ジュースを飲み終わったレウスを庇うように立つ。目を潰してしまおうと。

 

「でえいっ」

「ぱぎゅ」


 扉を開けて立つエリアスの父親は、顎を娘の振り上げた拳で打ち抜かれて反対側に倒れた。

 見事なジャンピングアッパーカット。股間に膝で一撃入っているのも見所である。 

 男の目が飛び出るようだった。


「外に出てろ。こいつは、俺がなんとかしとくから」


 とんでもない娘だった。馬乗りになって、容赦ない打撃を顔面に向かって放っている。

 あれが、親子の会話なのか。ユウタの関係上にある父親とは、剣の稽古すらした事が稀だ。

 髪の毛が扇状に広がるそこに血しぶきが舞っているのだから、激しい。

 

「メイド、手を出すなよ!」

「はい。仰せのままに」


 入口で出迎えた執事に見送られるようにして、外に出る。お化けがでてこなくて良かった。

 

「どりゃあ! ったく、しつけえ。俺が、どこで何をしてようが勝手じゃん。魔導騎士だって、お荷物なんだかんなあ」


 出てきたのは、5分ほどだった。


「大丈夫なの?」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。あんくらいで死ぬようなおやじじゃねえし。おかんとは毎日運動会やってるからよ。それよか、お前の方が精神的にきてんじゃねーの」

「あー。ま、あね」

 

 そうなのだ。エリアスがいなければ、レウスがいなければ。この場で、ごろごろごろと芋虫のように転がったかもしれない。人が見ていると、気取ってしまう。ましてや、弟だと思っていたレウスにみっともない姿は見せられない。


 酷い詐欺に、ユウタは脳を攪拌されている。実のところ、事実に圧殺されて気絶しそうだ。


「よし。アレインとセイラムを迎えに行こう」

「よっと待て。フィナルじゃねーの」

「彼女が、いるとお付の方がいるからな。それに、エリアスに頑張ってもらうから」

「ええ~?」


 れっつぱーてぃーは、火力1にお供が3だ。ユウタは、見守る役である。


挿絵(By みてみん)

「ひょっとすると、これ。俺のターンなんじゃね」

「嘘…」

「巻き返しは、これからだぜ!」

「やらせませんわよ!」


 フィナルは、八重歯をむき出しにして威嚇した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ