216話 DV幼女は、おもちゃを手に入れた+薄い壁
加速する距離を鋼鉄で、補えるのか。やれるように見えないという。
それを見た幼児は、手で兵器を触って興味深そうにしていた。
レールを銅で、導体は不思議な石で。
摩擦・電気抵抗・耐熱限界などを可能とする為に魔導と併用。
そうして、実用化できるという魔導兵器レールガン。
『実用化されていれば危なかったかもしれません。なので、捕らえてきてくれませんか』
念話で頼まれた。しかし、言う事をそのまま聞くつもりはない。
レールガンの持つ特性。
大規模な電気を発電する施設が必要だという。高射砲1つで大型発電所が、必要になるとか。発電所1つ作るのに、500ー5000億ゴル。殴られてないのに、くらっとなった。
理解できない。遠距離攻撃が必要なら、岩でも投げればいいではないか。幼女には、自信がある。
なんなら、
―――魔法でいいではないか。
頼りにしている幼児が、レールガンを開発していた男を捕えろという。
―――糞くらえだ。
頼み事をした相手が、相手でなければ首をへし折っている。
異常に発熱する砲弾と筺体が接触している必要があるらしく。
摩擦により発生する熱も膨大。
レールと弾体に流れる電流が、負荷にかかってなんとか熱を発生させて破裂する。
超伝導による浮遊なのか。浮遊城の仕組みを解析したいと。だから――――技術がいるらしい。
レールがプラズマ化してやや蒸発。
加速度的に交換しないとその性能を発揮しない。
―――理系の頭脳が。
いる。弾体は導体が必要になる。
兵器レベルに近づける電化。銀による超伝導を可能にするのかどうか。
nb3snニオブスズではなくて、銀で行なう事が書かれている。これを証明させねばならないという。ユーウは、完全に間違いではないのかと言っていた。未だ完全導体なる物は、魔術でも使用しなければ無理らしい。セリアに完全導体という物がわからないし、ニオブスズもニホウカマグネシウムもわからない。単語は、寸毫しか覚えられないし、意味も理解できない。
導体とは、なんなのか。考えれば考えるほど、頭がおかしくなりそうだ。
幼児は、言っていた。科学の力だけで、魔物を打ち破る事ができれば快挙だろうとも。
幼女は、不満だった。
敵は、殺す。そうして、生きてきたのだ。今回の的もいつも通り殺したい。そうやって、生き延びてきた。
穴を掘り進む。
眠い。
しかし、的に逃げられては厄介だ。
幼女は、思った。このまま、的を生き埋めにしてしまったほうが早いのではないかと。そして、悩む。
的を殺せば、なんと言われるかわからない。それでは、己の評価が下がってしまう。幼児は、罵倒しないだろうけれど。馬鹿な事をして、とたしなめられるのも何度目かわからない。いい加減、幼女ことセリアにもわかってきた。
(ふっ…。だんだん脆くなってきたな)
幾度、土壁を掘り返した事か。術者は、限界が近い。張っている相手もろともに殺せば、それが的だったりすれば失態だ。耳を澄ませれば、どれほどの壁の厚みだかわかる。やがて、掘り進んだ先にローブを羽織った1人の猫獣人が立っていた。
雑魚だ。魔力は、感じられない。
鼓動の音が、止まっていた。女猫人の魔術士は、立ったまま死んでいる。
横をすり抜けようと、セリアは歩みを進めてのけぞった。ありえない事に、その獣人が動いたのだ。すでに、心臓は動いていない。だというのに、杖から剣を振りかぶって掴みかかってきた。
「むっ」
死んだフリか。違う。
そうではない。確かに、心臓は動きを止めている。だというのに、生きているかのように動くのだから怪異だ。そして、そういった相手はセリアの大好物だった。
数合。
火花を散らす仕込み剣の冴えは、とても魔術士のものとは思えない。
ミミー以上、ネリエル以下だ。欲しい人材だ。
影から麻を編んだ荒い目の紐を取り出すと、そのまま縛り上げる。敵を捕獲するのには、持ってこいの縛術。亀甲縛りに仕立てて、女を担ぎ上げる。
霊体が、念を放つ。
『は、離すにゃあ!』
『いいや、断る。面白い奴だ。お前のような奴は…。私は、気に入っている』
『な、なんにゃ。あちしにそんな気はないにゃあ。姫様の元には行かせないないにゃ!』
頭が、緩いのか。
生霊だ。霊体に、セリアもまた念話で応対した。
死んでいるのだ。つまり、これはへんな猫人の生霊が取り付いて死体を操っているのだ。
実に興味深い。ユークリウッドは、愛は見えず有りはしないという。
「くふっ」
笑みが、自然と漏れた。
これこそ愛の奇跡ではないか。忠義に優る家臣のなんと得難いことか。
セリアは、万金を積んででも欲しい。素直にこの女猫人が欲しい、と思った。
ほくそ笑み、そして思案する。どうやって調略したものかと。
『お前、名前は?』
『あちし? あちしは、にゃ、駄目にゃ、姫様の元には行かせないにゃ! くぬくぬ…解けないにゃ』
『ふっ。お前、何を言っているんだ。名前は、鑑定を使えばすぐにわかる』
『にゃ、にゃにいー! そんな事をしたって、あちしは騙されないにゃ!』
意味がわからないが、この猫、馬鹿のようだ。
馬鹿は、使いようである。セリアは、猫をなでるように甘い声を出す。
名前は、にゃるんのようだ。
『そういえば…猫缶がある。食うか?』
『にゃるるん。お腹すいたにゃ、くれるのにゃら…』
名前の一致していない生霊が、お腹を押さえている。腹が空いているのが、またおかしい。
『ぷっ。ばーか。貴様は、すでに私のものだ。我が軍門に下るというのなら、猫缶を山のように積んでやっても良いぞ』
『だ、駄目にゃ。はっ、いつの間にか、で、出口にゃ』
女猫人は、死んでいる。この猫人は、間抜けでもあるようだ。根性と忠誠心は大したものだが、使うとなれば苦労が必要だろう。簡単に寝返りそうな奴でもなさそうだ。手駒に加えるには、時間がかかりそうであるが。
―――だが、面白い。
生霊になってまで、立ちふさがるとは。
『名前、まだ聞いてないぞ』
『言わないにゃ! なんか、嫌な予感がするにゃあ』
『ほう。では、ここに棒でも突っ込んで遊ぶとするかな』
猫人は、びっくりして固まっている。よほど、堪えたようだ。死体が、お尻を押さえた。
人参を出したら、生霊なのに汗が滴り落ちた。
同時に、尻尾を持ち上げる。そこに差し込むふりをすると。
にゃるんは、悲鳴を上げる。
『ふぎゃあ。や、やめるにゃあ…』
『ふっ。貴様があくまで抵抗するならば、犬人族は皆殺しだな』
『にゃ? にゃ、にゃんで?』
にゃるんは、目をダイヤ型にして見開く。なかなか、センスがある。
『当然だろう。皆殺しにしようとしたのだ。ウォルフガルドがされた事を1000倍にして返してやる』
『にゃ、そりは、その、ひ、姫様の意思じゃないにゃ。異世界の勇者がやろうとした事なのにゃあ。姫様は、悪くないにゃよ…』
『では、どうするというのだ』
悪くないという言葉に、底冷えする感情が湧き上がる。
段々と、怒りが募ってきた。地中より這い上がったそこは、闇の帳がすっかり落ちている。
『にゃあ…そりは、その』
本当に、頭が良くないらしい。このような者を配下にしても、苦労するのではないだろうか。
しかし、面白い。普通は、死ねばそれまでだ。
『貴様が、ウォルフガルドの為に働くというのなら多少は目をつむってもいいが? 姫とやらも考えよう』
『いいのにゃ!? でも…』
本当に、どうかしている。セリアもにゃるんという猫人も。あと少しで、篭絡できそうだ。
改めて、この猫人が死んでいてよかった。そうでなければ、殴って言う事を聞かせただろう。
『ふっ。よく考えておけ。返事をする時間は、たっぷりとあるからな』
セリアの配下は、少ない。ロメル、ドメル、ネリエルくらい。ミミーやモニカ、アキュ、キッツはユークリウッドのいう事を聞くだろう。というか、少し考えると。全員が、彼の意見を優先しかねない。ウォルフガルドの王族は、セリアだというのに彼が乗っ取っているかのようだ。セリアの番になるならば、それでいいのだが…。
父親であるウォルフガングが死ぬか退位すると、フェンリルを継ぐのはセリアと目されているけれど。
王子が両手の数くらいいるのだ。妹は1人だけ。
(いつまでも、アル姉の世話になるわけにもいかない)
にゃるんは、強情なようだ。まだ、悩んでいる。
◆
エリアスは、レウスの髪の毛を持って帰っていった。
フィナルは、仕事があると言って帰っていった。
レウスとグスタフの関係が、気になる。ステータスカードには、父グスタフとは表示されていなかった。
しかし、【xxx】があった。気になる。
アルルとシグルスを天空城に送ってから、レウスを送ると。
母親は、すっかり元気になっていた。外の通りは、綺麗に舗装されている。アスファルトが敷かれて、白い線で境界が描かれている。将来的には、馬車ではなくて車が通る予定なのだ。通りを眺めながら、電力需給計画が進んでいる事に満足した。
外灯だ。魔力を使わないタイプの。一気に進んでいるのは、白騎士団の手柄なのだろう。
夜は、工事もされないので静かな夜だ。
屋敷に向かう事にしよう。
ユウタは、レウスの事で頭が一杯になっている。沢山の計画が同時に進んでいるので、管理しているだけでも大変なのだ。少なくとも、停滞しているのは1つもない。しかし、どんどん濁流のようになって現れてくる家庭の問題。本来なら、グスタフの撒いた種なのだから彼に処理させるべきなのだ。
(xxxが気になる。あれが、レウスの事ならいいんだけど。まさかなあ)
まさか、更なる兄弟が出てくるとか。そんな予感が、ひしひしと胃にきてキリキリとした錐でも刺さっている気分だ。レウスのトレーニング。子供でも強くなってもらわねばならない。グスタフは、緩い。谷底に落とす勢いで、鍛えよう。と、言って意気込んでいたのにユウタは養殖をしている事に気がついた。
(んーんー。でも、養殖で性能だけでもあげてないと経験が積めない気がするんだよな。いきなりゴブリンと対戦とかさあ。きついと思うんだよね。だって、俺はバーチャルやらなんやらで経験があったし。ユーウのおかげで色々と、記憶があるからなあ)
きつい事を言うのは、いかがな物かと思うのだ。
上司は、ひでえ事を言う人間ばかりだったので。ユウタは、部下と同僚には甘く接していた。
アキラにも相当に甘いと、己では思っている。付け上がってきたところで、頭を叩けばいいだけの事だ。
屋敷の入口に立つ。そして、最近の出来事を思い出すと。
(…どう考えても、またエリストール辺りが忍び込んでいるような気がする。それで、酷い目に合いそうだ)
仮面を外して、ラトスクの事務所に飛ぶと。
「これは、ユーウ様。いかがされましたか。このような夜更けに。コーボルトの殲滅を完了されたのですね!」
「ロメルさん」
ロメルが、熊耳をぴこぴこと動かしている。余程、コーボルトが気になるらしい。
「いえ、ミッドガルドの要塞兵器が稼働したという情報を聞きまして。やはり、一瞬で戦いは終わってしまったのでしょうか。あの粕どもが、死にゆく様をじっくりと眺めたかったのですがねえ」
揉み手をしながら、シャツの中にしまわれた筋肉が血管を浮き立たせる。
「コーボルトを殲滅する…誰から聞きました?」
「え、ええと。皆の噂に上っていましたので、私もそのように考えていたのです。間違いでしたでしょうか」
「いけませんね。ロメルさん。そのような考えでは、コーボルトと同じですよ。改めてください」
「わかり、ました」
わかっていないようだ。コーボルトを殲滅するとか。軽々しくセリアの配下が言ってはいけない。
「他国の民を殲滅するなど…凡そ人の所業ではありません。今後、そのような事を言う獣人がいれば罰金を払ってもらいますよ。そうしましょう」
「えっ。それは…我らは復讐する権利を…」
「弱いのが、悪い。とは思いませんか。ミッドガルド軍を撤退させたのはいい。けれど、自分たちの身を守れないのにそうしておいて、他国に攻め込まれて無様を晒す。なんという、貧弱かつ無能。弱い獣人に、権利などないのがウォルフガルドでしょうに」
ロメルは、俯いてしまった。同じような説教をセリアか誰かにした事を思い出しながら、
「その政策を考えた人間に、責任をとってもらうしかないでしょうね。国が、動けば一国民にどうこうする力なんてありませんよ」
「ユークリウッド様がそのように仰せならば、致し方ないでしょう。しかし、残念です」
「殺せば、相手は楽になる。コーボルトの所業を見た他の国は、どう思うでしょうか」
「…極悪非道の犬人たち…なるほど。そこまでお考えならば…」
ロメルには、想像できたようだ。コーボルトは、長く苦しむ時代に入ったのだ。それは、現代とは比べものにならない制裁が待っているという事である。四方八方から攻められるだろうし、それをどうにかする力が彼らにあるだろうか。兵器のほとんどを破壊され、また食料を焼かれている。
飢餓と戦乱が、コーボルトを襲うだろう。自業自得だ。
セリアが、どうあっても皆殺しと言えば手伝うしかない。正義の味方ではなくて、セリアの味方だからだ。
味方できる者は、限られる。結局のところ。
「部屋、借りてもいいですか」
「いえ、どうぞお使いになってください」
アキラの姿がない。ロメルは、犬人の女性から珈琲を受け取って椅子に座りこんだ。
彼は、熊系とのハーフだというのにウォルフガルドには並々ならぬ愛着があるらしい。
ドメルも一緒だ。夜遅くまで、仕事をしている熱心さはミッドガルド人も見習うべき所。
階段を上がっていく間に、マールの姿が見えない事に気がついた。
部屋の鍵を受け取って、番号札を見ながらドアを開ける。
そこには、金ピカの植木鉢も小さな狼もいなかった。ほっとして、ベッドに腰掛けると。
暫くして。
「アキラさま」
「マール」
嫌な予感がした。
「アキラさまのとっても素敵です。胸の中でびくんびくんしてます」
「ああ、マール、いい」
壁が、薄いのか。マッサージ…なのだろう。と思っていた。
「ぬるぬるがいっぱいです。もう、たまらなくなったんですね」
「く、きつい。そろそろ」
別の意味で、死にそうだ。このような会話を聞かされるとは。
「気持ちよかったですか? 今度は、こっちの方にお情けをください」
「たまんねえ。いくぜっ」
「どうですか? アキラさま。気持ちいいですか?」
「もちろんだぜ。ここか? ここがいいのか!」
壁を破壊してもいいだろうか。ともかく、この部屋を勧められたのはロメルの嫌がらせだ。
「ああ~。いいです。とっても素敵です」
「へへっ。そうか。もっと、もっと気持ちよくしてやるぜっ」
「アキラさま。気持ちいいですか? あっああ…いいっ。あたし、ああ、いい」
「まずは、1回、目、お、おおおおお!」
思わず、そこで壁を破壊しそうになる。
ロメルをサンドバックにしてやるべくドアから出た。




