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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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210話 もしかして (ユウタ、レウス、ティーチ)

 目を覚ますと、そこには毛玉とひよこが狐に包まれていた。

 ベッドで侵入者は、気持ちよさそうに寝ている。全く役に立たないが、たまーにいいこともある。

 柔らかな毛布は、太陽の匂いがした。

 紺色のシャツに袖を通す。黒いローブを羽織る。パンツが入っている箪笥を開けた所、数が少ない。

 おかしい。

 パンツの管理もインベントリに収納しておくべきだろうか。洗濯に出したそれを収めるのが箪笥なのだ。

 その箪笥から、パンツが減っている。明らかに桜火が絡んでいそうだ。なぜ、パンツを盗むのか。金銀ならわかるが、パンツだ。ブリーフとトランクスの種類があるけれど、ユウタはトランクス派だった。ブリーフだと、密着して位置をずらすのが大変なので。


 机の上には、終わっていない宿題がある。どうかんがえても、今期もでかかりからして点数は稼げそうもない。実力テストだけが頼りだ。まだ義務教育なので、退学という事はないだろう。それにしても出席率が低い。色々な事があって、出席率が悪いのだがそれを説明して納得してもらえるだろうか。


(ふう。ちょっと、辺りを散歩でもしてみるかなあ)


 日頃から、散歩の一つでもして考えをまとめるのはいい事と思っている。

 ドアを開けると、そこには涼しげな風が吹いていた。太陽の日差しがないけれど、魔灯を頼りに1階に降りる。桜火は、もう起きて食事の支度をしているようだ。玄関の鍵を開けて、外へと出る。小さな竜たちがそこに勢ぞろいしていた。運動をしているようだ。くるくると回ったり、組体操をしている。


(謎の生物だ)


 朝が遅かったり、部屋の穴を通ってどこかへと姿を消している。玄関に移動していたりする彼らの生態は、謎だ。


「きゅっきゅ」


 林の中から、巨大な顔が出てきた。青い蜥蜴(リザード)だ。身体つきは、まるでドラゴン。西洋風というには、腹が細く足が太い。単に、この青い蜥蜴が細身なのか。それは、不明だ。知能が有るらしく、人語を話さないがちび竜たちの意思を汲み取っているよう。頭をちび竜たちにちょっと下げて、また林に姿を消した。庭に住み着いているガードマンだ。


 足元に寄ってきた竜たちを撫でると、嬉しそうにして飛び跳ねる。ちび竜たちが穴に入っていくのを見送ると。街の様子を見る為に、門に向かう。


(学校にいくかな。その前に、配達を済ませておかないといけない。宿題は、写させてもらうか。もらえるかわからんけど)


 学生を何度もやりたいとは思わない。子供を相手に、競ってどうするのだ。勝って当たり前の世界。しかし、稀に見る天才がいるかもしれない。前世では大した点数が取れなかったテストを満点にするというのは、以外にオツな気分に浸れるかも。そんな事を考えながら、両側を林で囲まれた道を通って門に向かうと。


(なんだ? 子供が、門から覗いている)

 

 薄汚れた銀髪の幼児だ。服は、灰色のシャツに同じ色の汚れた短パン。指を加えて、物欲しそうに屋敷の方向を眺めている。目が合った。途端に、門から姿を消してしまう。怪しい。どう考えても、なにかがある。六感が全力で、訴えかけている。走り出すと、門を飛び越えた。


 後ろ姿を捉える。ここで、見失っては後悔するだろう。隠形を使いながら、風に負けるかと走り出した。


(彼は、いったい何があって屋敷を見ていたのかな)


 後ろを振り返った幼児は、建物の影に隠れる。そこから、そっと様子を伺っていた。追いついて、斜め後ろに引っ付く感じで追尾すると。幼児は、肩を落として歩きだした。向かっている方向は、王都ヴァルハラの外縁部か。外側にいくに従って、富の優劣がはっきりしてくる。中心部は、間違いなく貴族で占められていた。

 その周りを覆うように商人たちが居を構える。

 幼児が向かっているのは、北側の日当たりが悪い場所のようだ。

 朝は、まだ商売人が用意している段階。日当たりがいい南側は、地価が高い。北に行くに従って、貧民窟が広がるという訳だ。通りがかる馬車に怯えながら、とろとろと歩いていく。目つきの怪しい人間が、幼児に視線を送っているようだ。犯罪は、バレなければ犯罪ではない。というのに、納得しかねる。糞は、さっさと処分するべき。


(おとり捜査をするべきだな。ここいら一帯のゴミどもを処分した方がいい)


 しなければ、なんてことはない。監視カメラが欲しい所だ。魔術のあるミッドガルドでは、魔術師が監視役をしていたりするが勿体無い。人間が監視しているのは、人材の浪費。なんとかして、監視カメラの製造をしたいのだが。それと似たシステムを作るのにもカメラの目を作る必要がある。魔術でなんでもできるかと言えば、そうでもないのが現状。


 胡乱な輩とすれ違いながら、全てが綺麗な世界ではない事を思い出した。

 ユウタからすれば、信じられない事だが。何も努力しないで、なにかを得ようとする人間が居ることを。

 外縁部の端に近い。そこは、灰色の壁と四角い箱のような家だ。日本の家よりももっと狭いかもしれない。そんなレンガなのかコンクリートなのかわからない壁に囲まれている。


 幼児が、ドアをこんこんと叩く。


「かあちゃん。開けて」

「おかえり。遅かったんだね。ごほっ」

「駄目だよ。寝てないと、僕がなんとかするから」


 若い女だ。銀髪の若い。歳は、20かそこらのような。ドアが閉まる前に、室内に入り込む。ヤモリになった気分だ。【壁歩き】と変形の【張り付き】を使用すると、隠形を保ったまま天井にぶら下がった。血が逆流して気分が悪くなるので、長時間その状態でいるのは厳しいが。そんな事よりも、親子? の情報を得るのが重要だ。正面からでは、何も聞き出せない可能性が高い。


 まどろっこしいのは、嫌いなのだ。まさかとは思うが、悪い予感が加速してきた。


「いいんだよ。レウス。ごほっ」

「座ってて、なにか作るから」

「レウス、まさかとは思うけれど旦那さまの所へ行ってないだろうね」

「うん。行ってないよ。暖かいのを作るよ。薪、薪っと」


 女は、咳が酷い。幼児の名前は、レウスのようだ。水は、良くない水か。透明なそれでない水で、木で出来たぼろぼろのコップに注ぐ。明らかに、不衛生だ。これでは、病気になっても仕方がない。水の魔術を使えないのか。魔術が使えれば、この程度の事はなんなくこなせるだろうに。よたよたと、水を湧かそうと鉄の鍋に水を注いでいく。


 魔術を使えば、一瞬だ。ファイアで炙ってよし、ファイアボールを最小の火力で投げ込むのもいい。ただし蒸気がでているような場所で使うと、惨事になるだろう。要注意だ。風呂を沸かす際にも、そこを忘れて連続で温度調整をすると死ねる。


(どうしたものだろう。親父との関係を聞きたいけど、女の人は喋ってくれそうにないようだし。会話から察するしかないのか?)


 頑張って薪に火をつけようとするレウス。しかし、上手くいかない。焦れったくなってきた。この不器用さ。クラウザーを凌ぐかもしれない。確実に、グスタフと同系統だ。さっさと火をつければいいのに、木を回すのが、遅すぎるのだ。一向に、火がつかない。


(なんて、下手くそなんだ。見てられねえ)


 恥ずかしい事に、涙がわっと出てきた。なぜか。いてもたってもいられない。

 インベントリから仮面を取り出す。フードを被れば、不審者の1丁上がりだ。ついでにローブも変えておく。赤いローブを着ると。隠形を解く。


「え? わあああ。あ、あんた誰?」


 幼児は大げさに仰け反った。


「下手くそが。黙って見ていろ。こうするんだ」


 レウスの骨と皮でできた手から、木の棒を取り上げる。両手に挟んだ棒をくりくりと回せば、ぼっと火がついた。黒い炭化した所から、勢いよく火が生まれる。


「ど、泥棒さん?」

「ちげえ! 全く、人が親切で教えてやってんだ。よく見ておけ。つか、種火くらい残しておけよ。薪が少ねえ。何をやっている。病人がいるのに、室内がさみーじゃねえか」

「うっ。その、薪を買うお金がないんだよ」

「じゃあ、取ってこいよ」

「取りに行くったって、遠いんだもん。それに、木を勝手に切ったら自警団の人に捕まるもん」


 木は、確かに勝手に切ってはいけない。ついついユウタの感覚で、ものを言ってしまう。


「そいつは、悪かったな。じゃあ、仕方がねえ。これを使え。置き場が、狭いじゃねえか。床も掃除が行き届いているとはいえねえな。ここからかもしれねえ」

「えっ? で、でも見ず知らずの人にしてもらったら悪いよ」

「レウス。この方は…お知り合いなの?」

「え、う、…えと」

「ええ。そこで、知り合いましてね。大丈夫じゃない様子。ちょっと、様子を見させてもらったところです」


 なんともぶっ飛んだ話だ。そこって、どこだよと突っ込みを入れたい。インベントリから、肺に効きそうな錠剤を取り出す。これだけで、エリアスから大金をふんだくられるのだが。


「これは?」


 一緒に、真新しい硝子のコップに水を出しながら錠剤を差し出すと。


「咳が治る薬です。お飲みください」

「お金、の持ち合わせがないのですが」

「いりませんよ」


 レウスの顔を改めて見れば、アレスに似ている。つまるところ、グスタフの血を引いているのではないか。銀髪なので、母親の色が強いのかもしれない。


「いただけません。これは、ごほごほっ」

「俺がいいっていってるんだ。飲めばいい。飲まないと、勝手に無理やり飲ませるからな」

「貴方は強引な方ですね」


 沸かすのにも、時間がかかる。現代のような鉄器を使っているわけではない。ヒーターもないし。エアコンもないので、室内を温めるのには暖炉だったりするのだ。魔術を使える家であれば、魔道具が物をいう。涼しげな室内も病人にとっては、寒いだろう。レウスは、火を一生懸命になって起こそうとしている。


「俺は、ユウタ。失礼ですが、お名前をお聞きしても?」

「ユウタさまですか。私は、ティーチ。針子の仕事をしております。ごほっ」


 ベッドの横には、粗末な机があって布と針がならんでいる。大分使われていないような。

 ティーチは、じっとコップを眺めていた。が、意を決したのか水と錠剤を飲む。


「レウスくんとここに住んでおられるのですか」

「そうです。何もないところで、このような身体でお構いすることもできません。あれ? 咳が」

「ふふふ。良かった。効いたようですね」

「大分、良くなりました」


 と、そのまま横になって寝てしまった。よほど、咳がひどかったのかもしれない。


「あれ? 母ちゃん? え?」

「大丈夫。寝たようだ。これは、酷い労咳になりかけかもしれない。換気が悪いからな」

「お、おい。どういうことなの」

「うるせえ。黙ってろ。このままじゃ、また咳が悪化する。まずは、部屋の内装を変えるとしよう。靴を脱いでいろ。壁も張り紙をするか。樹脂のフローリングをしてと」


 床を汚い石畳から肌色のフローリングに作り変える。壁には、真っ白な壁紙を貼り付けていく。


「ど、どういうことなの」

「靴は、玄関な。土足で上がるんじゃないぞ」


 混乱しているようだ。薪の置き場も考えないといけない。魔力が、レウスにはないのか。そんな事はないようだ。しかし、それほど強力な魔力槽をしていないようだ。【鑑定】を使う。結果は、散々な物だ。拡張もしていないし、レベルは3しかない。ゴブリンだって倒せないだろう。年齢は、8歳だ。


(これで、1個下だと? 小学2年生くらいだと、こんな感じなのか)


 不意に、どんどんと扉が叩かれた。


「はい。どなたですか」

「おらっ」


 レウスがドアを開けた途端、男に殴られた。斬られなかっただけ良しか。吹っ飛んで、ユウタの足元まで滑ってきた。頭の中は、もう血が煮え立っている。


「借金を払えやっ。いつまでも滞納してんじゃねーぞ! ん? 誰だてめー」

 

 てめーではない。見るからに、悪人顔で金壺眼。糞が、現れるとそのまま新調したばかりのフローリングに乗り込む。


「ユウタだ。で、あんたはどういう経緯で他人の家へ土足で上がってんだ」

「はっ、どチビが煽ってるつもりか? おい、金目の物を持っていけ」


 金壺眼が、くいっと顎で合図すると男たちがまた入り込む。


「待て。金を払えば、いいんじゃないのか?」

「はっ。てめえみてーな餓鬼が払える額じゃねえ。ひっひっひ」

「幾らだ」

「ふははっ。払うつもりなのか? 1000万ゴルだ。餓鬼に払える額じゃあねえ」

「ほらよ」

「なっ」


 インベントリからだしたのは、きっちり1000万ゴル。の入った袋。

 じゃらじゃらとした袋を手下が受けると、中を確認して鼻息を荒くした。

 

「本当に、あるようですぜ。兄貴」

「ふん。餓鬼がそんな金を持っているはずは、ねえ。何もなかった。そうだろ」

「兄貴、あんたも人が悪いぜ。ひっひっひ」

「ティーチを逃がすわけにはいかねえ。おらっ持っていけ」


 もう、すっかり後悔した。悔い改めるつもりだったのに、どうしてこうも塵芥が跋扈しているのか。

 金を貰って、退散するという気はないようだ。


「子供を相手に、恥ずかしくないのか? そんな真似をして」

「だからに決まってんだろ」


 レウスを蹴ろうとする手下の足を正確に、叩く。


「ぎゃああ」

「なにしやがる!」

「それは、こっちのセリフだ」


 ひょっとすると、弟かもしれないレウスを殴っただけでもぶっ殺したい気分だというのに。

 殴り掛かってくる男の足をヘシ折り。金壺眼の男は、腰に下げていた剣を抜く。


「抜いたな?」

「そっちが先だろが!」

「どの口がそれをいう!」


 振りかぶる男の胴を拳で打ち抜くと。呻く男たちを引きずって、外に出る。そのまま服を剥ぎ取っていく。シルバーナの手下なら、彼女に責を負ってもらうとしよう。でないのなら、刑務所にでもぶちこまないと気がすまない。金を握らせて、正座する格好で固定する。人形使いのスキルだ。


 知られると不味い外道スキルなので、使ってこなかったが。殺さずに無効化するのならば、打ってつけのスキルがある。人形化。どの程度持続するか試してみるとしよう。持っているとばれれば、狙われかねないチートなのだけれど。殺さないようにするなら、使える。


「反省してろ。ちんかす野郎」


 汚れた部屋の中を掃除しているだけでも、午前中が終わってしまいそうだ。

 殴られたレウスは、気絶していた。死んでいるかと、涙がでてしまう。

 反省では治まらない。金壺眼とたっぷりオハナシする事になった。 

  

 

 


 

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