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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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196話 降下7 (ユウタ)

 魔王本体が来ないんですが。

 いえ、魔王の配下も来ないです。

 代わりに、もっと厄介なのが。

 セリアです。


 この子、暴力が酷いので困ってます。

 どうしたら、おとなしくなるんでしょうね。

 え? 殴られてろ? 木人じゃないのでちょっと…。

 

 きちんとした法治国家なら、傷害罪ですよね。

 え? 法治国家にしろ? 

 ……結構俺も適当な事をやってますからねえ。

 殺人罪で、死刑になりそうな事をばんばんやってますし。


 人を一人でも殺せば、現代なら死刑が見えてきますし。二人なら、確定っぽいですよね。

 で、子供に殴り殺されそうなんです。 

 ……魔王さん、早くきて。俺、死んじゃう。


 セリアに殴られて。







 ごつごつとした灰色の壁。

 時折聞こえてくる奇怪な叫び声。

 地面には、血がついたのか変色している。

 迷宮だ。


 名前は、地下墳墓。アルカディアの首都にある。

 ここへ来たのはアキラの修行の為なのだが、


「なあなあ」


「?」


「婚約って、破棄できる物なのか? 婚約ってどうやってやるんだ」


 なんでそういう言葉が出るのか。白い毛玉が首元でもぞもぞした。

 それっきり動かない。


 そんな物を聞いて、どうしようというのか。セリアの手によってノックアウトされたロシナを置くと、そのままやってきた。地面に叩きつけられた彼のダメージは、予想を上回っていたようだ。


 新顔に、帝国の皇女が入っている。これがまた、銀髪の幼女は気に食わないらしい。そして、皇女は皇女でセリアと似たもの同士なのかギスギスとした空気が流れている。


(ち、血の雨が降りそうだぞ!)


 話す相手が、アキラしかいない。ブランシェの毛をなでている。

 敵は、ミミーとネリエルが始末していた。撃ち漏らした敵を相手するやり方だ。

 両方とも腕が立つ。忍び系統の犬人と【重戦士(ヘビーファイター)】。

 斥候とタンクだ。これで、魔法使いと僧侶が居ればセリアのパーティーは完成する。

 セリアが火力なので、魔法使いと被るけれど。


「家が決める事だよ。本人同士でどうこうできる問題じゃないよ」


「ふーん。で、セリアちゃんと婚約してんの?」


「してないですね。勘違いしているようですが、貴族の婚約ともなればおいそれと反故にできないです。……また、山田さんの小説ですか」


「うごっ。どうして、わかったんだ」


 いや。わからない方がどうかしている。山田は、婚約破棄に悪役令嬢物も手がける。

 何が楽しいのかわからないが、彼女たちが不幸な目にあって断罪するのが楽しいらしい。

 理解できない。全くわからない理由で、断罪される方になってみて欲しい。

 

「ふう。何の問題もないのに、婚約破棄を本人の都合でできたらそれはもうどこかおかしいでしょうに」


 斥候として磨かれているミミーたちは、上手くやっているようだ。

 魔物が、向かってくる事がない。ウィルドとセリアが後ろでツンドラ風を吹かせているが。

 気にしない。どうにかしようとしたら、とばっちりを受ける。

 彼女たちの間に入って、会話をするとか。無理。


「婚約破棄物にあてはめると、ユーウが浮気して断罪されるんだよな」


「あの……。浮気も糞も婚約してないんですが」


 ユウタは、理解し難い。どうして、婚約破棄が本人の都合でできるのか。

 貴族ならば、運命だ。そして、周囲を巻き込むのでおいそれとできない物。

 それをアキラは理解しているのか。もちろん、顔は理解していないようだ。

 ユウタだって、わかっていない。本人の意思で、結婚しないと意味がないと思っているから。

 流れに身を任せて、結婚できたのならいいのに。己は、恋愛病だった。


「よしっ、婚約しようぜ!」


「全く、いい話じゃないじゃないですか」


 する必要がない。しても、彼女の気が変わってしまう未来。

 仮にではあるが、セリアと婚約。破産する未来しか見えない。というよりも、毎日殴り合いをする夫婦。

 どうかしている。飛び交う包丁。泣き叫ぶ子供。駄目な親の姿がそこに。


 それに、ぼろぼろの国を貰ったって嬉しくない。はっきりいって、昔からの知り合いでなければトンズラしている所だ。穀物を植えると、水が原因で塩が浮き上がってくるとかいうハードモードだったりする。魔術が使えなかったら、詰んでいた。


(人もばんばん殺しまくってるしなあ。カルマの上昇が激しいわ。んん?? ……婚約って、また。山田さんの入れ知恵なのかな。どういうつもりなんだろうか)


 どうやって、塩害をどうにかしたかというと。なくなるまで、水を垂れ流すのだ。海まで、水で押し流すのである。魔力が足りなくなるとかいう事がないのが幸いした。まともな内政では、立ちいかない所を力技でどうにかしたという。ラトスクの東では、そのような場所が幾つも見つかっていて普通のやり方では何年かかるかわからない程だ。


 普通は、金満国の金満姫に絶世の美女。というのが、婚約破棄物のお約束キャラ。で、どうして浮気するのかわからない。いや、どうしてザマァされてしまうのか。相手が不幸になると、自動的に幸福に満たされるらしい。よくわからないが。


 ユウタは、もちろんザマァなんてごめんだ。そんな羽目になったら、相手を達磨にするだろう。

 托卵も同様。銀髪の幼女は、鼻をつまむと。


「ふっ。どうにも臭いな。烏賊臭い奴。鼻が曲がりそうだぞ」


 どういうつもりだろうか。銀髪の幼女は、声を上げた。黒い革鎧に、黒いマント。

 黒ずくめで。


「…どうしたの」


「ふん。そいつだ、そいつ。烏賊臭い奴。仲間に入れるのは、反対だ」


 どうやら、セリアは言いがかりをつけるつもりらしい。

 だが、そんな訳には行かない。アキラを育てて配下の取りまとめ役くらいになってもらわないといけないのだ。何しろ、モヒカンにひげ、ガリ、落ち武者、つるっぱげ。こんなキワモノの部下ばかり。

 アキュは、除外するべきか。

 セリアの部下にするには、勿体無い人材だ。彼は、羨ましいハーレムを築いている。

 本人は、その自覚があるのか怪しいが。


「反対なのはわかるけど。却下」


「ふん。なら、決闘しろ。納得したら、不満も抑える」


 決闘という名前で、半分ほど殺し合いである。もっとも、ユウタは負ける気がしない。

 以前とは違うのだ。以前とは。


 鼻の頭を押さえて、ふーふーと息を荒らげた。どうやら、自信があるようだ。短槍を握った彼女の攻撃は、侮れない。

 

「うんっ」


 返事を返す前に、構えを見て。インベントリから、鉄の剣を取り出すと。

 ドゴォっと、胸に剣の柄がぶっ刺さる。腹に刺さった幼女は、雷に打たれたように悶絶して倒れた。


 秘技、雷光閃。


 剣筋を見せつつ、裏を通す。


 なんてことはない。剣を収めた鞘から、指で剣を飛ばす技である。

 鳩尾に、剣の柄をぶち当てると同時に付与(エンチャント)した雷撃で大ダメージ。本来ならば、指で飛ばした柄だけだ。それでは、セリアは倒れない。よって、埒外の威力を出す必要がある。


 具体的には、柄の中を超電磁状態にして剣を飛ばすという術だ。

 併せ名付けて、超電磁剣(ハイパーレールソード)

 つんつんと、ウィルドがセリアを突く。セリアであっても、これは効くようだ。


「ふ、ふふふ。あーっはっはっは。い、一秒も持ってないぞ」


 哄笑する皇女を横に、浮き板にセリアの身体を乗せる。

 信条は、「来て、見て、勝った」だ。延々と、会話するなど雑魚のしぐさ。

 最強は、刹那で倒すのだ。

 

 斬撃と見せかけた一撃で、相手の身体を貫く。

 威力は、山だって削る威力だ。剣だけが、向こう側に出るくらい。

 幼女が避けられないのも、ふりがあったからで。影の衣も纏う暇無し。


「まあ、だらしないですよね」


「貴様が、強すぎるだけだ。どうなっている」


 剣を拾い上げて歩き出す。何の変哲もない剣に、ウィルドは訝しげ。

 種も仕掛けもそこにはない。有るのは、鞘だ。

 何でもできて、何でも習得しているからできる技である。

  

「どういう理屈で、あれを。んー、剣を抜くフリしてたんか。汚ねえ」


 アキラは、腹を抑えて笑っている。どうもセリアが負けたのが、痛快らしい。

 ウィルドは、真似をしようとしている。剣に動きはない。

 そう簡単に真似されては、悲しい。


「ぐう。でない、な」


「殿下、教えを乞うのはいかがでしょうか」


「キース、こいつが教えるやつだと思うのは間違いだぞ」


 当然だ。人に、技を教えるようだとあっさり負けるではないか。

 見て覚えるのだ。それが、普通だ。むしろ、技を見せない。見たら、死ぬ時だとかなんとか。

 そこまでは、徹底できないけれど。


「教えて、あげましょうか」


「なに?」


 ウィルドは、目を輝かせた。なんちゃって。


「嘘です」


「ぐおおおお! ほらっ。こんなやつだ。どうして、一瞬でも期待した俺が馬鹿だった」


「殿下、殿下。おい、貴様、ウィルド殿下を欺くとはいい度胸だなっ」


 赤毛の少女騎士は、剣を抜きそうな剣幕。ウィルドとは、身長差がある。

 帝国の人間は、大きいだけに迫力も満点だ。サーモンでも食べているせいか。


「ふふ。教えるとは言ってませんねえ」


「な、な。それは屁理屈だぞ」


 キースとウィルドを見ていると、天邪鬼がむくむくと頭を出してきた。

 どうして、この2人が揃うと意地悪をしたくなるのだろう。

 きっと、アルたちに似ているからかもしれない。


 ウィルドが、ぶつぶつと後ろでつぶやくが無視だ。

 そうして、前に進んでいくと。

 気絶していたセリアが、むくっと体を起こした。すぐに、回復するのだ。

 どういう身体なのか。


「ぐっ、はっ。また、負けたのか」


 きょろきょろと周りを見る。尻尾が左右に揺れた。

 黒い革鎧の腹は、壊れて穴が空いている。直すのも、金がかかるだろう。

 白い肌にへそが見える。悔しいのか、立ち上がろうとする。

 板の上で。


「そうだねー。通算、何回なんだろう。もう数えてないや」


「そんなに負け越しているのかよ」


 アキラは、呆れ顔だ。それに、セリアは憤慨したように口を尖らせると。


「なら、お前が勝負してみろ。負けたら、うさぴょんの刑だな」


 うさぴょん。男が、バニースタイルで客引きをするのだ。

 男の編みタイツ姿。すごくキモイ。重ねていう。ユウタは、ホモではない。

 そんな事を知ってか知らずか。


「俺、勝負になってねえもん。それに、勝ったって賭けになんねえじゃん」


「ふむ。それもそうだな」


 セリアは、納得している。セリアとアキラでは、喧嘩にもならない。

 それで、白けたのかセリアは浮遊板の上でごろりと横になった。


 ミミーたちが魔物を倒しているからか。余裕だ。

 ちなみに、火属性か聖属性の武器を持っていればスケルトン相手なら無双できるだろう。

 聖属性というよりは、光属性。太陽光を浴びると、スケルトンやらグールが崩れ落ちるのは謎だ。

 そういう魔物だというようにしか理解していない。どうして、光に弱いのかも。

 細菌が死滅するせいか。理屈がわからないと、もやもやしてしまう。


「セリアちゃんてさ。実際、ユーウとどういう関係なの」


「? おかしな事を聞くやつだな。嫁というか婿に決まっているだろ」


「それは、…幼馴染で、結婚するのは羨ましいぜ」


 羨ましくない。幼馴染というと、羨ましいけれど。この場合、喜んでいいやら困るやら。

 アキラが歩く横で、板に乗ったまま会話している。


「思い込んでるだけですよ」


「方々に、手をだしていると聞いていたが。よもや、セリアにまで手を出していたとはな。ゲテモノ好きか」


 ウィルドが混ぜっかえす。この少女、セリアとなにかにつけてかち合う。


「ふっ。目障りなのが、もう一人。ここで、決着をつけるか?」


「いいのか? さっきのように倒されるかもしれんぞ」


「むっ。おのれ」


 女の子同士で火花を散らすのは、やめてほしい。パーティーが空中分解してしまうではないか。

 回復系統を取っているのが、ユウタだけというパーティーなのだ。

 フィナルがいれば、と思うことしきり。もっとも、彼女がいたら即座に殺し合いになる。

 ルーシアもオデットも危険だ。彼女たちも、最近は言動がおかしい。

 具体的には、


「ん。という事は、ウィルド殿下もユークリウッドを狙っている訳か」


「お前、よく気がついたな。馬鹿のくせに」


「馬鹿ってなんだよ。馬鹿って」


「日本人は、察する事ができるらしいが…貴様は違うようだ。もしや、違う人種か?」


「ぐおおおおっ。本人を目の前に、そんな事をいうなよ! ひでえよ!」


 たしかに、ひどい。しかし、相手は王族だ。


「ふん。下賤は、やはり下賤か。ふうっ……。遺憾ながら、言葉が過ぎた。許せよ」


 遺憾砲だ。全く、効果が見えない砲撃。


 あくまでも、謝らないつもりだ。ウィルドは、皇族。

 アキラは、一介の騎士。どちらが、上なのかはっきりしている。

 こういう場合、関わりにならないほうがいい人間なのだが。


「くっ。そうでございますか。もったいないお言葉でございます」


「ぷっ。言えるじゃないか。貴様が、そんな事をいうとはな」


 セリアが、茶化すからアキラは顔が真っ赤になった。それが、憤怒か羞恥かわからないが。

 彼女たちと同行させるには、身分がよくない。

 強ければ、また違うのだろうけれど。


「人を、馬鹿にして笑うのはよくないですよ」


「すまん。つい、からかいたくなったのだ」


 ウィルドもセミロングに切りそろえた金髪を弄りながら、目をぱちりとする。

 それで、許されたつもりらしい。


「立場を持ち出すのなら、次は引き受けられませんね」


「うぐっ。重ねて、…陳謝する」


 迷宮で持ち出して荒れるのが、身分だ。王族だどうのこうのと言いだしたら、狩りにならない。

 アルがごちゃごちゃ言いだしたら、ユーウは容赦なく顔面を殴っていた。

 ユウタは、殴らないが。さっと釘を刺して、わかってもらえるかというと難しいだろう。

 それくらい、理解している。王侯貴族というのは、人を虫のように扱うのだ。

 どうして、神が土下座したりするだろうか。


 仮に、ユウタが神ならば絶対に手違いなど認めないし、能力など与えない。

 せいぜい、道化のように踊って見ものにする程度だろうに。

  

「もっと、強力な魔物が出る場所に行ったらどうだ。こんなところでは、レベルアップもできないだろ」


「そういうけどさ。アキラさんが死んじゃうよ」


「そうだそうだ。俺、まだ、死にたくねえし。無茶なところに連れてくの。止めてくれよな」


「ふっ、つまらん。安全パイとか、ぎりぎりの戦いで覚醒させた方が面白いじゃないか」


 一理ある。ぎぎぎっと、アキラは首を回してくる。

 愚かで哀れな道化。どうして、一所懸命になれないのか。


「俺も、どちらかと言えばぎりぎりの方が好みだな」


 セリアとウィルド。どうも、近親憎悪しているようである。

 もこもことした尻尾を触りながら、どうするか。迷っている。

 





 

挿絵(By みてみん)

「筋肉な」

「肉ついたら・・・」

「かっこいいだろ」

「それは、どうなんだろう」

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