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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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178話 王都の前にて9 (ヒロユキ、ユウタ)

 土地。重要ですよね。

 昔は、金で土地を割譲なんてする事もあった訳ですけど。

 現代でも、土地を巡っての争いなんてのは絶えない訳です。

 猫の額のような島を巡って争いを続けていたり、領有権を主張したりしますし。


 ウォルフガルドとミッドガルドが争ったのもそこにあるとかないとか。

 コーボルトとも川の使用料を巡って争いが絶えないといいますし。

 広い川なのに、仲良くはできないみたいです。

 ん?

 みんな仲良くすればいいのに?

 できたら、いいですね。

 ちなみに、田んぼに使う水だって使用を巡って日本でも争いがあったみたいですよ。

 水も土地も重要ってことで。







 体能力が向上する技能(スキル)

 道具を使いこなす技能。

 感情で能力が増幅する技能。

 自身の魔力に他者の魔力を加える技能。


 失ってしまった。もう、二度と手に入らないであろう仲間とともに。


(今頃は、ウォルフガルドの王城で祝杯を上げるはずだったのにな)

 

 ヒロユキは、仲間と会議することになっている。灰色の石壁でかこまれた牢獄のような場所で。

 そこにいるのは、10人ほど。仲間は、各地に散らばっている。

 全員が戦闘に向いている訳でもない。侵攻に反対する人間もいるのだ。

 決して、一枚岩ではないが内部で争いをしないのが約束だ。


(あれが、あいつらを……。殺しておくべきだったな)


 敵は、強烈な駒を持っていた。

 ウォルフガルドに侵攻した凡そ9割の兵員を失うとは、誰が想像し得ただろうか。

 その残り一割は、コーボルト側の要塞で補給を担当している人員だ。

 つまり、攻め込んだ兵はほぼすべてが戦死か行方不明となっている。


 帰還できた飛空艇は、0。最新鋭の機体に、圧倒的な火力を誇るシリーズ最高傑作。

 万全な状態で、空中騎兵を満載しての出撃だった。

 だというのに、載せた竜騎士や天馬騎士すら生きて帰ってこれなかったとは。

 僅かに帰ってきた女騎士は、精神に異常をきたしている。


「どうしたものかな。これは、立て直すのが難しそうだ」


 ヒロユキは、黙った。答えなど出るはずがない。よもや、同僚の竜騎士や魔術士が帰ってこないとは。勇者を授かった少年も帰ってこなかった。初戦で、怪我を負ったヒロユキだけが生きているような状態だ。橋での攻防は、北以外では圧勝していたのだ。北が、予想外の苦戦を余儀なくされた時に勘案するべきだったのかもしれない。


 目の前には、冷たい視線を送ってくるクラスメイトたちの姿があった。


「4人、4人も失った。僕らが、この世界を手にすると決めたというのにだ! 最初で、4人もなくしてどうする!」


「敵が強かった。調査が十分ではなかったんだ」


「はあ? 十分に調査をしたと! そう、聞いているぞ。予定が狂うじゃないか」


 言うのは、委員長のタカシだ。眼鏡をかけた少年で、【並列思考】を授かっている。そう、調査をしていた時点では圧勝するシュミレーションが示されていた。実際に、電撃的な作戦で王都まで攻め込んだというのだから大したものだろう。だが、負けた。


 コーボルト軍は、ウォルフガルドから追い出されている。

 では、どうするのか。講和か降伏か。いずれにしても、侵略前と後では状況も違う。

 委員長の言い分では、ウォルフガルドが攻めるのに適しているという判断だった。

 それは、情報だけでの話で。


 実際に、蓋を開けてみればとんでもない敵が待ち構えていた。

 ヒロユキは逃げられたが、北の橋を守っていたゼーメルド麾下である将兵の多くは戦死している。

 盾になってくれた少女と逃げるのが精一杯だ。


「それより、これからどうするかが問題じゃないか? すぐにでも使者を出して講和の方策を練った方が良くないか」


 ヒロユキは、言わざるえない。4人がやられた。これは、非常に大きい。戦闘力でなら、トップクラスの4人だったからだ。召喚士、勇者、竜騎士。どれも、強力な能力を持っていた。山を絶つほどの剣力を持つ勇者。山とみまごうばかりの巨躯を持つ獣を操る召喚士。天を我がものとする竜の騎士。


 いずれ劣らぬ力を持つ戦士たち。かつ、かけがえのない仲間だったというのに。

 召喚士と勇者は仲がよくて、ホモではないかと噂があるほどだった。

 竜騎士の2人は、喧嘩ばかりしていた。けれども、居なくなると寂しくなるものだ。


「講和か。誰か、使者として出られる人はいないか?」


 皆して、押し黙った。優勢な時は、雰囲気も明るかったがこうも沈黙するとは。

 ゲームのようには、いかないという事だ。ユグ☆ドラのゲームに酷似したゲームだけに、地形とも国力ともに知ったかぶりで攻めたのが不味かったというべきなのだろう。ユグ☆ドラとはユグドラシル・オンラインの愛称で、いつの間にか定着する事になった呼び名だ。


 周りを見ると、まだまだいけるとは思うものの。敵がどのような戦闘力を持っているのかわからない。この現状で、まだ戦争を継続しようとは思わない。例え、コーボルトの周辺で最弱の国力であるはずのウォルフガルドであっても。まさかの損害で、戦力の5割を失う事になろうとは思わないだろう。


 委員長の言葉に、誰も反応しない。


「しかたがない。くじ引きで決めるか? これで決まれば、反対はできないだろう」 


「あみだくじがいいんじゃない~」


 女子から、妙な案まで出だした。これで、本当にいいのかと悩んでいるヒロユキが馬鹿馬鹿しくなってくる。使者として、行けば首になって帰ってくる可能性だってあるのだ。だった、ヒロユキが愛読していた三国志では使者が斬られたり塩漬けの首にされたりすることだってあったのだから。


 周りを見ると、クール系女子のケイコが、じぃっと見ている。彼女の技能は、未来を知る【技能】。勝利は、約束された物だったはずだ。だが、彼女を責めても仕方がない。どうすれば勝つか。確率だけは、教えて貰える。大概の事は、彼女のいうがままだ。


「使者は、安全だと思うか?」


「安全、だとは思う。ただ、こっちが攻撃されそう。廃墟となる確率は、90%だよ」


「「なっ?」」


 全員が絶句した。「どうして?」とか「誰が、そんな事できんだよ」とか色々な質問が飛ぶ。


「上から、すごいのが飛んでくる」


「どうすりゃいいんだ。今回だって、そうだけどさあ」


 対策が練られないような話なのか。どうするか、という質問に対して返事がない。


「やばそうなのが、降ってくるって事か」


「メテオかな? カウンターできる人って、あ」


 そうだ。メテオ。召喚士の彼もメテオは使えた。とっておきの人材で、ここぞという時にはそれで城塞を破壊する役回りだった。死んでしまったのは、すごいダメージとなっている。


 紺色のブレザーを着たままケイコは、


「王都にいれば、大丈夫だけど……。周りの土地が更地にされてしまう可能性大。迎撃しないのなら、他国からの侵略を受ける」


「だあ、それ、本当かよ」


 そう、信じ難い話だが的中率は高い。なので、勝てるという予知はしない。どうしても、という事で予知をしてもらった。その時は、勝てる。という予知だったが、あくまでも予知だ。道筋までは出てこないチートなので、いまいちであった。どうすれば、勝てるとかまでは教えてくれないのである。


 召喚士の彼が生きて入れば、まだ何とかなったかもしれない。

 彼の能力は、自分の魔力に他人の魔力を加算するという能力だった。

 戦えば戦うほどに、強力無比になっていったであろうに。


 勇者の彼ならば、身体能力の上昇が見込まれた。

 身体を鍛えれば鍛えるほどに、剣を振るう力は上がって行ったのだ。

 メテオですらも、真っ二つにしたかもしれない。


 竜騎士の彼は、道具を十全に使う能力の持ち主だった。

 手にゲイボルグかブリューナクでもあれば、無双したであろう。

 残念なことに、国宝であるミスリルランスが与えられた位だ。

 ミスリルランスは、ゲーム的にいえばSRかRくらいでしかない。


 ヒロユキの能力は、剣を飛ばす能力だ。残念な事に、無限に剣を作って飛ばす事しかできない。

 聖剣や魔剣といった魔力を帯びた剣を作る事ができなかった。

 これからもできないとは、決まっていないが。


「講和、できる以前の話か」


 敵は、都合を読んでくれないようだ。ヒロユキは、そっと室内を出た。





「流石、ですな」


 尻がむず痒くなった。ラトスクの郊外では、巨大な水車が完成している。上流の山から出てくる水を貯めるダムの建設も順調だ。ユンボがあればいいのだが、それがないので魔術士による土木建築しかない。そう、魔術士が不足している。


 戦争で疲弊した王都や東部方面を考えると、頭から血が吹き出しそうだ。


「はあ、あっつう。これは、どういう事なのだ。暑すぎるぞ」


 と、衆人環視の中で胸をばばんと広げてぽっちだけが見えない格好をしている痴女。

 誰であろうか。エリストールだ。汗をつゆだくという感じで、スクワットや左右に回転する動きをしていたりする。はっきりいって、公然わいせつ罪でしょっぴかれる部類だろう。


 汗が飛び散って、おっさんたちの視線が水車から離れ気味だ。


 ここに来たのは、なにもエリストールの裸体を鑑賞するためではない。

 アキラとアレインを連れて、内政という訳だ。水車を全国各地に広めて、治水事業からやろうという事だ。日本では、公共事業がしょっちゅう叩かれる。しかし、公共事業で内需を作り出すのは必要な事だ。すぐにピンはねをするようなギョウシャを排除すればよい。


 勧善懲悪。これこそが、ウォルフガルドに敷かれるべき、最初の1幕だろう。


 経済を活性化させるには、雇用が生まれないといけない。食うだけで満足していた民衆も娯楽に目を向けるようになるだろう。


「この水車は、水を引き上げるのですな? しかし、構造が複雑だ」


 内部も見れるようになっている。誰にでも真似できるように、解説役まで用意したくらいだ。

 順調に行くなら、蒸気機関まで実用化させたい所。

 農具の改善の方が先だろうか。


「はあ、あっついな」


「そうやって、見せびらかしていると。襲われますよ」


「ふん。そうなったら、剣の錆にしてくれるわ!」


 エルフの女騎士。どこまでも、脳筋というか。どこぞで、睡眠薬を飲まされてやられそうなタイプだ。

 快楽に弱そうなタイプだし。なにげに、男を誘っているように見える。そして、ホルスタインばりの乳を見せつけるのだからおっさんたちは股間を抑えている。


「こういう場所で、ずっこんばっこんするのは興味深いぞ」


「しませんよ」


 職人のおっさんが、1人物陰にいく。獣人だけに発情しやすいのだろう。

 ちなみに、獣人たちは昼だろうが夜だろうがやってたりするので大変だ。

 ロメルは理性の有るタイプだが、むっつりに違いない。眼鏡をかけているので、相当なスケベだ。

 完全に思い込みだが。


「こちらが、水車の肝となる構造です。皆さんには、これと同じ物を量産していただき河川につけて欲しいのですよ」


「この軸は、難しいな」


 職人は、難しいとは言ってもできないという獣人がいなかった。本来であれば、魔術士が水を出したり土木工事をしたりするわけであるが―――


「頑張りましょう。水が食べ物になりますから」


 頷いてくれる。水がないと、食料の生産ができないのだ。ラトスクの上流から網の目のようにして、水を引っ張ってこないといけない。水田が広がる様を想像すれば、疲れも取れると言うものだ。魔王がでてこないので、何がしかの手を打たないといけない所ではあるのだが。


「んー!」


 エリストールが、背伸びするとたわわな果実が揺れる。アキラもアレインもぼんやりとそれを眺めていた。セイラムを連れてこなくて、正解だ。もこもこと動くフードの中身で、汗がじっとりとでてきた。2匹も入っているので、暑さは三倍増し。


 全く働かないセリアを見て、アルーシュも嘆いているだろう。彼女、ウォルフガルドの王女ではない。

 アルーシュだけに任せていいものだろうかと、色々計画するのだが。

 邪魔をする奴がいる。エリストールだ。

 何を思ったのか、暑さで頭をやられたように痴女行為を働きだしたのだ。

 薄い布切れを纏ったエリストールの胸に、ブラジャーとなる当て物がされているのは幸いだ。   


「離れましょう! 犯罪ですよ」


「くくく。調べたぞ。ミッドガルドにも、女が男を襲っても罪にならないという事をな!」


 おっさんの職人たちは、ぺこりと頭を下げてそそくさと場を離れる。

 アキラとアレインも一緒だ。どうして、逃げるのか。この状況を助けるのが部下ではないのか。

 必要以上に接触を図るのは、犯罪です。


「いえ、それは……」


 犯罪ではないが、犯罪でないか。無理やりやられるというような事はないが、暴発してしまう事が考えられる。童貞の防御力は、そういった意味で薄いのだ。女性に触られただけでも、発射しかねないというのに。強力無比な攻撃にさらされて、股間はピンチ。

 

 何しろ、二の腕を当てるとかそういうのではなくて隙あらば抱きつこうとするのである。


「愛の営みを邪魔する權利は、誰にもないからなあ」


 ニタァと笑う顔。ぴこぴこと動く耳に虫のような動きをする手が、怖い。 


「愛って、愛って言ってれば何でも通ると思わないでくださいよ!」


「くふふ。愛、故の行動なら合意という事だ。もう、私は我慢しない!」


 しかし、レベルが圧倒的に違う。痴女の攻撃は、やり過ごせそうだ。

 水車の説明と普及を図ろうとしていたのに、どうしてこうなるのだろうか。

 わからない。  




 

挿絵(By みてみん)

「幽霊が出そうだよ~」

「何で?」

「夏だからだよ!」

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