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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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173話 王都の前4 (ユウタ) 

 戦争。

 大変ですよ。攻める方も攻め込まれる方も。

 戦えないままにしておくと、ひどい事になっちゃいましたね。

 日本では、戦争が起きないみたいな事を言われてたりしますが。

 徴兵制とか。

 自衛隊の倍率とかすごい訳じゃないですか。ありえないですよ。

 と、侵略されているのに防げない日本は、現実逃避している人が多いのかもしれません。


 戦争ができる国。な、訳ないんですよね。

 まず、補給が続かない。物資がないですからねえ。

 コーボルトさんもその辺に考えが見え隠れしていますけど。


 備えの無い国は、攻めこまれますよね。どう思います?




◆◆◆





 逃げる敵兵と入れ替わりで、黒い鎧を纏った少年が突撃してくる。

 剣に乗っているというのが、変わった所か。そして、火線が怖くないらしい。

 少年の足元から、水が吹き出す。と、そのまま飲み込んでしまった。


 津波(ダイダルウェイブ)のスキルか。だが、それを見ているつもりもない。土壁(アースウォール)を出してやると。そのまま激突する。

 壁に水は弾かれて、跳ね返る。水を被った少年がそこから出てくると。

 稲妻(サンダー)が降り注いだ。痙攣して、倒れると。そこに火線(レーザー)が命中して、四散する。


 己がやっている手並みに、隙はない。


「ひぇえ。ちょっとは手加減しようよ。あれじゃ、名乗りも上げられないじゃない」


「雑魚の話を聞くほど、暇じゃないよ」


「君って、場の空気が読めないとかって言われないかなあ」


 失敬な。空気は、読めるほうだ。しかし、読んでどうするというだろう。

 少年が、死亡したのを確認して。次は、と狙いをつけていると。水が巨人の形をとる。

 魔術士(マジシャン)がいるようだ。魔術士というよりは、召喚士(サモナー)かもしれない。

 水のエレメンタルでも憑依させているような。そんな感じで、操っているとみる。 


 ひよこが無邪気に頭の上で飛び跳ねているが、役に立つ気配はなかった。


「このまま、見える範囲の敵を焼き払ってくのかな」


「そうだね。そうしようか」


 撤退する相手を逃がすのも悪手だ。追撃をできるだけやって、根切りをしておかねば。

 逆襲を受けてはたまらない。水の巨人を避けて、術者を探すべきだろう。

 【飛行(フライ)】をかけると。同時に【隠れる(ハイディング)】を使う。


 見えている脅威は、入り込んだ敵兵と巨人だ。内部は、住民に任せるとして。敵の術者を探して、倒すべきだろう。敵側の戦車は、既に鉄くずか何かになっている。飛行して、不可視化する。防御は、これでいいとして。攻撃をどうするか。


 火線でいいだろう。水の巨人は、ゆっくりと首都に向かっている。

 相手にしていられない。こういう敵というのは、再生するのが常で相手をしていると泥沼に嵌ってしまう。敵の術者を倒さねば再生するというのが、パターンだ。それで、やられるようではいけない。さっさと倒して勝つのがいい。勝てば、良かろうなのだ。品性が求められるけれど。


 中空を飛んで行くついでに、水の巨人を土壁で覆ってみる。水を漏らさぬようにドーム型に。

 覆うと、どうなるであろうか。水の巨人に破壊力があるのか、不明だ。が、包まれれば、そのまま窒息死してしまいそうだ。


 術者は、遠くに離れているのか。それとも、間近にいるのかが問題だ。空を飛んでいるのに、地面には影が映らないようにしている。相手からすると、ユウタの方がチートに見えるだろうか。巨人の近くには、敵が普通に立っていた。なんという無防備。


 しかし、敵はお供を連れていた。騎士か。女の騎士だ。犬の尻尾が見える。白い毛並みに、ミミーを連想させたが。敵なのだ。心を鬼にして、倒さねばならないだろう。首都の中を攻撃した事といい、なんでもやる軍隊だ。そこに属しているのだから、同類であろう。


 性根がどうとかいう問題ではなくて、敵なのだ。

 情けをかける局面ではない。南に広がる平原には、狼人族の死体がそこら中に見える。火線を放っているせいで、上空にまで肉の焼ける匂いが飛来するほどだ。一撃で仕留めて、苦痛を感じさせないようにするべきだろう。そして、女僧侶。


 容赦なく敵を薙ぎ払ってきたのだ。今更、敵に情けをかけてやる必要があるのか。

 青い長上着の下に全身をぱっつんぱっつんの黒タイツ。身体を覆っている女僧侶は、かわいい。捕虜にしておくべきなのかもしれない。が、捕虜にしてどうするというのだ。狼人族が受けた被害を考えると、高確率でいろんな拷問を受けるだろう。


 そう考えると、捕虜にした方が苦悶に満ちている。


「やっぱ、迷ってるんでしょ」


「いや……そうだよ」


「ボクがやろうか?」


 いやいや。こいつに任せれば、またひどい目に合いそうだ。女僧侶の魂を食うとかやりかねない。そんな目に合わせるほど、少女が非道をやったのか。というと、やっているような気もして。頷きそうになった。


「必要ないね。ふう」


 手には、火線を。そして、稲妻を。連続で、放つ。敵の召喚士がどう出るのか。

 無反応のまま、火線を浴びた。そして、稲妻を女騎士と女僧侶にぶつける。手加減スキルなんてないのだ。調節はするけれど、当たれば死ぬだろう。仮に、生きて復讐を考えられるのも面倒だ。やはり、死んでもらうしかない。


 電撃で、痙攣している。黒髪の少年だった召喚士は、肉のスープだ。


 敵の残りは、逃げている兵。【鎧化】を使うと駆逐を開始した。敵なのだ。

 容赦をしている暇もないが、武器を捨てて降参している相手までは殺すまい。








 振りかぶる敵の剣を払うのは、何度目か。首都には、おびただしい数の敵が侵入している。

 結局、シグルスの応援は間に合わなかった。戦局が好転したのは、赤い光が敵を焼却し始めてからだ。

 兜に張り付く髪と汗。味方の獣人兵たちは、必死に戦っているが。


 ユークリウッドはパーティーに入ったまま。

 だから、大体の場所はわかる。ちなみに、このパーティー。

 32人まで登録ができるようになっているのに、登録されている数が少ない。

 側に居ない時は、抜けるようにと言われる事がなければ抜けないのだ。

 抜こうとしても全員が、拒否するだろう。


(やっと、来たか。この感触は、ユークリウッドで間違いない。【感応】【連結】【神性開放】!」

 

 手を見れば、オーラが溢れてくる。淡い光の輝き。無敵だ。


 外壁が何箇所も破壊されて、街並は砲撃で残骸のようだ。避難している者もいるとはいえ、どうしてもっと早く来なかったのかと言う人間も出てくるだろう。

 1人の鈍色の兜を被った獣人兵が話かける。


「失礼します。アル様。よろしいでしょうか」


「ふん。許す。何用だ」


「ウォルフガング王は、どちらに?」


「知らん。敵のまっただ中に特攻していったのか、はたまた野垂れ死にか。後者ではないだろうが、傷を受けたのかもな。コーボルトが、どれだけの戦力を持っているのか皆目検討がつかんのだ。侵入された箇所は、どうなっている?」


「それが、赤い光で敵が消滅したので押し返す事に成功しました」


 しかし、正門は敵が入り乱れているせいか。赤い光は、降り注がなかった。赤い光は、ユークリウッドの術なのだろうが。正門を押し返せねば、敵を追い出した事にならない。残していったという事は、自分たちでどうにかしろという事だろう。


 後方へ下がっていく味方のなんと多い事か。敵は、精鋭を揃えているのだろう。正門のみが、保っている状態で敵兵が逃げ出しているというのに。敵が、降伏する気配が見えないのはどうしてか。


「奴ら、よくも持つ。降伏を呼びかけろ」


「それは、せんでしょう」


「何故だ? 奴らに勝ち目は無くなっているぞ」


「捕まれば、拷問を受ける事を恐れているのでしょうよ」


 ミッドガルド軍では、拷問が禁止されている。捕虜に、拷問を加えて自白させようというのは蛮族がやる風習という風に。だが、刑務所ではそれが禁止されていないのであってないようなものだった。ウォルフガルドが受けた被害を考えると、拷問も凄惨を極めるだろうし。


 獣人の生け造りなど、見たくもない。

 

「貴様、名前はなんというのだ」


「これは、失礼しました。わたくしめは、バン。顎傷のバンめにございます」


「ふむ。軍は、なぜ出撃を命じたのだ。司令官は、どこでどうしている」


「司令は、突撃して戦死。大将以下、少将クラスでも残っている軍団長はわずかです」


 なんという事だ。

 ウォルフガルドの軍が、これほど脆弱だとは。想像もしていなかったし、見積もりが甘すぎた。

 敵の攻撃に備えるのは、国家として当然の事。戦争ができないようでは、滅びるしかないではないか。

 とかく、兵を統合して指揮できる人材を育てねばならないだろう。

 セリア1人でなんでもやろうというには、限界がある。


 戦うだけなら、彼女1人でもいいのだろうが。国を守るには、1人が強くともいけないのだ。

 どこで、教育を間違ったのか。とはいえ、彼女だけのせいでもない。

 予想以上に、コーボルトが先進的で優れた武器を持っていたからだ。

 こうも苦戦するとは、ウォルフガルドの兵だって想像していなかったにちがいない。


 問題なのは、武器だけだろうか。1人を打ち倒すのに、コーボルト兵は、4人で斬りかかっている。対するウォルフガルドの兵というと、連携も糞もないような有り様。そこからして、練兵ができていないようだ。無論、ミッドガルドの兵ならばコーボルト兵が4人でかかってきても負けない戦いができるだろうが。


 爆音と爆音と爆音が鳴っているので、話すのも難しかった。砲撃が止んだおかげで、話ができている。敵の支援砲撃が止んだのも、幸い。一気に、押し返してコーボルト兵の悲鳴が始まる。心が折れたのかもしれない。一際大きな犬人が倒れると。


「決まりましたね。それでは、ゆっくりなされてください」


「これで、か」


 振り返れば、砲撃を受けて赤い炎が立ち上る町並みがある。水の術を行使する必要があるだろうが。残念な事に、アルーシュは水属性の魔術が苦手だった。木に水をかけてやると、どんどん大きくなるので必須の術なのだけれど。


 電源が来たので、それもクリアだ。苦手だろうがなんだろうが、消費を考えなければどばっどばっと出せる。水が、木に吸い込まれていくと。


「おお!」


 木が巨大化して、噴水のように水の奔流を浴びせる。それを器用に操って消化だ。敵の火計は、恐るべき威力で街を破壊し燃やしている。


「流石は、ミッドガルドの王子さまだ」


 面映い事をいう。褒められれば、褒められるだけ水を出したくなってしまうのに。調子にのって、水を撒いていると。銀色の子犬が走りよってきた。セリアだ。今頃、起きてきたのか。ユークリウッドが、全部片付けてしまった頃合いに。


 とはいえ、抱きかかえると。


(おら! さっさと変身せんかい!)


 ぐりぐり。変身を解く。そこには、しょんぼりしたセリアの姿が出てくる。

 ちなみに、まっぱだかではない。


「で、どういうつもりだったんだ?」


「どう、とは」


 説教は、したくない。だが、この幼女は脳筋すぎる。たまには、説教しないと国民が憐れではないか。

 戦うのはいい。しかし、民間人だろうが容赦なく手にかけるような手合がいるのも事実。敵に備えがあり、自国に備えがないような状態で味方の軍を撤退させればどうなるのか。


 わからないようなら、尻叩き1000回だ。


「ここでは、不味いか。まずは、一旦火を消して後始末をしてからだな」


 体面というモノがある。いくらなんでも、公衆の門前でグーパンをかます訳にはいかない。

 そして、避けるだろうし。ミッドガルドの王子がウォルフガルドの王女を殴っているとか。

 この状況では、いくらアルーシュでもできなかった。アルルなら、やりそうだけれど。


 セリアは、ぴこぴこと尻尾を振っている。全く、反省の色もないというか。これで、王族というのだから始末に終えない。敵があまりにも早く進撃してきたのは、予想外。確かに、軍の高官がそれを見誤ったのも仕方のないことなのかもしれない。


(まさか1日もかけずに、田んぼを無視して進軍するとかな。考えない、ん?)


 ひっかかる。アルーシュの常識であれば、稲刈り収穫をしてからだ。

 ただ、食料庫が一杯になっていれば相手も籠城を恐れただろうし。

 稲刈り前に襲うというのは、ありなのかもしれない。

 ウォルフガルドが、籠城できなかったのも、ここにある。


(これも、日本人たちの入れ知恵か。糞野郎どもめ。目にもの見せてくれる。何時の日か、思い知らせてやる)

 日本人が、全部そうではないといっても。そう見えるようになるのだ。

 親を失ったのか、泣いている子供がいる。お腹が空いていそうだが、出せるものは。


「これを食え」


「あ、あの」


 泣いているのは、弟か。幼女が、木の実を受け取る。木の実くらいしか、出せない。

 腹が膨れないだろう。量も少ない。


(数の多さが、逆に首を締めるとはな。そこまで、計算して攻め込んできたかよ)


 通常であれば、敵の埋伏や計略を計算して進軍するのが普通だ。

 何がしかの、スキルによる恩恵があったのやもしれない。そして、日本人たち。

 彼らが裏切っていたのか。そこの所はわからないが、ユークリウッドが言うように厚遇しておく訳にはいかなくなった。科学兵器を持ち込む事といい、攻撃を容赦なく市街地に向ける事といい。


 許せるはずがない。ミッドガルドの戦力が、整い次第。コーボルトを焼き払う必要があるだろう。

 目には目を。歯には歯を。古いことわざにも、そうあるのだ。

 水を撒いている内に、セリアが呼び止められて走っていった。


(話は、終わっていないのにな!)


 ちょこちょこと嫌味を言わざるえない。どこかに行ってしまったウォルフガング。指揮を取るのが、アルーシュだとか。なぜ、アルーシュが指揮を取って防戦しなければならなかったのか。熱い季節なので、乾いた屋根が勢い良く燃えている場所が多い。


 これは、


(いっそ、全部焼いて山田たちに建てなおさせるか。奴らにも、責を取ってもらわんと腹の虫が収まらんではないか)


 まだ、首謀者が日本人だとは決まった訳でもない。彼らが主導したかもわからない。


 そして、山田たちに罪はない。

 しかし、風評というのは大事なのだ。日本人が、糸を引いていたとしても。

 彼らが善行を行っていれば、何の心配もない。せいぜい、暗がりで殴られるだけであろう。

 そうなると、ミッドガルドに引き篭もってしまいそうであるが。

 それは、それ。


「アルさまー」


 また、獣人兵のバンだ。何の用であろうか。火消しに忙しい。


「なんだ?」


「その術というのは、魔術士にも使えるのでしょうか」


「無理だな。これは、私専用の術だ。真似できるものでもない」


 しょんぼりしたようだ。一気に消すべく、水をいるのだが。天候を操るのには、雨雲が見えない。

 木でもって、水を撒いた方が良さそうだ。

 よく晴れているので、大きな虹がかかって見えた。 




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