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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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167話 橋の上6 (ユウタ)

 敵の居ない場所を選んで移動した。そこは、コーボルト側の砦でも上部位置。そして、昇り降りする位置ではなくて死角になっている部分だ。灰色の石を踏むと、銀髪の少女が見張りの兵と見られる男を引きずって来るところだった。


(速攻で、始末したのか)


 容赦が無いといえば、容赦がない。飛びついて首の骨を折ったのだろう。男と見られる獣人の口からはよだれが出ている。そして、首は力なくだらんとしていた。


「(敵は、数が多い。私が注意を引きつけよう)」


「(ああ。ま、それがいいのかな)」


 セリアは、単独で行動したがっているようだ。砦の上部には、見張りの兵が立っている。彼らが異常に気がつくのが早いかそれとも到達するのが早いか。そして、注意を引きつけると言っているが首を取りにいくに決っている。


「(どちらが早いか。勝負だな)」


「(いいけどね。晩飯でいいのかな)」


 手を上げると、少女は石畳に手を突き入れた。普通なら、手が砕けて血まみれになる所業だ。しかし、少女の拳に押されて石は砕けてひび割れる。と、


「はっ」


 盛大に盛り上がる石。石でできた地面がめくれ上がると、そのまま波を打って左右に広がっていく。

 畳返しというべきか。地面を引っぺがす攻撃で、兵士が宙に舞う。地面にそのまま落ちれば、死亡から免れるの難しい。何しろ、最上部から下までは10m近くある。


 死に様を見ている時間は、無い。


「(行こう)」


 オデットとルーシアが、揃って後ろをついてくる。【隠れる】を使用している間は、手を繋いでいないといけないのが難点だ。しかし、セリアが盛大に破壊工作を行っているので意味がない。下に降りる為に、上へ上がってくる兵士を倒さねばならないし。


 兵士が階段を上がってくるのを倒しながら進む。卑怯にも、相手には姿が見えないので一方的な攻撃になる。両手がふさがっているので、魔術が使えないけれど。


「(ユーくん。セリアちゃんを待たなくていいの?)


「(多分、暴れたいんだと思うよ。でなきゃ、あんなことしないし)」


 ルーシアは、不安げだ。黒髪の下には、きょろきょろとした瞳がある。黒髪に、赤い鎧を着た幼女は、これで剣も槍も良くする戦士だ。もっというと、素手でもいける。黒いマントに、黒いブーツ。オデットは、青いマントに茶色のブーツ。手には、ゲイボルグ。


「(ふふふ。姉上は、心配症であります。なんの心配もありませぬよ。万事、このオデットにお任せあれ)」


 なんてことを言っているが、一番過激なのはオデットなのかもしれない。出会った獣人を片端から石化の魔術で固めていくからだ。片目に眼帯をしているのは、魔術を強化する為なのだろうか。トキシックブレスでもないのに、成功率が異常に高い。


 器用さと関係しているのか、彼女の魔術に対する適正は槍を上回っているようだ。ちなみに、ゲイボルグは長いので室内では短槍を使う必要がある。腰には剣も下げているが、短槍に丸い盾を装備していたりする。収納鞄を持っているので、装備の切り替えには困らないようだ。


 階段を降りて行くと、敵がぞろぞろと現れる。石になったという事をまだ知らないのだろう。入り口に入ろうとすると、


「お”があ”」


 喉を突かれて、血を垂らす。兵の1人が、


「敵、か。て……」


 さくり、と喉を突かれる。叫ぼうとした相手を順に、刺しているようだ。しかし、ちゃんと発音できた獣人兵もいるので止めようもない。出てきた兵を倒し尽くすまでに、1分。1呼吸で、10人前が沈んでいるところから素早さが推察できよう。


 階段から降りた場所は、通路で左右に広がっている。敵の将を探すには、時間がかかりそうだ。虱潰しに探して回る以外にないのか。それでは、行き当たりばったりすぎる。昔ならば、そうであっただろう。ちゃんと遠見の魔術で敵将ゼーメルドの居場所を掴んでいる。


「(右に行こう)」


「(右でありますか)」  


「(こっちが正解)」


 上では、岩と岩をぶつける振動音がする。砦を破壊しているのか。砦には、ゼーメルドが用意していた飛行部隊がある。空を飛べる鳥獣たちで編成された部隊だ。それらを使われると、ウォルフガルドは苦境に陥るだろう。恐らくは、隠し札。


 セリアを相手にしても遠くから矢で牽制されれば、危険だ。矢には、猛毒が塗られているとは限らない。呪いの矢もあったりするので、万が一もあり得る。何があるのかわからないのが、戦場だ。ゼーメルドとて、必勝を期しての侵攻なのだから。


 鈍色の鎧に身を包んだ兵士を倒しながら進む。相手は、混乱しているのか。ユウタを見つけられないでいるようだ。明かりも有るというのに、地面を見ようとはしない。そして、見たところでわからないように細工を施している。


 影が地面に映らないように。


「(野菜を収穫するくらいに、こいつら弱いであります)」


 敵が弱いと、不満で強いとストレスとは。いかにも人間らしい。オデットはそんな傾向がある。

 金髪に、被った黒い兜を槍でこつんとする。敵は、弱い方がいいに決っているのに。 


「おのれ、姿を隠すとは卑怯な。魔術師!」


 いや、そうはいかない。魔術師に、水を使わせて位置を把握させるだとか。

 すると、場所が割れて不味い。無闇に斧を振り回す戦士。身体は、2mはある。そして、頭に生えたのは角か。潰れて平べったい鼻と浅黒い肌。眉間には、傷がある。まともに戦えば、手間取っていただろう。


 しかし、多数の敵を相手にする身になってほしい。すっと、目録(インベントリ)から取り出した剣を投げると。


「うぐっ」


 剣を弾いて見せた。この男は、できるようだ。突然飛来した剣を弾くとは。後ろからやるには、甲冑が邪魔だ。魔術を使用すれば、位置がばれてしまうだろう。いや、剣を投げた時点で敵からはわかるだろうか。ともかく、身から離れると物体が見えてしまうのがこの【隠れる】の弱点だ。


 攻撃がしづらい。


「水だ! 水をぶちまけろ。水系の魔術を使える者は、周囲に水をばらまけ。敵は、透明化のスキルを使用しているぞ!」


 敏い。どうして、こうも敏いのか。一見しては、敵の姿が見えないので混乱するであろうに。この瞬時にこちらの手札を読むとは。殺すには、惜しい男だがどうしてか敵なのだ。ここで、倒しておかねば後々になって邪魔になるに違いない。


 杖を持った老人が、角兜をつけた男の横で呪文を唱えている。これはいけない。姿を晒せば、袋叩きにあってしまうだろう。と、


「でりゃああ!」


 眼帯をした少女が、槍を投げる。必殺の槍だ。赤い光を発光したりしない。その槍は、鈍色に輝いて老人の胸に突き刺さった。


「お、貴様!」


「ふっふーん。某が相手になるであります。名は、オデット。コルトが子、槍のオデットでありますよ」


「名乗るか。ならば、俺はオゴトイ。猛牛族のバヌクイが子。青斧のオゴトイよ。子供とて、容赦はせぬ!」


 そして、対峙する2人にルーシアが加わった。オデットの背後を取ろうとした獣人の男に、突進すると肘だ。普通なら、肘の方が折れてしまうだろう。そのくらいに華奢な女の子。肘を受けた男は、目と口から血をを出すと膝をついた。


「行って。後から、追いかけるから」


「うん」


 いや、逆ではないだろうか。この場に残るべきは、逆であるはず。だというのに、ゼーメルドを倒してこいという。2人が遅れを取るとは思えないが、何が起こるのかわからない。戦場なのだ。オゴトイが想像以上に強ければ、2人は負けるだろう。


 たっ、と離れる。その方向に、敵兵が居るわけで。

 剣で斬り伏せるには、数が多い。向こうの方向が見えない位にはいる。なので、


「(石壁(ストーンウォール)!)」


 石の壁を喚び出す。


「なあ!?」


 壁が迫ってくるのだ。びっくりしているのだろう。しかも、何が起きているのかわかっていない兵士たちを追い込むようにして壁がどんどん進む。いや、追い立てるというべきか。地面から生えている格好なので、押すのには人並みはずれた力が必要だ。


 それを可能にしているのは、ユーウの鍛錬の賜物というべきか。何トンあるのだか計算できない重さだが、綿菓子を押すが如く進む。向こう側が見えないのが、問題だ。ゼーメルドごと圧殺しかねないが。この際だ。相手の兵士を減らすつもりで轢いてしまうのもいい。


「逃げろおお!」


 敵は、叫び声を上げて逃げている。背後では、金属音がなっているが振り返らない。振り返れば、加勢したくなるのだ。彼女たちが、いかに腕が立つといっても女性だ。生半な事では動じない精神の持ち主とはいえ、幼女だし。心配にもなる。


(不味いなあ。集中だ)


 気になって仕方がない。

 ゼーメルドの部屋は、砦の上部にある。当然ながら、下から攻められれば最上部にある騎獣を使って逃げられるようになっていた。だから、上から攻めたのだが。部屋までは、そう時間もかからずにたどりついだ。


(さて。どんな奴なのかね。部屋ごと焼いてもいいが、使えるとかなんとか言ってたな)


 頭上から、一際大きな音がする。まるで、掘削するような。素手で、岩を砕いて下に潜るような。

 ばっと岩が弾けて散らばると。


「む。お前の方が早かったか。オデットとルーシアを殿にしたようだな」


「……上。いいの」


「かまわん。それよりも、ここがゼーメルドの部屋だな。入るぞ」


 勝負はどうなったのか。どうせ、頭からはスッポ抜けているのだ。彼女は、都合がいいコトだけは覚えているのである。ご飯がどうとか、食事の卓に座れば細かい事を言うんじゃないという。いやいや、都合の良い女の子であった。


 勝ったのに、何もないではやるせないがオデットたちの事もある。責めてもしかたのないこと。木製の扉に金具を使った作りの扉を蹴破ると。壁ごとそれは、吹っ飛んで中が丸見えになった。


 扉を開ける習慣を身につける必要があるのではないか。相手が待ち構えていたのか。扉の下敷きになった兵士が見える。手間を省いたとは、この事だろう。  


「何奴。名を名乗れ」

「ふっ。私の名前は、セリア・ブレス・ド・フェンリル。問おう、貴様がゼーメルド将軍か」

「いかにも。私が、ゼーメルド・フォン・オーフィール。コーボルト王に仕えし、騎士よ」


 机の向こうに、どっかりとした騎士が剣を手にした。魔力を帯びた剣か。切れ味の程は、わからない。しかし、剣呑な輝きを放っている。正眼に構えた剣と盾。少しは、できるようだが。


「ふっ。覚悟はいいな。いくぞ、ゼーメルド」

「吐かせ! 子供とて、容赦はせんぞ!」


 間合いを詰めたセリアは、槍で突く。盾で防ごうとしたのは悪手だ。見越したように、詰め寄って爪で相手の腕を攻撃すると。


「ぐっ」


 短い悲鳴を上げて、ゼーメルドの腕が落ちた。


「将軍!」

「将軍をお守りしろ!」


 倒れていた兵士が立ち上がる。よく訓練された兵士だ。獣人たちは、剣と盾で壁を作ろうとするが。


「ぐぬっ。もはや、これまでよ」


「ふっ。まあ、待て。貴様が、死に急げば砦の兵士がどうなるのか。わからないか」


「なんだと? 儂が死んでも、代わりの者はいる。彼らが貴様らを討つ!」


「ふっ。これだから、困る。ユークリウッド。投影してやれ」


 頭の硬そうな老将だ。皺の刻まれたゼーメルドの顔には、自爆するという文字が浮かんで居そうな風。ここで、彼を死なせるのは容易い。しかし、誰が降伏を呼びかけるというのだろう。何しろ、4人だ。乗り込んでいるのは、4人なので、将軍を殺してしまうと統率が取れなくなるではないか。


「これを御覧ください」


 こういうのは、説得すると後々で効いてくる。敵を調略するのも、有効だ。見せるのは、砦の有り様である。見れば、


「なんという事だ。これは、貴様らがやったというのか!」


「我ら以外に、誰が居るというのだ。そう、だな。撤退するのなら、追撃はかけまい。このままであれば、内部にいる獣人たちは訳もわからないまま圧死する事になる。撤退か死か。どちらが、いいのか。よくよく考える事だな」


 セリアは、ぶっちゃけた。砦で自爆する。というよりも、砦ごと圧潰させようとしている。彼女の事だ。石をものともしないで、手を使って掘っていたのかもしれない。まるで、モグラだ。けれども、言ったらふっとばされるだろう。


 穴だらけになっている砦の上部を見て、ゼーメルドは呻いた。


「しかし、解せん。我らを倒せば、その分だけ敵が減る。なぜ、撤退させようとしているのだ」


「ふっ。そこまで教えてやる必要は、ないな」


 意外にも、あれをやるつもりなのか。敵は、逃がしてもっと大きな魚を釣るというような。食料が少ない事を把握している。コーボルトは、身の丈に合わない戦力を整えてしまったのだ。それを維持しようとすれば、国家が衰亡するであろう程に。


 何も、殺して相手の戦意を高めてやる必要もない。

 むしろ、恐ろしさを喧伝してくれればそれで動きを縛れる。


「ぐおお?」


 考えていた白髪まじりの獣人は、急な傾斜を受けて斜めになった。

 部屋が斜めを向いているのだ。


「これは。脱出するぞ」


「おのおじさん放置?」


「暇がない。このまま死ぬなら、それも良し」


 計算外だったのは、何なのか。オデットが、本気を出してしまったのかもしれない。

 どっちなのか。傾いた砦は、前かがみになっているようだ。通路が斜めを向いている。


挿絵(By みてみん)

「ボクがサイドステップしたら傾いたんだよ!」

「どんだけ体重が、あるんだ」

「そうじゃないもん!」

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