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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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153話 たまの迷宮4 (ユウタ、他)

 空は曇天だ。町は、最悪の状態だ。

 アキラは、通りを見渡すとそこには朽ち果てたピンク色の物体が散乱している。誰がやったのか。もちろん、襲撃者だ。襲撃者は誰か。顔立ちからすれば、日本人だ。恨むだろう。やった人間を。どうして、恨まないと思うのか。いや、これほどの破壊をしてのけてどうして同じ人間だと言えるのか。もはや、わからない。


 人の迷惑になるような事をしてはいけない、と親から教わらなかったのだろうか。彼は。ユークリウッドの攻撃で、消し炭になった青年だか少年だか知らないけれど。やってはいけないと、日本人の家庭ならば教えられるはず。回りまわってそれが日本人に降りかかったとしても、止めようがない。肉塊に変わり果てたそれに、しがみついている子供がいる。獣耳を生やしているが、確かに生きている。


 そして、その虚ろな目を見た瞬間。


(なぜだ? なぜ、こんな事ができる? 奴は……日本人ではなかったんだ。でなければ、説明しようがないぜ)


 とんでもない相手であった。巨大な熊と蛇と鳥と操って、町の住人を死体に変える。死体をそのまま動く死体にするという。外法に通じた魔術師。もしも、ユークリウッドが来なければ今頃はアキラもその仲間に入っている事は間違いない。


(ゲームじゃねえ。明らかに、現実じゃねえか。なんで、わかんねえんだよ)


 魔王に召喚されたのか知らないけれども、それで町の獣人たちを手にかける事がいいことなのか。もちろん、悪いに決まっている。


 ―――血は、血でしか贖われない。

 何時だったか。アキラは、そんな言葉を耳にした事がある。怒りに身を震わせている獣人たちは、動く死体の残りを火にくべると集団になって移動していく。キラーベアが居なければ、まだどうにかなった。今は、倒されていない。辺り一面には、水が流れた後がある。湿っているが、それでも木材を積み上げて火を焚いているようだ。


 いつか、同じように日本人がこのような目に合わされるだろう。好き勝手にやったお返しに、好き勝手をやられても自業自得だ。できることなら、穏便にしてもらいたいがセリアがそれを了承するだろうか。いや、しないだろう。受けた屈辱は倍返しにしそうな女の子だ。プライドも高そうなので、ユークリウッドが止めなければ日本人が皆殺しに遭いかねない。


「はあ。これ、どうすんのよ」


「仕方がないだろう。火に炙って、火葬してやる以外に方法がない。敵の呪法がどこまで効いているのかわからない以上な。貴様は、奴に心辺りがあるのだろう? 言え!」


 アキラの言葉に、黒髪の少女が反応した。光の加減で、栗色にも見えるそれをさっと払う。ネリエルは、怒っているようだ。手には、槍を持っている。獅子族の少女は、せっせと死体を運んで火にくべていた。


「俺は、味方だ。あんなのが、全部だと思われたら心外だ」


「わかっている。だが、けじめはつけさせんといかんだろう。この町が受けた被害がどのくらいになるかしれないが、万は行っている。魔王の手下だろうが、なんだろうがこの借りは返さねばならん!」


 少女に弁解をしようと試みるも、彼女に説明するには難しい。アキラのいた日本には、敵として現れた青年の使っていたスキルに見覚えがあった。有名なゲームだったからだ。しかし、アキラはゲームをしている最中に連れて来られた訳ではない。ゲームの能力が使えたりはしないし、レベルも持ってこれてはいない。存在は、知っているけれどお金がないし未成年なのでプレイできなかったのだ。


 怒りに満ちた瞳にどう説明していいのか。


「あいつは、ゲームのプレイヤーになったつもりでいたみたいだ。素性は、よくわからない」

「心当たりがあるんだろう? 知っているなら話を聞かせてくれ!」

「推測。推測でしかないが、いいか?」

「ああ」


 もはや、憶測だろうがいうしかない。


「あれは、きっとゲームのプレイヤーが召喚されたんだと思う」

「なぜ、そうだと思った?」

「鑑定だ。鑑定したら、称号が異世界人ってでたからな。それだけで、十分だし。なによりも、普通ならびびるはずの人間が何のためらいもなく攻撃していたんだ。勘違いしていたに決まっている」

「何を勘違いしていたんだ」


 そう、その勘違いとはきっとゲームのキャラでも攻撃しているつもりになっていたのだろう。だが、これは現実だ。寝ても元の世界に戻らないし、怪我をすれば痛い。ゲームでは、痛みが実装されていないのでありえない。彼は、ゲームよろしく痛覚が未実装だっただろうか。獣人に捕まっていれば、地獄よりもなお地獄を味合わされる事が間違いなかっただろうから。楽に死ねたと言える。


 暗い空を見上げると、雨が降ってきだした。


「ゲームだと思っていたんだろう。だから、これは現実じゃないみたいな。いくら攻撃しても死ぬのはゲームのキャラだっていう感じだろうな。しかし、俺たちは生きている訳だ。ここに居て、ゲームじゃないって事だ。エッチな事もできるし、疲れて動けなくなるし、ジャンプしたってどこまでもジャンプできる訳じゃない。彼は、空想の世界だという認識をしていたんだ。だから、こういう事をした。ゲームが終われば、全てが元通りになる世界の住人が呼び出されたって訳だ」

「ふざけるな!」


 ごっと地面を槍の尻がえぐる。気持ちは、わかる。そこかしこに獣人であっただろう人の物体が、落ちていた。手であったり、足であったり、目であったり、指であったり。動く死体となれば、それはもうおぞましい。朝には生きていたであろう人を昼には殺す羽目になるとか。悪夢でしかない。もっとも、それが夢ではないわけで。


 ネリエルの握りしめた槍からは、赤い血が流れている。


「魔王め、よくも……やってくれたな」


 なんと言えばいいのか。慰めの言葉も浮かばない。こういう場合に、下手な言葉をかけるといけないのだ。最近になって、ようやくそれを学習しだした。ケンイチロウの方は、全くわかっていないようだ。だから、アキュに押し付ける事にしたのだが。面倒を見きれない。ユークリウッドのような力もないのだ。彼は、まだ幼稚な言動で小学校にでも行かなければいけない年齢である。誰でも彼でもユークリウッドの真似ができるはずがない。


「魔王、か。また、来る可能性があるんじゃないか?」

「ああ。わかっている。兵士が急に増えているからな。魔王め、目にもの見せてやる!」


 怒っているだけで、また来るであろう敵を排除できる訳でもないのだがそれを言っても仕方がない。今のアキラは、空を飛ぶ事もできないし魔物を召喚して使役するだとかいう事もできない。襲ってきた人間の姿を探すと。


「これが、ご主人様のお探しの物でしょうか」

「ん?」


 チィチとネリエルが、手に黒い物体を持ってくる。死体からスキルを奪えるのだ。勝手な事をするな、と言われているが仕方がないのだ。守るためには、力がいる。炭となったそれに、強奪スキルを使用した。


 アキラは、召喚を得た。

 アキラは、従魔を得た。

 アキラは、狂化を得た。

 アキラは、飛翔を得た。

 アキラは、調教を得た。

 アキラは、遠視を得た。

 アキラは、死霊魔術レベル1を得た。

 アキラは、精霊魔術レベル1を得た。 


 なんというスキル。死んだ人間は、どうやら強力な能力の持ち主だったらしい。これで、ユークリウッドの役に立つことができる。しかし、迂闊に使う訳にはいかないだろう。いきなり強くなったという事もあるが、この場所で召喚スキルを使ったりしたらネリエルに殺されかねない。アキラは、不死身ではないし後頭部を殴られれば昏倒するだろう。ユークリウッドに報告もしないといけないし。


 不安げなネリエルを見ると。


「見てろ。俺が、仇を取ってやるぜ」

「ほう? 頼もしいな」

「もちろんだ。俺が、汚名を晴らさねえと全員がサイコパス扱いされちまうからな」

「サイコパスがなんだかわからないが」


 アキラは、サイコパスから説明する羽目になった。ナタリーとユッカが手を振っている。

 

  




「かかった」


 そう呟いたのは、セリアだ。


「奇襲だな、直上に魔族だ。転移門を出せ」


 無言で、転移門を出すと。銀髪の幼女は、飛び込んでいった。転移先を確認しなくてよかったのか。門からは、水が大量に流れ込んでくる。


「なに!? これは!」


 全員に、レビテーションをかけると。水の上を滑るように移動して、そのまま転移門に飛び込む。敵か。そこには、水が奔流となって門と洞窟めがけて流れていく様があった。シックはどうしただろうか。迷宮の前を守っていたであろう冒険者の姿は見えない。変わりにいるのは、水の上に立つ男だ。赤いマントをはためかせている。顔は、白面に真っ赤な唇。


 土壁を洞窟前に出す。


「む。これは、お早い戻りですな!」


 幼女が、拳を振るうと。男は、水の膜で防御する。山をも破壊するその拳を受けて、水の膜は震えた。しかし、離れたのはセリアの方だ。


「ふふふ。わたくしめは、ヴォルス。栄えある魔界帝国が1つ。雷帝様に仕える吸血鬼めにございます。お名前を聞かせて貰っても?」


「セリアだ。名前など!」


「ふふ。せっかちでいけませんねえっ! アクアスプレッダー!」


 水の玉が弾丸のようにセリアを追いかける。しかし、立ち上った黒い影がそれを防ぐ。吸血鬼のくせに、水を苦手にしないとは。それなりに出来る吸血鬼ということか。たくみに、幼女の攻撃を躱して援護させないように位置を取るのがいやらしい。セリアもろともに、火線で焼いてしまうのが早そうだというのに。


 吸血鬼が、蝙蝠をばらまいてくる。すっと避けながら、或いは撃ち落として反撃が飛ぶ。水の膜がセリアの反撃を防ぐ。衝撃を殺す膜に、通らない攻撃。威力を抑えているようだ。


「あれか。なかなかやるではないか。セリアのやつが手こずっているぞ。四天王の名折れだぞ。だらしがない」


 どうだろうか。彼女が全力を出すと、地形が変化する。出せないのだ。万が一でも全力攻撃を外すと、余波で地面にいる味方が全滅だ。

 水は、収まっている。どうやって水を大量に出したのか。魔術なのだろう。その残滓が残っている。水上の戦いは、空中に移っている。ヴォルスは、身体から蝙蝠を出して攻撃するがそれを黒い塊がそれを切断していく。


 空の一区画を染めるように蝙蝠が、黒い壁画を作った。染みのように広がると、幼女の手から伸びた闇色の塊がなぎ払う。


「セリアのやつ、暗黒剣を使っているのか。神聖系が効きそうだというのに」

「援護をお願いします」

「ふふふ。良かろう」


 ウィルドは、加勢するつもりもないようだ。水を穴に落とす。洞窟に入っていく水は、ないがこのままだと地面が沼地に変わってしまうだろう。吸い込まれていく水を見て、上空で戦っているセリアを援護するべきか迷う。下手な援護は、後で殴られかねない。ストレスを存分に発散してもらうか、それともアルトリウスがケリをつけにいくのを見守るのが正解だろう。


「シュバルツシュヴェアートは、整備中なのか? 面倒な事だな。時間は、惜しむべきだ。フハハハ」


 金髪の幼女が、左右の手で鈍色の剣を抜くと。1対の剣に光と炎が溢れる。背と足裏に黄金の光を纏って、さーっと上に上がっていく。2対1。これでは、ヴォルスに勝ち目がない。何か隠し球を持って居なければ、彼女たちに勝つのは難しいだろう。


 奇襲が終わった時点で、ヴォルスは逃げるべきではなかったのか。敵の増援が来ないのが、不思議だ。


「応援は、いいじゃろうか」

「心配ないでしょう。吸血鬼とセリアの相性は、吸うという能力が効かない時点でかなりヴォルスの不利ですよ。アル様に至っては、反則ですよね。多分、セリアにとって最悪の敵がアル様なので」

「そういう事ならば、吾は休憩じゃ」


 空の方を見上げる少女と狐耳に尻尾を揺らす美女は、板の上でそのままくつろいでいる。ぬかるんでいる地面を歩くのが嫌なのだろう。水をすっかり吸い込んだ穴を塞ぐと。メイド服を着た少女が現れた。桜火だ。


 ほっそりとした腕。手には、風呂敷を持っている。


「ご主人様。お弁当をお持ちいたしました。あら……」

「ぶっ。どこかで、見たような顔じゃな。ふふふ」


 レンは、扇子を取り出すと背もたれに寄りかかってくつろぐ。どこでもこうなのだろう。にこにことして、メイドを見ている。紫色の風呂敷に包まれた弁当箱は、ずっしりとした重みがあった。浮遊板の上に乗せると。ひよこと白いもこもこした生物が興味津々で、見つめている。


「夕食は、いかがされますか」

「夕食には、帰るよ。あ、何か変わった事はないかな」

「シャルロッテお嬢様のご様子に変化が。とくだん状況に変化は、ないはずなのですが」


 それは、一大事だ。ここをそうそうに引き払って帰りたい。というのは、ユーウの気持ちなのだろう。ユウタは、ちょっと遠い。己であって、己ではないというべきか。強い気持ちは、引力にも似ている。問わずには、居られなかった。


「どんな風に?」

「お兄ちゃんが帰ってこない! と言っております」

「それは、怖いね」

「それでは、お早いお帰りをお待ちしております」


 桜火は、妹の警護をしてもらっている。彼女が居れば、大抵の事から守れる。メイド服を着た少女が、優雅にスカートの裾を持つと礼をして帰っていく。木の影に姿が消えると、そこには誰もいないのだ。木と同化しているのか、それとも木を伝って移動しているのか。魔術なのかスキルかわからない。


 オデットとルーシアが、ちらっと幼女たちと吸血鬼が戦っている空を見てから、


「どうするのでありますか?」

「生き残っている人がいないか、探そうよ」

「了解であります」


 移動する。

 餓狼饗宴の迷宮には、入り口がぽっかりと開いた穴と冒険者ギルド員の詰め所がある。土壁を解除した後でそこに近寄って行くと、水に流されたのか何もなかった。そして、穴の中からすたすたと歩いてくる小人族の姿がある。シックだ。そして、同じように歩いてくる獣人の男たち。こちらは、ずぶ濡れになっている。ユウタの姿を見て駈け出してきた。


「ユークリウッド様。無事だったんですね。この土壁は、貴方が?」

「はい。シックさんの方が、無事でなによりです。水は、収まったのでもう大丈夫ですよ」

「助かりました。もうちょっと水が増えたら、みんな流されてましたから。これも、魔王の攻撃ですか。いえ、手下の仕業? ですよね」


 振り返ると。火につつまれたヴォルスが、ばらばらになるところだった。如何に吸血鬼といえど、昼に出てくるのは得策ではなかったのではないか。灰になって、空中に消えていく。闇夜に紛れるのが、彼らの得意技であろうに。もっとも、夜は夜でセリアの力も増大する。


「手下は、アル様とセリアに退治されたようです。安心してください」

「それはよかった。これからは、魔族の攻撃に気をつけないといけません。兵士の増員が望まれますね」


 兵隊の増加は、頭が痛い。出費が、増えるからだ。それを言うと、これから出るであろう損害を計算するだけでも腸が煮えくり返る思いだ。復興資金をどうやって捻出するか。考えないといけないのだから。

 

 小人が腕組みをして、うんうんと頷いている。水が大量に流れ込んだ1階も大変だっただろう。2階も心配だ。


  



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