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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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138話 屋敷の地下は2

 壁に手を当てると、そのまま押す。

 硬い石壁だ。が、そんな事はなくフィナルにとってみれば軽い。押されて、そのまま奥へと崩れた。

 後ろでは、「目がー、目がー」というユークリウッドと「服返せよ。ひでえよ。鬼、悪魔!」というエリアスが拳を突き上げている。


「仲良くできてよろしいんじゃなくって?」


「ざけんなよ! このままじゃすまないんだぜ。くそお」


 パンツ丸出しの格好で、上着を下までずらすと、ぴょこぴょこと隅っこに移動していく。収納鞄から、服を取り出そうというのだろう。流石に、それまで燃やしたり奪ったりしたら酷すぎる。石壁の向こう側には、


「あら、セリアさん。苦戦しているのでして?」


 子犬状態になったままのセリアが仁王立ちしている。対するのは、赤い液状の塊だ。

 隣の部屋と壁を崩して、連結した場所の床には何も転がっていないが油断はできない。

 敵の数は、1体だが1体である保証もないのだ。DDは、案の定だ。セリアの背中にひっつくようにしてのんびりしている。


 セリアが、わふっと吠える。やれ、という事なのか。

 もごもごと赤い塊が蠢くと、そこから小さな塊が射出されてくる。弾丸のように鋭い。避ければ、石の床や壁に突き刺さる。威力は、人体を破壊するのに十分以上。機関銃にだって優る威力か。そして、跳弾を狙ってくるようだ。


 ―――舐められたもの。


 手に力を込めれば、輝く。淡い輝きを帯びた手で払う。赤い礫は、避けても追尾するようだ。そして、撃ち出される赤い棒状の物体は手に触れれば光の粒子となって消えていく。赤い塊は、人間大の大きさだ。そこに顔を作ると。


「猪口才なっ。人間にしては、やりおるわ。我が名は、ベリードル。夜天の血族にして、不死の一族の末席に位置する者だ。名を名乗れい!」

「あら。どうも、ご丁寧に。では、わたくしはフィナル・モルドレッセ。かの騎士王の血を引きし血族にして、ミッドガルドに住まう者ですわ」

「ほう。騎士王とな。これは、また大きくでおったわ。フェンリルの末裔といい、これは準備不足であるな。再戦を期したいところであるが……」


 逃げる気か。すると、セリアが肉球のついた手を横に振った。逃すわけがない。吸血鬼を逃がす訳にいかない。仲間を増やす習性がある上に、繁殖力は爆発的なものがある。下手をすると、獣人国が軒並み吸血鬼の支配下に入ってしまうくらいだろう。


 ―――絶対に、逃がさない。

 セリアの国だからという訳ではない。魔王を討つのは、神に使える者の使命だ。魔王が地上に顕現すれば、それに対応するように勇者が現れる。職業(ジョブ)で勇者を持つ者であったり、異世界から召喚されたり。もっとも、そのジョブを普通に持っていたりする人間もいるが。

 セリアの頭を撫でて、


「無理ですわ。そのような真似を許さん。と、この子も言ってますわね。貴方が、ここの支配者なのですか?」

「ふん。だったら、どうだというのだ。そこまで、教える義理はない。いくぞ!」


 群れには、支配者が居るものだ。最上位の吸血鬼は、仕留めたい。逃せば、どのような惨事が拡大するかわかったものではないのだから。

 ぴょんぴょんと飛び跳ねるセリアは、余裕そうだ。

 そして、ベリードルは余裕なのか。律儀にも、呪文を用意する間を作らせるとは。もっとも、相手も同じ事。射角を作る為に、部屋の隅に赤い肉の分身を作ろうとする。

 

「ふんっと」


 拳を振るう。セリアも振るったようだ。肉塊が弾けて、光の粒子になる。セリアの方は、ばしゃりと弾けて元に戻ろうとするがまた弾ける。もはや、きりがない。その内に、火がついて燃え出した。


「なるほど。我らの攻撃を尽く打ち砕く。なまなかな相手ではないようだ。しからばっ」


 身体から、霧状の物がでる。ワンパターンではないところは、素直に感じ入るところだ。身体を霧に変えようというのか。どんどん体積を減らす。悪手だ。セリアの口から、黒い粒子が漏れる。があっと吠えると、周囲の物をのみ込み始めた。足を地面に突き刺す。でなければ、フィナルも一緒に吸い込まれてしまう。この技は、フィナルをも巻き込む自爆系の技で、


「ぬおおお!」


 半分くらいが吸い込まれて、ベリードルは体積が少なくなってしまったようだ。味方はいないのか。手下が居るものだが、走りだす。一息もかからずに飛び込める。


「む、むう。これは、いかん。逃げさせてもらいますぞ!」


 真っ直ぐに間合いを詰めると、


「甘い! 神聖光輝、正拳突きぃ!」


 赤い肉塊は拳を受けて光の粒子になった。闇属性には、特に効く。敵は、これだけなのか。ベリードルにしても、手応えがほとんどなかった。


「うーん。不死族の系統なのだから、もう少し手応えがあってもいいのだはないのかしら。ねえ」


 セリアは子犬の状態から、


「お前が強い。なかなかの腕だし、神聖系統は吸血鬼の天敵なのだから仕方がないのではないか。それより、ユークリウッドよりもフィナルが先に来るとはな。意外だったぞ」

「それは、そうですね。隣の部屋で、呻いているのかも。敵は、残っていないのですか?」

「逃げ隠れしているような小物は放っておいても良いような気がする。が、掃除しておくに越した事はないしな」


 元の姿に戻った。黒い皮鎧に、ジャケットを羽織った格好だ。ズボンも黒い色を選んでおり、白い肌とマッチングしている。DDは、幼女になる気配がない。肩に乗って、飛び回っている事からやる気がでないのだろう。彼女は、本来のところ人類の敵であり討つべき竜なのだが。そういった事情は、知らない人間にとってどうでもいいことか。


 魔族と手を結ばれたら、最悪だ。 


 石がカタカタと動く。床から何かが出てこようというのか。上からも、


「キィエー!」


 下からも、同時に獣人が現れた。その爪を躱して、裏拳を見舞う。肉の裂ける音が2つ。不意打ちにしても、不出来だ。ごろりと、地面に横たわる。殴った部分は、弾け飛んで壁にたたきつけられた。敵を始末した後が、油断するという。そういう狙いだったのだろう。

 淡い光を放って、身体のそれが空中に消えていく。


「まだ残っているようだな。探してみるか」


 それを見たセリアが、ひよこの頭を撫でると凄く嬉しそうだ。死体からは、血が動くという事もない。淡い光が伸びて、粒子が立ち上った。取り憑かれていたのか、それとも寄生されていたのか。操られていたとみるべきかもしれない。石壁を奥に進もうと、


「ま、待ちやがれ。今日という今日は許しちゃおけねえぜ。フィナルのせいでパンツ見られちまったじゃねえか!」

「いいじゃない。減るものでもないしょう? むしろ、見せてあげたと思えばプラスではなくって?」

「ばっばっかじゃねえの。それって、ただの痴女じゃんか。ふざけんなよ」


 仁王立ちになって、どすどすとエリアスが迫ってくる。

 妙に顔が赤い。何かあったようだ。


「女の子になったのですか」

「どーして、そーなるんだよ。つか、危ねえ!」


 三角帽子のつばを掴んで、指を指す。


 背後から、獣人が立ち上がって飛びかかってきた。が、そのまま下から上へ肩で叩きつけた。獣人が死んでいるのは、確かだ。であるならば、動いているのはその後でゾンビと化したということか。淡い光に包まれて、光の粒子となった。どのような課程でゾンビと化したのかは不明だが、神聖術が通じる以上は魔物なのであろう。


「探しましょうか」

「あっ。てめっずりーぞ」


 流してしまおう。しつこくない彼女の事だ。忘れてしまうのも早い。


 聞く耳持たないのがいい。ユークリウッドが追ってこないのは、捕らえられていた獣人の子供たちを地上に逃しているからだろう。空間転移を得意とする彼ならば、一瞬で行き来が可能だ。セリアが向かった先に行くのがいいだろう。敵を残さず仕留めている可能性が高い。もしくは、隠れていた相手がのこのこと出てくることもあるだろう。


 石壁で覆われた通路にでると、左にすぐ階段が見えた。

 地下がまだあるのか。扉が付いている。しかし、セリアの拳で破壊されたのか。内側にぶらぶらとかろうじて引っ付いていた。


「残り粕ばっかじゃね? 俺たちが行っても、残飯しか残ってないと思うぜ」

「そうでない可能性もあるわよ」

「あー、かったるいなあ。そういうのは、セリアに任せとけばいいじゃん」

「じゃあ、何をするのよ」


 押し黙ってしまった。顔をぷるぷるとさせている。DDのように、さぼってどうこうしようという事ができない子なのだ。根が真面目というか。冗談が言えないような性格をしているので、弄ると面白いがあまりいじりすぎても駄目。むくれてしまうので、加減が必要だ。


「し、し……」

「しょうがないから、手伝ってやるぜ! でいいんじゃないかしらね」

「ぐ、ぐぅ……」


 すぐに、白旗を上げた。エリアスの頭を撫でていると、ずずんと音がする。困ったことに、エリアスは泣き顔が可愛かったりする。ついつい、やってしまうというか。これは、わからない気持ちだろう。あまりよろしくない感情だ。 


「しょ、しょうがねー。手伝ってやるぜ!」

「ぷっ」

「なんだよ。笑いやがって、気持ち悪いやつだぜ」

「いえ。それよりも、敵が近くってよ」


 階段から降りて行くと、そこには。

 無言で佇む男と女が立っている。1人は、蝙蝠の羽を生やす男でもう1人は長い爪を伸ばしている。剣のようであった。そこそこの広間だというのに、そこにあったと見られるテーブルが部屋の隅っこに転がっている。横の壁には、岩がぶち当たったのだろう。石壁に岩がめり込んでいる。そして、床は綺麗な大理石。つるつるの床も今や岩石が散乱して、見る影もないほどに荒れている。


 頭上から、逆さのまま突っ込んでくる獣人。


「はっ」


 突撃を躱しながら、裏拳を見舞う。奇妙な声を上げて、地面をごろごろと転がった。光の粒子が立ち上り、動かなくなった。吸血鬼にされていたのかなったのかわからない。なので、殴って確かめるというのは、いい手だろう。


「まったく、今日はなんという日だ。家畜どもが、反乱を企むわ。神殿の犬が紛れ込むとは、不届き至極。いと早く掃除せねばなりますまい」

「ああ。しかし、この場は引くぞ。ベリードルがやられておる」

「いやいや。奴は、夜天の血族にあって最弱。我ら2人がいれば、どのような相手とて脅威ではありますまいよ」


 と、話をしながら高速でセリアと殴りあっている。拳を硬化させているのか。攻撃を受け止めているくらいだ。それなりに力があるようだが、本気だろうか。本気だとすると、容易ならざる相手だろう。だが、彼女は遊ぶ癖があるので騙される。たまに。


「おいおい。セリアが押されているぜ。こいつはやべーってばよ」

「はあ」


 足で、石ころをつまみ上げるとそれを飛ばす。と同時に己も飛翔した。石礫滑空。自らを羽毛の如く。また、飛燕の如く。石礫に己を乗せる技法だ。くるくると、


「何っ」


 間合いを捕らえた。相手の反応は、鈍い。セリアは、やはり手を抜いていたようだ。無表情の女が、加速してくるが。


「遅い! 火口に飛び込むわ、火竜の嘶き! 万丈に、絢爛に、破岩!」


 虎弓。引き絞られた渾身の肘が女の腹にめり込むと、股間を膝で撃ちぬく。人間ならば、この連撃だけでもう悶絶死するだろうに。相手は、吸血鬼なのだから反撃がくる。右の腕と足をかいくぐり、背中に渾身のは背面撃ち。隣の攻撃を躱すと、


「ぬあ!」


 男は、焦ったかのような大ぶりをしてくる。爪による一撃だ。食らえば、ひとたまりもない。だが、その横をすっとすり抜けての側撃脚。宙を舞うと。


「いただきだぜ! ファイアゼリー!」


 どろっとしたマグマが、女と男を包む。ベリードルよりは、2人ともできる。しかし、そこまで強いかといえばそうではないだろう。ただし、モブレやアイスマンでは遅れを取ったやもしれない。彼らは、人を止めようとはしていないのだから人止まり。硬い鎧に身を包んでいる限り、進化が見えないのだ。薄い布にて、接敵する事がない。


 とはいえ、任せてみるのも有りだったか。


「へっへーん。いただきだぜ!」


 エリアスは、有頂天になっている。だが、よく考えて欲しい。先に戦っていたのは、誰だったのか。手柄を奪われたら、どういう気持ちになるだろうか。その背後では、小さな獣になったセリアがしゅっしゅっと拳を突き出している。


 そして、ぴょんと跳ねると。


「あんぎゃああーーー!」


 ちょうど、ユークリウッドが降りてきた所だ。凄いジャンプをした。そして、セリアの口には縞々のパンツが引っかかっている。

 大股開きで飛び上がった瞬間で、時が止まった。


 何故か、ユークリウッドは戦っていないのに顔が変形するほどのダメージで倒れた。

 戦っていないのに。


 

挿絵(By みてみん)

「な、何が起きてるのよ」

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