132話 腹が減る ユウタ一人称。(ユウタ、彰、ネリエル、ウィルドほか)
「あれ、魔族じゃね」
呼ばれて行ってみた場所には、魔族がひしめいている。迷宮の2階。ボスを倒して、向かった先には岩の身体をした人が立っていたという。魔人なのか。彰は、やばさを感じて俺を呼び寄せたという訳か。馬鹿か。自分で倒せよ。そいうのは、胸にしまっておこう。しょうがないのだ。彰は、雑魚だし。すぐに魔物にやられてしまっては、折角の投資が無駄になってしまう。
俺強えするターンか。しょうがない。岩みたいな魔人だし、捕獲する意味がない。
「下から上にあがってきたみたいですね」
「倒しちゃうのか? それとも捕獲するのか。どっちよ」
こいつ、阿呆か。メリットがねえんだよ。番人に使うくらいだが、魔力は余剰が少ない。
常に、限界ギリギリのチキンレースしてんだよ?
いつも限界を走ってんの。わかる?
「できたら、で」
オブラードで包む発言をする。なんというか、しょうもねえ。
学校の途中で呼び出されて、早退扱いだ。学校の学業に差し支えるような呼び出しには、困ってしまう。鑑定スキルを使用すると。魔人で間違いないようだ。岩のポロッコルと名前がでてくる。ちょっと、可愛らしい。顔面には岩が肌を作って、目が光っているような生物なのに。白いもこもこが頭の上に乗って、ひよこが肩に。狼が背中のフードで寝ている。
こいつらの方をどうにかしてしまいたいぜ。可愛いんだが、可愛いだけだ。
彰に手で合図を送ると。ハゲがつかつかと歩いていった。
「どーも。魔人さん。降参する気はないですかね」
「「!?」」
いきなり話かけた。
正真正銘の阿呆か。
仲間にしようというのか。そうそう都合よく行くものではないというのに。
岩の巨人は、彰を見下ろしている。俺が魔人なら問答無用でぶっ殺す。ポロッコルさんは、我慢強いのか。わからないが、岩の巨人が前に距離を詰めてくる。危ない。どうみても、殴り殺されて潰れたトマトが出来上がるだろう。
ネリエルが堪らずに走りだした。抱えて逃げようというのか。岩だけに、防御力が高そうだ。見るからに、破壊するのは大変だろう。魔人は、配下を従えている様子ではないがわからない。瞬間的に手駒を召喚するタイプだっているだろう。
ネリエルが、彰を抱えて、そのまま持ってバックダッシュしてきた。直後に、岩の腕が地面を通過する。危ないところだ。彰を抱えて逃げるのか。
「どういうつもりだ!」
「いや、どうもこうも」
ネリエルが、彰を叱っている。しょうがない。仲間ならぬ仲魔にはできそうもないようだ。
ポロッコルの攻撃だが、食らってしまえば死んでしまうだろう。当然、そんな事はさせない。土壁の魔術を発動させると、そのままポロッコルさんは天井と一体化してしまう。地面とポロッコルとどちらが硬いか。砕け散った岩の人を見れば歴然だろう。でるまでもなかったようだ。迫力だけなら中ボスだけど。
呼び出すほどだったのか。ナタリーさんユッカさんも手持ち無沙汰にしている。ウィルドは神妙な顔をしていた。文句がありそうだ。しかし、死んでしまうと思ったなら呼び出されても全く問題がない。
「一瞬だったな。いやー助かったわ」
「いえ、全然問題じゃないです。けど、魔人が2階に来ているならこの先ももっと増えていきそうですねえ」
「うぇ……。そいつは勘弁してほしいぜ。そんで、魔物を飼うのはどうよ」
魔物を飼うって、あんた。そういう事を考えていたから、ポロッコルに接近したのかよ。ブランシェと同じように行くと思わないで欲しい。
チィチとユッカさんがツーヘッド・ウルフを引きずっている。顔には拘束具がしつらえてあった。このような魔物が養えるはずがない。という、番犬の代わりに各階層に置いておくのはいいだろうが。2階の入り口にでも置いておけば魔人を食い止める役に立つのか。冒険者たちの邪魔にもなりそうなのだけれど。
転移部屋がないので、餓狼饗宴の迷宮を潜るパーティーが利用している休憩所がある。
そこまで連れて行くと。
「邪魔じゃないか? これは」
ウィルドが口を挟んだ。邪魔には違いない。帝国の皇子は、入り口の距離を見てそう思ったようだ。確かに出入りがしづらいだろう。ネリエルは、とても残念な表情を浮かべている。
「しょうがねえな! 諦めるのも肝心だぜ」
「うー。小さく可愛くは、ならないか」
「仮に、テイマーが調教しても本人が居ないと制御不能ですよ。魔物使いだと、そういった能力は範囲が決まっていたりします。ビーストテイマーかサモナーか。サモナーの方が上のクラスみたいですけど」
「そうなのか。じゃあ、ネリエルはサモナーを目指すか?」
ネリエルは、迷っているような表情を浮かべた。目が泳いでいるのだ。左右に行ったり来たりしている。可愛いのに目がない女の子のようになっている。すると、後ろからセリアが爪を背中に突き立てた。なんで、こういう時に爪を立てるのか。痛いって言っても聞こえないふりをする駄狼だ。ケツにカンチョウでもするぞ馬鹿。
彰は、ネリエルに尋ねる。
「いや、私は獣戦士だからな。次は獣将を目指さないといけない。その先だってあるし……。わかってはいるんだが、サモナーはいいな。召喚士か。見たことがないが、いいな」
「ゲームならいいんですけどね。現実的に考えると、魔物の餌をどうするのか。身体が大きければ大きいほど、飼うのが難しいでしょう。強さが大きさに比例するなら、ですけど」
召喚士だと、普通は魔力上げが基本になるだろうけれど。召喚魔術に長けた術者ならば、何体かの複数制御もしてのけるのかもしれない。エリアスは、スライム系の召喚を得意とする術者だった事を思い出した。魔術師だが、ジョブ:召喚士を持っているのかもしれない。
頭の上に乗っている白いもふもふを抱えると、それを楽しんだ。撫でているだけで、幸せな気分になる肌触りだ。すると、またしても背中に爪が突き刺さる。血が出ているんじゃないだろうか。フードの中に手を突っ込むと、ぺろぺろしてきた。どうやら、構って欲しいらしい。ドッグフード食わせんぞ! 獣人だからといって、ドッグフードを食わせるほど鬼畜になれないけどな!
ウィルドが、不思議そうな顔で見ている。顔に何かついているんでしょうか。お嬢さん。
「貴様は、そのテイマーかサモナーなのか? いや、魔術師だと聞いているのだが」
「それは……」
「それは?」
「秘密に決まってるじゃないですかー。プークスクス」
「こ、こいつ!」
「あんたら、遊んでないで先に進むぞ」
魔人が増えているので、迷宮を進むのも慎重になっているようだ。アルーシュをからかって遊ぶと、死亡フラグが見えるがこの子なら大丈夫だろう。ウィルドは、セリアに匹敵するくらいのちょっとどこか抜けたところのある子だ。たまの息抜きに相手をするのもやぶさかではない。ウィルドは、こちらの職業だとか能力に興味があるようだ。
お嬢さん。俺が悪い奴だったら、騙されて売り飛ばされる所ですよ?
グレゴリーのおっさんも俺を信用しすぎである。どうして、そんな悪人に見えないのか。人間なんて悪い事を考えていない人間のほうが少ないというのに、どうして信じてしまうのか。正直にいって、他人を全面的に信用する人間なんて長生きできない。
農耕具を売りつけて、交易を結ぶというのはいい案だ。ウィルドを側室にでもすれば帝国の支配権を巡って、戦争でもふっかけてしまいそうだがそんな事があるだろうか。アルーシュだと……すごく心配だ。なんでも暴力で解決しようという彼女の考えには、ついていけないと感じるところがある。表立って反対をできないけど。
所詮日本人なので、上が右だと言えば右に全力で走っていくのだ。左だといわれて、右だと言ったろなんて事を言われるのが社畜でなんでできないと言われるのも社畜だ。今も社畜のような感じになりつつあるのが憂鬱である。
「召喚師が殴るのか? うーん。魔術師が殴るのもおかしいが」
「何もおかしくないですよ。召喚師だって、杖で接近戦をしたり、殴ったりします」
「嘘だろ。接近戦を鍛えられるなら、それで騎士をやっていれば最強ではないか」
「いや、そのくらいじゃ最強じゃないです。何が最強のジョブか。難しいところですよね」
「む、英雄は強いぞ。普通に経験値取得が倍になったりするからな」
「ありますねえ。確かに英雄は強い。称号で英雄を持っている人も結構いますから」
「その分だと、もっと強いジョブを知っていそうだな」
もちろん、知っている。しかし、そんな事を素直にぺらぺらというだろうか。ウィルドは、雷を扱う事にかけては優れているがその他の面で計算ができない子のようだ。経済が少しわかるようだが、それでも物足りない。
この子は、ユークリウッドの記憶にない子供だ。どうして、出会わなかったのか。わからないが、運命は少しばかり変わってきているようである。アルーシュに似ているせいだろうか。からかいたくなる。いじめっ子の気持ちとはこういうものなのか。
ブランシェの毛を触って、楽しんでいると。
「ぶっ。ブロンズゴーレムだ!」
ユッカさんが叫んだ。ネリエルとチィチが必死に走ってやってくる。どうした事か。それくらいは、簡単に倒して欲しいのにできないようだ。ナタリーさんが呪文を唱えると、
すいーっと滑るようにして青銅色の身体をした魔物が巨体を滑らしてくる。地面凍結系の魔術だ。詠唱陣を媒体に込めて入ればタイムラグなく撃てるタイプがあるのが、それとは違うようでもたもたしている間があった。それに、ユッカさんと彰がと一緒に斬りかかった。がっと鈍い音がして弾かれる。青銅の身体だというのに、硬いのか。
「こいつっ」
体勢を立て直そうとする巨人。これも魔物だろう。明らかに迷宮のそれとは系統の違う魔物が出てきている。魔王の手下が迷宮から溢れてくるのは、おかしい。普通は、こう空中を割って溢れ出てくるものではないだろうか。そんな絶望感があるのが、魔王で魔王軍というものだがこれは、違う。違うと言いたい。
青銅の巨人が立ち上がるところに、膝にパンチをする。足が吹っ飛んでいった。
「おっ」
「へっ?」
脆かった。足が無くなって倒れてくるところに、拳で胴を叩くと盛大な穴ができた。柔らかい。レベルを上げすぎたせいか。ブロンズゴーレムは、目から光を失って横倒しになった。素材としては、それなりに見込めそうだ。エリアスに世話になっているので、魔物を倒すとそういった素材を提供しないといけないのだ。レアな素材は、こういう場所でとれるとは思っていなかった。
イベントリに巨人の残骸を放り込むと。
「あの程度、私でもやれるな」
「そうですか。それは、興味深いです。ほら」
青銅の巨人を倒したのもつかの間。通路にどんどん巨人が出てくる。1匹だとおもったら、何十匹もでてくるゴキブリのようだ。もちろん、セリアを無理やり戦わせれば楽勝だが駄狼はフードで動く気配がない。一体、どういうつもりなのかわからないが丸くなってひよこがもがいている。DDで遊んでいるのか。引きずり込まれたようである。
白いもふもふした生き物は、いい。このような魔人なら何体でも捕獲しようものなのだけど。青銅の巨人では、食指が動かないのだ。聞いてみたいものだ。厳つい顔面に、ロボットを想起させるような身体。それがもこもこする動物に変身するとか。小さくなるなら別だけれど。
「ぐっ。援護しろよな!」
「了解しました」
しないけどね。ウィルドを見ていると、そんな気分なのである。なんとなく、なんとなくではあるがアルーシュの気持ちがわかる気がした。
駈け出していく少年を見ていると。
「おい、ちょっとくらい援護しろよ!」
そんな声が飛んでくる。他の人間は、危なげなく対峙しているけれど誰も倒せていないようだ。分が悪いというか。身体のサイズが違いすぎるのと、剣が弾かれてしまうのが厄介だ。このような魔物がいては、他の冒険者の為にならないだろう。
「しょうがないですね」
ほんとは、しょうがなくない。フードに手を突っ込んだが、帰ってきたのは噛みつきだった。どうやら、拗ねているらしい。ステーキを用意しようかなあ。
すると、それを感じ取ったかのようにひよこが走りだした。ちょっとだけサイズが大きい。
役に立っていないけど。セリアを引っ張りだすのに、すごく時間がかかった。
土壁を出せば、楽勝だがそれではいけない。
まず、鍋を用意してそこに水を入れる。そして、火をつけて肉を放り込む。肉を柔らかくなった所で、油で上げて唐揚げを作るのだ。肉は、鳥の肉がいい。火加減を間違えると、セリアに怒られてしまう。いい匂いをさせていると、彰たちの方もぎゅううと腹の音がなった。
みんな、食いしん坊さんのようだ。




