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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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130話 学校 ユウタ>セリア

「それ、なんなの。動物とか連れてきたら、駄目だって先生が言ってたよ」


 教室だ。

 ローエンがつれないことを言う。黄色いヒヨコが頭に乗って、白い生き物が教室に入ってきた。

 室内では、動物を飼うようになっていない。

 もふもふした白い生き物は、ブランシェだ。頭の黄色いヒヨコはDD。

 それらが、勝手に学校に入り込んでいる。


「可愛いー。この子、どこから来たのかなー」


 小学生の女の子だ。興味があるのだろう。黄色い方よりも白くて丸い生き物が、人気のようだ。動物なのか、魔物なのかよくわからない生き物である。2匹とも人気になって、もみくちゃにされていると。先生が入ってきた。すっと居なくなるDDとブランシェ。恐るべきスピードで、机の影に隠れる。先生がわかるようだ。恐ろしい奴。


「人気者だね。先生に見つかるといけないけど、その子は賢いのかな」


 しかし、そうもいかないのか。小学生の男の子が、立ち上がると。


「せんせー。アルブレストくんが動物を連れてきてます。いけないと思いまーす」

「本当ですか?」

「いえ。気のせいです。そんな動物は、いませんよ」


 ひゅっと、隠れる。先生からは、見えない位置だ。


(告げ口とは……。俺が悪いんだけどな)


 賢い。とても、魔族とは思えない。


「そうですか。もし、動物を教室の中に入れるなら許可を取ってください。取れないと思いますけど。ちゃんと外に出すように。ええと、それじゃあ授業を始めますよ。教科書を開くように」


 先生が何かを言いたそうな顔をしていた。男の子は、まだ不満のようだ。先生の対応がおかしい事を気にしているようでもある。学校で、先生といえば教室では圧倒的な権力を誇る。誰も逆らえないし、逆らうようだと放校処分になってしまう。義務教育とはいえ、ミッドガルドの教育は絶対ではない。学校に行きたくなければ行かなくともいい。ただし、卒業証書が貰えるのかどうかわからないが。


 学校は、増設に増設を重ねている。人口が増えているのに、学校が間に合っていないのが現状だ。その人口。医療費を補助する仕組みができているので、さらに増える見通しである。アルの治世は、朝令暮改というような治世で。良くないとわかれば、すぐにでも改める。医療費を徹底して抑えるのと、社会保障制度の構築がメインだ。


 税制を整えて、実行するのに時間がかかってきた。紙を普及させるのだけでも、数年が過ぎている。憲法を作っても、貴族王族が抜け落ちていたりするのは仕方がない。自分の首が絞まってしまうし。そんな事を言われると、やりたくなくなってしまうのはしょうがないではないだろうか。結局、自分が快適に過ごす為の国を作るようになってしまう。


 貴族側に立てば、相続税をザルにせざる得なかったり。


 商人を締め上げる制度になるものだから、商人が逃げ出さないとも限らないような。そんな制度だ。貴族になる前は、憎しみを抱いていたというのに一旦なってしまうと豹変してしまうとはこの事だろう。優秀な独裁制度と平等を訴える民主主義。どちらがいいのか、わからなくなってしまう。というのは、日本の財政状況を見ているからで。


 1000兆を超える借金があっても平然としている官僚。

 これは、ありえない。国民1人頭の借金は800万と言われていた。どうしてそうなったのか。単純に、税収入を超える支出をするからだ。国債を発行するのにも限度がある。


「今日は、ミッドガルドの歴史からにしましょうか。はい、キンブリードくん読んでください」


 ミッドガルドには、借金はない。全部アルが収入と支出を計算に入れている。税が足りなければ、増税するだろうし、足りない時にはそれなりに考える。色々と、口出しをすることもある。税金は、かつては人頭税だったが日本人の手伝いもあって税制を日本と同様にする事にしている。累進課税が適用されるのも、平民だけだが。


「昔、昔。あるところに、木を育てる女の子がいました。その女の子は、とても美しくとても上手に木を育てる事のできる名人でした。ある日、その噂を聞いた女の子が貴族に結婚の申し込みを受けます。木は、放ったらかしにされてしまうのか。心配しました」


 とても、歴史とは思えない童話だ。

 税をどうやって取るのか。収入を計算して、どの程度の税を取るのか。それを計算するのである。そして、住民税に法人税。他の税金で賄う。馬車を持っていれば、馬車税が取られるし。色々と、税がかけられるという。 


 とにかく、税金をかけまくっている。これでは、平民が息苦しいだろうに。税を払わないと、刑務所に入れられるか 

 

「せんせー。木さんが可哀想です!」


 木は、言葉が喋れない。普通だ。

 税金を払ってくれないと、国は運営がままならない。ということは、取り立てが厳格で一旦支払ったら帰ってこないのがままある。例えば、ビールだとかが第三のビールに当たるだとか。そんな事でも税金の支払い督促が来たりする。脱税になるのが嫌で、企業が払ってしまうと。それが帰ってくるのか。納めてしまった税金を払い戻すのも、大変だ。


 そういう事がたまにある。

 とはいえ、税金から逃れるような密輸は困りものだ。塩など、生活に密着する物が高い値段だと暴動が起きてしまうだろう。貴族が独占をしたら、反乱さえ起きかねない。何しろ、命がかかっているのだ。荷役が増えるとかそういう問題ではなくて、生きていけない。


「そうですね~。困りましたね~。木さんは、そこでどうしたんでしょうね」

「木は、考えました。大きくなれば、女の子も戻ってきてくれるに違いない。頑張って大きく、大きくなっていきます。そして、どんどん大きくなりました。けれど、女の子は戻ってきません。どうしたのでしょう。女の子は、貴族と結婚してしまい木の事など忘れてしまったのでしょうか」

「どうなっちゃうの。木さんが可哀想」


 木なので、忘れられているだろう。間違いない。

 

 ラトスクでは、塩の輸送ルートが幾つかある。陸ならば、山の方から岩塩が取れる場所が。

 王都からも輸送されてくるし、海に近い場所から商人が運んでくる。しかし、せいぜい10日以内の距離だ。海から遠く離れるほどに、生活するのが難しい。塩をそれで独占などしたら、前記のような事になる。ラトスクの場合は、南北と東から。ミッドガルドからも塩を輸入できる。立地の条件は、あまりよくないけれど。できる事なら、ガルドフレークよりも王都か海に近い場所がいいのだけれど。


「木は、ずっと待ち続けました。けれど、いくら待っても女の子は帰ってきません。そのうちに、木があまりにも大きいというので、村の人が切り倒そうとします。木は、耐えました。斧ががつんがつんと身体に食い込んできます。木は、斧で叩かれる度に身体を治します。汁が出るので、それを見た村人は木の樹液を口にします。とんでもなく美味しい。村人は飛び上がりました。それを飲むと、傷が治り病気からも回復すると。たちまちのように、木に人が群がりました」

「どうなっちゃったの」

「木は、頑張りました。けれど、斧で叩かれている内に疲れ果ててしまいます。ある時、雨が降らず干ばつに村が襲われてしまいました。村の作物は、枯れ果てて飲水すらありません。便りなのは、木の樹液だけ。しかし、出てくる量は少ないのでした。村人たちは考えました。もっと、樹液を出るように木に斧をもっと入れよう」


 枯れてしまうだろう。それでも、斧を入れてしまうのが人間だ。


「欲深な人間たちは、斧で叩くのを止めません。喉が潤うのに十分な量の樹液を得るのに、ためらいもなく木に斧を入れていきます。すると、どうした事でしょう。木が突然、燃え始めました。そんな事が起きるはずがないのに、木に火がついてしまいました。驚いたのは、村人です。木が無くなってしまっては、村人たち飢えるしかありません。必死になって、火を消そうとしました。しかし、火がついているうちに、黒い雲が空にできたではありませんか」

 

 火事で、雨が降ってくるとは。都合がいいお話だ。


「木さんが…」

「木は、燃えてしまいました。その直後です、ぽつぽつと雨が降り始めました。村人は喜びました。恵みの雨です。雨が来れば、飲水にも困りません。そして、雨がざあざと振りました。村人は、桶を作ってそれを貯めようとします。ですが、そのうちに雨はもっともっと強くなっていきます。次第に、雨は濁流となって村を襲いました。その後に残されたのは、何も残っていない平地でした。木も流されたのか、そこに残っていたのはぽっかりと開いた穴だったそうです。おしまい」


 子供らしいお話だった。道徳を教える時間が、これに当たるのだろう。ローエンなどは、鼻をすすっている。可哀想な話だが、木にはどうする事もできない。木だし。


 塩の価格は、ミッドガルドでならそれなりの値段だ。ユウタの領地では、150ゴル程度で売られている。それが、全国に広がる形で値段が形成されていた。塩田を作るのもそれなりの時間と手間がかかる。塩を太陽の光で乾燥させるやり方で、イオン交換膜が欲しいのだけど。帝国の技術が欲しいところだ。農機具は、売ってもそれを製造できるかというと難しい。


 ゴーレムの方ならできてしまうのに。


 授業の方は、木に同情が集まっているようだ。

 膝の上に、ブランシェがいつの間にか乗っている。撫でていると、気持ちがいい。

 天日塩田と枝条架を使って、塩田をやっている。北の方なので、冬場は困った事になる。塩を取るならば、春から夏にかけてしっかりとしておかないといけない。


 輸送しているだけで、金がうなるほど入ってくる。己だけでやっていては、身が持たないので部下にやらせるのだけれど。




 セリアは、ちょこんとユウタの後ろを取った。気がついていないようだ。

 しかし、気に食わない。己を無視して、白い動物を可愛がっている。どういうつもりなのか。尻に噛み付くと、気がついた。痛みをこらえている様子。


 ―――いい気味だ。


 白い動物に飛びかかると、抵抗してくる。

 力は、弱いようだ。


「いたっ。こらっ!」


 器量の狭い男だ。ちょっと噛み付いただけなのに、これだ。

 尻の肉に牙が食い込んだせいか。尻からは、血が出ている。すこし、やり過ぎたようだ。

 大人しく、頭を下げていると。頭を撫でられた。ユークリウッドは、これだから容易い。白い動物に乗ると、ふかふかの身体にしがみつく。いい感触だ。


「ねえ、この子ってさ。もしかして」

「しっ。黙ってて」


 どうやら、己の事を隠しておきたいらしい。しめたものだ。こうなれば、せいぜい抵抗できるか根比べである。面白い事に、ユークリウッドは底辺のクラスでいいらしい。上のクラスに顔を見せないので、フィナルなどはセリアに当たってくるのだ。セリアとしては、一体どうして己が責められなければならないのか。同情してくれるのは、オデットとルーシアだけだ。


 アルトリウスは、厳しい事を言うし。


 不満が溜まっているのだ。なので、腹にめがけてパンチしてみた。

 

「ぶふっ」


「どうしたの?」


「いや、なんでもないよ」


 耐えるようだ。どこまで耐えられるのか。セリアは、楽しみになってきた。 

 授業を抜けだして、遊びに来たら、見慣れない生き物を連れている。面白いはずがない。縄張りを荒らされた気分だ。膝の上から、どかそうとするが巧みに避ける。白い生き物は、ぐるぐると器用に腹に行ったり地面に行ったり。といって、膝から移動してはセリアの背後を取ろうとする。背後を取ろうとする生き物には、突きを食らわせてやると大抵の生き物は死亡する。

  

 ―――何!?

 頭に取り付いたDDが、器用に白い生き物を操作しているのか。躱した。そして、黄色いヒヨコがセリア目掛けて飛びかかって来る。上からは、DDが。下からは白い生き物が。コンビネーションという事か。セリアの攻撃を躱した事は、瞠目に値する。竜としての力が出せないというのに、避けてみせるか。否か。セリアは、立ち上がりながら拳を構えると。


「こらっ」


 ふっと。捕まえられた。折角の対決だというのに、目が怒っている。

 どうやら、尻に刺さった攻撃が今になって効いてきたらしい。

 椅子に血がついている。


 教室の衆目が、ユークリウッドに集まった。そこで、爆笑の渦が巻き起こった。

 ズボンが脱げているのだ。してやったり。

 作戦は、成功だ。ズボンのベルトを破壊しておいたのだ。

 

 しかし、彼は凄い目で見てくる。凄く悪い事をしたようだ。首が絞まって、漏らしそうだ。


(あ、ちょびっと漏れ、る)


 その後の事は、ちょっといいがたい。何しろ、顔がぼこぼこになってしまった。

 元通りになるんだが。手加減、して欲しいものだ。

「君が謝るまで止めない」って喋れないんだが―――狼だし。 




挿絵(By みてみん)

「可愛いが、正義か!」

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