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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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129話 ウィルドの憂鬱3 (ウィルド、アキラ、アル)

「おりゃあ!」


 前髪が薄くなっている男が、剣を振りかぶると。狼を真っ二つにした。

 前衛が、5人という。おかしなパーティーだ。そのパーティーの主は、アキラ。業腹な事に、信頼する家臣の言を無視する訳にもいかない。


 潜っている迷宮の名前は、餓狼饗宴。ウルフ系の魔物が大量に出てくる迷宮だ。

 レベル帯としては、侮れない迷宮でランクもCではあるが危険度は高い。実入りの少ない迷宮なので、入る冒険者が少なかった。だというのに、ここに腰を据えているのが解せない。王都なら、もっと普通に稼げる迷宮があるのだけれどそこにいかないとは。アキラといい、ユークリウッドといい。何を考えているのかわからない。


「ふん。アキラよ、よくやったぞ。褒めてつかわす」

「へいへい」


 横には、盾を持った少年がいる。アルという名前の王子だ。何故か、アルはアキラと行動を共にしている。ミッドガルドの王族が、アキラのような下賤な人間と一緒に行動しているのがまたわからない。ユークリウッドだとか、フィナルだとか貴族と一緒に行動しているのならまだ理解できる。或いは、ロシナのような騎士を従えて迷宮に潜るのも理解できよう。そうでないのならば、一体どういう関係なのか気になるというものだ。


 ミッドガルドの王族は、ほぼ100パーセントの確率で神族であり、天界を行き来する神の分類。


 ウィルドのように力を使えるだけの王族とは、訳が違う。


「おい。じろじろ、見るな。私の顔に何かついているのか?」

「いや、何も? それは、失礼した」

「ふむ。見惚れるのは、悪くないが。……うーむ。お前、変態なんじゃないだろうな」

「何を言っている、お前の方が変だぞ」


 挑発してくる奴だった。見かけが中身を表すとは、思わない事か。倒すには、ミョルニルハンマーが必要だが、倒す必要がなくなりつつある。そもそも、帝国が領地を拡大して戦争を仕掛けている理由が食料問題だ。南下して凍らない豊かな大地を手に入れるのが悲願。その為の科学技術であり、鉄騎兵だ。飛空船を売るわけにはいかないが、農機具を売るのは理にかなっている。


 工具を売って、食料を買えれば戦う必要もない。

 暗い闇から、すっと明るい大地に抜け出たような気分だ。


「ふん。挑発したってその手には乗らないからな」

「お前、ぱちもんしてるだろうが」


 言うに事欠いて、ぱちもの呼ばわりとは。偽物扱いされるのは、我慢ならない。 


「お前だ!」

「だー! 喧嘩しないで。やめてくれ」


 アルは、すぐに湯気を上げてい興奮状態だ。

 アキラが、寄ってくる。背が高い男だ。対する、アルとウィルドは半分くらいのよう。

 髪を気にする、変な男だ。獣人族を飼っているユークリウッドの手下で、能力は大した事がない。と、ウィルドは見積もっていたが―――


「ふむ。貴様、ユークリウッドと距離を作っていたらあっちから追いかけてくると言っていたではないか! 嘘をついたのか?」


 ぐいっと、アルが剣をアキラの喉元に突きつけた。部下を前にして、これである。傍若無人に程があるというもの。ウィルドが、ずいっと前にでてアルの手を抑えるべきか。このままでは、斬られてしまいかねない。というのに、ネリエルは平然としている。チィチと呼ばれる獅子族の女の方があたふたとしている始末。


 コビットがとことこと歩いていって。


「すいません。王子。この人、駄目な人なんです。勘弁してあげてください」

「いや、しかし、なあ。接近してくるどころか、私を放置している有り様だぞ。どうして、奴はこっちにこないんだ?」


 同性愛者じゃあるまいし、ユークリウッドも困っただろう。アキラはしどろもどろで返事をすることすらできない様子だ。ネリエルは、腕を組んでそっぽを向いている。助ける気など、さらさら無いようだ。困ったものである。

 倒そうと思えば、不意打ちで矢でも打ち込んでやれば倒せるパーティーだ。しかし、アルを倒すとユークリウッドに追求される事だろう。最悪、帝国が焦土になりかねない危険性がある。簡単に倒せると考えるのは、良くない。ここまでを見た感じで、あるけれど。


「なあ。おい、聞いているのか」


 何故か、ウィルドの方に聞いているようだ。


「知らん。大体、どうして私が知っていると思うんだ」

「ふふん。知らんと思っているのか? ユークリウッドの事をこそこそとつけ回して居たりする癖に」

「はあ? それで、どうしてユークリウッドの事を知っていると思うんだ」

「熱い視線で見ていたじゃないか。泥棒猫がしらばっくれるとは、良い度胸だな」

「一緒にするな!」

「止めてくださいってば」


 アキラは、前に歩きながら器用に後ろを向く。アルは、ぶつぶつと気味が悪い。

 洞窟の中では、油断してはいけないのだが―――


「おお?」

「広間か」


 広い場所にでた。宝が置いてある箱が見える。が、周囲には魔物が出てきそうな穴が空いている。探索をしていると、地形が変わっている。定期的に迷宮の内部を変えるのは、珍しい。勝手に変わっているのか、それとも迷宮の主が変えているのか。わからないけれど。


 この餓狼饗宴の迷宮。入り口から、真っ直ぐに進んで行くと迷路のように入り組んでいるのが特徴だ。


「ともかく、進むべきだな」

「ちょっと待て。どう見ても、あれは罠だろう。前まで行けば、周囲から魔物が湧いてくる仕組みにしか見えない。予め対策を練って置かないと、全滅する可能性が……」


 地下1階だというのに、地形が変更されて脅威が増しているというか。迷宮の主は余程のひねくれ者だろう。折角、地下6階までを攻略していたというのにアキラのパーティはそこにいくまでなっていないらしい。アルは、どうだかしらないけれど強力な神気を感じとる事ができる。悔しい話だが、ウィルドのそれよりもずいぶんと上だ。


 周りを見ていた巨躯の女が、いう。


「じゃあ、私が魔物を引き連れていく間にナタリーが殲滅する方向でいいかな」

「ほう。列車、できるのか。やるな」

「任せなさいって」


 すると、女は淡い光を放って姿を変える。剣士か。いや、騎士の装備に見える。魔装の技を習得しているのだろう。一瞬で、装備を切り替える脅威の技だ。ミッドガルドの戦士が、1人で一騎当千と言われる理由がそこにある。冗談のようだが、冗談ではない。鎧を普通に着替えれば、それこそ半刻は時間がかかってしまう事もあるというのに。羨ましい。


 鎧は、一体どこから来て着ていた服はどこへ行ったのか。

 そんな事をお構いなしに、鎧に身を包んだ女が走りだすと。


「うわっ」


 狼が、出てくる出てくる。穴から、獲物がかかったようにざざっと。それを引き連れて、女が走るとそこに氷の地面が出来上がった。ナタリーの魔術だろう。すると、女が剣を振り回す。たちまち、狼たちは肉片に変わっていった。駒のように回る女の剣を避ける術もないようだ。狼の死体で、山ができていく。ウルフは、諦めていないようだ。が、傷1つ付かない内に後続がいなくなってしまった。


 後には、ウルフの死体だけだ。と、宝の箱が残されている。穴からは、気配がしない。


 パーティー機能で、公平に魔素が回収されるので見ているだけでも参考にはなる。

 物足りないが。


「やるなあ」

「あれで、倒すのは効率がいいな。まともに相手をすると、時間だけがかかってしょうがない。考えるものだ」


 アルも、頷いている。認めるべきは認めて取り入れるのがいいだろう。いきなり真似をするのは、難しいがそれとしても見事な回転剣技であった。


「えへへ。これ、ユークリウッドさんの真似ですけどね」

「なんだと」

「先に誰かが、やっているだろうけど。と言ってましたよ。足元の摩擦係数、摩擦係数がなんなのかよくわからないですけど。その地面をしっかりと掴む力を0にしてやると、素早い魔物ほど無力化しやすいと言ってました。なので、オリジナルだとか言うのはないです。効率がいいですよね。大抵、似たような狩り方になるのは仕方ないでしょうし」


 ユークリウッドには、知識がある。明らかに、日本人と同一の思考というか。ウィルドが教育を受けたレベルの発想を持っている。農具を見てもそれは明らかだ。ウォルフガルドが復興するのは、後10年は先だと思っていた。地上の様子を見ているにつけて、それが緩い見積もりで修正する必要があるようだ。


 摩擦係数。何だったであろうか。接地面との抵抗力だったような。すると、


「うほ。お宝発見だぜー。ひゃっはー」


 アキラが、宝の箱を開けている。罠を解除したのか。わからないけれど、開けてしまったのだから不用心にも程がある。どうして、宝箱に罠がないと確信して開けられたのか。鑑定スキルを持っているとも考えられる。帝国では、レアスキルに分類されるそれをいとも簡単に持ちうるのがミッドガルドという国だ。しかし、アキラはミッドガルド人ではない。ということは、後から手に入れたのか。わからないが、持っていると見ていいだろう。


 そうとしか、見えない。


「迂闊だぞ、さっさと開けるなど」

「大丈夫、大丈夫。ふんふん。あーレアな武器は入ってないな。しけてやがる」

「そうか。しかし、金塊にふむ。何だろうな、これは。紙か。ただの紙のようだが……?」

「貸してみろ。これは、魔術だな。火の魔術に関する、教えのようなモノだ。読めば、火属性の魔術が強化されるのだろう。売れば、そこそこの値段になりそうだな。どうする?」


 アルは、博識か。ネリエルは、あまり物に関して詳しくないようだ。


「あー。ナタリーさん、使いますか」

「ありがとー」


 こういう場合は、分配するべきではないだろうか。しかし、ナタリーがアキラのパーティーでは火力の役をになっている。壁が5枚で、職を変えれないときたらお荷物もいいところだ。ウィルドも状況次第で、職を切り替えれるようにするべきだろうか。持っているのは、騎士(ナイト)英雄(ヒーロー)冒険者(アドベンチャー)だけだったりする。少し、心もとない。


「ふふん。どうした。気分でも悪いのか」

「ちっ。いい部下を揃えているじゃないか。ミッドガルドは、安泰だな」

「ほう。いいことをいう。確かに、確かにそうなのだが私は不満だ。全然、剣を振るう機会がない。安全に行き過ぎだろう。このパーティーは」

「無茶言わないでくださいよ。アル様。ユークリウッドの奴と同じような狩りは、できませんから」


 チィチと白面の女騎士がウルフを回収している。肉として、売りに出すのだろう。狼の肉は、硬くて筋張っているので食堂で出すには不的確だ。塩漬けにでもして、冬越しの干し肉には持って来いだろうが。そう考えれば、是非にでも輸入したい。狼肉は、不人気ということもある。しかし、肉は肉だ。魔物の肉であっても、狼には違いない。


 ユークリウッドと交渉するべきだろう。どういったカードが切れるのか。

 一緒になって、狼の肉を袋に詰め込む。塩は、岩塩も出る国だ。戦うよりも友好を結ぶべきだろう。


 ―――そういう事なのか。

 グレゴリーが言いたいのは。

  

 



◆◆



 準備は、整っている。

 いつでも基軸点の世界に対する攻撃は、可能だ。だというのに。竜の頂点を極める竜神は、乗り気ではない。竜と人は相容れないのだ。竜は、穏やかな性格で攻撃を好まないが人間は違う。それで、攻撃をするかというとあまりにも差がありすぎて戦いにならなかった。一旦、その世界に入り込めば上位種として人間が爬虫類と呼ぶそれを使役できる。


 近似世界のユーラシア大陸及び南米は、完全に支配下にある。北米もじきに支配下に陥ることは、間違いない。こっそり攻撃して、何時の間にか陥落しているとはユウタも全く気がついていないだろう。彼は、あくまでも中央基軸点世界の人間だ。この世界に竜神の出現が望ましい。だが、近似世界では結界に阻まれる。力が大きすぎるのだから、しょうがないといえよう。


 出現しているだけでも、相当な負担だ。力を持ちすぎて、創造神に放逐されたという。


「ふーむ」


 黒龍は、首をひねった。傍らに侍らせているのは、帝国の美姫。黄金の髪をした少女だ。雷神の血脈ではあるが、代を重ねすぎたせいか劣化が著しい。生贄に使うには、向いていないし竜神がそっぽを向く可能性がある。かように、竜神がただの人間を気にするのは何故か。謎だ。


 己の身体は、人間のそれと違わぬようにしている。

 竜だと胴体が太いだとか、龍だと細長い胴をしているだとか言われるが。それは、そういう形態しか取れないだけの竜にすぎない。


 赤い竜が、口から炎をちろちろと見せる。


「あんた、攻めないのかい」

「いや。そうは言ってもだな。我も、そなたも手が出せまいよ。竜帝たちは、竜界から動いていないのだろう?」

「ふん。もう、手加減せずに攻め滅ぼしてしまえばいいのだ」

「そう言うが、な。65億か。人間を殺しているのだから、我慢するべきだろう。今後は、餌が不足してくるぞ」

「すぐに増えるさ。あいつらは、放って置けばすぐに増える」


 確かに、人間はすぐ増える。


 赤い竜は、知能が少しばかり遅れている。人間たちは、果敢にも抵抗しているがすでに大陸には人間牧場しか残っていない。竜に知能がないと、思い込んだのが彼らの敗因だ。人間の文明というのは、基本的に科学技術を根本とするものだから。電磁波攻撃にすごぶる弱い。対する下位の蜥蜴たちであっても、巨体の蜥蜴は彼らの使う武器を物ともしない。


 火を吹く筒だとか。豆のような銃とかいう代物を含めて。


 科学を封じた後は、身体能力で圧倒した。弾丸を弾き返す皮膚。強力な繁殖力。自意識に劣る蜥蜴たちを誘導する竜がいれば、人間など物ともしない。北米大陸でも、それは時間の問題だが―――


「滅ぼしては、いかん。竜神さまの怒りを買う事になる」

「おお怖い。そりゃ、怖いね。じゃ、適当にごまかす方向でいいのかい」

「そうだ。あくまでも、人間の攻撃から身を守るため。蜥蜴どもが、殺戮を受けたから仕方なく、な。そういう事だし、間違っていない」

「あんたも、ワルだねえ」

「……」


 全ては、竜が世界を支配する為だ。どうして、人間如きが世界の主として認められようか。強靭さにおいても知恵においても、繁殖力においても爬虫類が最強。これを認めさせ、世界を竜が握る。その為には、人間に従う振りだってしようものだ。世界間移動を可能とする門を守護しているのは、何故か。竜が中央基軸点を支配する為に決まっている。


 震える少女を見ると。必死になって、震えに抗っている。

 ―――食ってしまうか。


「さて。あたしは、あっちに戻るけど。大人しくしてるのかい?」

「仕方がない。この地では、我らは敗北した。神族の言うがままだ」

「そうさね。我らが、悲願。絶対に叶えないとねえ」

「そうだ。その為には―――」


 何だって利用する必要がある。竜神さえ、その気になってくれれば。宇宙の開闢からいるとされる、最も古く最も強く最も巨大で竜界そのもの。歳の頃は、創世からと。計算のできない年齢という。


「時を待つしかあるまい。我らが、偉大なる竜神さまの為に!」

「さてさて……。言うじゃないか」


 争いに敗北しても、また蘇る。諦めないし、諦められるはずがない。

 創世神の翼にして、右席たる竜種が神の庭より排除されるなど。断じて認められない。

挿絵(By みてみん)

「200万文字か……」

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