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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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128話  もふもふ (ユウタ、アキラ、ネリエル、ブランシェ)

 家が燃えていたらしい。

 ガルドフレークの町についたのも、そこそこ。アキラは、すぐにその異世界人がいると見られる場所に向かったと。しかし、そこで待っていたのは、燃え盛る家と包囲する忍者に盗賊風の男たち。話をしようにも、剣呑な雰囲気に押されて何も聞けなかったという。仕方がない。アキラは、そんな調子で語る。実際、ユウタがそこに行ってもそうかもしれない。


 ―――遅かったか。


 確保するか。事情を聞くなりしたかったが、そうもいかないようだ。

 もこもことした動物が居座って、いる。DDは、その上に乗ってまどろんでいた。狐女といえば、悠長に飯まで食って帰る始末。観察されるのは、気分が悪い。朝から、やってくるというのだからたまらない。朝食は、実家の方で取って学校に行くか。それとも、今日もまた治療をするか。どちらにしても大変だ。夜は、エリアスやらフィナルの接待があるし。


 忍者といえば、与作丸。どこからか嗅ぎつけて、始末したのだろうか。


 南の情報収集をしているついでに始末したように見える。


「おいっす。寝たんだよな? マジ、ねみいわ」

「ええ、まあ」


 ふぁあーと盛大なあくびをしている。しかし、スケベは止められないのか。動物の声が聞こえてきた。

 高校生なので、仕方がないだろう。お盛んな事は、悪い事ではない。男女が一緒にいれば、普通にそうなるのだ。マールは、逆に元気だ。鼻歌を歌いながら、調理場で仕事をしている。


 アキラは、明け方に帰ってきた。鳥馬の耐久力は、乗っている人の魔力に比例する。魔力が少ないアキラは休みながら行って帰ってきたので、時間がかかったという訳だ。


「スケベしないのか? なあ」

「しませんよ。僕は、まだ9歳なんですよ?」


 何度も、話題がループしている。アキラには、そんなにも気になる事なのか。そんな人間ばかりだとは思いたくない。


「いや、そのくらいでもしてる奴はいるんじゃないか? 早熟なのだと小学5年生だってやってたりするっていうぜ」

「それ、どこの情報ですか。そんなのは、普通じゃないですよ」

「まー、いいけど。狐の美女とかどこで引っ掛けたんだよ。どんだけハーレム広げる気だよ。マジで、ぱねぇ」


 いい話じゃない。


 アキラは、とっても危険な発言ばかりをする。異世界の常識と日本の常識が違ったりすることはあるが、それにしてもスケベすぎた。毎日のようにやっているとか。どんだけ、性欲が強いのか。一方で、強さを求めないのには頭が痛い。さっとレベルを上げて、ネリエルを追い抜いて行って欲しいのにちんたらとしている始末だ。どうにかしてレベルをあげようとすると、パワーレベリングになってしまう。


 ―――脳まで性欲じゃないんだから。

 

 強引に話を変えよう、と。


「で、本当に死んでいたんですか」

「ハーレムのコツを教えてほしいぜ……。ああ、そうだよ。昨日、話をした通りだって。首を取るって、残酷だよなー。あれ、本当にやるとスプラッターすぎるわ」

「首ですか。確かに」


 忍者は、妖怪首よこせだ。武士と一緒なのか。


 首級を上げると、昔は言っていた。が、大昔の日本での話だ。まさか、異世界で首よこせというのは、信じがたい話。本当にやるようだと、日本人がそのまま首狩り族だ。ハーレムだとかいうのは、スルーだ。子供が、子供を作るとか。


 冗談ではない。


 規制をするべきだろうか。ミッドガルドといい、ウォルフガルドといい元服の年齢が低すぎる。昔の日本もまた12歳から16歳で成人を示す儀式があったとされるが、そんな感じだ。結婚もすれば、婚約もしたりするという。それから逃れられないのが、貴族という物らしい。


 結婚相手を自分で選ぶのが、日本人の感覚だけれど。そんな物が通用しないのが、貴族という生き物で勝手に決められて勝手に結婚の話が進んでいくのである。それから逃げようというのなら、貴族を止めてしまうしかない。


「首な。黒髪だったぜ。忍者、あー。与作丸っつったっけ。あのおっさんが手にぶら下げてから、間違いないと思う。あと、ちびの女も居たな。怖えから、遠くの方が様子を見ていたけどよ」

「あんまり、関わりにならない方がいいと思いますよ。変な仕事を頼まれるかもしれませんし」

「あの人らって、何をしてんの?」


 仕事に決まっている。


 アキラは、コーヒーを飲みながらカップを擦っていた。カップが気になるのか。調度品は、良い物を使うようにしている。セリアがよく壊すが。椅子にブランシェが乗って、その上にDDが乗っかっている。暖かいのか。毛玉は、気持ちがいいようだ。動物になりたい。


「普段、ですか。ええ、今だとこっちでは街道の整備をしているみたいですね」

「街道の整備?」

「そうです。何か、おかしいですか」

「いや、だって忍者と盗賊だろ。どっちも、職業がかぶるんじゃねえの。それに街道の整備って、それはどうなんだよ」


 忍者が、情報収集を主にする仕事だからだろうか。アキラは、どうも勘違いをしているようだ。盗賊と言っても、その実態は密偵になっているのである。協力しあわないと、アルに叱られてしまし給料が減ってしまう。何より、仲間同士でぶつかりあうと時間やら手間がかかって仕方がない。面倒なのだ。金が絡まないのなら、彼らだって手を取り合うだろう。縄張りを巡っては、ぶつかる事もあるだろうが。


 今だと―――


「魔物を排除したり、他の盗賊を始末したりする。そうして、通行料を得るのは地元のヤクザにも似ていますね。みかじめ料という名のショバ代でしょう。警備員を雇うような物です。真当な職業なら、警察機構である騎士団が結成されてないといけないんですけどね。この場合、自警団でもいい。それが、まともでないから苦労しているんですけど」

「盗賊を使ってんのか」

「密偵と、名前を変えた方がいいのかもしれませんねえ。世間体が悪いですし」


 すっかり、盗賊らしくない仕事ばかりになっている。カジノを経営するだとか。職業が表の職になってきているので、シルバーナの懐には大金が舞い込んでいるはずだ。与作丸といえば、それはそれで別の職を増やしている。漢方だとか、薬草を使った商売だ。薬草を栽培する特権、利権には錬金術師との絡みがあるので揉めないといいのだがままならないだろう。とかく、金には人も変わる。


 白い角の生えたもこもこが飛び上がった。ぴょんぴょんと。DDが、ブランシェの毛を啄んでいる。引き剥がそうとするが、咥えて放さない。どういうつもりなのだろう。がっ、とひよこを掴む。じぃーっと見ると、


「ぴ、ぴぴっ?」

「は、な、せ」


 いじめをしている自覚ないらしい。困ったモノだ。都合がいいときだけ人語を喋るという。


「それ、どんな生き物なんだよ。魔族なんだよな」

「不思議ですよねえ。この肌触りは、たまりませんよ」

「貸してくれ」

「駄目ですよ」


 もこもこする。クッションには、もってこいだろう。DDは、それに嫉妬しているのか。言葉を喋ろうとしないのは、億劫なのかもしれない。無言でいる時は、大抵が様子を見ている時だ。危なくなると、口を出してくる。


 白くて、丸い生き物を足の上に乗せると暖かい。というか、湯たんぽを乗せた感じだ。


「ケチだなあ」

「ふふん。悔しかったら、これと同じモノを捕まえてくださいよ」

「それ、俺が捕まえてきたんだぜ? 俺のモノと言っても過言じゃねえ」

「うっ」


 仕方なく、手を放すと。アキラが、手で持って行こうとする。しかし、角が突き刺さった。


「いっっって。こいつ」


 どうやら、嫌われたようだ。アキラには、その資格がないのかもしれない。ブランシェは、いただいておくことにする。


「どうですか。譲っては、くれませんか」

「つっても、これレアモンスターっぽいし。あ、借金をチャラにしてくれるならいいぜ」


 借金。チャラにすると、縛りがなくなってしまう。しかし、これをキッツやレンと取引された場合の方が不味い。アキラは、価格調査もしない阿呆のようだ。都合は、いい。そして、内心の笑みを隠しながらアキラに言う。


「良いでしょう。しかし、ネリエルさんの分だけですよ」

「うっ。そうか。まあ、しょうがねえか。チィチの分は、ゆっくり払っていいんだよな」

「ええ」


 アキラは、すぐに支払いたいみたいだ。正直にいって、利子も取っていないし踏み倒される可能性の高い案件なのである。これで、チャラになるなら安い物だ。白いもこもこは、撫でていると幸せな気分になるし。これが、魔族だというのが信じがたい。つぶらな瞳がキラキラとしている。角は、ピカピカと健康そうだ。尻尾の方は、犬のような代物がついている。


 羊のようでもあり、犬のようでもある。なんとも知れない生き物だ。しかも、角が生えている。


「おっしゃあああ! じゃあ、口約束だけど守ってくれよ」

「はい」


 ロメルは、残念そうな風に見ている。なので、視線を送ると。そそくさと仕事に戻った。ここで、バラされては全てがおじゃんだ。早い買い物と支払いほど、愚行な事はない。よくよく考えて、行動するべきなのだ。悪い話ではないし、いざとなれば力に訴える事もできる。そこをバランスよく考えたのかもしれないので、アキラの考えは読めない。


 キッツとアキラが先に出会っていれば、もっと厄介な事になっただろう。


 ロメルは、口を挟みたくて仕方がないのか。ちらちらとアキラの方を伺っている。そうはいかない。こほん、と咳払いをすると。またしても、書類の方へと向き直る。アキラは、食事をガツガツと放り込むように食べる。野菜をきざんで、ドレッシングの類がかけられた物と。ホワイトスープだ。肉は、柔らかい鶏の肉か。鶏を肉にしているのだろう。卵を産んで増え続ける。


 ミッドガルドから、数を増やすべく持ってきているのだ。

 柔らかな感触に、骨が入っていないように加工しているのか。非常に食べやすい。ウォルフガルドの食べ物といえば、非常にワイルドでそのまま肉がついているというか。殺した鶏なり魔物なりが焼かれてでてきているのだ。ちゃんと食べられるようになっているのがありがたい。


 裏口から入ってきたネリエルとチィチが、挟むようにしてアキラの横に座った。


「ん。ユークリウッド様。なぜ、アキラは上機嫌なんだ?」

「本人に聞いてください」 


 白い生き物が、じゅるりと口元から涎を垂らしている。食べたそうだ。肉を口元に持って行くと。口を小さく開けた。入れろ、という事なのだろう。口には、剣山のような歯が付いている。噛まれたら手が無くなってしまいそうだ。


 脳みそまで動物になっているのか、怪しい。


「ほう。それは、どういう生き物だ」

「よくわからんけど、魔族らしいぜ」

「不思議な生き物だな」


 ネリエルが、近くによってくると。毛並みを確かめるように、手を突っ込んだ。どうも、ネリエルも可愛い物は好きのようだ。抱きかかえると、ブランシェは奪われていましまった。まんざらでは、ない風だ。


「大将は、どうやって過ごすんだよ」

「学校に行くと、思います」

「凄い、嫌そうだな」

「楽しんで行ければ、いいんですけどね」


 そうであろうか。そんな顔をしていないはず。


 目的もなく行く学校のなんと空虚な事か。土台、学問というのが役に立つのは殆どないのだ。記憶力の上昇だとか、人間関係の構築だとかそういう物である。本当に、学校へ行く意味を見出すのなら魔術であったり冒険者としての素養を身につけるとかそういった事であろう。科学技術に関する事も、ミッドガルドでは教え出しているので頭が痛い。勉強して、何になるのか。


 今の所、冒険者か或いは領主か。冒険者をしながら、日々を適当に生きていく方がずっと気楽だろう。なんとなく、ユーウの気持ちが分かった気がする。気のせいだろうか。


「友達を増やそうぜ。寂しくないのか?」

「え?」

「まあ、俺がなってやるよ。ぼっちだろうしなあ」


 にやにやとする、アキラが笑顔を浮かべている。殴りたい笑顔だ。

 だというのに。不意に、「友達を作るんだよ」という年老いた老婆の姿が思い浮かび上がる。誰の記憶だろうか。


 爺だ。


 アキラを背に、椅子を立つと。階段を上がる。目の奥からは、郷愁のよすががこぼれ落ちた。


 もう、ずっと昔に死んでしまった。母親の年老いた手を見る度に、後悔して止まない。どうしてもっと言うこと聞いてあげられなかったのか。素直になれなかったのだ。劣等感に苛まれて生きてきたから、失敗ばかりで怒られて、なじられて。故郷に帰るでもなく、生きてきて、1人のまま爺になって。そんなどうしようもない寂寥の思い出。


 そんなものはごめんだ。


 友達は、増やした方がいい。1人生きて行ってはいけない。両親が年老いて、死ぬまでに何をしてあげられたというのだ。爺だったそいつは、後悔してもしきれない業を積み上げてきた。身ぎれいにしなさい。お嫁さんは、まだか。言われれば言われる程に、意固地になって。その内に見つかるだとか、言い訳をしていた。ただの言い訳だ。見つける努力もしていないから、見つかる訳もない。


 もう、どんなに部屋を見ても。

「あら、おはよう」という母親の姿を見つける事などできないというのに。


 ―――肉袋が。

 目に涙が溢れてくる。

 今、またそれを繰り返そうというのか。人生をやり直しているのだから、後悔しないようにしなければならない。最悪の人生とは、後悔する人生なのだから。


 両目を隠すようにして、帽子をかぶると転移門を開いた。



挿絵(By みてみん)

「塩だと! そんな勝手に気がつかない、のか? 密輸は脱税にも絡んでくるからな。万引きするつもりでやるのと同じようでは、困る」

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