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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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124話 魔族出現したのに、死にそう アキラ>ユウタ (アキラ、ユウタ、チィチ、ネリエル、ウィルド)

 黒い影を見て、警戒する。すわ、魔族か。

 魔王が出現したのだ。魔族がやってきてもおかしくない。しかし、出現する場所は? どうやって出現してくるのか。その答えが、目の前にある。

 現れたのは、褐色肌に銀髪の女だ。


 しかし、腕を失ってよろよろと歩いている有り様。魔界からやってきたにしては、疲弊しすぎではないだろうか。警戒しているアキラの前で、その女はゆらりと地面に倒れてしまった。顔面からというよりは、力尽きた感だ。


 背中に生える蝙蝠の羽。漫画等で、見かける羽だ。つやつやとしていただろうに、赤い血が流れている。痙攣しているところからして、死にかかっているようだ。どうして、このような状態になっているのだろうか。迷宮の奥に出てきたという訳か。魔族だけに、どこかの拠点をさっさと制圧しかねないと危惧していたというのに。


 アキラは、


「これ、連れて帰るか」

「そうだな。情報が引き出せるかもしれない。魔族が迷宮の中から現れた等、聞いた事も無いしな」


 事情がわからない。魔族と言っても、外見は人間のそれと一緒だ。目の周りの虹彩が黒かったりしたのは気のせいだろう。腕に止血をするらしい。ユッカが、手から光を出すと。普通に、怪我が治ってしまった。悪魔ではないのか。魔というよりは、人に近い種なのかもしれない。


 2階に降りる階段に、チッチとネリエルが進む。


「少し、様子を見てくる」

「おう。すぐ、帰るぞ」


 仮に、後続がいれば大変なことになってしまう。しかし、女魔族は立派な角としっかりとした服を着ている。服の方は、ぼろぼろだが。ナタリーが、とことこと歩いてきて、


「この人が魔族なのかな」

「多分、そうなんじゃねえのかね。蝙蝠の羽しているし。なんか凄く弱ってるみたいだけど」


 アキラは、そこで思い出した。セリアに付けさせられた首輪の事を。保険ではあるが、外した首輪をそのまま持っていたりするのだ。こういう事があるから人生とは、わからない。皮製だが、しっかりとした首輪で本人では壊せない。というような魔術がかかっているのだとか。しかも、何かの呪いがあるらしく能力の低下をもたらすらしい。


 しっかりとした扱いは、ユークリウッドと相談してから決定する方がいい。

 首輪をつけると、ユッカが背中に女を背負う。体格的には、アキラが背負う方がいいのだが。気絶しているようで、女魔族が目を覚ます様子はない。腕が片方ないのも大変だ。

 

 黒髪を揺らしてネリエルが戻ってくる。


「大変だ。急いで、地上に戻ろう」

「どうした」

「説明は後だ。走るぞ」


 何かよくない事が起きているらしい。アキラは、チィチが走ってくるのを見ながら出口へとかけ出す。地図を頼りに糸をたどっていく。目印は、変えられていないようだ。つけてきているパーティーもいないのはついていた。迷宮に潜ると、食料がなくなる冒険者もいるらしい。食料を自給するためにウルフを食材にするパーティーもいるのだとか。


 そんなことを思い描いて、ネリエルに問おうと後ろを見ると。黒い人型が、見えた。


「まさか。ブラックイーター?」

「違う。もっとやばい何かだ。走れ!」


 鑑定スキルを使いたかった。しかし、そんな暇もないようだ。

 ネリエルが走りだしたのに釣られて、全員が走りだす。ユッカは、背中に魔族を背負っているが苦にしていない様子だ。見た目通りの頑強さ。


(あれは……なんだ?)


 考えると、ブラックイーターが浮かび上がる。牛の迷宮でであったそれは、奇怪な魔物だった。

 背後の生物は、一体なんであろうか。


 無言で後ろから追ってくる相手に、前方に現れる魔物を相手どる暇もない。スケルトンを突き飛ばしてやり過ごし、ウルフを蹴飛ばしながら走った。骨だけで動いているスケルトンは、後ろから追ってくる人影に飲まれた。走るしかない。ひたすら。出口に至るまでに、どれだけあるのか。チィチが、先頭を進む。足は速いようだ。逃げ足だけれども。


 どれだけ走ったのか。出口までに冒険者には、出くわさなかった。入り口には監視する冒険者がいない。管理を冒険者ギルドがやっていないのか。たまたま、いないのか。餓狼饗宴には配置されていないのかもしれない。もしくは、クラブ討伐に人員を取られたか。手を貸してくれる獣人も見当たらない。

 

 心底、疲れた。


「はあっ。はあっ、ありゃ、なんなんだっ」

「私に聞かれてもわかるわけがない。今までに見たことがない魔物は、すぐに逃げるべき。鉄則だぞ」

「だよなー」


 対処の仕方を知らなければ、死んでしまうのがこの世界だ。ゲームのように攻撃を無効化してくれるだとか、味方に攻撃が当たらないだとかいうイージーゲームであれば良かったのに。初見殺しの魔物っぽいのからは逃げるのは普通だ。でなければ、生き残れるはずもない。


 やっと、逃げ切った。そう思った瞬間だ。

 ガキィンと音がする。金属の音だ。


「何をしている!」


 終わりではなかったのか。

 ネリエルが、黒い影からの攻撃を受け止めた。やばい。背筋が寒くなった。


「おりゃあ」


 援護するように、剣を袈裟に斬りかかる。黒い影は、人よりも大きく熊のように両手が太い。スピードは、どうなのか。どうしたら倒せるのかわからないが、火の玉が直撃する。ファイアーボールだ。闇属性の魔物なら、効いておかしくない。しかし、その黒い影は何事もなかったかのようにユッカに向かって直進した。


 斬る。

 しかし、受け止められる。黒い影は、噛み付こうとしてきた。まるで、ワーウルフのような生体だ。やはり、ブラックイーターが寄生したタイプなのだろうか。ネリエルとチィチが立ちふさがるように、後衛との距離を作っている。狙いは、何なのか。迷宮から魔物が出てきている。おかしい。こんな事は、あり得るのだろうか。アキラには、何が起きているのか理解できない。


 ガッと。

 金属音が木霊する。ネリエルは、黒い影に応戦している。チィチも横にならんで黒い影に攻撃を加えるようだ。クリーンヒットしているというのに、黒い影には、傷1つ入らない。これは、ピンチだ。どこまでも追ってくるのか。わからないが、ユッカに逃げてもらうべきだ。背には女魔族が乗っている。狙いは、女魔族なのか何なのか。それで判明するだろう。


「ユッカさん。その子と逃げて!」


 ナタリーは、援護する手段を考えているのか。と、光がネリエルとチィチに飛ぶ。ブースト系の魔術であろうか。味方に当たる攻撃魔術を使えないので、切り替えたのだろう。ユッカが頷いて、走りだした。

敵を何とかして倒さないといけない。超常のスピードでないのが幸いだ。しかし、敵の攻撃は熾烈でそれを受けているので精一杯だ。


 相手が相打ち覚悟で、こられればアキラたちは無傷では居られないだろう。


「今だ!」


 ネリエルが叫ぶと、黒い影の腕が落ちた。しかし、


「なっ」


 再生するように落ちた腕と本体がくっつく。異常だ。このような魔物に出会った事がない。ウォルフガングよりは、弱いけれどえたいの知れない不気味さがある。侮ってはいけないが、時間もない。すぐに追いかけなれけば、何が起きるのかわからない世界だ。安全に逃げ切ってくれればいいのだが。三人で取り囲む。


 剣にスキルを使用する。毒を付与して、斬りつけるのだ。しかし、毒が効いた風ではない。というよりも傷から血が出ていない。魔物なのかというのも怪しくなってきた。スケルトンと同じ不死系統の魔物なのだろうか。ユークリウッドのように丸焼きにできる魔術が使えるのなら、それがいいのかもしれない。生憎とその魔術を持っていないのだが。


「下がってください」


 と、後ろから声がする。ナタリーか。洞窟の入り口といった迷宮前には、木がそこかしこにある。火の魔術を使うにも、入り口付近で使えば火事になるだろう。煙に撒かれて死ぬのはごめん被りたいが。黒い影と距離を開ける。乾坤一擲と、ナタリーの攻撃が飛来する。巨大な、火の玉だ。ファイアよりも大きい。メガファイアという奴であろうか。それが、黒い影に直撃すると。


 火の達磨になった。黒いのに、赤く燃えているという。しかし、敵の動きが止まらない。どういう事か。相手は、火を纏ったまま襲いかかってくる。逆に不利になった。火を帯びているので、熱で火傷してしまう。それくらいに熱風が吹き付けてくる。影だけに、火が弱点だと思ったのは錯覚だったのだろうか。斬っても、即座に再生するのできりがない。


 次には、光が影に吸い込まれた。しかし、倒れる様子はない。


「これは、正念場だな」

「ああ」


 連携して防いでいるが、その内に疲れで動きが鈍ってくる。アキラたちの方が、だ。目の前の相手は、疲れを知らず怪我を気にする風でもない。ただ、応戦しているのかそういった風にも見えてくる。生き物なら、疲れを待って狩りができるのだが。【鑑定】を使っても《アンノウン》と表示される始末。知らない相手の弱点を知って、逆転できるかと思ったのだが。


 斬っても斬って、手応えのない。スライムというには、堅いのだけれど。倒せない相手に、ネリエルも焦りを感じているようだ。少なくとも、地下3階までに出てくるような敵ではない。ワーウルフとかツーヘッド・ウルフとかの方がまだやりがいがある。対する、この敵は未知の生物だ。火が効かないとは、想定外すぎる。


 何度目の攻撃を受けたのか。攻撃したのか。それすらもわからなくなってきた。チィチが、よろめいてそのカバーに入ると。


「どーも。アキラさん。苦戦されているようですね」

「その声。大将か! 助かった」

「助かったじゃないですよ。それくらい、普通に倒せないでどうするんですか。勉強不足でしょう」


 安堵したと思ったら、叱られる始末。だが、これで助かったという思いで一杯だ。

 




 田植えを終えて、ウィルドと価格交渉をしている時だ。ユッカが、白面を汗まみれにしてやってきたのは。夕暮れも近いというのに、帰って来ないアキラを心配していたのはあった。


「どうしたんです?」

「大変。変な魔物が、出てきて! 大変なのよ」


 どう大変なのか。わからないが、背負っているのは角の生えたサキュバスじみた女魔人か。尻尾は、生えていないようだ。腕が、ない。首輪をしているところ見るに、アキラが機転を聞かせたのだろう。アキラにしては、気が利く。プラスポイントだ。


「案内してください」

「付いてきてっ」


 ウィルドが、一緒に走りだす。


「?」

「私も行こう。魔族となれば、世界の敵だからな」

「そうなんですか?」

「そうだ。邪悪にして、人類の敵。それが魔族という奴だ」


 ユウタには、理解しがたい。見た目は、人間と一緒ではないか。邪悪といえば、人間に優る者がいるだろうか。人間ほどに、狡猾かつ、狡知に満ちた存在を知らないが。ウィルドは、普段着のまま走りだすと。黄金の光を放った。魔装の技が使えるようだ。魔力で変身するといえばわかりやすいだろうか。


「いいんですか? 協力しても」

「ふん。今、この時だけだ。魔族の跳梁は、見過ごせん。あれが、魔族なら貴様がどうするのか。興味もあるしな」


 ウィルドの思惑は、どうなのか。敵に協力しようというのだ。罠に嵌めようとするつもりなのかわからない。しかし、手伝ってくれるならなんだって使うのが主義だ。猫の手だって借りたい。しかし、ウィルドの足は常人のそれと大して変わらなかった。置いてきぼりにして、進んだ先にはネリエルと一緒になって戦っているアキラの姿がある。


 敵は、黒い影。キラーウルフだろう。

 餓狼饗宴は、これまた地下が底知れない数ある。潜っていくのも面倒なくらいに。攻略してもいいのだが、底には迷宮の主がいるはず。魔族が、そこに出現しているのか。それがたまたまなのかわからないけれども。


 火が付いているので、「ウォーターボール!」水で消火だ。


 これは、火がついていては逆に倒せなくなる。如何にも、火が効きそうに見えるのから。


 騙されてはいけない。ゲームっぽく闇の属性持ちで、強力な再生能力が売りだ。単体で現れるのは稀。餓狼饗宴では、10層を超えたあたりででてくる強力な魔物の部類だ。レベルで、簡単に倒せるというよりは弱点に気がついているかどうか。であろう。ユウタは、さっと手に光を灯す。


 使うのは、


「ホーリーライト!」


 言霊を乗せれば、さらに強力になる魔術だ。スキルにも登録されている。これがなければ、アンデット系は倒せなかったりするのだ。アキラは、ぽかんとした表情を浮かべていた。


 ―――呆けすぎだ。


 消えてしまった。魔物の姿は、どこにもない。打撃で対応した場合、倒すのが難しい相手ではある。聖別された武器でもいい。倒すのなら、治癒術師クラスの術が必要だろう。レベルは35程度がいる。ナタリーは、悔しそうにユウタの方を見ていた。気が付かなかったようだ。生身のそれに見えたのだろうか。それとも魔術で攻めていたのかもしれない。


 魔を持ちあわせていて、ホーリーライトのスキルが弱いと効いていないように見えるのも嫌らしいが。


「大将。さすがだな」

「いえ。その、なんで苦戦しているのか。ちゃんと、準備はしましたか? 狼ばかりだといって、どうせ火の武器だけとか道具だけ、とか。魔術もそういう風に使うのを決めていると、やられますよ?」

「けど、効いてなかったよ。あれ、私もホーリーライトをぶつけたんだけど」

「さっき、火がついてましたよね」


 すると、ナタリーは口元に手を当てた。気がついたのだろうか。


「もしかして、火が付いていると倒せなくなるタイプの魔物だったか?」


 正解だ。普通に属性だとか容姿を見ると、火が効きそうだ。思い込みだ。容姿が罠なのである。黒いし、なんか火が良さそう。そうやって騙される。もしくは、飲まれてしまうか。近寄っては、危険な相手だ。魔力を帯びた武器で相手をしていないと、身体を液状化させて襲ってくるという。ブラックイーターと変わらない能力がある。違うのは、増えないというところか。火が効かないという部分では、真逆の性質を持つ。


「そうですよ。なので、さっさと逃げ出したのは正解でしたね」

「た、助かった」


 アキラは、そのままへたりこんでしまった。緊張しているのだろう。遅れて、ウィルドが走ってくる。


「むうう! 間に合わなかったとは……足が速すぎるぞ」

「どうですか。殿下、アキラさんと一緒に修行をしてみませんか。その調子では、お、僕に勝つのは千年先になってしまうかもしれませんよ?」

「むぐっ。……いいだろう。しかし、私が勝ったなら帝国に来てもらうぞ!」

「いいでしょう」


 勝つ日など、来ない。ウィルドが、どれだけ強くなるのか楽しみではあるけれど。アキラが、座ったままいう。


「よーし、風呂でも入るか」

「ほう。私も入ろうかな」

「いえ、殿下には、特注の風呂場を用意させてあります。お帰りになって、入られますよう」

「そうかそうか。代金の一部にしておくといい」


 危ない。アキラの毒牙にウィルドがかかってしまいかねない。そんな心配が、ある。アキラだと、皇子だとかそんな事をお構いなしに食ってしまいそうだからだ。さらに、ハゲが進行しそうなのか。アキラは前髪ばかり弄っている。


 ちなみに、キラーウルフ。セリアは、殴って倒した。常識を無視するので、要注意だ。

挿絵(By みてみん)

「おかしい! なあ、おかしいだろ! 子供時代の萌えイベントが尽くハゲイベントになっているぞ! あま~い思い出が殆ど出てこない! おかし、い」

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