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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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112話 秘密の研究所 (ユウタ、セリア、エリアス、DD、謎の男)

 騎士が包囲している。鈍色の甲冑をつけたミッドガルド人たちだ。

 ロシナがいうには、忍者たちが調べたという。配下の者が潜入するのに、少なくない人間が犠牲になっているとも。地平線に消える太陽が、まるで血の色をしている。


「セリア。やれる?」

「ふっ。誰に物を言ってるんだ」


 銀髪の耳を震わせて幼女は、両の拳を合わせた。秘密といっても、知られたからには秘密ではない。その研究所は、肉塊と関係があるらしい。調査が必要だ。場合によっては、研究者たちを根こそぎ捕まえる必要がある。


「殺しちゃだめだよ」

「む。それは、どうだろうな。相手の出方次第だ」


 ミッドガルドの兵を差し置いてユウタは、研究所に忍び寄る。相手は、全く気がついていない。包囲されているのに気がつかないのは、距離があるためなのだろう。それとも、気が付かれないと高をくくっているのか。後ろにいるのは、エリアスだ。仲良く潜入である。


「(兵士は、殺してスライムに食わせていいのよね)」

「(そうだね。相手に気が付かれるといけないからね)」


 念話で会話する。アルトリウスは、ロシナとお留守番だ。フィナルも着いてきたがったが、同様にお留守番である。何かが起きてしまっては、問題なのだ。仮に、セリアやエリアスなら隠れるどころか反撃できる。研究所に強者がいれば、空間転移なりで逃げられるし。安全牌だ。ティアンナがいればよかったのだが、残念な事に彼女はお仕事なのかハイデルベルクから来ていない。


 歩哨に立っていた兵士は、食われて中身と外見がスライムに入れ替わっている。なんという外道な魔術。エリアスは、その容姿に似つかわしくない術を多用する。入り口から普通に入って、警備の兵を一気にスライムで飲み込むという。水系の魔導生物。飲まれれば、容姿はおろか行動までコピーできてしまう。敵にはしたくない相手だ。


 入り口の兵を始末した後で、


「(下か? 上から調べるか? どっちにする)」


 上には、結界で隠された構造物が立っている。が、大抵は地下に秘密が隠されているものだ。探られて困るような代物を隠すのは。


「(地下にしよう)」

「(いいけど。罠だと、対応できる?)」

「(その時は、転移するしかないね。退路を確保しとくかい)」

「(じゃあ、私が退路を確保しとくから潜ってきて)


 入り口から上を押さえようというのだろう。エリアスの袖から、水が溢れだした。しかし、それは決してエリアスを濡らすことがない。魔力を帯びた生物のような代物だ。違うのは、エリアスの意のままに動くというところか。魔力で繋がっているが、しかして切り離す事も自由自在。これを倒すのは、火力でどうにかしなければならない。


 胸元のDDがひょいっと頭に乗った。


「(中は、綺麗だな)」

「(そりゃね。さあ、所長を捕まえられるかな?)」

「(研究材料をどうしているのか。が、気になる)」

「(そっちだね)」


 証拠を固めるとか。もはや、どうでもいいのか。セリアは、先を急いでいるようだ。背後で、爆発する音がする。エリアスが、戦闘に突入したという訳か。ユウタも先を急がなければならない。敵が、通路にでてくると。セリアが飛び出す。折角のスキルが台無しだ。鈍色の鎧を纏った兵士が、セリアに向けて剣を振り下ろす。


 が、敵は爆発したかのように弾けた。


「(こら、ちょっと)」

「(皆殺しだ)」


 セリアには手加減する気が全くない。人の話を聞かない子なのだ。言ってきくなら、ユウタも安心なのだがそうでないから困る。敵兵は、怯んだ様子が伺えない。問答無用で、矢を放ってくる。魔術がセリアに迫ると。


「ふっ」


 火炎がセリアに命中するかと思われた。が、そのまま手で受けて握りしめる。矢も同じだ。雨のように降り注ぐ。ユウタも黙って見ていない。同じように電撃を打ち返し、矢を払う。面倒になってきた。


「やはり、こそこそするのは性にあわない。全部、ぶち壊す」

「ふう。結局、そうなるんだね」


 手を少女が握りしめる。ずずん。と、セリアの拳が鋼鉄製の壁にめり込むと。


「ふんっ」


 まるで、紙切れのように引き裂かれる。中の配線だとかお構いなしだ。そして、殴り始めた。拳で、研究所が揺れ始める。ユウタは、両の手で火線をつくる。そして、それを外の壁に向かって放つ。じわじわと削れて、穴が開いていく。敵は、沈黙した。死んだのか。それともセリアの行動に気をとられたのか。通路から壁に入りこんだセリアを無視して、ユウタに攻撃が飛来する。


 なので、土壁を出す。


「水弾を撃てる奴はっ」


 大声だ。壁から出ると、火線をお見舞いする。ちょうど水の玉が飛んでくるところだった。そのまま、火の線が水の玉に直撃した。研究所の兵士には、降伏する気はないのだろうか。セリアは、そのまま壁を破壊しながら上の方へと移動していく。すっかり身体が見えない。そして、入り口からは爆音と振動が伝わってくる。エリアスと戦闘がまだ続いているようだ。


「敵は、1人だ。突撃せよ!」


 指揮官らしい男の声が聞こえる。手加減しているせいか。火線を受けても生きているようだ。開いても土壁を作っているのが見える。ユウタは、DDを掴むと放り投げる。


「(ぴっ?)」

「(ぴっ、じゃねえ。働けよ。たまには)」

「(らじゃーだよ)」


 ひよこが飛ぶ。

 放物線を描いて、飛来した生物に攻撃がいっている間にユウタは再度透明化するスキル隠れると移動スキルの壁歩きを使う。相手は、飛来した生物に手こずっているようだ。小さいだけに攻撃が当たらない、という。地味に面積が狭く、小さいひよこに噛み付かれるとダメージになる。見た目は、ひよこなので容易いと思えば足を掬われるだろう。


「ぎゃあああ! こいつっ。ひよこ?」


 当たらないのだ。矢で狙うにも、ひよこは燕よりもずっと速い。火網を使うといい。すると、相手は心を読んだようにそのような技を繰り出してきた。DDは、すっと避けた。昆虫とか鳥とか魔物と違って、脳みそが存在するためだろう。おちょくるようにダンスを踊りだしたのが小憎らしい。


 壁を破壊する音が一際鳴る。


「今だよ!」

「なっ」


 しゃべった? と言いたかったのだろうか。男の1人に蹴りを見舞う。手加減無しの一撃で、宙に浮く。そのまま飛び上がりながら回し蹴り。蹴った反動で、次の獲物に飛びかかる。膝で顔面を破壊する。魔術士のようだ。杖を持ったままの姿勢で、床を滑る。指揮官らしき男に、視線を向けるや。渾身の肘を決める。


 肘を突き出す格好だ。男の鎧が弾けて、肉体が豆腐のように爆ぜる。斬りかかってくる男が、いる。背後を振り返るように、剣を避けて腹にボディーブローだ。鎧を着た男は、苦悶の表情とともにくの字で吹っ飛ぶ。少し手加減するが、また壁に死体が出来上がった。


「ひっ」


 指揮官を失ったのもある。敵集団が及び腰だ。冒険者に見える。獣人の国出身ではないように見えた。つまるところ、ミッドガルドかハイデルベルクかそれとも帝国か。情報が少ないまま攻撃を開始したが、セリアをなだめられなかったからだ。仕方がないのだ。生きたまま捕らえるか。手に電撃を宿すと。震え上がって、腰が抜けている男たちにタッチしていく。


 全員、泡を吹いてたおれた。殺しては、事情も聞けない。生きて研究所を出られればの話だが。入り口の方では、爆発音から怒号が飛び交うようになっている。騎士団が突撃を開始したのかもしれない。時間は、そう経っていないはずだが。同時に突撃したのかもしれない。


 地下の入り口を探す必要がある。研究施設は、一体なんのために建てられたのか。口を割らせる時間が惜しい。始まってしまったからには、止まっていられないのだ。生き残りから事情を聞き出すので、問題ないとも思われる。DDが、肩に止まる。


「ひどいなあ。急すぎるよ」

「どうせ、楽しようと思ってただろ」

「ボクを使おうだなんて、君くらいだよね。ホント、困る人だよ。あ、地下の入り口が知りたいのかい」

「知っているのか。DD」


 すると、先を指し示した。通路の先に進んでいく。隠れる(ハイディング)を使って。通路には、扉が付いている。敵が現れた場所には、誰もいない。その先に進む。一本道の通路には、出てきた後の部屋しかない。DDが指すのはもっと先か。ユウタの脳内では、研究所の左側に進んでいる。入口には、エリアスが陣取っている。


 セリアは、中央側に向かって進んだのだ。このままでは、壁に差し掛かるのではないか。ユウタは、インベントリから靴を出して履き替える。地面と同じ白だ。これならばハイディングでの影がわかりにくい。敵は、また集団を作っている。歩いているユウタに気がついていないようだ。なので、壁を歩いてやり過ごすと。背後から、問答無用で火線を撃つ。


 ぶすぶすと肉が焼ける音がする。手加減した火線だが、至近距離から撃ったためか。数発で、相手集団は沈黙した。火だるまになった人間もいたので、悲惨な死に方をしている。うめき声を後に立ち去ると。


「(君もずいぶんと手慣れてきたね。ボクとしては、この調子で頑張って欲しいけどね)」

「(仕方がない。敵は、敵だからな)」


 敵だ。所詮は。

 ひよこに言っても、仕方がないこと。とはいえ、人間を殺しているのだ。きっと地獄に行くことだろう。こればかりは逃れようがない。いつかは、誰かに敗れて、土くれになるのだ。DDは、扉の1つを指し示した。戦闘が合った場所から、ずいぶんと離れた場所だ。警備員がいた場所から、かなり離れている。


「(ここか?)」

「(そうだねえ。ふふっ。人間が、悪魔だって言われている理由がよく分かると思うけど。さて、ユウタは耐えられるかな)」


 扉を空けて、地下へのエレベーターらしき物を発見した。しかし、動かない。動かせないのが、正解か。モニターの下にはキーがある。それを叩かなければならないようだ。無理なような。キーを前に歯噛みする。


「(こいつ。暗号化とか使ってやがる)」

「(ふふふ。任せてよ)」


 DDがモニター前でダンスをしだす。すると、動きだした。


「(何をした?)」

「(ふふっ。ボクにかかれば朝飯前さ。さあ、人間ってやつを見ようじゃないか。人は、本当に助けるに値するのかって事をさ)」


 動かせないので、床を破壊して進もうと思っていたら。DDが意外に、使える。エレベーターと思しき物は下へ下へと下降しているようだ。何階下ったのか。表示は、地下20階とでている。研究所は、相当な厳重さで作られたようだ。そして、出た場所は、通路だ。薄暗い。床にぼんやりとした明かりがついている。

 

 鋼鉄製の壁で、つるつるしている。このような研究所があるとは。ユウタは知らなかった。そして、左に移動していく。


「(勘って侮れないねえ。なんで、正解に行き着くのか。人間の神秘ってやつなのかなあ)」

「(知ってるなら、教えろよ)」


 DDは、知っているようだ。教えるつもりはあったのか。間違えそうなら、言うとかそういうつもりなのかもしれない。仮に間違っていても、このひよこには問題なさげである。扉に行き当たった。そして、またしても開かない。ひよこが、カードリーダーと思われる部分に羽を突っ込んだ。すると、


 ぶーんという音がして、扉が開く。前に進んで中へと入ると。


「おや? どなたかな。無粋なお客を招いたつもりはないが」


 しわがれて、疲れの貯まった声がする。ハイディングを保ったまま培養槽を壁に移動していく。培養液の中には、人が入っている。怖い。声がするのは、1人。気配も1人だ。となると、この研究所の大物と言えるかもしれない。


「ふむ。隠れているのだね。大した腕前だ。私の目をすり抜けて、移動しているとは、な。だがっ!」


 電撃だ。ユウタは、それに当たらないように壁に移動した。壁を伝って移動する。


「くっ。まさか、こんな場所で出会うとは。神が、導いたという事か。なあ、愛しき人よ」


 男だ。男は、白衣を着ている。その下は、鍛えあげられた身体をしていた。何も来ていない。変態だ。かろうじて、下着は着ているが。髪は、金。頬がこけて目の下には隈ができている。


「君の子供が、ここに着た。これも、運命さ。捕らえて、実験に協力してもらおうね。君の子供だ。きっと協力してくれるはずさ」


 培養槽には、少年、少女、老若男女の獣人が入れられているのだ。それの1つ。そこに少女が丸まっている。それに話かけているようだ。そして、相手の手のひらから来る電撃。ユウタは電撃に合わせて、雷光剣を出す。敵の攻撃を利用するのだ。電撃を吸収して、剣身が伸びる。ぐんぐんと、伸ばして男に迫ると。


「きひっ。おやおや、反抗的だねえ。僕が躾けなくっちゃいけないね。ねえ、アンナ。見ててよ」


 男は、電撃を剣にしてユウタの雷光剣を受ける。もっと威力を上げることも可能だが、周りの培養槽に入った獣人たちが死んでしまう。そして、滑るようにして移動してくる。速い。移動しながら、電撃だ。魔術士か。魔術師なのかもしれない。電撃の威力は、ウィルドかそれ以上。男の目は、濁っているようでユウタを何かに見ている。


 気持ちが悪い。


「きぃみぃをおおおお」


 男の電撃は、止まない。放たれる電撃をすべて受け止める必要があった。獣人を殺させるわけにはいかないからだ。


「欲しい! 君のその力。ぜひとも欲しい。アンナを返せ、アンナを返せよおおおおお!」


 火球だ。両の手には、火球が握られている。飛び上がりながら、それをユウタに向かって叩きつけるように投げつけた。それをアイスランスで貫く。煙がもうもうと立ち上がる。男が飛び込んでくる。針金のように鋭い蹴りだ。足を払うように仕掛けられた。躱して、顔面を狙う。腕で受け止められた。そのまま握ろうとするので、空中から踵を落とす。


「けぇえええ!」


 怪鳥のような声を上げる。横に回ろうとする。後ろに回ろうというのか。それを落とした足、そのままに後ろで捉えた。男の身体が壁に叩きつけられる。手応えがない。羽毛のようだ。拳士としての才覚があるという事らしい。続けざまに、氷の柱が降り注ぐ。まるで、逃げるかのようだ。氷の柱を拳で砕き、飛来する火の玉を蹴り飛ばす。男と位置が変わっている。


 不味い。


「くふっ。なんという事だ。君は、まるでアンナの生き写しだ。そうだ、そうだ。その魂をアンナとすり替えよう。きっと彼女はよろ、よろ、よろおおおおおおお。こばない? いや、そんなはずは」


 相手もまた雷撃を放っている。だというのに、同様に受け止めている。なぜ。なぜ、相手はユウタの電撃を受け止められるのか。


「ああ。愛しい君のためだ。すべては、君のためなんだ。わかっておくれよアンナ。君の息子は、手強い。ここは、譲ろう。きっと、君を蘇らせてみせるさ。この愛にかけて!」


 狂っている。男は、狂っているようだ。足をかくかくと動かし、器用に火線を避けて見せる。避けられる者がいるとは。セリアかアルくらいのものだというのに。光の速度といっても過言ではないそれを、よけているのだから。恐ろしい。魔力がほどばしる線が見えているのならわかる。或いは、人間を辞めているのかもしれない。己のように。鎧へと。


 男は、


「ふふ。君の子は、何も喋らないんだね。ああ。この思い。きっと天上の神々も笑覧しているだろうさ。それでも、求めてやまないんだ。君の笑顔を、もう一度。みたいんだ」


 どばどばと涙を流しながら、転移門に飛び込む。間髪を入れず、雷光剣で薙ぐ。が、門が爆発しただけだ。死んだか。こいういう場合は、生きていると思った方がいい。ユウタは、培養槽の女を見てそれを正視しえない。


(まるで、シャルロッテのようだ)


 危険な人物だ。すぐにでも殺すべきだろう。獣人がいなければ、逃さなかったのに。と、言い訳するしかなかった。まさか、電撃を避ける人間に出会うなど。押していたが、わからない。


(くそっ。まさか)


 女が、邪魔で逃がす事になろうとは。

 


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