111話 アキラの事情55 (アキラ、ロシナ、山田、アル、ユウタ、マール)
(毒スキルは、使い道があるな。けど、食い物が駄目になるし。持ち運びできるから、素材の回収に使えるスキルだけど。獣毛とか爪とか。獣毛は、毛深くなるだけで、爪なんて爪が伸びて硬くなるだけやんか)
色々と、得たスキルを試す。アキラの能力は、増えているけれど強くなった実感がない。普通は、あっさりと強烈な能力で周囲を圧倒するのだ。しかい、アキラの能力はスキルとステータスの他にジョブにも縛られている。魔術を全属性が使えるといっても、魔力が足りない。魔術には、素養というか適正らしい物があるのだ。
(得意なのは、得意なんだけどなあ)
スキルも魔術も得意な物は、上手く使えるが反面苦手にしているのが駄目だった。アキラは、昼飯を食いながら今日の戦略を練る。毒は、優秀なスキルだった。鱗は微妙すぎたが。毒を主軸に、戦闘を重ねるのもいいだろう。飯は、炒飯だ。ぱりぱりとした歯ごたえと米がいい感じである。野菜が少々と物足りない。
「美味い。これは、すごく上手になったな」
「えへへ。ありがとうございます」
マールがお盆を持ったまま返事をする。ネリエルは、外に買い出しにいった。ナタリーは、クランに戻っている。今日は、仕事を一緒にできないかもしれない。治癒術士と魔術士を両方持つナタリーは、欠かせない戦力だ。アキラは、冒険者を上げるかというと。
(マールは、今日もかわいいな。冒険者のスキルを上げて、アイテムボックスが取れるかというと……取れねえときた。パーティー組むスキルが付いているだけの職っぽい。つか、地図作成とかいうスキルが取れてもなあ)
冒険者の職には、パーティーを組む。部隊編成なるスキルがある。ただ、スキルで組むだけだ。特に恩恵があるかといえば、取得経験値が上昇するとかいう。細かい数値がどうなっているのかは、検証する必要があるだろう。スキルの熟練度によって、経験値の取得量が変わってくるとか。ジョブが上になればなるほどメインの職に持ってきてもいいかもしれない。
(うーん。ガイドブックを読むと、スキルがほとんどないから冒険者をメインにしているのは少ないみたいだけど。どうなんだろうな)
マールがお茶を出してくれた。コップは、木製のコップだ。少し、気になる。受付の方には、ロメルがいて書類を整理しているようだ。女の子が増えている。どうやら、手伝いを雇ったというところだろう。飯を喉に送ると。ドアが静かに開いた。入ってきたのは、ネリエルではなくて見知らぬ赤い鎧を着た少年だ。まだ、中学1年か小学生くらいだろう。
その後から、いかにもオタクといったメガネの青年が入ってくる。
「ユークリウッド、いる?」
「これは、アインゲラー卿とヤマダ様。ユークリウッド様は、まだ見てませんが。何かご用ですか」
「ん、と。ちょっと気になる事があってさ。相談とかねえ、しねえと。あれはやばい。ああ、中で待たせて貰ってもいいですか」
嫌な予感がする。アキラの予感は、大体当たるし最近ついていないのでどっかに行って欲しいのが本音だった。アインゲラーと聞いて、顔を見ると非常に整った顔をしているので癪に触る。ふさふさの髪の毛と瑞々しい肌も嫉妬の対象だ。成長すれば、末は大臣か将軍か。美形で騎士団員とくれば、出世コースも間違いないだろう。
それで、がつがつと勢い良く飯を口に運んでいると。
「おほっ。日本人くさいでござる。ロシナ殿、彼、日本人じゃないですかねえ」
ぽっちゃりとした体型に、2重あご。長袖で簡素なズボン。角刈りに鉢巻きをした青年がいう。
「……伊藤、彰さん?」
「そうですが」
「ほっほー。大当たりですぞ。拙者、山田。初めまして、そして、よろしくでござる。あ、こちらがロシナ殿。ミッドガルドの貴族で赤騎士団の万騎長でござる。偉いんですぞ。で、結構、フレンドリーなので仲良くしているととってもいいと思うでござりますよ」
言いようが変だ。この山田という人間。暑くもないのに汗をかいている。そして、どういうわけなのか事態が飲み込めない。
「彰さんは、日本人なんですよね」
「そうですけど」
「じゃあ、あの報告書は本当の事なんですかね。強奪スキルを持っているとかいうの」
ああ、とアキラは思った。調査なのだろうか。探りを入れにきたように思える。それが面白く無い。
「持ってますけど、人間からは絶対に取らないようにっていう約束がありますから」
「どうなんです? 本当は、盗ってるでしょ」
アキラは、衝撃を受けた。まるで、盗人を疑う警官のようだ。怒るべきところだが、怒ればどうなるのか。斬られかねない。慎重に行動する必要がある。
「そんな事は、ありません」
「俺はーーー信用してません。ユークリウッドみたいに、後からどうにかすればいいや。みたいに甘い考えは、ない。あんたが、怪しい事をしているようなら消すべきだと思っている」
「ひぇえ。それは、勘弁して欲しいでござるよ。折角、出会った日本人同士でござります。ほら、和を持って尊しとすべしって偉い人も言ってるでござる。ええと、ノブレスなんたらに誓って対応すべきではないかと」
アキラを見るロシナは、一撃で仕留めようとするかのような。そんな気配がする。アキラはやるつもりもないのに。かかる火の粉は、振り払う必要があるだろう。立ち上がると、ロシナを見下ろす。
「止めろ、アキラ」
「ロメル?」
意外な人物が割って入る。燕尾服を着た獣人は、熊耳を左右に動かしながらいう。ちょっと可愛い。
「どういうつもりだ」
「アインゲラー卿がお心を砕くのもわかります。しかし、今やアキラはユークリウッド様の家臣。それに難癖をつけるようなやり方は、後で後悔するような事になると私めは思います。アキラの行動ですが、ユークリウッド様が全責任を取るとアル王子に約束しているそうなのです。なので、ユークリウッド様の顔を潰すような真似は避けられた方が賢明かと存じますが……」
ロシナは、立ち上がった格好からふーっと息を吐く。そして、椅子に腰掛けた。
「そうだな。そういや、そうだ。あいつが、見逃すはずないもんな。つい、思い込みで言ってしまった。失言、すまない」
「いえ、こちらこそ。やっぱ、疑われますかね」
おろおろしていたマールが慌てて茶を2つ出す。
「そりゃあそうだろ。スキルが取れるんだぜ? 歩いているだけで、おっかねえだろ。誰でも好きな様に取れるってようになったら、すぐに殺すべきだし。ステータスカードと鑑定からは逃れられねえから、どこ行っても見つけ次第処刑だ。と、思っている。そのくらいにやばいんだぜ? あんたのスキルは」
「……いうべき言葉が見つからねえ。やっぱ、間違えたかなあ」
すると、山田がお茶を手にとって。
「スキルを取れるんでござるか? 凄いでござるねえ。拙者らには関係ない話なので、なんとも。あ、ちなみに拙者はスキルもレベルもないでござる。なんとも裏山な話で、ちょっとそのスキルとレベルを分けて欲しいでござるよ」
「え?」
スキルとレベルがないとは。アキラは、まじまじと山田を見る。嘘を言っているのではないか。しかし、のほほんとした様子だ。お茶を飲もうとして、熱いのか。そのまま口を少しつけて、コップをテーブルに置いた。
「驚かれても、困るでござる。拙者なんて、ステータスはないしスキルもないけれど異世界で頑張ってるでござる。日本にも帰れないし、こっちで身を埋める覚悟は完了しているでござる。あ、嫁は3人いるでござる。養うのが大変で、生活費を稼ごうと毎日が忙しいでござる。あーその彰くんがいいのなら、ウチの会社に入って警備部門で働くのもいいでござるよ。ほら、冒険とかなんとか危ないでしょ。でも憧れるのはわかるでござるから、にんともかんとも。こればっかりは、本人の意思次第でござるなあ」
長い! 山田は、なかなかの闊達舌をしている。マールの持ってきたお茶が冷めてしまいそうだ。それで、毒を抜かれたのか。ロシナは、いう。
「ま、こういう風な日本人もいるんで悪いようにしたくないってのもわかるけど。俺、日本人は好きじゃないんでね」
「ええ? でも、ロシナ殿は拙者とフィギュアの話で盛り上がったではござりませんか! あれは、嘘だったのでござるかあっ。拙者は、今、非常に悲しいでござる。あ、厩舎を手抜き工事してしまうような気がするでござる。ああ、配管工事が遅れてしまうかも。溜池の造成に下水処理施設は、ロシナ殿のいじめで完成が5年先に、なる、かもしれないでござるよ。ふぁっ」
アキラは、ロシナと山田に視線を右往左往する。ロシナは背伸びした子供にしか見えないし。山田は、どこからどう見てもオタクが大人になれないような言動ばかりする。少し、というよりかなり馬鹿なコンビなのではないだろうか。
山田が、まくしたてた後。
「に、日本人。最高……感謝してる」
「そうでござろう? 異世界ブラック戦記。ここに開幕ぅ! なんちゃって」
ロシナは、疲れた顔をしている。山田が、ロシナは苦手のようだ。顔の整った上にミッドガルドの貴族子弟。どんな勝ち組なのかしれないが、山田は負けていないようだ。ステータスもスキルもないようなのに。そこは、尊敬できる。もし、アキラが山田と同じことをしろと言われても、知識もなければ経験もない。土木系の工事だって、無理だろう。
「いや、なんかここに着た理由からすごい離れた話になってしまったな。それで、アキラはユークリウッドの家臣としてやってく気なのか?」
ロメルが見ている。マールは、お盆に料理を乗せる格好で止まっていた。
「そっすね。そのつもりです。俺は、助けられた借りがありますんで」
「ふうん。ただ、スキルが成長したりすればどうなるのかね。人間は豹変するからな。力を持てば」
すると、山田が両手の指をロシナに向けて。
「それ、ブーメランぁあんんんん!」
ロシナは、顔を真っ赤にさせた。そして、
「この豚野郎、いうに事かきやがったな! そこへなおれ、叩き斬ってやる!」
剣に手をかけた。
「ロシナ?」
救いの主が現れた。その声で、入り口に注目が集まる。
「あ、ユークリウッド殿ーーー! ロシナ殿が新人をいじめているであります。拙者は、丸く事をおさめようとしていたのに……アキラさんを禿げだといって馬鹿にしているんでありますよ」
ユークリウッドは、目を丸くしてそれからロシナに近寄る。ロシナも椅子に座った。
「……どうせ、強奪スキルの事でしょ」
「どうしてわかるんだよ」
「ロシナの考えそうな事だもんね。バリアスキルを取られたらヤバイとか考えたんじゃないの」
ロシナは、無言になった。そして、アキラを殺さんばかりの視線。アキラには、そんなつもりがないのに横暴だ。さんざん、スキルを奪う危険性を説かれたというのに。人間社会の恐ろしさというべきか。ロシナの言わんとするところもだんだんとわかってきた。盗人が歩いているので、危険だというのだろう。だが、強奪はアキラの生命線でもある。
失う訳にはいかない。
「そうだ。大体、」
ロシナが、大きく息を吸い込むと。
「大体、どうやって人から奪ったとか奪われてないとか判断できるんだ。魔物から奪ったのか、人間から奪ったのか。それをどうやって、判断する。それが、脅威になってからじゃ遅いぞ。奪われたスキルは、どうなるんだよ。俺は、反対だ。こいつを野放しにしておくのは」
「大丈夫。今の所は、盗ってないよ。盗ったら、処刑だって言ってあるから。まあ、でも命の危機でもスキルを使用しなかったし。根性あると思う。僕を信じて欲しい」
腕組みをして、目を瞑っていたロシナがユークリウッドを見る。また、入り口のドアが開いてアルが入ってきた。
「俺は……」
「ちまちまと小さい奴だな。ああ、斬りたいのなら斬ればよかろう。ユーウの奴がそれでどういう反応を示すのか興味深いし。やはり、バリア無しでは生きていくのも難しいのか?」
「ぷぷっ」
アルの言葉で山田が笑っている。斬ろうと凄んだロシナに、まるで怯えていない。アルの言葉に、ロシナは。
「わかりました。ユーウがそこまでいうのなら、信用するしかねえ。ただ、どうしてそんなに信用するんだよ。どうやって、見ているんだよ。記録とかしているのか?」
「秘密です。今の時点では、スキル取れないようですし。信用しないと、信用されませんよ。ロシナは、上辺だけでも信用しなきゃ。いい関係が築けないと思うんですけど。あ。別に、スキルを盗られても僕は一向にかまいませんよ」
「と言っているが?」
アルが加わってきた。
「本気か。こいつにスキルを盗られまくってもいいのかよ。俺は、嫌だ。が、もういいか。……それより、本題に移ろう」
アキラは、胸をなでおろした。一時はどうなることかと思ったのだが。ユーリウッドが来てくれたおかげか。決闘もなく、1日が過ごせそうだ。アキラは、揉め事が好きな方ではないし。味方同士で揉めるのは、非生産的だと思っている。スキルを奪われるのを気にしているようなので、もしもスキルが成長して射程が伸びたり範囲が拡大したり。
対象を誰でも取れるとかいうことになったら、すぐに報告しないといけない。
「秘密研究所が発見された。何をしているのかわからないが、連中は、今だに気がついていない。手を貸してくれ」
「ほう」
ユークリウッドの目が、アキラを見つめている。まるで、捕食者の目だ。冬眠、剛力、嗅覚を試す暇がない。




