109話 ユウタの憂鬱2
(計画通りだ。これで、アキラは上手く動いてくれるだろう。転生者ってのは、誤魔化しておかないとな。アキラが、上にのし上がってくるようだと邪魔になる。……悪党っぽいな。援助してやるにしても、敵対するのはなあ。困るんだよね。横に並ばれると、うざいから。うん、アキラには援助するけど出世はほどほどにしてもらわないと。独立なんてされたら困るもん)
鬼畜だった。己の事ながら、アキラを追い込む手口には呆れるばかり。芝居とは気がつかないウォルフガングを手玉にとって、遊ぶこと数分。痙攣して動かなくなった親父を眺めて、セリアに怒られた。やりすぎたのだから、ぺこぺこと謝った。アキラの分を加味して、ちょっと攻撃を加えすぎたか。月が割れて、修復するのが大変という始末。
冒険者ギルドでは、成金が現れた。しかし、速攻で脱税とは。バレないとでも考えていたのか。ラトスクの町は、かつてほど強者に優しくない。きっちりと税を取り立てる。日本の国税庁などは、納めてないのを知っていて放置するようなところがあるから恐ろしい。わかっていて、あえて放置していたりするのだ。
かつて、とある企業の創業者が毒づいた程に彼らは優秀だ。税が発生するとなれば、どれだけでも執念深くなる。ラトスクの町を、ウォルフガルドを復活させるにはどうしたらいいのか。それを日々の間に考えているが、
(つまんねえ)
学校がつまらない。なんというべきか。学校を卒業してから、もう一度学校に行くことになると。友達が沢山できるかな。とか、そんな事を考えていたのだが全く人が寄ってこない。というよりも、話をしたのがロシナの弟でローエンくらい。隣の前にいるので、何かと話になる。しかし、女の子とは話ができない。
(あー、国語の授業とか)
眠気を誘うような先生の言動には、ユウタもまいってしまう。興味がないといえば、興味がないし。魔術の訓練だとか、そういうのでも本気を出すわけにはいかない。従って、すっかりぼっちのような状態だ。隣の席には、女の子がいるのだがユウタには興味がないようだ。それなりに可愛い子が揃っている。これも魔術的な素養のせいだろうか。
(これじゃあ、時間をすっ飛ばしたくもなる。ふう)
ため息がでる。
時間は、すっ飛ばせないけれど。いくら魔術を修行しても、時間を操る魔術は使えない。感覚をスローモーション化したり、時が止まったかのように、錯覚させる魔術は使えても。実感寸進とでも言えばいいのか。時を操るような魔術が使えれば、やりたい放題だ。
「授業が面白くないって顔してるね」
「まあ、そんなふうに見えるかな」
「なんとなく、だけど」
前の席に座るローエンが水を向けてきた。いつも妙な事を聞く少年だ。
「僕は、見た事がないんだけどさ。オークって知ってる?」
「んと、少しなら」
ほとんどの子供が見たことがないだろう。王都に住んでいるのなら。辺境の地だと、普通に出会ってもおかしくない。その場合、殺されるか殺すかでしかないが。
「じゃあ。どんなのなの。兄さんの話だと、すっごいでかくって力も強くって、豚みたいな鼻をしてる緑色の魔物っていうんだけど。本当は、どんな大きさなんだい?」
「そうだね、せいぜい2mくらいかな。太ってるよ。大抵。食べている物がいいのかなあ。痩せているのは、いないような気がする。あれ、何でも食べるような生態してるからね」
「へえ。やっぱり、豚みたいなんだ」
豚といえば、オークだ。しかし、獣人国は豚人族の国がある。こちらは、肌色をした獣人で獣人たちと仲良くやっている。オークといっても豚人とオークでは違うのかもしれない。違いといえば、繁殖力だとか。見かけも、豚鼻であるが牙が出ていない分だけ魔物とは違うように見える。
「見てみたいなあ」
「……」
見る分には構わないだろう。大体、戦闘になってしまうし先に見つけた方が有利だ。見ている暇なく相手を倒してしまう方が賢いといえよう。
「兄さんが言ってたんだけど、さ。本当は、Aクラスとか目指せるんじゃないの?」
「そんな事を言ってたんだ」
後で、お仕置きである。目立つのは、めんどくさい事を避ける為だ。力があると知れれば、擦り寄ってくる人間を振り払うのも大変になる。色々と波風を立てないようにすると、それはそれでストレスになる。もう、ストレスが溜まりそうな事は極力避けて、楽しい事をしたい。それならば、セリアの国など放ったらかしにして己の領地を改善する方がずっといいのだが。
面倒な事に。
「なんでなのかなって。僕は、不思議だけど」
「上のクラスを目指したりしないよ。うん。なんでかって? 人には、分相応という言葉があるからさ。見に過ぎた地位に就くと、大変な目に合うからね」
「そっか。もったいないような気がするよ」
余計なお世話である。人は、分霊でもつくられない限り人、1人なのだ。そんな事は、ユウタにはできないし魔術でそれができるのなら神の力を持つといえよう。上に上がれば上がった苦労が、下で漫然と過ごしていればそれなりの苦労が、ある。学校に行く意味が、友達を作るという事なら来なくてもいいような気がするし、来ない方がいい。
セリアなんて、俺TUEEEするために学校に通っている風にしかみえない。同年代の冒険者志望とかとは隔絶した能力があるのだし、なにより知識も意識も違う。能力をさらけ出して、脅威度を図られるのも億劫だ。
「ローエンは、何か目的があってこの学校にかよっているんだよね?」
しかし、
「ううん。親に行けって言われて行ってるよ。ユークリウッドくんは違うの?」
「いや、僕は学校に行くのにメリットを感じないね」
「そっか。たまにしか来ないって、話だったし。兄さんは、騎士団の仕事で同じような事してるのかなあって思ってたよ。最近、よく出席するよね。暇になったの?」
「暇じゃないなあ」
ウォルフガルドの掃除に忙しい。糞だったり、うんこだったり、人だったり、物だったりするけれど。野郎で、ウンチで、汚い。とかく、クラブの大量発生をやらせているのは人間だ。人間というか、獣人で他の国の魚人だった。魚人国があるのだ。ちょうど、黒海と呼ばれる巨大な湖に住む種族というか一族で。国を形成しているらしい。
ユウタは、左右を見る。
「そろそろ、授業が始まるのかな」
「身体検査があるみたいだよ」
クラスの中が騒がしい。身体検査。男子は、覗こうというのか。不穏な気配がある。ユウタにとっては、どうでもいいことで覗いて死ぬとかいうフラグは立てたくない。セリア等は、冗談でなく死刑にしそうだからだ。
「なあ、おい。見にいかねえか?」
「でも、ばれたら……」
冒険大いに結構な事だ。命知らずの勇者たちを黙って見送るべきだろう。
「あの子たち、見に行って大丈夫なのかなあ」
「平手か正座で済めばいいけどね」
覗きに行って、死んでいたら何回あっても命は足りない。ユウタは、瞑目した。身体検査で、覗きに行くのはお約束だ。しかし、必ず見つかるだろう。その上、女子の敵に認定される。そのリスクを背負ってまで、敵地に赴くのだ。身体検査をしている間に、男子の身体検査もあるのだからそんなに時間はないのに。
「はーい。腕を上げてねー。はい、いいですよー」
普通に、器具が設置されている。日本の看護師のように、身体検査が進むと。物凄い音がした。爆発するような、何かだ。死んだのではないだろうか。バレないはずがないのだ。普通に考えて、ありえない。
教室に戻ると。ローエンが、何気なくいう。
「やっぱり、見つかったんだってさ」
知っている。廊下で、正座させられている生徒が見えたからだ。死んではいなかったらしい。だが、評判は地に落ちただろう。一緒になって、覗きに行くべきだっただろうか。冒険をしない人生に、意味はない。だが、
「そうだよね。そんなものだよ」
至って、真面目な事を言っている。学校で、なにがしかのイベントが起きて欲しいが起きない。テロリストでも襲ってくれば面白くなるのだが、あいにくと警備が厳重なせいか起きない。治安も良好なので、犯罪がすごく減っている。ユウタは性悪説を唱える人間なので、悪い事が起きる物だと思って、取り締まる。
釣り針を垂らして、犯罪者が釣れるのを待つのだ。
「どうするのかな。一緒に帰ろうよ」
「ごめん。仕事があるんだ」
「そっか、残念。また今度誘うよ」
ローエンは、ユウタの他にも友達がいる。ユウタは、ローエンの他には話す人間がいない。なので、気を使ってくれたのだろう。家に転移門で戻ると。いきなり、エリストールに捕まった。裸エプロンだ。
「帰ってきたなっ。さっそくオネーサンといいことしようか」
「いや。仕事があるから」
「じゃあ、支度をすぐにしてしまおう。すぐ済ませよう」
エプロンをつけたまま部屋に行ってしまう。なんとも、気が短い。
暇だったようだ。DDは、妹と一緒にいるのか。家の中には子竜たちがちょこちょこと動いている。同様に、暇だったのかもしれない。すぐに寄ってきて、足元で遊んでいる。
「あ! 風呂はいいのか?」
「うん。仕事が終わってからだね」
2階に上がるエリストールが大声を出す。返事を返すと、すっとメイドさんが近寄ってきた。桜火だ。銀髪にふりふりのカチューシャ。エプロン姿だが、普通にシャツとスカートを履いている。問題は、ない。スカートの端を掴んで、挨拶すると。
「お帰りなさいませ。ご主人様。お背中をお流しいたしましょうか」
「また出かけるから」
エリストールと桜火が続けていうので、ユウタは困った。どうにかして、一緒に居たいように見える。
「シャルロッテは帰って来てない?」
「そうですね。DD様がついておられますので問題ないかと」
「そっか。出かけてくるよ」
「コーヒーを一杯だけお持ちしますね」
気がきく。エリストールとは、大違いだ。片や、メイドで片やただの騎士。気遣いが違う。
「ありがとう」
桜火は、滑るようにして台所の方へと移動していく。2階に上がるのに、チビ竜たちもぞろぞろとついて来るので困った。走るわけにもいかない。足にしがみついたりするので、歩きにくい。その上、ぺろぺろと舐め出したりするから、手に負えない。
(犬じゃないのに、ぺろぺろするんだよなあ。この子たち…どうなってるんだ)
餌も食わない。というよりも、肉やら何やら色々と出してみたけれど。食わないのだから仕方がない。
部屋に入ろうとすると。どでかい肉に包まれた。
「むっふっふ。ゲット! やりましたよ。ティアンナ様」
「はしたない」
「え?」
「離れなさい」
「は、はい」
ティアンナに、エリストールが叱られて正座した。
「どういうつもり。順番を守れないなら、帰る」
「うっ」
「まあ、まあ。なにかした訳じゃないし。そこまで怒らないでよ」
「ユウタ。こういうことはしっかりしていないと、序列が狂う。レイプしてもいいなら、いい」
ふぁっとなった。いきなり、何を言い出すのか。話が繋がっていないような。
「ハーレムは、きちんと管理するべき。順番を無視していちゃいちゃされたら殺人事件が起こる」
冷静なティアンナの拳には、棒が真っ二つになっていた。なんの棒だか。あえて追求しない。
「わかったよ」
「どうして、こんな事をするの」
ティアンナの怒りが収まらない。
「あ、あのですね。ほら、私って、その女騎士じゃないですか」
「そうだね」
「だから?」
ティアンナは、指をつんつんとしている。裸エプロンからは、こぼれんばかりの乳が見えた。股間が痛い。
「昨今の女騎士といえば、くっ殺せのイメージがついちゃってですね。オークならぬユウタに襲われて、操を強引に奪われるはずなんですよ」
「いや、それおかしいから」
ティアンナは、半眼になって頬杖をついた。
「オークに襲われて、レイプされるためのキャラ。もしかして、痴女をやめて別の職業になろうっていうの。何ができるの」
青い髪のシルフは、冷気すら漂わせ始めた。これは、不味い事態。
「ほら、エルフじゃないですか」
「エルフ、ね。女騎士でエルフ。コンボで、いいわよね。私もちょっと憧れる」
「「え?」」
エリストールと声がハモってしまった。
「エルフで、女騎士。オークに犯される役……どうだ?」
「どうだ? って、それは興奮するかって事?」
空気を読んでみた。
「そうだよ」「いや、しないよ」
やせ我慢だ。
「嘘だな! 貴様は、そんな事を言っておきながら股間は正直ではないか!」
エリストールが目をカッと光らせる。錯覚だろう。
「すけべ」
「最低だな」
「…」
反論をいうことができない。
「エルフって、きつい性格だし。ねえ、何の話なのかわからないんだけど」
「つまり、ユウタの興奮を誘う。そういう事」
「そうです。そういう事です。レイプがいけないのなら、誘い待ちをするしかない!」
なんでそうなるのか。エリストールの頭を切り開いて中身を観察するべきなのか。
「現に、興奮してる」
「きっと、こいつは、ぐへへ堪んねえぜ。エルフなんて排他的で高慢な奴らに無理やりねじこんで屈服させるのが堪らねえ。とか思っているんですよ。危険です。放置しているだけで、危ない。生きた犯罪者ですよ」
ここまで言われなければならない謂われとは。
「最低」
「…」
「レイプの醍醐味は潔癖な存在を汚し尽くすところにあるからな。きっと、エルフは極上の相手だとかおもっているのです。だから、女騎士は止めないといけない。何か他の職はないでしょうか」
さっさとラトスクに行きたい。この話をなんとか終わらせたいというのに、腕にはティアンナがしがみついている。ベッドの上に、引き寄せた格好だ。
「じゃSAMURAIでどうかな」
「サムライ?」
「レッツ、セップク」
「それは、ちょっと」
いきなり、切腹だ。侍の持つ最強の技である。
「装備とか作ってあげますよ」
「いや、その死ぬのは。というか、なんでサムライなんだ」
「騎士と似ているから」
「わがままですねえ」
現物があれば、装備してもらえるのだが。そこで、投影の術だ。すると。
「これは、すけべだな。なんていやらしいんだ。わかっててやっただろ!」
「すけべー」
「いや、なんで。というか、胸が大きすぎるよ。絶対、おかしい」
胸が大きいあまりに、ちぐはぐな格好だ。袴からは、大事な場所が見えてしまいそうなほど。収まりつつあった股間が、また元気になってしまった。
「おい」
「すけべー」
「…(こいつら、言い返せねええ)」
「サムライは、駄目か。くっ殺せから抜け出せそうもない。やはり、ここはもっとおとなしい職にするべきかもしれない」
エリストールは、裸エプロンのまま隣の部屋に移動した。すると、
「ティアンナ、おかしくないか?」
「元からああ」
なんという事か。エリストールは、素で裸エプロンを着れる精神の持ち主だった。超困る。すぐに戻ってきたエリストールは、シスターの服を着ている。
「これならどうだ。神聖な服だしシスターに欲情するなんて奴は、いまい!」
「…じー」
じーっと見られて、ユウタは股間を見た。駄目だった。むしろ、前よりも元気になった状態だ。
「なっ。まさか、ここまでとはな。貴様ぁ~。やはり、レイパーか」
「ちがっ」
「シスターだと騎士以上に清潔感があるから。それに戦闘力が低いから、レイプの餌食になりやすい」
「まさに、下衆の極み。貴様というやつは、人の貞操を汚してぐへへと最高だぜ~と言っている奴だったのだな。人の相談を逆手にとって、はっ。まさか、これ幸いに脅しをかけてレイプしてしまおうというのか! このままでは、心が折れるまで犯し抜かれてしまう。信仰を折って精神的に追い詰めようなどとっ!」
「…ユウタ、オーク=サンに改名」
なぜ。このような話になっているのか。ティアンナは、しきりに足を組み替えている。
「肌をむやみに晒さないように全身を覆っているシスター服で、そのように反応するとは。貴様、一体なにを考えている」
「…」
「シスターにそんな反応を示す。レイプ願望有り」
違うといっても彼女たちは、股間を指さすのだ。抵抗のしようがない。ティアンナは、その豊満な胸を持ち上げて、よってきた。手には、汗がびっしょりだ。かつて、ここまで緊張した事はない。乗り切らないと。
ラトスクの町に行こうとしたのに。訳がわからない。




