表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
289/710

104話 アキラの事情49-50 (アキラ、ネリエル、ユウタ、セリア、ウォルフガング、ダート)

 ネリエルを待ってみたのだが、帰ってこなかった。

 おかしい。なので、探しにいくのだが。


(なんで国王が一緒なんだよ)


 のっぽのアキラに、後ろ歩く獣人の親子。と、人間の子供。ちぐはぐだ。

 おかしい。ウォルフガングにセリア、それにユークリウッドが着いてきている。ついてくるなといっても、ついてきそうな感じだ。追い払えるかといえば、追い払えないだろう。しつこくつきまといそうだ。かといって、追い払うには理由がない。というのも、


「それで、実家の場所とか知っているんですか」

「いや、全く知らないんだ」

「ほう。それで、よく自分の奴隷だなんて言えたな。お前、抜けているだろ」


 また、ムカツクことを言うおっさんが後ろに立つ。歩幅を合わせているのか。セリアやユークリウッドに合わせているようである。そして、道行く獣人たちは道を横に空けて土下座する格好をしている。どうしてだ。考えれば、国王なのだからそうなのかもしれない。腐っても鯛というべきか。王様という魔力に、獣人たちも弱いようだ。


 だから、


「そうですよ。へへっ。なので、教えてくださいよ」

「ほう。殊勝だな。だが、断る!」

「そこは、教えてやろうと言わないと。話が進みませんよ」


 腕を組んで、傲岸に言い放つ。獣人のおっさんは、死刑でいい。

 ありがたい事にユークリウッドは、味方をしてくれる。ホモっぽいけど良い奴だ。アキラは、ホモじゃないけれど。と、頭から毛がパラっと落ちた。そんな馬鹿なと、地面を見る。


「!?」

「くっくっく。こいつ、禿げかよ。面白え。連れてってやろう」

「いくらなんでも、アキラに失礼だ。事実なので、笑ってはいけないぞ」


 セリアは、憐れみのこもった目で見ていた。やめて欲しい。育毛コースは、異世界にあるのだろうか。ないなら作るしかない。禿げは、遺伝だとでもいうのか。アキラは、憎しみのこもった目でウォルフガングを見る。頭は、というよりも全身がふさふさだ。殺意が、天井しらずだ。


 腕組みをして、偉そうなおっさんがずんずんと先に歩きだす。


「毛、分けてやろうか?」

「!」


 金色の獣人は、なにがあってもその内にしばく。必ず、しばき倒すと心に誓った。そして、ついていくと。


「育毛剤の研究も、儲かりそうですよね。具体的な案は、まだですけど」

「おー(ウォルフガング、ぶっ殺す、ぶっ殺す。俺は、禿げじゃねええ!)」


 貴方が、神か。ユークリウッドに後光が差して見えるようだ。もちろん、アキラの気のせいだろうけど。とにかく、その瞬間は抱かれてもいいなんて思ってしまった。これは、いけない兆候だとは思いながらもてくてくと歩く。


「ここだな」

「へえ、立派な屋敷ですね」


 どこからどう見ても、西洋風の建築で石で出来た塀と門扉がついている。扉は、鋼鉄製か。青い輝きが、門に走っている。魔術が施されているのかもしれない。迂闊に触るのは、危険だ。門の前には、人が立っている。しかし、ウォルフガングの顔を見るやいなや。土下座した。


「おう。ご当主は、おられるか」

「これは、フェンリル様。すぐに、取次ます。しばらく、お待ちください」


 どうやら、顔が売れているようだ。そして、飛ぶように戻ってきた。息を荒くして、門番はいう。


「た、ただいま準備をされておられます。すぐに、準備をするとの事なのでございます」

「おう。じゃあ、待てばいいんだな。入れるらしいぞ」

「暴れて、連れ帰るのはなしだからな」

「なんでだ? 奪えばよかろう? それが、この国の掟だ。欲しければ、力ずく。力こそすべてよ」


 とんでもない国だ。まだ、ユークリウッドの方がマシだ。これで、神はアルーシュを魔王に認定しているのだからおかしい。神族で、魔王。とても魔王には見えない格好だし、王族というよりはまだ子供だ。それに、顔色は肌色で青とか黒ではない。本当に、魔王なのか。わからない。が、倒せという。


 とにかく、あべこべな世界だ。女が強いのか、それとも男が強いのか。それも、元の世界を基準にしていては駄目だ。子供だと思ったら、返り討ちにあうような世界。それで、魔法ならぬ魔術が幅をきかせている。


 スキルといっても、職業がなければその当該スキルが使えないとか。アキラの選んだ強奪は、明らかに欠陥スキルだった。スキルを盗れたら、無条件で使えるようにアップデートして欲しい。切なる願いだ。それを考えていると。


「準備が整ったようです。お入りくださいませ」


 門番が、獣人と話をして案内を任せる。案内役の人間は、女の獣人だ。メイド服だとか上等な物は着ていない。ただの白い布を着て、したも草履を履いているくらいだ。染色技術がないのかもしれない。ミッドガルドは、どうなのだろうか。日本人がいるから、その点はいい服があると期待してもいいのかも。アキラは、ウォルフガングの後ろをいく。


 そして、広い庭を抜けて向かった先には白い建物が立っている。石でできている。立派な建物だ。ウォルフガルドの王城に糞がしまくってあったとか。実は、嘘なのではないか。ユークリウッドは、信じられる人物だがこればっかりは見ないと信じられない。現にラトスクは糞が殆どない。ユークリウッドが拾わせているのかもしれないが。


 建物の中に入ると、普通に石畳で舗装されている。大理石なのか。つるつると鏡面のように仕上げられている。そして、ウォルフガングに。


「父上。壊すなよ」

「わかってらあ。お前の方こそな」


 喧嘩っぽい。喧嘩したら、それこそ大惨事だ。ラトスクの町では、結界を張ってのプロレスをしていたけれど。結局、プロレスだけで数時間が費やされてしまった。しかも、町の中では交通が規制されたような格好で。


 とても、はた迷惑な親子プロレスだ。足を高速で動かして、ホバーしているように見えるくらい速いプロレスには見入ってしまうけれど。魔術を滑りながら撃っているのか。セリアもウォルフガングも相手にしたくない。両方ともに、称号【獣王】職業【獣王】だとか表示がでてくるのだ。ユークリウッドがへこんでいるいるのか。


「しゅ、修理費が、ね」

「だよなあ。大丈夫か」


 突然、壁によりかかる。それで、側にいく。


「うん。いや、ちょっとめまいが」

「いいぜ。俺の肩でも使うか」


 すると、口の端を釣り上げたセリアがじっとアキラを見ている。怖い。金玉がすくみあがった。


「じゃ…」

「おっと、気が変わったぜ」

「ふっ」


 なぜか、セリアが隣に瞬間移動していた。目にも留まらぬ移動ぶりだ。まるで、時がすっ飛ばされたか。はたまた止められたとしか思えないような。そんな機敏な動きだ。そして、全くの無風。おかしい。まるで、意識が一瞬だけ麻痺していたのかというような。ともあれ、


「ひゅうひゅう、熱いねえ、おごっ」


 突然、ウォルフガングの巨体がくの字になった。崩落するように、地面にキスをしている。目にも留まらぬボディーブローとは、このことだろう。パンチなのか、膝蹴りなのかすらわからなかった。ぴくぴくとしている親父を放って、セリアはユークリウッドの腕をとった。


「だいじょ…」

「行こう」

「え、でも」


 ユークリウッドを引きずるように腕をとったセリアが、歩きだす。それを見ていた案内役の女獣人は、口元に手を当てて、どうなることかと見守っている。きっと、ありえない光景を見て肝を潰しているにちがいない。マールがいれば、任せる。わけにはいかないけれど。ともかく、進むと。


「これは、セリア様。ようこそおいでくださいました。ネリエルの父で、この家の主。ダートめにございます。黒狼族の長として、ウォルフガング様に歓待の栄を賜りますればないよりでございます。どうぞ、ごゆるりと逗留なさってください」

「それは、ありがたい。ついては、ネリエルの事で話があるのだが」

「はあ。その件は、家の事情がありまして。今は、娘と話をしております。早々には、話がまとまりませぬゆえ。あれのお転婆には、ほとほと参っております。3女のヒルダは、ヒルダでなにやら人族につきまとっている様子。これでは、到底家が持ちませぬ。何卒、事情を汲み取っていただきますよう。お願いいたします」


 獣人の男は、ダートという名前らしい。ウォルフガングやドメルほどではないが、筋肉質だ。獣人は、大抵がそうなのだろう。むしろ、筋肉こそ魅力なのかもしれない。アキラは、筋肉に興味がないのであまりわからない。ネリエルの姿を見ようと、探すけれども。連れ帰るどころか、会うことすら難しいかもしれない。


 と、


「おうおう。可愛い娘っ子がいるじゃねえか。こいつは、頂いてもいいんだな? 夜が楽しみだぜ」

「なっ。これは、ウォルフガング王。ようこそ、おいでくださいました。娘が何か、粗相をしでかしましたか。まだ、子供なのです。許していただけますよう」

「んー。けしからん乳をしてるじゃないか」


 ネリエルの胸を揉むおっさん。そう。フェンリル、死すべし。とくはやく。ネリエルは、嫌がっているような素振りではないけれど。嫌なはず。だというのに、顔を見ると。


「お戯れを。ウォルフガング様」

「ふふふ。まだ、この青い果実をぺろりと食べてしまうとするか」


 そうして、何処かへ姿を消そうとする。


「待て」


 自分の口からではない。ユークリウッドの声だ。


「ああ? てめえが何者か知っているが、ここは俺の国よ。俺が、王。この国のすべては、俺の物。どうしようが、俺の勝手だ。目障りなミッドガルドの兵も、ちっとしたらぶち殺す予定だったんだからなあ。スレイプニールの軛もねえ。てめえが、どうしてもってんなら勝負してもいいんだぜ?」

「負けましたよね」

「あんときゃあ、全力じゃなかったのよ。今度は違う。俺様の本気って奴を見せてやるぜぇ」


 アキラは、どうして言い出せなかったのか。アキラが戦うべきなのだ。


「いいでしょう。ネリエルさんを賭けての勝負。しかし、一度負けた貴方がそのまま勝負するのでは面白くない。ですから、まずは前菜として……」

「セリアは、無しな。それはズリい。納得しねえからな」

「ええ。そこで、そこの男と戦ってもらいましょう。彼が、ネリエルさんの所有権を持っていますから。彼を破らねばいけません」


 アキラは、固まった。早すぎる。こんな、こんな化け物に勝てるのか。腐ってもフェンリルなのだ。伝説では、ラグナロクでオーディンを食らうという。そんな魔物。アキラですら、ゲームやら小説やらを通してそれを知っている。ゲームは、大好きなのでオーディンが出てきたら仲間にするしフェンリルが出てきても下僕にする。


(まさか、NTRイベントなのか? ふざけんなよ)


 目の前の金色をした獣人は、ボスだ。いきなり、低レベルでボスと対決させられる。いわば、負けイベントなのか。だとしても、


「おうよ。俺に黙って、ネリエルを持ってくんじゃねえ! すっこんでろいこのスケベ親父!」

「ほう。言うじゃねえか。手加減してやろうと思っていたが、どうしてくれようか。まずは、四肢を引き裂いて生きたまま食らってやるわ。がはははっ」


 背筋につっと汗が流れる。分の悪い戦いにしか見えない。どうやって、目の前にいる敵を倒すのか。アキラは、脳みそをフル回転させるが。無理。無理無理無理無理。どこまでいっても、無理そうな。そんな確信が立ちふさがっている。足は、がくがくぶるぶる震えてみっともないことに。ユークリウッドが近寄ってきて、


「気合です!」


 ドン! と背中を押される。勝てそうもない戦いだが、知恵を凝らせば。いつだって、知恵で巨人を打ち倒してきたのだ。今回の敵は、巨人でないけれど。アキラは、真っ直ぐにネリエルを見るが。


「あ、ああ」

「ふふ。どうやら、抱いて欲しくてしょうがないらしいぜ? てめえの空回りで終わらねえといいがな!」


 戦う前から、挫けてしまいそうだ。熱い吐息と、熱っぽさを持ったネリエルの表情に。


「では。勝負の日時を」

「んなもん、今日に決まってんじゃねえか。がはは。もしかして、後日改めて勝負とか思ってたか? そうはいかねえ。てめえは、ここでそこらで肉片に変わるのよ。あーはっはっは。どうした。啖呵も切れねえくらいにびびったか。ああ? てめえは、雑魚。俺に、勝てるはずがねえ。粋がったな、糞雑魚が」

「…マジで?」


 アキラは、ユークリウッドの方を見る。しかし、彼は沈痛な表情でいう。


「しょうがないですね」

「はっはっは。そうだろ。バーカ、パワーアップしようだって? そんな時間は、悠長に与えるかっての。なんだ。夢も希望もありはしねえってか? 戦いは、いつも突然に始まって突然に終わるもんだぜ。お前が強けりゃ問題ねえだろ」

「……(畜生がっ)」


 普通は、ここで決闘の場などを決めて後日改めて対戦という風になるはず。漫画とかでは、少なくともそうなのだ。この圧倒的な不利を覆すために、アキラが修行してボスを攻略するのである。そういう世界では、そういう世界のはずなのに。話が違うではないか。神よ。と、叫びだしそうになる。が、神は見守るだけなのか。手出しをしてはくれない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ