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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
二章 入れ替わった男
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100話 アキラの事情 40ー47  (アキラ、ネリエル、ユウタ、与作丸、シルバーナ)

 牛神王の迷宮地下1階。石畳で舗装された迷宮だ。迷って死ぬ者がいるくらいの迷路で、糸を利用したりする者もいるが物理的な糸だと斬られる事もある。なので、魔術士がその役を担うか地図作成スキルを持っている冒険者を仲間に加えるか。色々とやりようがあるらしい。アキラは、ユークリウッドたちと一緒に迷宮に潜っている。


 黒く変色した人がいた。【鑑定】を使う。ブラックイーター寄生体らしい。

【種族】犬人族

【性別】不明

【職業】不明

【状態】錯乱

【加護】なし

 と、出てくる。寄生体に被害にあった獣人のようだ。のっぺりとして、口元から歯が見える。怖い。

 与作丸は、腕を組んだままユークリウッドにいう。


「危険だな。遠くから固められるか?」

「そうだね。分裂されると、ね」


 ユークリウッドが水色の輝きを手に灯すと。黒い人は、氷に覆われた。冒険者の成れの果てというところだろうか。助けられないとは、厄介な魔物だ。


「ふーむ。こやつ、単独で上まで上ってきたのか。それとも、ブラックイーターの餌食になったのか。いずれにしても、危険だ。どうする? まあ、聞かぬでも結論は決まっているのであろうが」


 与作丸は、口元に手をあてて唸る。シルバーナは、周りを警戒しつつ。


「あたしは、どっちでも。それと、これをやっとこ見つけた。多分、こいつだねえ。肉と骨でできた狂信者どもの背信行為さ」

「掃除するよ。思い出した。これ、地獄で見かける肉の柱に似ているなあ」


 肉の柱。シルバーナが差し出した箱には、白い何かが入っている。地獄という単語も気になるが、それよりもおぞましい。白い物体を見て、アキラは不吉な物を感じた。ユークリウッドが、黒い穴に氷結した人を落とすと。また、経験値がぐっと増えた。穴に落としたら、死亡判定になるのか。恐ろしい穴だ。穴もユークリウッドのスキルに違いない。


「なんだかわかったのか?」

「いえ。素材は、人の……。あと、これを作った人間は、必ず地獄に送って上げないといけません。そして、作ろうと考えた人間も。それが、良いことであろうと悪いことであろうと。必ずです」

「そんなにやばい代物なのかよ」


 穴も恐ろしいが、小さな白い物体も何かを感じさせる。ユークリウッドが地獄送りというのだから、大変な代物なのだろう。地獄すら生温い物体なのか。黒い人は、1体だけではなかった。地面に倒れている冒険者。それが起き上がると、同時に飛びかかってきたのだ。シルバーナが、華麗に躱す。忍者が蹴る。そのまま穴に落ちた。


 ユークリウッドは物体を見たまま。


「これは、恐らく……。想像するだけで嫌な気分ですけど、人の怒りと悲しみでできているんじゃないかなと。徴税官たちの度を超えた享楽も、それなら納得がいきます。どこの誰が、これを作ろうとしたのか。それから、これを何に使おうとしていたのか。与作丸、シルバーナに調べてもらいましょう」

「いいけど、金がいるよ? 結構な額が必要だねえ。盗賊を密偵に仕立て上げるのも楽じゃないんだよ」

「俺の方も金子が必要だ。里の人間を育成しねえと、人間が足りねえ。よそに散らばっている人間を集めて、保護してくれるのはありがてえが」


 どうやら、シルバーナと与作丸は結果とさらなる金を無心にきたらしい。どこまでいっても金がかかる。


「うーん。しょうがないか。金の方は、回り物だしね。収支報告書は、出してね。細かくじゃなくていいからさ。引っ張れるだけ、引っ張るという感じだと困る」

「はいよ」「おう」


 金が飛ぶように減っていくのではないだろうか。すると。


「もしかして、心配してくれてるんですか」

「まあな」


 何しろ、目の前で金貨の詰まった箱が手渡されているのだ。それを少なく見積もっても、2億ゴルはあるのではないだろうか。アキラの給料からすると、大変な額だ。箱を受け取る片方は、笑みを浮かべた。


「毎度あり。ボス部屋だけど見て行くかい?」

「そうだね。状況次第じゃ、地下8階まで掃除していく必要があるね。どうして、こうなったのか」


 扉が前方に見える。与作丸は、渋面を崩さない。声が微妙に上ずっている。


「またユーウの悪い癖が出やがった。新人君、気をつけろ。こいつと組むと、地獄の底だって行く羽目になるからな。勢いだけで、地下を彷徨うなんて日常になる。よく考えとけよ。嫁さんと、毎日イチャイチャしているだけの人生の方が絶対に充実してるってな」

「えー」


 同意するには、貧乏過ぎる。まずは、金だ。金がいる。金、金、金。

 与作丸がそう言うと、シルバーナが忍者に肘を入れた。


「あんまり言ってると。まーた折檻くらうぜ。さあ、中に入ろう」

「偵察しなくていいのか」

「いや、ここは扉がしまったら魔物が出現する。おおおっ」


 扉から、黒い人が溢れてきた。度肝を抜かれるとはこの事だろう。ネリエルが、咄嗟に扉を押すがそれが溢れてくる。ユークリウッドが、寄生体に【氷結】か【冷凍】を使ったのか。氷漬けになっていく。ネリエルには、効果が及ばないところを見るにいい腕をしている。魔術効果の範囲を制御できる、と。器用な真似をするのが羨ましい。


 黒い人が投げる黒い物体を、空中でユークリウッドがキャッチする。そのまま、穴に投げいれた。身軽さもある。


 次いで、扉を開けながら黒い寄生体を穴に落としていく。穴は、範囲もある程度コントロールできるようだ。どのようなスキルなのだろうか。ユークリウッドは、大抵の魔術が使える。魔術士が羨ましい。剣士だと、斬りを飛ばすスキルがあったりする。それと比較すると、悲しくなってくる。


(魔術。いいなあ。神様に、魔術士にしてもらうように言うべきだったな。剣士が弱すぎる! やれる事って、なんだろうな)


 周囲を伺っておく。ここで、魔物に襲われれば危ない。いくらユークリウッドでも、不意をつかれればどうなるかわからない。このような化け物を人が作っていたりすれば、まさに外道。外道の為す事だ。相手の不意をつこうとするだろう。アキラは、警戒しなければならない。己に良くしてくれる人なのだ。いなくなってしまって、後悔しても遅い。


 ボス部屋の前は、4方に開けている。従って、敵がくるなら後ろからだろう。後ろを警戒して、左右に気を配る。ボス部屋から溢れる敵がぼろぼろと、穴に落ちていく。アキラとネリエルだけだったならば、きっと彼らの仲間になっていただろう。ラッキーだ。さらに、ついているのか。敵の襲撃はない。と、思った瞬間。


 矢がくる。盾で撃ち落とす。剣でやるには、技量が足りない。自信もない。【斬り払い】と【振り下ろし】【斬り】を発動させて、ネリエルには【かばう】を使う。スキルマスタリーを上げようというのもあるが。仮に、ダメージが入ったらどうなるのか。実験だ。


「矢だ!」


 思わず叫んでいた。パーティーメンバーで弓矢を使う人間はいないはず。矢だ! というよりも後ろだ! というべきだったか。アキラは、矢が来た方向を見る。が、敵の姿が見えない。背中がぞくぞくする。確かに、矢が飛んできたのだ。だというのに、敵の姿が見えない。透明化か。と思った瞬間に、ネリエルがハルバードを振るった。


「どうしたのだ。影を!」


 影。影が地面に、ある。つまり、透明化を使っている相手だ。何もない場所に、血が滴り落ちる。次の瞬間。青白い光が、そこに走る。ばりばりと空気を割る音と、敵が見える。電撃をもらった相手は、白目になって崩れ落ちる。男だ。服は、どこにでもあるような茶色い上着。青いズボンにブーツだ。獣人には見えない。ミッドガルド人か。次いで、氷に覆われていく。


 近寄ろうとすると、


「危険だよ。迂闊に寄って、自爆でもされちゃあかなわない。様子を見るんだ」


 シルバーナが止める。幼女には見えない思考だ。スキルを実験しておくのは、いい。確認するためのスキルというと、【鑑定】でどうにかならないだろうか。


「くくっ。優しいなシルバーナは。迂闊な新人が事故って死ぬなんてよくあることじゃねえか」

「あんた、またそんな事を言って。アキラが本気にしちまうよ?」

「……あぶねえ」


 事故と聞いて、腰が引けた。

 こんな所では死ねない。アキラは、生きてマールの所に帰らないといけないのだから。襲撃者は、1人なのか。振り返ると、ユークリウッドの側に氷像が出来上がっていた。3,4。魔物ではなく人だ。ユークリウッドは、問答無用と黒い穴に落とす。


「こいつら、どこのもんだよ」

「あたしに聞かれてもねえ。うちに所属している盗賊ならいざしらず、他所の情報なんて知らないよ。それに、雑魚でしょ。ハイディングが使えるだけの盗賊とか、笑わせないでよ。あ、ちょっと馬鹿にしてるのかい」

「いいや? シルバーナの腕は知っているつもりだぜ。ただ、仕事が増えてご愁傷様だな」


 2人が話しを進めていると。ユークリウッドがブラックイーターの寄生体を蹴落とした。平気なのだろうか。アキラは、膝が震えている。金髪の幼児は、黒いローブをぱんぱんと払うと。


「どういう事?」

「どうもこうもねえ。想像でしかねえけど、聞くかよ」

「うん」


 与作丸は、しかめっ面のままボス部屋を見る。


「用意周到な罠だ。恐らく、あの部屋でも罠が待っていると思ってもいい。ここに、俺達がくることを知って仕掛けられたような気がする。でなきゃ、あいつらがタイミングよく現れたのも説明がつかねえ。もしかすると、今日だけの話なのかもしれねえし。もっと続く話になるのかもしれねえ。言えるのは、力

づくで罠を食い破るしかねえって糞な事だけだ」

 

「ひょっとして、あいつらが用意したとか」

「いい勘してるじゃねえか。そうでない可能性もあるけどな。どの道、襲ってきたんだ。倒すしかあっ」

    

 与作丸は最後まで言えなかった。アキラたちの前にいた氷像が、動く。倒したはず敵が氷を破ってきたのだ。もこもこと膨れあがる。まさかの事態だ。人間をベースにした悪魔なのだろうか。そして、敵は黒い巨体。顔面と思しき部分には赤い口と白い目を備えている。ここで、倒すべきだ。絶対に。外に出してはならない。そんな、悪夢にもでてこないようなおぞましさを備えている。腕は、人の胴体よりも大きい。


 ネリエルと瞳が合う。口に手をやっている。アキラと同じぐらいに、びびっていそうだ。そのくらい、寄生体は恐ろしい。魔界の生き物と言われても、すんなり信じられるくらいだ。


「やれる、かい」


 シルバーナがいう。

 ユークリウッドはボス部屋入り口を氷で覆いながら、反応する。


「もちろん」


 手が青白く光ると、水が吹き出す。敵は、避けようとした。が、水が蛇のように絡みついて、逃がさない。逃げ出そうと分裂した瞬間。


「おお」


 逃さず、破裂したかのような物体を丸っと氷で覆う。敵は、逃げられなかった。恐るべき魔術の腕だ。


「やるじゃないか」

「ふふ。当たり前だよ。敵は、逃さない。討ち漏らしがあったら、また起きそうだし」

「くっ。なんか仕事が増えそうだな」

「面倒だとは思うけど、よろしくお願いね」


 ユークリウッドが、寄生体をそのまま穴に放り込む。穴は、真下に直接は作れないようだ。すぐ横か側ぐらいにしか無理なようである。直接、相手の真下に穴を作れれば相当な強さのスキルだろう。これも空間魔術なのか。わからないけれども、欲しいスキルだ。


 ネリエルと、アキラで細かい物体を落とす。落とし穴というのは使い道が多いのだから。いい物だ。【鑑定】したかったが、悪い予感がして止めた。与作丸は、マスクを整えると。


「まあ、もらうもんもらってるから言えねえけどな。後は、任せても大丈夫そうか?」

「ん。ありがとう」

「ま、強力なスキルを持った味方を育てるって事なら俺としても願ったりだ。できる事なら、面倒事は増えてほしくねえんだけどなー」

「そうそう。そういえば……」

「用事を思い出した! っここらで退散するぜ」


 影に姿を消した。テレポートか。違う。忍術なのだろう。人が少なくなると、寂しい。アキラは、寂しがり屋ではないつもりだが。迷宮にあっては、そんな気分になる事もあるのだろう。


「いっちゃったかあ」

「あたしは、まだいるよ」


 シルバーナは、まだ残るという。都合は、いい。


「いいのかい」

「ふふん。世の中には、魔道具で便利になってるんだぜ? 通信だけで話ができるってのはでかいねえ。これ、5年もしたらミッドガルドの世界も変わってそうな道具じゃないか。エリアスが張り切ってるさね」

 ポニーテールの少女は、ふんぞり反っていう。顔立ちは、悪くない。つり目できつそうな性格をしてそう。どちらかというと悪女になりそうな感じだ。手に持っているのは携帯かスマートフォンかというような四角い箱だ。柳眉を上げて、いう。盗賊だからだろうか。そんなイメージがアキラの中で膨れ上がる。


「ふーん。あんまり急激な進化は、世界によくないと思うけど」

「フィナルみたいな事をいうねえ。便利な物は、便利。いいじゃないのさ」


 辺りを伺っている。しかし、新手はこないようだ。待っていても仕方がないだろう。ユークリウッドも、慎重になっているのか。左右を見ていたが、


「それじゃあ中に入ってみますか」

「まともだといいねえ」


 赤い光が扉前の氷を溶かす。アキラとネリエルがユークリウッドの後について入る。中は、照明がついてるかのように明るい。そして、黒い人型の姿はなくボスもいない。ブラックイーターなどいたら困る魔物だ。どういう事なのか。アキラには、わからない。なので、


「ボスが、いないじゃん」

「うーん。倒された直後に、さっきの連中がブラックイーターを持ってきたのかな。ボスは、すぐにはわかないからね。ここの迷宮」

「てこたあ。ユークリウッドが、ここに来るのを知ってて用意したって事か?」


 シルバーナ、ユークリウッド、アキラ、ネリエルと並んで待つ。しかし、出てこない。


「或いは、アキラさんを狙ったか。どっちにしてもろくでもない攻撃です。巻き添えを食った冒険者さんたちが可哀想ですよ。正々堂々と、襲撃してこれないんでしょうかね」

「あんた、それは襲撃というか奇襲にならないじゃん。堂々と襲って来てくれたほうが好都合だけどねえ。毒とか、そういう方向に走られると面倒じゃないか」


 アキラは、ぞっとした。ユークリウッドの周りは、修羅場だ。これが、日常ならとてもついていけない。とはいえ、びびってもしょうがない。15分。30分と。しばらく待ってみたが、襲撃は来ない。ボスもわかない。


「ひょっとして、他の冒険者がボスを狩りまくってダンジョンマスターが怒りの攻撃を仕掛けてきた。とかかねえ」

「それは、ないんじゃないかなあ。あり得るといえば、あり得るし。否定できないけど」


 んっ、となった。ダンジョンマスターとは、一体なんなのだろうか。アキラが知る限り迷宮にはボスが居るくらい。餓狼饗宴の深部までいけば、お宝がざっくざく。迷宮は、迷子になって出られなくなるから糸を引く。とか、荷物持ちが必要で地図を作らないといけないだとか。しかも、潜るとあっというまに時間が経ってしまう。そんな迷宮に、ダンジョンマスターなる物か者がいると。


 ステータスカードを見ると、すごくレベルが上がっていた。嬉しい。金玉は、縮み上がっていたけれど。 






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